第8話 ロリババア・ハウス・東京
文字数 4,128文字
学校を出て、九十九先生に案内されるまま移動する。
閑静な住宅地を歩いていたのだけれど、小夜さんと美紅ちゃんに挟まれて、いろいろと大変な状況に。
ふたりとも美少女である上に、であったばかりの僕と距離が近いんだよね。近くの男子生徒や住人が冷たい視線を飛ばしてくるんだ。
くわえて、小夜さんがアスファルトの隙間に咲くタンポポを食べようとしたり、美紅ちゃんが中二病な行動で目立ったり。
徒歩三分と聞いていたのに、異様に長く感じられた。
十分ほど経った頃、九十九先生が足を止める。
二階建ての割と新しめのアパートがあった。小さな手で表札を指差し、
「着いたぞ。ここが寮だ」
ドヤ顔になる。表札を見てみろと言わんばかり。
素直に従った僕は、『ロリババア・ハウス・東京』なるパワーワードを目撃する。
なにかのギャグだよね……? 棒読み。
一縷の望みをかけ、九十九先生に訊いてみる。
「九十九先生、裏にホンモノのプレートがあるのでございましょうか?」
「君はなにを言ってるんだ? ボクが考えた最強の寮名なんだぞ」
見た目小学生な教師は胸を張って答える。『ボクが考えた最強の~』が似合う大人って。
「それより、喪失君よ」
「喪失君?」
「美少女介護童貞を喪失したから、喪失君」
なに、そのピンポイントすぎるアレは……。
「今日からボクたちは同棲するんだぞ!」
静かな住宅街、寮の両隣は一戸建て。近隣にもアパートがある。勘違いされる発言は困ります。
「なのに、苗字呼びとは……情けない」
担任はため息を吐いたかと思えば。
「日向 でいいからね、おにいちゃん」
あどけない笑顔と上目遣いというダブルパンチを浴びせてくる。
断れるはずもない。
「日向先生でいいですか?」
「先生は不要だが、今は我慢しよう」
ぶつくさ言いながらも、寮に入っていく。
玄関を開けると、タキシード姿の初老男性が立っていて、恭しく頭を下げる。
「みなさま、ご無事に戻られてなによりです」
「爺や。夜遅くまでお勤めご苦労さまです」
小夜さんが微笑を浮かべて、挨拶する。
あっ、この人。入学式前に、小夜さんと一緒にいた人だ。
「伊藤様もお待ち申し上げておりました。部屋に荷物は運んでおります。不都合等ありましたら、なんなりとお申し付けください」
「あっ、いえ、こちらこそ」
なんとなく挨拶したけど、執事さんっぽい人が寮長なの?
「歩く童貞君よ。マイケル・一万回ピストンチャレンジ・神田・ロリータさんは、ホンモノの執事さんだぞ」
「えっ? マイケルなんとかさん?」
やけに長い名前だけどハーフ? って、『一万回ピストンチャレンジ』は名前なの?
