第24話◇新兵器

文字数 5,359文字

 
 北より未確認集団の接近を感知。調査出撃指令。

「じゃあ、行ってくるね」
「待った」

 ウキネが地図を展開している。

「最近、トカゲ共はおとなしかった。こういうときは、なにか大きな作戦か、新しい戦術でも仕掛けてくるか、そういったことがある」

 俯瞰する地図に接近する集団が、光点で表示されている。数は5つ。

「集団5つ。多いね」
「私が出よう。シズネは指揮室で状況を見てくれ。特に自走戦車のハッキングに注意だ。また、西側のナメクジの動きがあれば報告。シロは施設の感知機群を使って、この5つの集団を囮にして施設に近づくものがいないかチェックしろ。ナメクジ共が使った虫型小型機械を壊す虫殺しの稼働状況も再チェックだ」

 指示を残してウキネとシロはハンガーに行った。私も指揮室に向かう。
 指揮室で必要な情報を画面表示。5つの集団はひとつにつき車両が10から15。いつもに比べれば、かなり多い。

 トカゲもナメクジも、なんのために戦力を小出しにして進行して来てるのか。今のところは明確に分かってない。おそらくだけど、数の調整。人口数の調整。

 トカゲもナメクジも今の地上の環境に適応した生物とはいえ、食料問題や資源の問題からは、逃れられない。それに、トカゲとナメクジに武器や車両を渡している林檎と信仰集合体は、彼らの反乱を警戒しているのだろう。
 旧世界の兵器で強力なものを渡せば、それを使って反乱、革命を起こすかもしれない。
 それで、適当な兵器と車両を与えて、この施設に進行させて、死なせて数を減らしておく。
 ついでに、和国の地上再生の邪魔になる。

 だいたい、和国が過去に世界に宣言した防衛装置は、まだ生きている。この施設に直接攻撃があり、施設が維持できなくなれば、報復装置が稼働する。
 世界中の他国施設があると思わしいところに、核やら化学兵器を搭載した遠距離ミサイルを発射して、施設は自爆する。
 他の国が、それを忘れてしまっているかもしれないけれど。

「施設周辺に異常があれば、すぐに報告」

 施設本部電脳とボゥイに言っておく。
 虫殺しも稼働状況を見ておく。ナメクジが放った羽虫型の機械は、自走戦車にとりついてウイルスで自走戦車を暴走させた。機械群にはウイルス対策はしてあるけれど、無線で動かすために通信を妨害されたり、割り込まれたりする危険がある。異常があれば停止するように安全装置は強化してある。

 ウキネが赤い人型機械で、発進する。
 続いて自走戦車が発進、20台の集団が5つ、それぞれが5つの不明集団に向かう。続いて補給車両も出る。私は訓練でしか使ったことが無い。長期戦用に推進機燃料と弾薬が積んである。

 画面にウキネからの字幕表示、

『多脚砲台を出せ、シズネ、何台動かせる?』
「指示を出すだけなら、何台でもできるけど。細かく動かすなら5台かな」
『では3台出してくれ。敵認定したものから順に殲滅。多脚砲台は突出させないように』
「了解。多脚砲台防衛に自走戦車も6台出すね。施設から離れ過ぎないところに展開するから、射程外はそっちの自走戦車に任せる」

 パネルを操作して多脚砲台の状態を確認。出撃指示。遠距離砲撃支援用の大型自走砲台が、蜘蛛のような足を動かして施設の外に出る。

「多脚砲台3台発進。護衛に1台につき自走戦車2台随行。監視用にカメラ蜂も出して」

 突出しないように位置を指定。施設の固定砲台も状態確認する。

 ウキネがひとつ目の集団に接触、早速交戦が始まる。ウキネの人型戦闘機を攻撃した集団が、敵認定されて赤い光点に切り替わる。まだ、自走戦車はウキネに追い付いていない。
 敵認定だけ早く終わらせて、残りは自走戦車に任せるんだろう。自走戦車は赤い光点を囲むように展開していく。

 多脚砲台の1台に、敵集団への砲撃指示を出す。たぶん、これは私がやらなくてもウキネひとりでもできることなんだろうけど、任されたのだから、しっかりやらないと。

 ウキネはもうふたつ目の集団に移動している。これなら、ウキネひとりでも充分なんだろう。300年の経験のある仕事ぶり。無駄が無く、効率がいい。

「西側の動きは?」
「今のところ、何もありません」

 私が訪ねると感知機群を監視するボゥイが返事をする。今回は、私は出撃する必要が無いみたい。
 ふたつ目の集団も敵認定、ウキネがみっつ目の集団に移動したのを見てから、2台目の多脚砲台に遠距離砲撃指示。

