第30話 ロリババアはなんの夢を見る?
文字数 4,328文字
頂点に達した太陽がエールを送ってくる。ぽかぽか陽気は普段だったら、ありがたい。が、今は眠くなるので控えてほしい。
かれこれ三時間ほど、僕は膝立ちで女の子を見守っているんだけど。
同じ態勢のままだ。いくら柔肌が極上の感触といっても、疲れるものは疲れる。
そろそろトイレにも行きたいし、おなかも何度か鳴っている。朝、コーヒーを飲んだだけで何も食べていないのだ。
いかん、いかん。マイナス思考はダメ。僕のことなんて後回しだ。
穂乃花たちが治るように祈らないと。
雑念を追い出すべく、目を閉じる。
どれだけ時間がすぎた頃だろうか。背中に人肌の温もりを感じた。
あれ、背中? 手じゃなくて。
「君、童貞のくせに貧乳では満足せんだと!」
「日向先生ですか?」
見なくてもわかる。声もあるけど、厚みが足りないから。
「おのれー、せっかく人がメシを持ってきてやってみれば、ミジンコ乳をバカにしやがって」
「そこまで思ってませんから」
目を開ける。執事さんが食事の乗ったワゴンを押して部屋に入ってくる。
「執事さん、ありがとうございます」
「お嬢様、いえ、みなさまのこと、よろしくお願いしますぞ」
肉の香ばしい匂いが漂ってくる。独特な臭みと香草がある。ケバブなんだけど、羊の肉なのかも。
「スタミナが必要ですからな。限られた食材ですが、できるだけ用意させていただきました」
「って、羊肉ですよね?」
「ええ。連休の最終日。ジンギスカンでもしようと考えていたのですよ」
執事さんは一礼して、去っていく。
その言葉で今日は連休明けだと思い出す。
ああ、授業を受けたいなー。日向先生がいい加減なことを話して、美紅ちゃんは中二病を発動させ、小夜さんがボケる。
ドタバタして振り回される、カオスな日常が恋しくてたまらない。
感傷に浸っていたら、口の中に何かが突っ込まれた。串に刺された肉塊だった。
「ほれ、ボクがアーンしてやる。手が塞がってるだろ。さっさと食え」
「(はむはむ)」
肉は舌で簡単に噛み切れるほど柔らかかった。塩味と肉汁が活力を与えてくれる。
「まさに、贖罪としての食材だな。子羊を生け贄として、祈りを捧げるのじゃ」
羊。ファンタジーもので生け贄に使われるイメージあるかな。
「うまいか?」
「ふぁい」
「すまんな、大変なことを押しつけて」
「ひひえ」
「ボクにできることは、こうやって食べさせてやることぐらいなんだ。研究者として情けないがな」
「そんなことないです。食べさせてくれて、いつもよりおいしかったですし」
複数の女子と絡み合って言うセリフじゃない気もする。それでも、先生に感謝を伝えたかった。
「気遣いは不要だ。科学は万能ではない。人は過ちを犯す。だがな、人は誰かに尽くすこともできるんだよ」
「……」
「ボクはな。美少女を介護する君を、ボクが介護する。介護の無限連鎖。人と人は補って生きていくものだ」
食事を終えた僕は深くうなずく。
「僕、おばあちゃんや小夜さんたちの介護をして気づいたことがあるんです」
「なんだ?」
「赤ちゃんには赤ちゃんの、若い子には若い子の、高齢者には高齢者の。それぞれ良いところも悪いところもあるって」
「そうだな」
「僕、世の中には存在して迷惑なものってないと思うんですよね。それこそ、嫌われ者の虫にも価値があるといいますか」