「我が眷属よ。ババアの戯言を真に受けるでないぞよ。春日さんは先祖代々東京に縛られた、正真正銘の日本人じゃ」
「一文字も当たってないとは……」
先生が適当すぎる件。
呆れていたら、執事さんは僕に向き直り。
「伊藤様。川井と申します」
「ふぁぁつっっ?」
美紅ちゃん、おまえもか。
「神凪 家に仕えております。小夜様の幼少時よりお世話をしています。縁あって、今は小夜さまに仕えながら、みなさまのお手伝いを」
名前はともかく、執事さんなのは本当らしい。
「うむ。爺やは実に働き者で、おかげでボクは研究に打ち込めるってわけ」
「そういえば、この寮に他の人は?」
僕が疑問を口にすると。
「みなさま、食堂にランチを用意しております。お話はお食事をしながらでも」
というわけで、執事さんに食堂に案内された。
木造の建物は築十年ちょっとと感じで、綺麗で落ち着いている。
玄関の隣にある食堂。こぢんまりした寮なのか、長テーブルが三つ並べられている。三十人ぐらいで満員になるだろう。
観葉植物が飾られていて、気持ちが安らぎそう。
テーブルに座る。僕を真ん中に小夜さんと美紅ちゃんが、僕の真正面に日向先生という位置になった。
執事さんが食事を運んでくるが、誰も手伝おうとしない。
「僕もやります」
「ありがとうございます」
ふたりで人数分の用意をする。鯖の味噌煮と漬物、ご飯とお吸い物だった。
「骨は取り除いておりますので、ご安心して召し上がってくださいませ」
へー、そんなところまで気を利かせてるんだ。
そして、執事さんは小夜さんの隣に着席する。小夜さんの箸を取り、鯖を一切れ掴む。
「お嬢様。あーんですぞ」
「爺や。サヨは三歳なの。ひとりで食べられるもん」
小夜さん、自分が子どもだと思い込んでいるみたい。
「ん。爺や、食べさせてー」
一瞬で真逆なこと発言をするので、微笑ましい。
「君はJK介護童貞に戻るつもりか?」
日向先生が意味不明なことを言う。
「次回から、嬢ちゃんにアーンするのは、君の仕事だかんな」
「えっ、僕が?」
たしかに、おばあちゃんに食べさせていたけど。
「待て。妾もいるぞよ。眷属として、妾に仕えるべきじゃろうが」
隣にいた美紅ちゃんが臍を曲げる。
僕、人気者になったみたい。恥ずかしいので、話をそらす。
「ところで、他の人たちは?」
「ああ。教室でも話したが。B組に通うロリババア病の患者は、この寮に住んでいる」
「そういえば、入院してるんでしたっけ?」
「ああ。若いな。ハーレムを妄想して」
そんなこと考えてないけど。とはいえ、他のロリババア病の子ってどんな感じなんだろう。
キャラが濃い子を相手に僕がやっていけるかどうか。入学初日だというのに、軽く不安になった。
救いといえば、味の染みた料理。穂乃花とは別のタイプでおいしいというか。人生の味が出てるみたいな感じ。
食事を終える。
「むっつり君。教室でも言ったが、ここで生活しながら介護をしてもらうから。よろ」
「具体的にはどんな?」
「まあ、細けえことは気にすんな」
先生、丸投げですか?
「ところで、僕の部屋は?」
「動画を見たいけど、ボク自らが案内するよ。期待するがいい」
というわけで、ロリ先生は立ち上がる。小夜さんたちは執事さんが見てくれていた。
階段を上り始めた先生。ミニスカートの奥に見える太ももがまぶしい。
すると、日向先生は後ろからスカートを持ち上げ――。
「入学式だから、とっておきのクマさんにしたんだ」
クマさんと目が合った。犯罪の香りがして、慌てて目をそらす。
二階は左右に部屋が並んでいる。
「二人部屋の全十室だ。君には手前の一部屋を使ってもらう」
「は、はあ」
「すぐ隣が小夜と美紅の部屋だから、安心して夜這いができるぞ」
「しませんし」
教師がなにを言うんですか。
「というか、男女が同じ階って学校の寮としては問題にならないんですか?」
「大丈夫だ。なにかあったら、すぐに動けるように君には近くにいてもらわないと」
「たしかに……」
この人、たまに良いこと言うんだよね。
感心していたら。
「介護って言葉便利だよね」
「はい?」
「だって、女の子と隣の部屋になれるんだよ。お触りとかもし放題だし」
心の中で褒めて損した。クズすぎる。よい子のみんなは真似しちゃダメだぞ。
部屋に入る。机やベッド、本棚、クローゼットなどは一通り揃っていた。
本棚は僕の家から持ってきたものが並べられている。安心したのだが。
一番上の目立つところに見慣れない分厚い本があって……。
『女体の神秘事典』と背表紙に書かれている。
「なんですか、この本は?」
「何って、資料じゃん。これから、女子を介護するにあたって、女体のすべてを知らんことには始まらんだろうに」
ドヤ顔をして、日向先生は部屋から出ていった。
この人、ホントに教師なんだろうか。十八禁の世界の人じゃないよね?
