第18話 僕の幼なじみが天才すぎる(なんの?)

文字数 2,659文字

「ちょっと、ユウ、大丈夫?」

 僕の顔を見るなり、幼なじみは甲高い声を上げた。

「穂乃花、どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃなくって……。顔が青いんだけど」

 幼なじみから電話があり、彼女の家に来てみたらこの通りである。

「たぶん、移動したからで、ちょっと休めば……」

 言い終わる前に、穂乃花はダイニングテーブルの椅子を引いた。遠慮なく、座らせてもらう。

「ますます不安になってきたんだけど」

 穂乃花はため息を吐く。銀髪がなびいた。

「お父さんたちが旅行で明日まで帰ってこないし。ひとりで寂しいから来てもらったんだけど、いたたまれなくなるわね」

「ごめん、心配をかけて」

「ううん、それより……きちんと休んでる?」

 僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

「福祉科ってブラックよね?」

「福祉科っていうよりは、僕がだけど」

 僕が答えると、幼なじみは肩をすくめた。
 よく育った双丘が、たぷんたぷん。
 今日は初夏並みの気温。薄手なワンピースなこともあり、いっそうの破壊力を発揮していた。少し元気になる。

「ユウさー、ちょっとは怒ったら?」

「でも、僕の仕事だし」

 はっきりと僕は告げる。

「それに、実家に行くって言ったら、日向先生は小夜さんの面倒を引き受けてくれたんだよ」

「って、どうせ本人はソシャゲか動画を見てばかりなんじゃ。鈴木さんにさせればいいとか思ってそう」

「あはは」

 僕もそんな気がする。

「まあ、今日はせっかくだし、あたし特製の料理を食べていってね」

「うん、執事さんの料理もおいしいけど、僕にとっては穂乃花がおふくろの味で……」

「ちょっ……それって」

 幼なじみは顔を赤らめ、もじもじしたかと思えば。

「鈴木さんには負けない。本妻の腕前を見せてやるんだからー!」

 なぜか執事さんに対抗心を露わにする。

「でも、夕飯には早いわね。近所の温泉に行かない?」

「うん、いいね」

 というわけで、僕たちは温泉へ行くことに。といっても、徒歩五分なんだけど。

 着替えを用意するため、僕は穂乃花と別れて、隣にある自分の家へ。
 一ヶ月近く留守にしていたのに、丁寧に掃除がされていた。学校の方で手配したと聞いていたけど、ここまでとは。

 急いで準備をして、古くからの住宅街にある温泉へ向かう。老人の街ということもあり、温泉があっても違和感がない。
 街の雰囲気とは裏腹に、温泉は真新しい建物である。面積的にも設備的にも、スーパー銭湯に近い。

 受付のところで、穂乃花と別行動になる。
 着替えを済ませ、いざ温泉へ。琥珀色のお湯にはミネラルが溶け込んでいた。

 たった数分で、日頃の疲労が薄らいでいく。
 やっぱり、ここのお湯は最高だな。
 中学時代も、おばあちゃんの介護に疲れたら、時々来ていたんだ。いや、僕を心配した穂乃花が連れ出したという方が正しいか。

 ひとりで温泉に入るなんて、本当に贅沢だよね。
 女の子と賑やかなのもいいけど、いろんな意味でくつろげないし。

 たっぷり満喫してから、風呂を出る。

 待ち合わせ場所の飲食コーナーへ行く。穂乃花は近所のオジサンとしゃべっていた。
 僕たちが小さい時から知っている人だ。
 ビールジョッキを傾けていたオジサンは僕を見ると、手を振る。

「おお、結人(ゆうと)じゃねえか」

「ど、どうも、こんにちは」

「穂乃花ちゃん、小さい頃から頭よかったって話をしてたんだけどさー」

「恥ずかしいですって?」

「なんだよ、せっかく褒めてんのに」

 オジサン、言葉はやや荒いけど、まっすぐで人柄が良いんだよね。

「五歳ぐらいの時には店を手伝ってたろ」

 オジサンの言葉で昔を思い出す。
 穂乃花の家って、食料品店を営んでいたんだよね。スーパーっていうより、コンビニサイズの店内に生鮮食品や弁当を売ってるような。最近あまり見かけなくなった個人商店である。