 上から来る5つの集団を左手から順番に潰していく。ウキネの手伝いになればと、先行させたカメラ蜂の映像を見る。

 みっつ目の集団と接触したウキネに通信。

「ウキネ、次のよっつ目の集団。網を広げて、その上に土をかけてる。罠を仕掛けてるみたい」
『あぁ、その罠はトカゲがたまに使ってくる。以前、その罠にやられた軍人がいる』
「ただの網じゃ無いの?」
『ワイヤーの網だが、この機体には効果は無い。簡単に引きちぎることはできる』
「そんなものに、やられないよね?」
『どんなものでも、タイミング次第では結果が変わる。用心するに越したことは無い』

 みっつ目の集団も敵認定。3台目の多脚砲台に攻撃指示。ひとつ目の集団が壊滅したので、仕事の終えた多脚砲台1台目を、次の集団に砲撃しやすい位置に移動。ウキネは補給車で推進機燃料を補給中。

 相手と接近戦しながら、自走戦車と砲台にも指示を出すのは忙しい作業だから、ここに私がいるのはウキネの役に立ってるはず。
 私が出撃してるときも、ウキネはこうやって私のサポートをしてくれていた。そのことを考えると、私のやってたことはまだまだ稚拙だったことが解る。
 安全マージンをとって、無駄なく、損害少なく、効率的に。ウキネのやり方を見て憶えて参考にしないと。

「第二集団交戦中の自走戦車、36番に異常発生、緊急停止します」
「近くのカメラ蜂で36番を調べて」

 ウキネがよっつ目の集団に接触。網を埋めた地面の反対側に着地している。罠が不発に終わったその集団がウキネと交戦。
 多脚砲台によっつ目の集団にも攻撃指示。

「自走戦車36番に奇妙なものが張り付いています。異常を起こした14番 6番も緊急停止」
「36番の映像、拡大して」

 自走戦車36番になにかくっついてる。地面に似た灰色の蜘蛛の足のついた、箱のようなもの。なにかは解らないけれど、なにをしたいのかは解った。

「ウキネ、トカゲは自走戦車を乗っ取ろうとしてる。未確認の蜘蛛足の機械に取り付かれた自走戦車が異常を起こしてる」
『暴走か?』
「暴走する前に緊急停止してる。今も停止する自走戦車が増えてる」
『その蜘蛛足を見つけておいてくれ』

「ボゥイ、広範囲で走査。施設周囲の動体反応を探って。あと作業機械を出してあの蜘蛛足の機械を回収して」

 多脚砲台を乗っ取られるとシャレにならないので、カメラ蜂に探させる。今回は暴走前に停止できているけれど、さらに何台か自走戦車が緊急停止していく。

 この最中にもウキネは止まらない。いつつ目、最後の集団も敵認定。すでに自走戦車で包囲している集団は、自走戦車の射撃と多脚砲台の遠距離砲撃で壊滅する。

「自走戦車は施設に収用する前に、徹底的に外観検査。おかしなものを施設に入れないように」

 ボゥイと本部電脳に指示。
 アームのついた作業機械、地質検査や土壌のサンプル採取をするための作業機械で、蜘蛛足の機械を回収する。蜘蛛足を切り落として、箱の部分だけ回収。
 地面に這い回って取り付く戦車を探してる蜘蛛足には攻撃指示。射撃して破壊、自走戦車で踏み潰す。トカゲの新兵器かな? こちらの自走戦車の武器のセーフティがかかる前に、感知機で見つけたものは全部破壊する。回収するのは3台ぐらいでいいかな。

 ウキネの機体が停止した自走戦車から蜘蛛足機械をひっぺがす。ウキネの機体からの映像を見ると、機械の腕に捕まった箱から蜘蛛みたいな足がワシャワシャ動いている。子供に捕まった蟹みたい。

「ウキネ、それなに?」
『解らん。初めて見る。ナメクジの羽虫のように電脳ウィルスで自走戦車を乗っ取るつもりだったか。それにしては大きいが』

 箱の部分だけで1辺1メートル、厚みが60センチの平たい直方体。表面が地面と同じ色の迷彩になっている。

 発見したのは20台。箱3台とウキネが捕まえた1台で4台回収して残りは破壊。
 破壊した蜘蛛足から液体が出ている。どうも只の機械じゃ無いみたい。

 戦闘終了。自走戦車と多脚砲台の収容はボゥイに任せて、回収した蜘蛛足を調べることにする。地上近くの施設に捕獲した蜘蛛足を収用して、自爆しないか機械に検査させる。自爆しないようなら、分解まで本部電脳に指示して、安全そうなら見に行ってこよう。