僕は危険なブツを本棚から取り、ベッドの下に隠しておく。
本棚を見て、本の位置を確認する。すごいことに実家で使っていた時と本の配置は同じだった。
この数時間が密度濃すぎた。風景でも見て、心を休めよう。
選んだのはハワイの写真集だ。
南国のビーチや魚たちが癒やしてくれる。
夢中で読みふけっていたら。
「ここ知ってりゅー。ママと遊んだー」
後ろから声がして、小夜さんが覗き込んでいた。
すっきりした柑橘系の芳香が鼻腔をくすぐる。背中に当たる柔らかい温もりは、もしかしなくても……。
僕の身体がカチコチになる。いろんな意味で。
「ほほう。小夜ちんよ。そなた常夏の楽園に安息の地を持っておるかえ」
美紅ちゃんは腕を組み、うんうんと唸っていた。
「今の小夜ちんはお子様モードじゃ。年を取ると昔のことを思い出すと言われてるじゃろ。老人の話に付き合うのも一興」
自分や小夜さんのことを年寄り扱いしてるけど、十代なのである。
複雑な気分だった。
ところで、美紅ちゃんの言う通りなんだよね。
おばあちゃんの症状を僕は思い出していた。
最近の記憶はすぐに忘れ、昔の出来事を詳細に語り出すことは往々にしてあって。
若い頃におじいちゃんとしたデートを、昨日のことのように語っていたものだ。なのに、僕のことを覚えていないから軽く困る。
小夜さんも似たような状態なのだろう。
ただし、生きた年数が少ないので、昔のネタが幼少時なだけで。
僕はやるせなさを感じていた。
こんな子が意味不明な病気に苦しんで。
もじもじする小夜さんを見ながら、僕は唇を噛みしめた。
「ムッツリ君よ。そんなに君は聖水が好きなのか?」
いつの間にか日向先生が部屋にいて、ニヤニヤしている。
それだけで僕は察した。
「小夜さん。トイレ大丈夫?」
下半身をもじもじさせる小夜さん、スカートを脱いでしまった。
二時間ほど前にはかせた、真新しい白の下着が露わになる。
閑静な住宅地を歩いていたのだけれど、小夜さんと美紅ちゃんに挟まれて、いろいろと大変な状況に。
ふたりとも美少女である上に、であったばかりの僕と距離が近いんだよね。近くの男子生徒や住人が冷たい視線を飛ばしてくるんだ。
くわえて、小夜さんがアスファルトの隙間に咲くタンポポを食べようとしたり、美紅ちゃんが中二病な行動で目立ったり。
徒歩三分と聞いていたのに、異様に長く感じられた。
十分ほど経った頃、九十九先生が足を止める。
二階建ての割と新しめのアパートがあった。小さな手で表札を指差し、
「着いたぞ。ここが寮だ」
ドヤ顔になる。表札を見てみろと言わんばかり。
素直に従った僕は、『ロリババア・ハウス・東京』なるパワーワードを目撃する。
なにかのギャグだよね……? 棒読み。
一縷の望みをかけ、九十九先生に訊いてみる。
「九十九先生、裏にホンモノのプレートがあるのでございましょうか?」
「君はなにを言ってるんだ? ボクが考えた最強の寮名なんだぞ」
見た目小学生な教師は胸を張って答える。『ボクが考えた最強の~』が似合う大人って。
「それより、喪失君よ」
「喪失君?」
「美少女介護童貞を喪失したから、喪失君」
なに、そのピンポイントすぎるアレは……。
「今日からボクたちは同棲するんだぞ!」
静かな住宅街、寮の両隣は一戸建て。近隣にもアパートがある。勘違いされる発言は困ります。
「なのに、苗字呼びとは……情けない」
担任はため息を吐いたかと思えば。
「
あどけない笑顔と上目遣いというダブルパンチを浴びせてくる。
断れるはずもない。
「日向先生でいいですか?」
「先生は不要だが、今は我慢しよう」
ぶつくさ言いながらも、寮に入っていく。
玄関を開けると、タキシード姿の初老男性が立っていて、恭しく頭を下げる。
「みなさま、ご無事に戻られてなによりです」
「爺や。夜遅くまでお勤めご苦労さまです」
小夜さんが微笑を浮かべて、挨拶する。
あっ、この人。入学式前に、小夜さんと一緒にいた人だ。
「伊藤様もお待ち申し上げておりました。部屋に荷物は運んでおります。不都合等ありましたら、なんなりとお申し付けください」
「あっ、いえ、こちらこそ」
なんとなく挨拶したけど、執事さんっぽい人が寮長なの?
