第23話 襲撃

文字数 3,137文字

 よく磨かれた銀色の包丁が日光を反射している。

「童貞君。ボクの尻ポケットにコインが入っている。取り出してくれないか」

「日向先生、ピンチで頭が混乱したんです?」

「いや、この場を抜け出すのは、他にないんだ」

 位置関係的に僕は先生の真後ろにいる。右手を伸ばせば、可能だ。
 しかし、お尻を触るわけで。さっき、イチゴパンツも目撃している。

 ヤンデレに物理的に殺されるか、ロリに手を出して社会的に殺されるか。
 究極の選択を迫られている気がする。

「介護には正当防衛も必要だ。ただし、できるだけ相手を怪我させないよう気をつけろ」

 仕方ないのか。自分も死にたくないし、穂乃花に罪を犯させたくない。

「ボクが時間を稼ぐ。その間に、君のマグナムをボクの尻に突っ込むんだ」

 その言い方なんとかならない?
 言い返そうとするより前に先生が動いた。

「幼なじみちゃん。いつもユウは君を褒めているぞ。おっぱい大きい、料理うまい。おっぱいは最高級の大トロのように柔らかい。爆乳は正義だ。貧乳はステータス。普乳は普通キャ。おっぱいはちがって、みんあいい。いいか、多様性ってのはな……貧乳派は巨乳を、巨乳派は貧乳を認めるってことだぞ。って、ユウが言ってたし」

 って、僕が変態みたいじゃ。
 ところが、穂乃花は頬に両手を添え、もじもじと顔を赤らめている。目をとろけさせ、自分の世界に入り込んでいた。

「今」
「はい」

 むにゅ。僕は女子小学生(見た目)の尻を触りました。ポケットに手のひらを突っ込む。うわっ、ぷにぷに。
 コインを探っていると。

「ひゃんんっ」

 かわいいアニメ声が幼女からこぼれる。
 意識が持っていかれそうになりながらも、コインを取り出す。
 先生は僕からコインを奪い、手裏剣の要領で投げる。
 幼なじみの親指の付け根に当たり、包丁は落下した。

「決まったぜ」

「すごい」

「褒めるのは後だ。畳みかけるぞ。彼女は発作を起こしている」

 日向先生は穂乃花の後ろに回り込み、羽交い締めにする。
 僕は包丁の柄を蹴った。床を滑って、壁にぶつかる。当面の安全は確保できた。

 一瞬目を離したうちに、幼なじみはあられもない格好を晒していた。
 ブラウスのボタンは外され、下着が露わになっている。発育が良すぎる丘は白い布に包まれていた。
 ロリ先生は穂乃花の身体をまさぐる。鎖骨や脇の下、臍を撫でた後、下から膨らみへ。

「なにをやってるんですか?」

「見てわからぬか? 性感帯を探ってる」

 いみわからん。

「性感帯とはエッチな意味じゃない。君の異能を当てる部位のことだ」

 なに、絶対に誤解させるような言葉の選び方。
 しかも、他人の胸で円を描きながら言うものだから説得力がない。

「ぅんっくうぅ」

 幼なじみの口から甘い声が漏れる。さすがに見るのがためらわれて下を向いたら。

「うむ、下も白か」

 先生はスカートを脱がしていた。スカートがずるりと落ちていく。
 視線のやり場に困るんだけど。

「童貞君。判明したぞ。幼なじみの性感帯」

「……」

 ダメ。恥ずかしすぎる。

「太ももだ。内側からまさぐれ」

「ぷはっ」

 胸や尻でなくて助かったけど……。小夜さんの臍といい、どうしてキワドイところを触んないといけないんだ。

「ユウ、あたしの身体どう? 現世はリセットになるけど、スコアが溜まっているの。パラメータ維持して転生できるかもよ」

 穂乃花さん、ヤンデレを発動させたまま意味不明なことを言っている。
 やるしかない。

「穂乃花、ごめんね」

「ううん、ユウなら……あたしの知らないユウでも、あたしのすべてを捧げるから」

 重い。重すぎる。
 けど、好都合。

「お邪魔します」

 僕は右手を伸ばし、上から下へ。なめらかな布に触れる。心なし湿っているような。動いたし、汗か。
 極上の手触りを堪能したくなる。いや、今は遊んでいる場合じゃない。
 僕は手をスライドさせる。