『解析室で合流しよう』

 ウキネも気になるみたい。

 解析室に移動する。ウキネ、シロ、ボゥイと合流。本部電脳が安全確認して、分解済みの1台を見ることにする。

 うわー、解りやすい。ナメクジの羽虫よりは解りやすい。
 サイズが大きいのは、中に、脳と脊髄が入っていたからだった。透明樹脂の向こう、テーブルの上には、バラバラになった蜘蛛足機械の残骸と、脳ミソと背骨が並べられている。

 シロが本部電脳の解析データを見てる。

「この機械の中に入っていたのは、唯一神信仰集合体の人物のクローン体の、脳と脊髄です。機械には周囲の通信を妨害する機構も、組み込まれています。回りの通信を妨害して、人間の指示で自走戦車を動かすつもりだったようです。しかし、他国の人間ですし、なにより人間とは認識はできませんので、取り付かれても自走戦車の暴走は無いです。危険なのは通信妨害の方ですね」

 これで人間扱いは難しいと思うけど、機械の方も人間とは認識しないみたいだし。

「暴走対策のために緊急停止しましたが、それほど脅威はありません」
「いや、これはやっかいだぞ」

 シロの説明にウキネが待ったをかける。

「本部電脳、もしも敵勢力が和国の遺伝子標を入手し、そのクローン体を使って遺伝子標を偽装して同様の機械を使ってきた場合の危険性は?」
『遺伝子標が和国軍人の場合、自走戦車や多脚砲台の末端電脳は、その命令に従います。この上で味方識別信号を妨害されると、危険です』
「本部電脳そのものが、偽装和国軍人の支配下になる可能性もあるか」
『現在の最高階級であるウキネ乙一級より、上の階級は存在してません。階級順列により、ウキネの指示が優先されます』

「では、敵が私の遺伝子標を入手し、さらに私を殺害したならば?」

 本部電脳が沈黙する。

「なにか対策を考えておけ、早急に。和国人の遺伝子標データは盗まれないようにしてあるだろうが、より一段盗難対策を強化しろ」

 待って、ちょっと待って。ウキネの話で私は恐くなる。

「ウキネ、これって、もしも林檎か信仰集合体がウキネの遺伝子標を手に入れてたら」
「偽物の私が襲撃してくるかもな。そのときこの施設がその偽物を見破れなければ、この施設は偽物の思い通りになる」
「それって、どうすればいいの」
「本部電脳が無意味な指示に従うことは無いだろうが、末端の下部電脳は簡単に騙されるかもしれん。今後は自走戦車の扱いに気をつけないとな」

 考える。自走戦車が使えないと、かなりの戦力減だ。人型戦闘機に搭載する兵器のみで、直接戦闘が必要になる。

「なにか、新しい鍵とか、合言葉とか。防犯対策なら鍵を交換するとか、暗証番号を変更するとか」
「落ち着け、シズネ」

 ウキネが腕を組んで考える。

「とりあえずは、新しい軍人認識標の設定だ。本部電脳、私とシズネに軍人認識標を埋め込め。この施設で造ったクローン体と他国で造られたクローン体と見分けがつくようにしろ。その上で、遺伝子標のみでは末端電脳が動かないように設定。遺伝子標と軍人認識標のふたつが無ければ、施設機械群を使えないようにする」
『了解しました。緊急事案のため、早急に対処します。本部電脳内において問題点を検討したのち、報告します。報告後、問題点、改善案が無ければ実行します』

「トカゲもナメクジも、こっちの戦力を乗っ取ろうとしてるんだ」
「こちらの戦力というよりは、この施設そのものだろう。そのための練習に末端の機械群で試しているわけだ。これまでは、ただの撃ち合い殴りあいだったが」
「林檎と信仰集合体の方針が変わった?」
「以前は、この施設の自爆と報復を警戒していたが、そのことを忘れたのか。それとも自爆と報復攻撃を気にしなくなったのか。この施設本体に手を出せば、奴らも終わるだろうに」
「みんな、集団で死にたくなっちゃったのかな」

 外国の施設にも、私達のような人がいるなら、その人達はこの世界をどうしたいんだろうか。その人達の思惑と関係無く、機械に組み込まれたシステムが、旧世界の人類の妄執が、おかしな方向に動いているだけなのか。

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登場人物紹介

シズネ。和国軍人として徴兵された少女。和国再生施設の防衛用人型兵器のパイロット。平成時代の日本人、高校二年生、楠静香。特技、お菓子作り。趣味、映画鑑賞。

ウキネ。和国軍人、乙一級。和国再生施設、軍司令。クローン再生を繰り返し三百年、軍人として務め続ける。シズネの上官。

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