「歩く童貞君よ。マイケル・一万回ピストンチャレンジ・神田・ロリータさんは、ホンモノの執事さんだぞ」
「えっ? マイケルなんとかさん?」
やけに長い名前だけどハーフ? って、『一万回ピストンチャレンジ』は名前なの?
「我が眷属よ。ババアの戯言を真に受けるでないぞよ。春日さんは先祖代々東京に縛られた、正真正銘の日本人じゃ」
「一文字も当たってないとは……」
先生が適当すぎる件。
呆れていたら、執事さんは僕に向き直り。
「伊藤様。川井と申します」
「ふぁぁつっっ?」
美紅ちゃん、おまえもか。
「
名前はともかく、執事さんなのは本当らしい。
「うむ。爺やは実に働き者で、おかげでボクは研究に打ち込めるってわけ」
「そういえば、この寮に他の人は?」
僕が疑問を口にすると。
「みなさま、食堂にランチを用意しております。お話はお食事をしながらでも」
というわけで、執事さんに食堂に案内された。
木造の建物は築十年ちょっとと感じで、綺麗で落ち着いている。
玄関の隣にある食堂。こぢんまりした寮なのか、長テーブルが三つ並べられている。三十人ぐらいで満員になるだろう。
観葉植物が飾られていて、気持ちが安らぎそう。
テーブルに座る。僕を真ん中に小夜さんと美紅ちゃんが、僕の真正面に日向先生という位置になった。
執事さんが食事を運んでくるが、誰も手伝おうとしない。
「僕もやります」
「ありがとうございます」
ふたりで人数分の用意をする。鯖の味噌煮と漬物、ご飯とお吸い物だった。
「骨は取り除いておりますので、ご安心して召し上がってくださいませ」
へー、そんなところまで気を利かせてるんだ。
そして、執事さんは小夜さんの隣に着席する。小夜さんの箸を取り、鯖を一切れ掴む。
「お嬢様。あーんですぞ」
「爺や。サヨは三歳なの。ひとりで食べられるもん」
小夜さん、自分が子どもだと思い込んでいるみたい。
「ん。爺や、食べさせてー」
一瞬で真逆なこと発言をするので、微笑ましい。
「君はJK介護童貞に戻るつもりか?」
日向先生が意味不明なことを言う。
「次回から、嬢ちゃんにアーンするのは、君の仕事だかんな」
「えっ、僕が?」
たしかに、おばあちゃんに食べさせていたけど。
「待て。妾もいるぞよ。眷属として、妾に仕えるべきじゃろうが」
隣にいた美紅ちゃんが臍を曲げる。
僕、人気者になったみたい。恥ずかしいので、話をそらす。
「ところで、他の人たちは?」
「ああ。教室でも話したが。B組に通うロリババア病の患者は、この寮に住んでいる」
「そういえば、入院してるんでしたっけ?」
「ああ。若いな。ハーレムを妄想して」
そんなこと考えてないけど。とはいえ、他のロリババア病の子ってどんな感じなんだろう。
キャラが濃い子を相手に僕がやっていけるかどうか。入学初日だというのに、軽く不安になった。
救いといえば、味の染みた料理。穂乃花とは別のタイプでおいしいというか。人生の味が出てるみたいな感じ。
食事を終える。
「むっつり君。教室でも言ったが、ここで生活しながら介護をしてもらうから。よろ」
「具体的にはどんな?」
「まあ、細けえことは気にすんな」
先生、丸投げですか?
