第27話

文字数 604文字

「不思議なこと?」
「そ、頭に直接言葉が響いてきたり、誰かが近くで見守ってるような感覚がしたり……」

 指を唇に当てて、上に視線を上げる。まるで自分の頭の中が頭上に映し出されているように記憶を辿っているのが分かる。少し尖らせた唇に目が行く。
 不意に瞳を落とした美鈴と慌てて唇から目を逸らした俺は、視線に誘導されたようにその目と目がぶつかり合う。今度は俺の頭の中を覗かれそうで裏返った声で言う。

「お、俺のテレパシー届いたろ?」

 少しまた美鈴は考えてから答えた。パァーと表情を明るくして。それは蕾から花が咲く映像を早回しで再生したかのように。それでいてコマ送りのように確実に俺の脳裏に留まった。

「うん……聞こえたよ、早く良くなれって、一弥の声が」

 そんな美鈴の優しい音が聞こえてくるような笑顔に誘われて、負けじと恭平が畳み掛ける。

「俺も美鈴の枕元に立ったんだ、気付いてくれた?」
「それ死んだ人だよ、恭平」

 再び美鈴は笑う、それは周囲に華やかさをもたらす。その笑顔(ひとしずく)はミルククラウンのように穏やかな水面を優美に綾なす。彼女がいるだけで、こんなにも当たり前の毎日が明るくなるなんて、美鈴が休むまで気付かなかったなんて俺たちはなんてバカだったんだろう。
 好きな人が居る、それは刺激だったんだ、この三人でいる時間、それは大切な瞬間であって決して退屈な時間ではない。

 そう思わせる事件がもう一つ起きた。



 恭平の父親が死んだ……。
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