僕の稚拙言葉に日向先生は耳を傾ける。薄青い瞳はまっすぐに澄んでいた。
「ロリババアの子もいてもいいですし。困ることも多いですけど……。小夜さんたちと触れ合って、僕は様々なことを学ばせていただきました。だから、僕は――」
三人を触る手に力が入る。
「みんなと下らない日常をすごしたいんです」
「ふふふ」
ロリババア先生がクスリと微笑む。
「君らしいな。だが、無理はすんな」
「いえ、大丈夫ですから」
「なら、選べ。お漏らしするか。それとも……」
そう言って、先生は介護用の尿瓶を取り出した。
「えっ、まさか」
「うん、僕が君を介護するって言ったろ。なにもしなくていい。ボクがズボンを下ろす」
「いや、それは……」
女の子を触っている状態で、かわいい偽女子小学生に見られたら……。膨張して、入るかどうかわからないし。何度も風呂を覗かれたとはいえ、見られるのは恥ずかしい。
「却下します」
「…………冗談だ。トイレぐらいはイカせてやる」
小夜さんたちに注射を打ちながら、先生は言う。追加で鎮静剤を投与したとのこと。
手当てをいったん中断し、退出させてもらう。
というわけで、ギリギリセーフでした。
トイレから戻ると日向先生の姿が消えていた。小夜さんの胸にメモが置かれている。麗華さんに事情聴取をされているが、可能な限りで手伝う、と書かれていた。
先生のおかげでリフレッシュできたので、作業を再開する。
やがて、日ざしは強くなり、徐々に弱くなっていく。
さらに時が流れ、白く輝いていた光に赤が混じり始める。子どもの遊ぶ声やカラスの音が気になってきた。
昨日、床で寝たことに加え、ずっと同じ態勢で祈り続けている。身体のあちこちが痛い。
ひとたび疲労を意識したとたんに、急激に身体が重くなっていく。
気をつけていたのに、激しい眠気に襲われる。薬の影響でぐっすり眠る女の子たちの寝顔も誘惑に満ちていた。
幸せな夢を見ているのだろうか。三人とも穏やかで、弛緩した顔をしていた。
僕は歯で唇を噛む。痛みで少しだけ睡魔が遠のいていく。
ダメだ。
みんなとの日常を取り戻すまで。
僕が耐えきらないと。
おばあちゃんを救えなかった。
もう僕は大切な人を失いたくない。
祈る。
滝行に挑む修行僧を思い描いて。
とはいえ、僕では練度が異なる。身体はつらい。
何度か日向先生にマッサージしてもらったが、それでも肩や膝は硬直している。
足を組み替えて、固まった身体を少しでもほぐす。
できる範囲で抗うが、目蓋が次第に重くなってきて。
生理現象に抗いきれなことに苛立ちが募っていく。
薄れゆく意識の中、僕は思う。
僕はみんなが好きで。
一緒に平和に暮らしたいだけなのに。
ごめんよ。
穂乃花。小夜さん。美紅ちゃん。
謝罪をしながら、僕は重力に従って倒れ込む。
布団が僕を受け止めて、そのまま安寧という罪の沼に落ちるはずだった。
だが、僕の頬は布団とは異なるモノに支えられていた。
顔を上げる。ふたつの丘が美しいラインを描いていた。銀の糸は川のよう。
隙間から水色の布がチラリと見えている。
数秒に一回、大地が鳴動する。ダイナミックな躍動感が伝わってくる。まさに、生の息吹に満ちていた。
穂乃花だった。僕は幼なじみの股に顔を埋めていたらしい。
しかも、唇は弾力のある太ももにに触れていて――。
もしかしたら?
ふと思った。おとぎ話だと、王子様のキスで不幸な姫は目を覚ますってことを。
僕、いまキスしてるんじゃね?
