第51話

文字数 585文字

 これも正に青春だった。俺は知らなかった、きっと今まで損をしてたんだ。好きになってその人の側に居ることの楽しさ、一緒に居るだけで日常から解き放たれる。ポストが赤いことだって、犬が吠えるのだって、見るもの聞くもの全てが有頂天だ。それは美鈴や恭平との三人のときにはないトキメキ。二人きりだからこそ訪れる気持ちのダンス。

 他愛ない一日が光陰流転の如く暮れていく。流れるプールでグルグルしていただけ、やたら高い焼きそばを二人で分けたり、かき氷を食べたり、スライダーを何回も滑ったりしただけなのにまだ帰りたくない俺がいる。
 寂しくなって無言になる。紗雪も同じ想いなのだろうか……時間の流れが遅く変わったような沈黙。

 ふと、紗雪が俺の膝に手を乗せる……紗雪の身体が近寄って来るのを置かれた膝の重みで感じる。静電気が起きているように肌がゾワゾワと微かに震えている。紗雪の方を見れない俺は、焦点と視点が一致していない。
 俺は視野に入り込む紗雪を動物的な感覚で捉えていた。
「ねぇ……美鈴と紗雪、どっちが好き?」

 紗雪にそう甘く囁かれたのなら、俺の思考は崩壊した。理性、自我そう言った判断を残しているものの、瞬発的な感覚が支配した。
 敏感に反応しているのは男の部分の感覚だ。

 水辺のキラキラが紗雪の女子力を上げるように目に眩しい。紗雪は俺の返事なんか待たずに腰を上げた。

「そろそろ帰ろっか」
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