第74話

文字数 867文字

「『命題と論証』良く分かったな、恭平!」

 別室でモニターを見ながら残り2校の行方を見守りつつ、恭平を労う。別室は身体も心も涼やかで心地よかった。地味でプレーンなこの部屋は、俺たちの勝利の余韻で飾り付けられる。

「良かったよ、危うく俺勝負に出て、『赤』って言うところだった」
「一弥、『白』だったもんね」
「あぁ、危なかった」
「『命題と論証』? そんなの知らないよ俺」

 恭平は軽く言い放つ。俺と美鈴は顔を見合わせて驚く。

「じゃあ、勘で答えたの?」
 美鈴のその美しい顔が崩れるほど大きな口を開ける。『勘』だとしたのなら例え1/2の確率とはいえ、その度胸と勝負運は恭平のカルマ。
 しかし恭平は真っ当なことを言って返した。そのギャップこそが恭平のカリスマ的な要因なのかもしれない。

「いいや、根拠はあったよ。俺と一弥が『白』なら美鈴がすぐに答えたはず。ってことは俺が『白』で一弥が『赤』……もしくはその反対か、『赤赤』しかあり得ない――で今度は一弥の番でも答えなかったから、もし俺が『白』なら一弥は絶対に『赤』。なのに一弥は応えなかった……つまりは、俺は『赤』しかあり得ない」

「その通りだよ恭平。それを『命題と論証』というんだよ」
「そうなの?」

 涙高校の奴らが鼻で笑ったような気がした。恭平は『知識』で解いたのではない、『創意』で解いたのだ、むしろお前らよりすごい、俺はそう思った。


「それにしても押すの早かったな。俺押そうか迷ったのに」
「一弥が『押さない』って言うのを感じたんだ。息遣い? 背中に感じたんだ、一弥の思いの気配みたいの……だから『次の質問に行く前に押そう』って」
(スーパー)ファインプレーだよ恭平!」

 これこそが恭平の神通力なのかもしれない、恭平の魅力。そして美鈴は恭平の『このいつ出るかは分からない超自然能力』を以前から知っていて、楽しみにしていたんじゃないか、どっかで俺はそう思った。

 モニターからは熱戦が伝えられ、その緊張感に満ちた解答者たちからモニター越しに白眼視が送られてくるのを感じる。

 これは準決勝、兜の緒を締めなければなるまい。
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