自分が王子様だと思わないけど、ダメ元でやってみる価値はある。
僕は唇を幼なじみの太ももに押しつける。ぷにっと押し返してきた。
負けじとやや強めに当てると――。
「ユウがきたぁあぁぁっ! イクぅぅぅぅっっっっっっっっっっっっっっっっっ❤❤❤❤❤」
ピクンピクン。穂乃花は身をよじらせ、全身が波を打つ。
その時だ。虹色の光が視界の隅でちらつく。
僕の手が今までにない色の光を放っていた。
なお、転倒したにもかかわらず、小夜さんと美紅ちゃんからも離さなかったようだ。
次第に大きくなった虹が、ふたりの身体を包み込んでいく。
そして、中央の穂乃花と僕をも呑み込み。
部屋全体に光が充満し、虹は龍のごとく天へと舞い上がる。
夕焼けと虹が混じり合う。
幻想的な光景に見とれていると、バタバタと足音が聞こえ。
「どうした?」
日向先生が飛び込んできた。
「わかりません、なにが起きたのか」
答えられずにいたところ、階下から騒ぐ声が響いてきた。
「うむ、奴等が異変に気づいたか」
日向先生が案じる間もなく。
「日向。どういうことか説明してもらおうか?」
麗華さんが部屋に入ってきた。
「虹色の煙が、この建物から出ているんだ。SNSでも画像が投稿されている。軽くバズり始めたぞ。不穏な動きをするなと言っただろう」
麗華さん、美人だけど、眉間の皺がキツすぎる。
異能を使ってたら、なんか起きました。それで許してくれたらいいんだけど。
「待て、麗華。実験までは禁止されていない」
「なら、謎の煙が無害であることを証明してみせろ」
「ギクッ」
日向先生、顔がこわばっている。
「麗華ちゃん。悪魔の証明って知ってるか。ないことを証明するのは無理ってことさ」
「ああ。だが、ナノマシンに起因する病気が広まるのは防がねばならん。我らを納得させるか、死か。どちらか選べ」
これ、本気でヤバいよ。
焦り始めたところ。
「あれ? どうしたの?」
幼なじみが目を覚ましただけでなく。
「んんっ。太ももが気持ちいいんだけど」
首を傾けて、僕と目が合って。
「見慣れない天井があって、ユウがいて……あたし、ついに幼なじみを卒業したの? フラグの運命を克服できた?」
穂乃花さん、意味不明なことを言っている。
っていうか、僕にはわかる。
「穂乃花。前世の僕ってどうだった?」
「前世? ユウ、なにを言ってるの?」
ポカンとした幼なじみは、しばらく頬に手を当て。
「えっ、あれはちがうから。あたし、どうして中二病をやってたんだろう。ヤンデレでもないし」
昨日からの自分を笑い飛ばすのだった。
まさか……。
僕の予感を裏づけるかのように。
「ふぁーん、よく寝た」
目を覚ました美紅ちゃんは思いっきり背伸びをする。
「あまりにも気分が良いから、テニスでもするかな」
しかも、のじゃ言葉を使わない。
最後は。
「みなさん、おはようございます」
小夜さんだった。
「あれ、私、普通じゃないですか? お花摘みに行ってきますね」
小夜さんはパジャマの乱れを直すと、うれしそうに立ち上がる。
あかね色の空が少女たちを祝福していた。
かれこれ三時間ほど、僕は膝立ちで女の子を見守っているんだけど。
同じ態勢のままだ。いくら柔肌が極上の感触といっても、疲れるものは疲れる。
そろそろトイレにも行きたいし、おなかも何度か鳴っている。朝、コーヒーを飲んだだけで何も食べていないのだ。
いかん、いかん。マイナス思考はダメ。僕のことなんて後回しだ。
穂乃花たちが治るように祈らないと。
雑念を追い出すべく、目を閉じる。
どれだけ時間がすぎた頃だろうか。背中に人肌の温もりを感じた。
あれ、背中? 手じゃなくて。
「君、童貞のくせに貧乳では満足せんだと!」
「日向先生ですか?」
見なくてもわかる。声もあるけど、厚みが足りないから。
「おのれー、せっかく人がメシを持ってきてやってみれば、ミジンコ乳をバカにしやがって」
「そこまで思ってませんから」
目を開ける。執事さんが食事の乗ったワゴンを押して部屋に入ってくる。
「執事さん、ありがとうございます」
「お嬢様、いえ、みなさまのこと、よろしくお願いしますぞ」
肉の香ばしい匂いが漂ってくる。独特な臭みと香草がある。ケバブなんだけど、羊の肉なのかも。
「スタミナが必要ですからな。限られた食材ですが、できるだけ用意させていただきました」
「って、羊肉ですよね?」
「ええ。連休の最終日。ジンギスカンでもしようと考えていたのですよ」
執事さんは一礼して、去っていく。
その言葉で今日は連休明けだと思い出す。
ああ、授業を受けたいなー。日向先生がいい加減なことを話して、美紅ちゃんは中二病を発動させ、小夜さんがボケる。
ドタバタして振り回される、カオスな日常が恋しくてたまらない。
感傷に浸っていたら、口の中に何かが突っ込まれた。串に刺された肉塊だった。
