第12話◇施設の目的

文字数 2,349文字

 
 無人の自走戦車の砲撃で私は一度死んだ。よその国の施設の計略だったとはいえ、自分が操作するはずの機械に襲われたことで、私はこの和国防衛施設が信用できなくなってきた。

「私に軍人の仕事をさせたいのなら、この施設のことをキッチリ説明して」

 ボゥイの顔を下から睨みながら要求する。情報閲覧制限とか、知ったことか。

「わかりました。この施設の目的は和国の再生です。和国再建の砦です。
 世界規模の戦争で大気汚染、土壌汚染が深刻なものとなり、さらに放射能、そして生物兵器、化学兵器などの影響により、地上は人間を含めかつての生物が生存できない環境になりました」

 人類化学の結晶、ABC、アトミック、バイオ、ケミカルを地球の環境が変化するまで使って戦争をしてたらしい。

「この施設では、環境の再地球化を行っています。大気と土壌を解析し、改造し、再び人類が生息可能な環境を再現するために、サンプル採取、調査、環境改造のテストを行っています。和国再建のためには、この施設を守らなければならないのです」
「和国の人間の生き残りもいないのに?」

 私は和国国民じゃない。日本人だ。歴史で見れば、日本が改名して和国になったみたいだけど。

「施設のデータバンクには、かつての和国国民の遺伝子票が記録されています。環境の再現が終われば、遺伝子票からかつての和国国民を再生できます。もちろんシズネ様の遺伝子票も残っていますから、未来において、再建した和国の人間として、シズネ様も産まれることになるでしょう」

 未来、復活した人類の世界、そこで私が産まれる。産まれなおす。ずいぶん壮大な計画があるみたい。じゃあ、

「他所の施設、外国の施設? それがなんでウィルス送って邪魔したりするの。協力して再地球化とか、したらいいんじゃないの?」
「それは無理ですね。未だに世界戦争は終わっていませんし、先に土地と国を再建できれば、次の再生した世界で有利に立てます。なので外国の施設からの妨害が多く、また資源も戦闘兵器、防衛設備にまわさなければならないので、再地球化はなかなか進みません」

 なんというか、地球上の人間が絶滅しても、その人間の仲の悪さを機械は忠実に行っている。ただ、他所の国にも施設があるのなら、

「他所の施設にも、私やウキネのような人がいるんじゃないの?その人達と連絡は取れないの?」

 機械同士がプログラムのせいで戦争していても、私達は話し合いができるかもしれない。
 ボゥイは言う。

「無理です」
「なんで?」
「憲法に違反しますので」

 ………………また、出た、憲法。

「和国は憲法で外国との戦争を放棄しています。外国への侵略も認めていません。外交も貿易も戦争の火種になる可能性があるため、我が国では外国との交渉のすべてを法律で禁止しています」

 あぁ、ケンカにならないように口を聞かないようにしてるんだ。

 頭が痛くなってきた。休憩室に戻って、お茶にしよう。施設の目的は解ったけれど、スッキリしない。
 休憩室にはウキネがいて、タブレットでなにか見ている。
 私はウキネの正面の椅子に座ってタッパーを開ける。中にはこの前作ったチーズケーキの残りが入っている。ウキネに、

「食べる?」
「もらおう。シロ、コーヒー」

 私はコーヒーを淹れに移動するシロと側に立つボゥイを見る。

「この施設の機械って、バカなんじゃないの?」
「機械は指示されたことをするだけだ。機械が馬鹿に見えるなら、それは作った人間が、馬鹿なんだ」
「人間が私達2人しかいないのに、憲法だ法律だって、なんの役にも立たないどころか邪魔にしかなってないのに」
「昔の和国で、憲法こそが和国の精神と、もてはやされて大事にされてた時代の名残だ。人間が居なくなっても、自分たちが作った機械にまで組み込んで守らせるほどに、過去の和国人にとっては大切なことだったらしいな」
「これで、地上の再地球化なんて、いつできるの?」
「ふむ」

 ウキネが右手で黒い義手の左手の内側をなぞって操作する。休憩室の壁に地上の景色が映し出される。
 灰色の大地、濁った灰色の空。どこにも生物がいないように見える。

「昔に比べたら、少し植物が増えたか、あとは昆虫がいるな」
「なんで、他所の国の施設が邪魔をするのよ」
「それはするだろう。自分の国だけ復活させて、他所の国の復活を邪魔すれば、地上を一国支配できる。だから、和国もやっているぞ。自国の汚染物質を他所に投棄したり、土壌を改造するナノマシンを分解するナノマシンをばら蒔いたり」

 お互い様、だった。

「この地上の環境に適応したナメクジやトカゲから見れば、人間の施設は自分たちの生存環境を改造する、旧人類の負の遺産というところか」
「ナメクジとトカゲが、新人類なの?」
「知恵があって道具もつかうぞ」
「じゃあ、話し合えれば仲良くなれるのかな」
「和国は憲法由来の法律で、外国との交渉は禁止だから、無理だな」

 ……はーーーー、バカバカしい。

「この地上の風景も、300年前とさほど代わり映えしないな」
「300年前もこうなんだ。じゃあ、300年も地上の再生は進んでないんじゃない」
「そうなる」
「……300年前から、この景色を見てるの?」
「私が軍人になってそのぐらいだ」
「ウキネ、300歳、越えてるんだ」
「死んでクローン再生の度に、肉体年齢は16歳になる」

 300年かぁ、外の灰色の景色を眺める。ウキネは300年、この景色を見て、この施設で生きてるんだ。
 チーズケーキを指で摘まんで食べるウキネの横顔を見ても、300歳を越えているようには見えなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

シズネ。和国軍人として徴兵された少女。和国再生施設の防衛用人型兵器のパイロット。平成時代の日本人、高校二年生、楠静香。特技、お菓子作り。趣味、映画鑑賞。

ウキネ。和国軍人、乙一級。和国再生施設、軍司令。クローン再生を繰り返し三百年、軍人として務め続ける。シズネの上官。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み