第102話

文字数 667文字

「ね、恭平。『サイコロと鍵』それに『アイスの物語』って何? 結局聞いてないんだけど?」
「あぁ……それね……それ今更思い出しちゃう?」

 恭平は照れくさそうに俯く。見なくても美鈴がその横顔に視線を集めているを感じる。ジー……いつまでも逸らさないそのプレッシャーに負けた恭平は、突然海へと引き返すように逆方向へと走り出す。

「美鈴っ! 先帰れよ! 確かそこのバス停から砂浜って見えるよな。そこから見ていてくれよ。これは俺からの『高校生クイズ』青春(あおはる)真っ盛りの思い出づくりだ!」

 止める間もなく、あっという間に見えなくなる恭平。軽くため息を吐くと、嬉しそうに砂浜を見つめる。砂浜にはもう、誰も人影はない。そして砂浜にはまだ恭平の姿はない。けれども美鈴には想像できている、恭平があの砂浜へやってくる姿を。こちらへと大きく手を振る恭平の笑顔までも。そしてその時はきっと太陽が彼を照らしていることさえも。



 美鈴のスマホが震える。恭平からのメッセージだ。

【サイコロとアイスの話のヒントは英語
そして第二問……今から書く式をグラフで表せば……? 何になる?

今日は突然ごめんな。そしてありがとう。明後日の決勝、頑張ろうぜ】

 砂浜に目を向けると。恭平が走って砂浜に文字を書いている。子供のように走り回る恭平は輝いていた。遥かこのバス停まで楽しさを届けられるなんて、そんなことスーパースターにしかできない。
 予想通りキラキラと雲の隙間から太陽の光が恭平の姿を照らす。恭平には太陽が似合っている。

【(x²+y²−1) ³=x²y³】

 砂浜には大きくそう書かれていた。
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