「ところで、僕の部屋は?」
「動画を見たいけど、ボク自らが案内するよ。期待するがいい」
というわけで、ロリ先生は立ち上がる。小夜さんたちは執事さんが見てくれていた。
階段を上り始めた先生。ミニスカートの奥に見える太ももがまぶしい。
すると、日向先生は後ろからスカートを持ち上げ――。
「入学式だから、とっておきのクマさんにしたんだ」
クマさんと目が合った。犯罪の香りがして、慌てて目をそらす。
二階は左右に部屋が並んでいる。
「二人部屋の全十室だ。君には手前の一部屋を使ってもらう」
「は、はあ」
「すぐ隣が小夜と美紅の部屋だから、安心して夜這いができるぞ」
「しませんし」
教師がなにを言うんですか。
「というか、男女が同じ階って学校の寮としては問題にならないんですか?」
「大丈夫だ。なにかあったら、すぐに動けるように君には近くにいてもらわないと」
「たしかに……」
この人、たまに良いこと言うんだよね。
感心していたら。
「介護って言葉便利だよね」
「はい?」
「だって、女の子と隣の部屋になれるんだよ。お触りとかもし放題だし」
心の中で褒めて損した。クズすぎる。よい子のみんなは真似しちゃダメだぞ。
部屋に入る。机やベッド、本棚、クローゼットなどは一通り揃っていた。
本棚は僕の家から持ってきたものが並べられている。安心したのだが。
一番上の目立つところに見慣れない分厚い本があって……。
『女体の神秘事典』と背表紙に書かれている。
「なんですか、この本は?」
「何って、資料じゃん。これから、女子を介護するにあたって、女体のすべてを知らんことには始まらんだろうに」
ドヤ顔をして、日向先生は部屋から出ていった。
この人、ホントに教師なんだろうか。十八禁の世界の人じゃないよね?
僕は危険なブツを本棚から取り、ベッドの下に隠しておく。
本棚を見て、本の位置を確認する。すごいことに実家で使っていた時と本の配置は同じだった。
この数時間が密度濃すぎた。風景でも見て、心を休めよう。
選んだのはハワイの写真集だ。
南国のビーチや魚たちが癒やしてくれる。
夢中で読みふけっていたら。
「ここ知ってりゅー。ママと遊んだー」
後ろから声がして、小夜さんが覗き込んでいた。
すっきりした柑橘系の芳香が鼻腔をくすぐる。背中に当たる柔らかい温もりは、もしかしなくても……。
僕の身体がカチコチになる。いろんな意味で。
「ほほう。小夜ちんよ。そなた常夏の楽園に安息の地を持っておるかえ」
美紅ちゃんは腕を組み、うんうんと唸っていた。
「今の小夜ちんはお子様モードじゃ。年を取ると昔のことを思い出すと言われてるじゃろ。老人の話に付き合うのも一興」
自分や小夜さんのことを年寄り扱いしてるけど、十代なのである。
複雑な気分だった。
ところで、美紅ちゃんの言う通りなんだよね。
おばあちゃんの症状を僕は思い出していた。
最近の記憶はすぐに忘れ、昔の出来事を詳細に語り出すことは往々にしてあって。
若い頃におじいちゃんとしたデートを、昨日のことのように語っていたものだ。なのに、僕のことを覚えていないから軽く困る。
小夜さんも似たような状態なのだろう。
ただし、生きた年数が少ないので、昔のネタが幼少時なだけで。
僕はやるせなさを感じていた。
こんな子が意味不明な病気に苦しんで。
もじもじする小夜さんを見ながら、僕は唇を噛みしめた。
「ムッツリ君よ。そんなに君は聖水が好きなのか?」
いつの間にか日向先生が部屋にいて、ニヤニヤしている。
それだけで僕は察した。
「小夜さん。トイレ大丈夫?」
下半身をもじもじさせる小夜さん、スカートを脱いでしまった。
二時間ほど前にはかせた、真新しい白の下着が露わになる。