「ほれ、ボクがアーンしてやる。手が塞がってるだろ。さっさと食え」
「(はむはむ)」
肉は舌で簡単に噛み切れるほど柔らかかった。塩味と肉汁が活力を与えてくれる。
「まさに、贖罪としての食材だな。子羊を生け贄として、祈りを捧げるのじゃ」
羊。ファンタジーもので生け贄に使われるイメージあるかな。
「うまいか?」
「ふぁい」
「すまんな、大変なことを押しつけて」
「ひひえ」
「ボクにできることは、こうやって食べさせてやることぐらいなんだ。研究者として情けないがな」
「そんなことないです。食べさせてくれて、いつもよりおいしかったですし」
複数の女子と絡み合って言うセリフじゃない気もする。それでも、先生に感謝を伝えたかった。
「気遣いは不要だ。科学は万能ではない。人は過ちを犯す。だがな、人は誰かに尽くすこともできるんだよ」
「……」
「ボクはな。美少女を介護する君を、ボクが介護する。介護の無限連鎖。人と人は補って生きていくものだ」
食事を終えた僕は深くうなずく。
「僕、おばあちゃんや小夜さんたちの介護をして気づいたことがあるんです」
「なんだ?」
「赤ちゃんには赤ちゃんの、若い子には若い子の、高齢者には高齢者の。それぞれ良いところも悪いところもあるって」
「そうだな」
「僕、世の中には存在して迷惑なものってないと思うんですよね。それこそ、嫌われ者の虫にも価値があるといいますか」
僕の稚拙言葉に日向先生は耳を傾ける。薄青い瞳はまっすぐに澄んでいた。
「ロリババアの子もいてもいいですし。困ることも多いですけど……。小夜さんたちと触れ合って、僕は様々なことを学ばせていただきました。だから、僕は――」
三人を触る手に力が入る。
「みんなと下らない日常をすごしたいんです」
「ふふふ」
ロリババア先生がクスリと微笑む。
「君らしいな。だが、無理はすんな」
「いえ、大丈夫ですから」
「なら、選べ。お漏らしするか。それとも……」
そう言って、先生は介護用の尿瓶を取り出した。
「えっ、まさか」
「うん、僕が君を介護するって言ったろ。なにもしなくていい。ボクがズボンを下ろす」
「いや、それは……」
女の子を触っている状態で、かわいい偽女子小学生に見られたら……。膨張して、入るかどうかわからないし。何度も風呂を覗かれたとはいえ、見られるのは恥ずかしい。
「却下します」
「…………冗談だ。トイレぐらいはイカせてやる」
小夜さんたちに注射を打ちながら、先生は言う。追加で鎮静剤を投与したとのこと。
手当てをいったん中断し、退出させてもらう。
というわけで、ギリギリセーフでした。
トイレから戻ると日向先生の姿が消えていた。小夜さんの胸にメモが置かれている。麗華さんに事情聴取をされているが、可能な限りで手伝う、と書かれていた。
先生のおかげでリフレッシュできたので、作業を再開する。
やがて、日ざしは強くなり、徐々に弱くなっていく。
さらに時が流れ、白く輝いていた光に赤が混じり始める。子どもの遊ぶ声やカラスの音が気になってきた。
昨日、床で寝たことに加え、ずっと同じ態勢で祈り続けている。身体のあちこちが痛い。
ひとたび疲労を意識したとたんに、急激に身体が重くなっていく。
気をつけていたのに、激しい眠気に襲われる。薬の影響でぐっすり眠る女の子たちの寝顔も誘惑に満ちていた。
幸せな夢を見ているのだろうか。三人とも穏やかで、弛緩した顔をしていた。
僕は歯で唇を噛む。痛みで少しだけ睡魔が遠のいていく。
ダメだ。
みんなとの日常を取り戻すまで。
僕が耐えきらないと。
おばあちゃんを救えなかった。
もう僕は大切な人を失いたくない。
祈る。
滝行に挑む修行僧を思い描いて。
とはいえ、僕では練度が異なる。身体はつらい。
何度か日向先生にマッサージしてもらったが、それでも肩や膝は硬直している。
足を組み替えて、固まった身体を少しでもほぐす。
できる範囲で抗うが、目蓋が次第に重くなってきて。
生理現象に抗いきれなことに苛立ちが募っていく。
薄れゆく意識の中、僕は思う。
僕はみんなが好きで。
一緒に平和に暮らしたいだけなのに。
ごめんよ。
穂乃花。小夜さん。美紅ちゃん。
謝罪をしながら、僕は重力に従って倒れ込む。
布団が僕を受け止めて、そのまま安寧という罪の沼に落ちるはずだった。
だが、僕の頬は布団とは異なるモノに支えられていた。
顔を上げる。ふたつの丘が美しいラインを描いていた。銀の糸は川のよう。
隙間から水色の布がチラリと見えている。
数秒に一回、大地が鳴動する。ダイナミックな躍動感が伝わってくる。まさに、生の息吹に満ちていた。
穂乃花だった。僕は幼なじみの股に顔を埋めていたらしい。
しかも、唇は弾力のある太ももにに触れていて――。
もしかしたら?
