第65話

文字数 785文字

 一斉に走り出す。美鈴も走るが遅い、しかしそれでいい。予想通り猛烈にダッシュした奴らの狙いはギターだ。42チーム中41チームが狙うはギター。音程はどうであれ一番音が出せるのは、俺から考えてもそれしかない。

 美鈴が楽器の側に来る頃には熾烈な奪い合いは勝負が着き、あぶれたものはどの楽器にするか思案に暮れていた。

 美鈴は誰もいない場所……ヴァイオリンを手にした。余裕の表情で指示書を確認する。他チームの全員が『弾けるわけない』と『まさか弾けるのか』という嘲笑と感嘆の興味に二分された。

 音の指定は例えばギターなら『F』と『B』、ヴァイオリンなら10度の和音を含むメロディを繰り返すといった感じだ。

 ギターを勝ち取ったのはギターが弾けない者どもだったらしく苦戦している。その周囲では『俺ギターなら“F”でもなんでも弾けたのに』と悔やまれる声もチラホラ。

 そんな声を他所に美鈴がヴァイオリンを担ぐと音を奏でる。札が上がる。驚愕の声は脅威となって、他チームの演者たちを焦らせる。競って音を出すも判定の札は上がらない。それもそのはず、これらは難度の高い楽器たちだ、美鈴が異常といえる。
 ヴァイオリンを奏でる美鈴は美しかった。奏でる音は清楚で涼やかであった。音は風となって俺の頭の中に正解をもたらした。
 札はまだ上がっている。

「令和高校、解答をどうぞっ」


 A. 10枚と42枚の山に分けて10枚の方の山をひっくり返せば、必ず表になっているカードの枚数は等しくなる。

 俺は軽やかに答えた。その流れに逆らうことなく司会者は俺たちを仰ぐ、俺たちは今、出立する勇者の如く満ちている。早く名乗りを上げたい!

「……正解ですっ!! 令和高校勝ち抜け――!なんと一発で決まりました」

 決勝点を叩きだした選手のように右手を突き上げた俺は、恭平と共に美鈴に元へ駆け寄る。3人は抱き合って喜びを嚙みしめた。
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