交易品を買う

文字数 2,362文字

 海辺の街でかなりお金を稼げたマレルはサーテルコールを(ともな)って街の中央通りの商店街へと足を向けた。

「今回はリストレーゼ様から頂いた金と、街で稼いだ金でけっこうな余裕ができたからな。少しここで何か買って行こう」
「何を買うんですか?」
「魚の缶詰を少しと女性向きの装飾品、そう貝殻を使ったものがいいな。後、塩を一袋買う」
「缶詰と装飾品? 塩? そんなものを買ってどうするんですか?」

 歩きながらマレルとサーテルコールは会話した。
 マレルが装飾品の店へと入る。石造りの外壁に木製の看板がかかっていて、小奇麗な店だ。女性対象というのが一目で分かる。

「もしかして……私に買ってくれるんですか、師匠?」

 サーテルコールは目をキラキラさせてマレルを見た。

「違う」

 きっぱり否定された。

「そんなに力いっぱい否定しなくても……。じゃあなんですか、次に行く街に彼女でもいるんですか?」
「それも違う」

 マレルはニマっと笑う。

「これは商売だ。今度これから行くところは王都を経由してちょっと遠い山の方へ行こうと思っている。そこは俺の良く行く村でな。知り合いもいる。でも手ぶらで行くのはもったいないだろう? ここは海に近いんだから。なら山に住む者には珍しいものが沢山あるってことなんだ、サーテ」

「あっ。だから女性用の貝殻を使った装飾品とか、魚の缶詰がいいんですね」
「そうだ。そしてそれはここで買った値段の10倍の値で売れる」
「10倍! そんなに!」
「そうだ、塩に関してはもう、値段がつけられないくらいだ。山には山でとれる岩塩もあるが、塩は貴重だ。それに海からのものを持ってきた俺たちに村人は感謝する。一石二鳥だ。ちょっと荷物は重くなるが、まあそんなに買わなければいい」

 マレルが入った装飾品の店でサーテルコールは首飾りや耳飾りを良く見た。
 貝殻を使ったものが台に並べられて沢山あった。
 そしてそれはやはりそんなに高くない。
 
 真珠のような宝石は別だが、一般の貝殻などを使ったものはそこそこの値段で買える。
 マレルはその装飾品を眺め、あごに手をあててサーテルコールに聞いた。

「サーテ、どれがいいと思う?」

 その言葉がサーテルコールには聞こえていなかった。
 みんな素晴らしいもので、目移りしてなんだか心臓がドキドキする。
 店の商品はみな、窓から入る光に反射して、光を放っているように見える。 
 今まで見たこともないきらびやかな装飾品に目を奪われていた。
 
 そんなサーテルコールの横顔を見て、マレルはふっと苦笑する。やはり女だな、と思った。そして自分で交易の為の品物を選び出した。

 首飾りを10個、耳飾りを10個を買って会計を済ませてもサーテルコールは店の商品から目を離さないで見入っている。

「サーテ。行くぞ。今度は缶詰の店だ」
「あ……はい、師匠」
 サーテルコールは後ろ髪を引かれる思いで店を出た。


 装飾品の店から数件離れたところに缶詰の店はあった。
 そこでサバやサンマなどの缶詰をまた10個ほど買って、塩を一袋買うとマレルは店を出た。
 マレルの後ろに背負っている荷物入れが少し重そうだ。

「半分持ちましょうか?」
「あ、ああ、そうだな。半分持ってくれ。そうすればサーテも体力がつくしな」
 
 マレルは竪琴も袋に入れて後に背負っていた。ちょっと痛々しくて見ていられなかった。
 缶詰を5個ほど自分の荷物に入れたサーテルコールはそれを背負いなおして、マレルと共に歩く。

「これでこの街ともお別れだ。用は全部済んだ。今度は王都へ行くぞ、サーテ」
「王都ですか……私は行った事がなくて……どんな所なんですか、師匠」
「まず人が異常に多いな。それに路上電車という、鉄の乗り物が通っている」
「馬車じゃなくて? 鉄が走っているんですか?」
「まあ、行ってみれば分かるさ」

 マレルとサーテルコールは王都行きの馬車へ乗る為に、乗り合い馬車の待合所へと足を向けた。
 そこで時刻表を見て、約一時間後に馬車がくる事を知った二人は、待合室で待つことにした。
 ふいにマレルがサーテルコールに小さな紙袋を差し出した。
 それはピンク色の本当に小さな紙袋で、でも女性用に包装したものだった。

「サーテ。それ、やる」

 ぶっきらぼうにマレルはサーテルコールにそう言う。

「なんですか……? これは」

 サーテルコールはそれを手に取ってしばし呆然とする。

「見てみれば分かる」

 サーテルコールはそれを開けてみた。
 小さな貝殻がついた首飾りが、そこには入っていた。

「師匠……!」
 
 サーテルコールは感激してそれしか言葉が出なかった。
 マレルが自分の為にこんな装飾品を買ってくれるなんて、と。

「勘違いするな。それも商売道具だ。お前は女なんだから首飾りくらいつけていてもいいだろう。それで少しでもマシに見えれば客も喜ぶ」

 目を見て真顔で言われた。

 少しでもロマンティックな想像をした自分が、サーテルコールは恥ずかしくなった。
 でも。

「今、ここでつけてみても良いですか?」
「ああ」

 そっけないマレルに笑顔で返して、サーテルコールはその貝殻の首飾りを袋から出し、首に回した。

「似合ってますか?」
「まあまあかな」

 笑顔で聞いたサーテルコールにマレルも笑顔で返した。
 サーテルコールは自分の頬が赤くなっている事には、気がつかなかった。

「大事にします」
「そうか」

 待合室の前に一台の馬車が止まった。
 六人乗りの乗り合い馬車はマレルとサーテルコールを入れて、満員だ。
 馬車は王都へ向けて走り出した。

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