ふと思った。おとぎ話だと、王子様のキスで不幸な姫は目を覚ますってことを。
僕、いまキスしてるんじゃね?
自分が王子様だと思わないけど、ダメ元でやってみる価値はある。
僕は唇を幼なじみの太ももに押しつける。ぷにっと押し返してきた。
負けじとやや強めに当てると――。
「ユウがきたぁあぁぁっ! イクぅぅぅぅっっっっっっっっっっっっっっっっっ❤❤❤❤❤」
ピクンピクン。穂乃花は身をよじらせ、全身が波を打つ。
その時だ。虹色の光が視界の隅でちらつく。
僕の手が今までにない色の光を放っていた。
なお、転倒したにもかかわらず、小夜さんと美紅ちゃんからも離さなかったようだ。
次第に大きくなった虹が、ふたりの身体を包み込んでいく。
そして、中央の穂乃花と僕をも呑み込み。
部屋全体に光が充満し、虹は龍のごとく天へと舞い上がる。
夕焼けと虹が混じり合う。
幻想的な光景に見とれていると、バタバタと足音が聞こえ。
「どうした?」
日向先生が飛び込んできた。
「わかりません、なにが起きたのか」
答えられずにいたところ、階下から騒ぐ声が響いてきた。
「うむ、奴等が異変に気づいたか」
日向先生が案じる間もなく。
「日向。どういうことか説明してもらおうか?」
麗華さんが部屋に入ってきた。
「虹色の煙が、この建物から出ているんだ。SNSでも画像が投稿されている。軽くバズり始めたぞ。不穏な動きをするなと言っただろう」
麗華さん、美人だけど、眉間の皺がキツすぎる。
異能を使ってたら、なんか起きました。それで許してくれたらいいんだけど。
「待て、麗華。実験までは禁止されていない」
「なら、謎の煙が無害であることを証明してみせろ」
「ギクッ」
日向先生、顔がこわばっている。
「麗華ちゃん。悪魔の証明って知ってるか。ないことを証明するのは無理ってことさ」
「ああ。だが、ナノマシンに起因する病気が広まるのは防がねばならん。我らを納得させるか、死か。どちらか選べ」
これ、本気でヤバいよ。
焦り始めたところ。
「あれ? どうしたの?」
幼なじみが目を覚ましただけでなく。
「んんっ。太ももが気持ちいいんだけど」
首を傾けて、僕と目が合って。
「見慣れない天井があって、ユウがいて……あたし、ついに幼なじみを卒業したの? フラグの運命を克服できた?」
穂乃花さん、意味不明なことを言っている。
っていうか、僕にはわかる。
「穂乃花。前世の僕ってどうだった?」
「前世? ユウ、なにを言ってるの?」
ポカンとした幼なじみは、しばらく頬に手を当て。
「えっ、あれはちがうから。あたし、どうして中二病をやってたんだろう。ヤンデレでもないし」
昨日からの自分を笑い飛ばすのだった。
まさか……。
僕の予感を裏づけるかのように。
「ふぁーん、よく寝た」
目を覚ました美紅ちゃんは思いっきり背伸びをする。
「あまりにも気分が良いから、テニスでもするかな」
しかも、のじゃ言葉を使わない。
最後は。
「みなさん、おはようございます」
小夜さんだった。
「あれ、私、普通じゃないですか? お花摘みに行ってきますね」
小夜さんはパジャマの乱れを直すと、うれしそうに立ち上がる。
あかね色の空が少女たちを祝福していた。