第3話

文字数 802文字

「小児喘息は治るって聞いたぜ?」
「再発することもある、と載ってたぜ」
「相変わらず一弥はネット情報ばっかりだな」
「いんや、これは『市民だより』の相談コーナーだよ……」
 恭平は少し馬鹿にしたような言い方をする。美鈴は体育をよく見学してるし、苦しそうにせき込む時もある。そんな時、ヒューヒューと呼吸音が乱れていることも少なくない。

 そんなこともあって、恭平は自分のカビ臭い傘に美鈴を入れることには拘らず、すぐに俺の言葉を受け入れ、俺へのイヤミの牽制だけで収めた。
 それも恐らく美鈴がいる手前、一言いい返せずにはいられなかっただけのことだろう。


 きっと廊下の入口からこの教室を眺めて美鈴に焦点を当てたのなら、地味な俺とコントラストを成す恭平は、教室の床や壁(=俺)、それを活気づける課題や装飾物(=恭平)、そんな背景に見えるんじゃないかと思ってしまう。
 学生服の前を全開にし、学ランの中からは真っ赤なTシャツが学ランの黒と相まって鮮やかに目を惹く。品のある明るい朱の色は恭平そのものだ。
 ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、踵を踏んだ上履きをペタンペタンと鳴らしながら俺のいる窓際の席の近くに歩み寄ってくると、俺のすぐ前の机にその片尻を乗せる。尻を乗せた側の足を上履きのまま椅子の背もたれに掛けると、少し上から俺を見下ろす。ヤンチャな感じが様になっている。

 俺はその様子を横目で見ながら、多分俺が同じことをしたのなら、美鈴が『行儀が悪い』やら『何恰好つけてるの』などと言われるんだろうな、と苦笑いを浮かべる。

 俺からすれば同じことをするのに、見た目や似合っているかどうかなどの外見で判断されている、この顔が見える距離がいけないのだ、そう思っている。後ろ姿だけ見れば俺だって結構様になってるはずだ。
 テレビのお天気キャスターが可愛いとそれを信じたくなったり、推しが出ているCМのお菓子を買いたくなるのと同じだ。
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