第104話 時間Ⅰ

文字数 925文字

『高校生クイズ』は炎上した。テレビとしてケガや病気を押してまで戦う姿は視聴者の同情と感動を集めると思っていた局側の思惑を外して、非人道的として扱われた。

 令和高校にも、そして直接俺たちにも抗議や非難は寄せられた。『そこまでする必要があったのか』『クイズしてる場合じゃないだろ』『友達より優勝を選んだ』『近くに居て何も感じないのか』『命より大切な問題』『青春といえば美談になると思っている』……痛烈に心を打ち付けた。
 今までネットの住民であった俺は『ネットの世界は主観的な世界であり、受信者がしっかりと自分を持って受け止めなければならなく、発信者は事実と受け手に配慮した言葉を選ばなくてはならない』ことを知った。失言や暴言は何も政治家や有名人だけの話ではない。

 俺と恭平は何度も搬送された病院に通った。しかしその都度美鈴の両親に追い返された。ご両親はネットの言葉を信じ、今まで美鈴は友達を家に呼ぶことも少なく、素性の知れない俺たちは美鈴より優勝を選んだと受け取られていたようだ。しかしその都度美鈴の両親に追い返された。
 病院からの帰り道、俺と恭平の間に言葉はない……ただ夏の湿った風が都会のビルたちに当たって散っていた。美鈴が駆け抜けた青春のように、爽やかな鈴の音を残して。
 しばらくして美鈴は地元の病院に転院されたと聞いた。



「そう言えば恭平に言ったことなかったっけ?」
「何が?」
「俺の時計、美鈴の身体の具合と連動しているみたいなんだ」
「?! そんなことってあるわけ……ないよな?」
「ほら今も……」

 腕に巻いたまま、腕ごと時計を見せる。

「お、頑張れ、ほれ、もう少し……あぁーダメかぁ……」
 時計の秒針は何回かに一回の割合でしか進んで行かない。進めそうで進めない。思わず恭平のように応援したくなる。
 時計の秒針は何回かに一回の割合でしか進んで行かない。思わず恭平のように応援したくなる。

「そう言えば、俺の時計も一弥と麻木が合ってたとき秒針が落ち着いてなかったんだよな、それで俺も何となく居心地悪くってさ」
「それ……俺が居心地悪くなる言葉」

「もし、それが本当なら、この時計、修理に出しに行こうぜ。時計が直れば美鈴も治るかも……」
「そうだな、そうだと良いな」
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