 ――ピクン。

 しゃがみ込んでいたため、ダイナミックに揺れる双丘が目の前に。

 下を向く。
 白い聖布に守られた花園があり、その奥に広大な肌色の大地が広がっている。

 僕は乙女の聖地を離れ、まぶしい土地へ足を踏み入れた。
 すべすべした肌に手のひらが触れたとたん。

 僕の手が光に包まれる。穏やかな淡いオレンジ色だった。
 僕の異能(癒やし手ケアラー)》が発動し、光は患者の全身を覆っていく。

「あれ、ユウ」

 頭上から聞きなじみの声がした。

 声音から直感する。
 幼なじみに変化があったことを。
 ということは…………。

「きゃあぁあぁっっ!」

 穂乃花は叫んで、胸を押さえただけでなく。
 ぎゅっと内ももに力を入れるものだから、僕の手が挟まれて抜けなくなる。

「穂乃花、落ち着いて」

「えっ? あっ、ユウ。あたしたち……いつのまに」

「してない。してないから」

 慌てて釈明したら。

「もうユウったら、そんなに否定しなくても」

 幼なじみはむくれるのだった。
 力が緩んだ隙に、太ももから脱出する。

 穂乃花が着替え始めたので目をそらしたのだけれど。

 あっ。いつのまにか三人が帰ってきていた。

 美紅ちゃんは興味深そうに僕たちを見て。
 小夜さんは執事さんに目隠しをされていた。
 執事さんは配慮して目をそらしている。感謝します。

「うむ。面白いものを見せてもらったのじゃ」

「美紅ちゃん。ちがくて。実は……」

 僕が言いよどんでいたら。

「幼なじみちゃん。君には言わなければいけないことがある」

 日向先生が穂乃花の肩に手を添える。

「なんですか。さっき変な夢を見ていたような気がしますし」

 幼なじみは床に落ちた包丁を見て、青ざめる。

「あたし、神聖な包丁で大それたことをしたかも?」

 逃げ出したかった。穂乃花からも、寮からも。
 でも、僕だけは絶対にしちゃダメで……。
 覚悟を決め、僕は日向先生にうなずいた。

「紹介しよう。青木穂乃花。ロリババア・ハウス・東京の新しい住人だ」

 食堂が静かになる。
 十数秒の間を置き。

「えっ、うそでしょ? あたしも……ロリババア病なの?」

 穂乃花は呆然とし、頬に手を添える。

 我慢できなかった。
 僕は幼なじみの手を取り、言葉を紡ぐ。

「……僕が、ずっと一緒にいるから。穂乃花が僕を忘れても、僕が思い出させてやる。だから、僕と暮らそう」

「ユウ、ありがと」

 穂乃花は涙を拭いてから、微笑んだ。

「まだ実感ないけど、ユウがいてくれるから。ユウがみんなのために頑張っていたの知ってるから。あたしは戦おうと思う」

 いきなり過酷な現実を突きつけられて……。それでも、彼女は芯の強さを見せつける。
 本当に僕の幼なじみは強い子だ。指先が震えているのに。

 でも、だからこそ。
 僕がしっかりしないと。

「みんなもよろしく。迷惑かけるけど」

 穂乃花は頭を下げる。

「うむ。じゃが、お互いさまじゃ」

「こちらこそ若輩者ですが、よろしくお願いします。高校生のお姉ちゃん様」

 美紅ちゃんも小夜さんも受け入れてくれた。小夜さんは微妙にずれてる気もするけど。

「みなさま。お茶を入れますぞ」

「おう。ボク、爆乳パイオツが飲みたい」

 先生が率先してアホなことを言って、場が和んだ時である。

「この寮は包囲した。無駄な抵抗をやめるがいい」

 黒いスーツ姿の男たちが飛び込んできた。
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登場人物紹介

伊藤 結人(いとう ゆうと)

中学生時代に祖母の介護をした。

福祉の勉強をすべく、福祉科があるヴァージニア記念高校に入学する。

が、どうやら特殊な能力があるようで、ロリババア病の少女たちの介護をすることに。

神凪 小夜(かんなぎ さよ)

家がお金持ちのお嬢様。

才色兼備な優等生だったのだが。

ロリババア病を発症し、ボケている。

結人と同じクラスで、彼に介護される。

ご飯を食べたことを忘れたり、家にいるのに外出したつもりだったり。

天道 美紅(てんどう みく)

元テニス選手。中学生ながら、プロに勝ったこともある。

ロリババア病を発症し、のじゃロリになる。

結人と同じクラスで、彼に介護されるのだが、傲岸不遜で結人を眷属扱いしている。

中二病を患う中学三年生。

青木 穂乃花(あおき ほのか)

幼なじみ。優しくて、尽くしてくれる子。爆乳。

結人の傍にいたくて、ヴァージニア記念高校の普通科に進学する。

小夜と美紅に振り回される結人を助けるも、小夜たちには複雑な感情を抱く。

敗北する幼なじみと思いきや。

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