第1話◇戦闘記録

文字数 1,513文字

 攻撃確認/敵認定/反撃指示
 繰り返し、繰り返す
 攻撃確認/敵認定/反撃指示
 回避と防御の合間に

 こんなことをいつまで続けるのか、何度繰り返すのか、軍人として当然の仕事? 好きで軍人になったわけでもないのに。施設の防衛? そんなものどうでもいい。
 敵が私を狙う。回避しなければ? 防御しなければ?

 頭に浮かぶ考えを振り払い、一旦後方に移動。脚部推進機噴射、一瞬の浮遊感ののち着地。国境侵犯した集団Aの攻撃を確認。集団Aを侵略軍Aとし反撃開始。

 後方の自走戦車群に攻撃目標を指定、侵略軍Aの全滅を指示。後方待機していた無人の自走戦車は移動を開始して、目前のかつては国境侵犯不明集団A、今は侵略軍Aのトカゲ共に砲撃を開始する。

 地図に次の目標が表示されている。次は国境侵犯不明集団Bだ。方向を確認して移動を開始。移動中に機体の状態を確認。損害軽微、各部推進機燃料は残量4分の3。

 最近は戦闘中に他の事を考えてしまう。この人型戦闘機の操縦にも戦闘にも、随分と慣れてしまった。そのせいだろうか、余裕ができて余計なことを考えてしまうのか、戦闘中に自分が死ぬことを、自分が消えてしまうことを、考えてしまう。思ってしまう。

 ウキネはこんなことを考えたことがあるのだろうか? こんな自殺志願のような、すべてを放棄して消えてしまいたい――そんな妄想を。

 ウキネは西側の国境侵犯不明集団の調査に出撃している。ウキネはどうして、戦い続けられるのだろう? 私とウキネの2人だけで、国境を守り続けて、もう何年になるのだろう?
 
 不明集団Bを発見。いつものように終わらせよう。いつものように。
 まだ自走戦車は到着していないが、早く終わらせてお酒でも呑もう。おかしなことを考えないように、睡眠薬を飲んで寝てしまおう。
 不明集団Bの進行方向に、移動を遮るように着地。左肩補助腕の盾を前方に構え左手を添えて固定。ライフルを右手に。

 灰色の大地を見ればわずかに違和感を感じる。足下を見ればタイヤの跡がいくつか。そのタイヤの跡は目前の不明集団Bまで繋がっている。トカゲ共は一度ここまで来てから後退したらしい。
 なんのために? 答えはすぐにトカゲ共が教えてくれた。足下から土煙が上がり、網が私の操縦する人型戦闘機を包む。なぜ罠を見つけられなかったのか? 火薬等爆発物の反応無し、機械類の作動音無し、電波無し――網の上に土をかけ、その網を車両で引っ張っただけ。
 原始的過ぎる単純な罠。それゆえに高性能の感知機群は無反応だった。

 ワイヤー入りの網など、この人型戦闘機には紙切れのようなもの、簡単に引きちぎり振り払うことはできる。しかし、トカゲ共の執念の固まりのような罠に感心してしまう。
 ――これまで、どれだけの数のトカゲを殺してきたか分からない。それなのに、仲間を殺されても殺されても、原始的なライフルやロケット弾で何度も進行してくるトカゲ共――
 こんな網で止められるはずが無いのに、それでも部隊をひとつ囮にして、犠牲にして――戦力を比べても、技術水準を比べても、勝てるわけが無いのに、毎回、毎回、いつまで、いつまでも――

 もう、いいんじゃないかな、もう――

 私が動けないと見たトカゲ共は、肩にロケットランチャーを構える、手にグレネードを構える。ウキネ、私、戦えないよ、戦う気力がもう湧いてこないよ――

 トカゲ達は持てる攻撃手段のすべてを私に向ける。私は、それを見て、目を閉じた。
 これで終わる。私が終わる。私が消える。

 ごめんなさい、ウキネ。
 許して、ウキネ。
 ありがとう、ウキネ。
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登場人物紹介

シズネ。和国軍人として徴兵された少女。和国再生施設の防衛用人型兵器のパイロット。平成時代の日本人、高校二年生、楠静香。特技、お菓子作り。趣味、映画鑑賞。

ウキネ。和国軍人、乙一級。和国再生施設、軍司令。クローン再生を繰り返し三百年、軍人として務め続ける。シズネの上官。

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