第73話

文字数 649文字

 赤だ……恭平、お前は白の帽子を被っている。赤って答えろ! 頼む……。俺は只々祈るばかりだ。恭平は気付いているのであろうか。これはキチンとした理屈で成り立っている。これは数学だ。

「赤です」

 恭平が答える。司会者の判定の前に、俺は小さく、しかしながら力強い会心のポーズを決める。きっと美鈴も同じ想いに違いない。
『よっしゃぁぁぁぁ』心の中で大声を上げる。

「正解です」

 司会者が落ち着いて言い渡す。俺たちは我慢して司会者の次の言葉を待つ。

「令和高校2位抜けです。おめでとう! 準決勝進出です!」

 この言葉を待っていた。俺たちはいっせいに立ち上がり喜びの声を上げる。しかしその欣幸を水差すように各校から司会者にクレームが寄せられる。

「フライングだ! 令和高校はルールを破って解答した。司会者は『二番目の席の方』といった。二番目に座っている人間が解答ボタンを押す順番なはず。なのに答えたのは先頭の人だ。ズルい!」
 恐らく答えを分かっていて先頭で座っていた人間は多いはず。早押しに集中していたに違いない、恐らく来るであろう次の順番に向けて。
 不公平はいつだって自分が損をしたときに思うものだ。

 司会者は冷静に答える。

「私は質問をしていただけです。『自分の帽子の被っている色が分かった方は解答ボタンを押してください』と初めに申し上げたはずですが?」

 その言葉に誰も反論できず、俺たちの準決勝進出が決定づけられた。カーテンの隙間から日ノ出が悔しがっている姿が垣間見え、俺と恭平はグータッチして気持ちを分かち合った。
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