第11話◇初出撃

文字数 2,277文字

 
 情報室で調べものをするにしても、閲覧禁止が多い。階級丁二級はまだまだ下っ端ということなんだろう。上から順に甲乙丙丁、それぞれ一級から三級。階級丁は軍人として仕事できるように機体の情報や自走戦車の操作方法、施設の使いかたを学べということなんだろう。
 なので、階級を上げて今の状況を知りたいとウキネに言ってみる。

「なら、次の調査出撃はシズネに任せる」

 実績があれば階級も上がりやすいという。

 気がつけば、私は水の中にいる。透明な液体の満たされたカプセルの中にいる。

 なぜ?

 液体が排出されて、カプセルの蓋が開く。ボゥイがタオルを持ってきた。手足が無いまま横たわる私は、されるがままに身体を拭かれる。

「起きたか」

 ウキネがカプセルの表示を確認して、私を見る。私はどうして、こんなカプセルの中で水びたしに? 鼻の穴と口からトロトロと液体が出てきて、喋れない。苦しくもないけれど。

 ボゥイが丁寧に私の身体を拭いてから、義手義足を持ってきて、取り付ける。ようやく鼻から液体が抜けて、喋れるようになる。

「何が、どうなってるの?」
「シズネが調査出撃した際に死亡した。今、クローン再生して目が覚めたところだ。記憶は出撃する日の前夜までしかセーブされて無いから、当日の朝から出撃して死亡するまでの記憶は無い」
「えーと、私、死んだの?」
「あぁ、死亡した。出撃時の記録は残してあるから、映像でシズネの死亡を確認できる」

 死んだ、と言われても、今、私は生きている。生きている、と思う。クローン再生。私はクローン?

 接続した手足の動作を確認して、カプセルから出て立つ。他にもカプセルが並んでいる。見れば、ふたつのカプセルが可動していて、その両方に手足の無い人が眠っている。どちらもその顔には見覚えがある。
 ひとつにはウキネ、もうひとつは私。

「それは予備だ。私たちが死亡したときはこのクローン体に記憶を転写して使うことになる」

 私たちの、予備。カプセルの中、液体の中で髪の毛がゆらゆらと揺れている。

 私が死んで、今の私は記憶を転写されたクローン。そして今の私が死んだら、次はこのカプセルの中の私が目覚める。
 死んでも、生き返る、ということかな。

「まだ、髪が濡れている。こっちに来い」

 ぼんやりしたまま、ウキネに手を引かれて部屋を出る。部屋の扉には再生室と書かれていた。ペタペタと裸足でウキネに引かれるままついていく。

 休憩室の椅子に座って、髪の毛をドライヤーでウキネに乾かしてもらう。私が死んだ。初めての調査出撃で、どんな失敗をしたのだろうか。

「私は、どんな死にかたをしたの?」
「見てみるか? シロ、記録映像表示」

 休憩室の空間に画面が表示される。この前、指揮室で見たような俯瞰の映像。2台の車両、その付近に五つの拈菌が触角をゆらゆらさせながら、うろうろしている。

 そこに青い人型戦闘機が着地する。私の機体は青でカラーリングされているから、私の機体なのだろう。あの機体には死ぬ前の私が乗っている。

 五つの拈菌はわたわたと車両に乗って、1台は逃走、もう1台はそこに残って青い機体に銃撃を始めた。青い機体は盾で身を守り、自走戦車の砲撃が開始。銃撃を続ける拈菌の車両が爆発した。

「私はシズネに逃げた1台の追跡監視を指示した。その直後に、これだ」

 青い人型戦闘機の背後に並ぶ自走戦車。その1台が急発進して、青い人型戦闘機の背後に砲撃した。背部推進機が誘爆して青い機体の上半身が炎に包まれる。

「はぁ?」

 なんで味方、というか無人の自走戦車が私に攻撃するの?

「本部電脳、調査結果を報告しろ。シズネに解りやすく説明しろ」
『自走戦車に小型の昆虫型の小型機が接触しました。その小型機が自走戦車にウィルスを注入。自走戦車の電脳はウィルスに感染し暴走しました。小型機の形状、ウィルスの形跡から、唯一神信仰集合体のものと推測されます。現在はウィルスを解析し、同種のウィルスに対しての防壁を作成しました。今後は同種ウィルスを無効果できます』
「以前にも同じことがあった。対策が不十分だったわけだな? 予想されるウィルス攻撃に対して、なぜ対応できなかった?」
『前回は林檎からの攻撃と推測されます。単神宗教のプログラムとはタイプが違うために、防御が出来ませんでした』
「言い訳をするな。施設を守るのが役目ならキッチリとこなせ」
『わかりました』

 ウキネが私を見る。

「理解できたか?」
「味方だと思ってた自走戦車に背後から撃たれた」
「そのとおり」
「どういうこと?」
「よその仕掛けた電脳ウィルスにやられた自走戦車が暴走して、味方に攻撃した」
「あの、拈菌のしわざ?」
「ナメクジ共にそんな技術力は無い。信仰集合体の奴ららしいな」
「信仰集合体って? なに?」
「この地上に残って国を再建しようという施設は、和国だけじゃない。他にも、ここのような施設はある。そのうちのひとつだ」

 ここと、同じような施設、他の国の。

「そんな施設があるなら、なんでこんなことをするの?」
「機械は人間の命令に忠実だ。人類が世界戦争の終結宣言をしないままに全滅したから、機械はまだ戦争を続けている。この施設は和国憲法のせいで他の国の施設に攻撃できないが、戦争はまだ終わっていないんだ」
「その戦争って、どうやったら終わるの?」
「人間の作った機械が全部壊れて、動かなくなったら終わるだろうな」
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登場人物紹介

シズネ。和国軍人として徴兵された少女。和国再生施設の防衛用人型兵器のパイロット。平成時代の日本人、高校二年生、楠静香。特技、お菓子作り。趣味、映画鑑賞。

ウキネ。和国軍人、乙一級。和国再生施設、軍司令。クローン再生を繰り返し三百年、軍人として務め続ける。シズネの上官。

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