「穂乃花ちゃんさ、暗算でお釣りを計算してんだぜ。しかも、じいさんがレジを打つよりも速いし、正確だし」

 そういえば、あの頃の僕たちってよく店で遊んでたよね。遊び感覚で仕事をさせてもらった。
 今にして思えば、迷惑をかけて申し訳なさしかないけど。なのに、今は亡き穂乃花の祖父母が注意もせずにいてくれて……。

「本当に穂乃花ちゃんは天才。おまけに、当時から美人で、胸が大きくなる素質があった」

 オジサンの目は穂乃花の自己主張する部位に向けられる。
 風呂上がりの幼なじみ。フローラルな石けんの芳香と、血色の良い肌から乙女の魅力を放っていた。

 僕たちの視線に気づいた穂乃花は手で胸を隠す。

「ごめん」「母さんにはチクらないでくれよ」

 ふたりして頭を下げる。

「ともかく、穂乃花ちゃんは天才幼女だったってことさ」

 しばらく適当に相手をしてから、僕と穂乃花は席を立った。

 天才か……。

 なぜか僕は引っかかるものを覚えた。
 小夜さんと美紅ちゃんの顔を思い浮かべながら。

 温泉から帰った僕たちは、僕の家に移動する。

「じゃあ、ユウ。たっぷり召し上がって」

 豪勢な料理を前に涎が出てくる。

 約一ヶ月ぶりのふたりだけの食事。人数の割りに皿の数が多い。
 ローストビーフのサラダ、ステーキ、牡蠣のアヒージョ。なめこが乗った揚げ出し豆腐、ぶり大根、鶏の炊き込みご飯。餃子や北京ダック。
 和洋中だけにとどまらず、ケバブやトムヤムクンまである。

 ここは食のデパートですか?
 しかも、全部手作りだから怖ろしい。四人がけのテーブルが埋め尽くされてるんだけど。

「あいかわらず、おいしそうですね」

 なぜか敬語になった僕に。

「毎日が激しいんだから、スタミナをつけないとね」

「そ、そうだね」

 味はプロ級だろうけど、量的に食べきれるかどうか。

「いただきます」

 料理に箸を運ぶ。
 手作りの北京ダック。意味不明なレベルのおいしさだった。僕の幼なじみが料理人すぎる。

 楽しく食事を終える。
 ふたりで完食した時にはちょうど腹八分目という感じだった。絶妙な満腹加減である。
 高校に入学してからハードな日々が続いてるので、以前よりも食欲が旺盛なんだよね。

 計算してのことだとしたら、僕の幼なじみって天才なんじゃね。風呂上がりに近所のおじさんが言ってたみたいに。
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登場人物紹介

伊藤 結人(いとう ゆうと)

中学生時代に祖母の介護をした。

福祉の勉強をすべく、福祉科があるヴァージニア記念高校に入学する。

が、どうやら特殊な能力があるようで、ロリババア病の少女たちの介護をすることに。

神凪 小夜(かんなぎ さよ)

家がお金持ちのお嬢様。

才色兼備な優等生だったのだが。

ロリババア病を発症し、ボケている。

結人と同じクラスで、彼に介護される。

ご飯を食べたことを忘れたり、家にいるのに外出したつもりだったり。

天道 美紅(てんどう みく)

元テニス選手。中学生ながら、プロに勝ったこともある。

ロリババア病を発症し、のじゃロリになる。

結人と同じクラスで、彼に介護されるのだが、傲岸不遜で結人を眷属扱いしている。

中二病を患う中学三年生。

青木 穂乃花(あおき ほのか)

幼なじみ。優しくて、尽くしてくれる子。爆乳。

結人の傍にいたくて、ヴァージニア記念高校の普通科に進学する。

小夜と美紅に振り回される結人を助けるも、小夜たちには複雑な感情を抱く。

敗北する幼なじみと思いきや。

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