最終話 ボクとロリババアと
文字数 3,324文字
「おーい、パイオツちゃん。いっくぞー!」
「ちょっ、パイオツちゃん⁉」
明るい元気なかけ声と、困惑した悲鳴がテニス場に響き渡る。
隣接した公園の滝に赤みを帯びた日光が注がれていた。
あれから一週間後の月曜日。僕たちは放課後になると、学校近くのテニス場に来ていた。
美紅ちゃんが鋭いサーブを放つ。一般人である穂乃花は、さっきから十回連続で空振りである。
「ちょっと、美紅ちゃん。手加減してよー。遊びなんだし」
「ごめん、ごめん。お姉ちゃん。おっぱい揉ませてくれたらね」
美紅ちゃんの口調は仰々しいものではない。ここ何日か、妹系スポーツ少女が彼女のキャラである。
というか、本来がこっちなんだけど、のじゃロリが印象ありすぎて、いまだに違和感があるんだよね。
美紅ちゃん。アマチュア向けに加減したのはいいんだけど……。
ラリーはとんでもないことになっていた。
美紅ちゃんが穂乃花の近くを狙って、普通の速度で打つ。
穂乃花は軽くステップを踏み、ラケットを振る。一拍遅れて、たゆんたゆん。半袖Tシャツを持ち上げる膨らみがダイナミックに動くというわけ。
などと思っていたら、また揺れた。
上下左右に動く。テニスボールよりも大きいボールもラリーしてるんだね。
つい、僕の視線がつられていたら。
「ふふ、みなさん楽しそうですね」
僕の隣で本を読んでいた小夜さんが、クスリと微笑む。
「さっきから結人さんもボールに釘付けですし。首を振って、夢中なんですね」
「あっ」
言えない。別の球を見てましただなんて。難しい詩集を読んでいる美少女に言えない。
「最近、よく本を読んでいるよね?」
「ええ、せっかく病気から解放されたのです。「小夜さん……」
「今までは経営の役に立つ本ばかりでしたが、大人になっても読めます。今の私には心を動かすような作品が必要ですので」
胸がじわりと熱くなる。
と同時に、奇跡を起こした虹にあらためて感謝する。
一週間前の夕方。僕たちを包み込んだ虹が消えた後。
女の子たちは発作が収まっただけでなく、ナノマシン自体が活動を停止していた。
ということは、ロリババア病の症状もなくなっていて……。
今こうして、小夜さんは会話したり、本を読んだり、日常生活を送っている。
美紅ちゃんや穂乃花も同様で、テニスに興じているのだった。
もちろん、麗華さんたちによる政府の監視もない。ナノマシンが停止している以上は、束縛まではできないという判断だ。
万事解決と思いきや、全然そんなことはなく……。
と思っていたら、さっそく発生した。
「おにいちゃん、お外ですると気持ちいいね」
「小夜さん。な、なにをするのかな?」
おそるおそる僕は訊ねる。
「ん。お背中を洗って」
小夜さんの頭の中では入浴中らしい。
実は、彼女たちの病気は治ったわけではないんだよね。
「そ、そう。ちょっと待ってて」
僕は立ち上がり、小夜さんの背後に回り込む。背もたれのないベンチで良かった。
左手で彼女の背中を撫でた。洗ってるように見せるために。
「うふふ」
くすぐったそうに甘い声を出す。
僕は空いた方の手を前に回し、彼女の制服の裾から中へ突入する。
運良くテニス場には僕たちしかいない。数十メートルも離れていればバレないはず。
お臍の窪みを探り当てると、手が光る。
よし、第一段階終了。
「すいません。私、また発作を起こしてしまって」
「ううん、三分しかない。続けて行くからね」
僕は小夜さんの前でひざまずく。
「はい、お願いします」
彼女は頬を朱に染めながら、制服の裾を持ち上げる。白い肌が露わになる。
僕はゆっくりと顔を近づけた。鼻がくっつきそうな距離になると。
「はぁぁんんっ」
小夜さんは悶える。間近に見える、ほどよく膨らんだ双丘が弾んだ。
体内の血流が激しくなる。
耐えろ、これは仕事なんだ。
僕は自分に言い聞かせて、お臍にキスをした。すると、彼女の全身が虹色の光に包まれる。
「ふう、終わったよ」
「はい、ありがとうございます」
乱れた制服を整える少女はすっきりした顔をしていた。
一回目の手を当てる行為は、文字通り《手当て《ケアラー》》の力。
発作を鎮めることができるが、三分間しか効果が持続しない。これは今まで通り。
次にしたのは、お臍へのキスである。一週間前と同じ虹色の光が出てくるんだ。口づけによって。
手を当てるよりも強力で、効果は約二十四時間持続する。
先週も夕方だったので、今ぐらいの時間に異能が力が消えてしまい。
ロリババア病の症状が出てしまうのだ。
なので、僕はキスという名の治療を毎夕しているのだった。なお、謎の力は重ねがけができないらしい。
そんな事情もあり、学校が終わるとまっすぐ寮に帰っていた。
とはいえ、したいことを我慢するのはクオリティ・オブ・ライフ《QOL》に関わる。
美紅ちゃんの要望をきいて出かけたら、こうなったし。
小夜さんの治療は終わったので、そろそろ……。
「我が眷属よ。契約の接吻を所望するのじゃ」
案の定、美紅ちゃんがロリババアになって、目の前に立っていた。
その横では、
「ユウ、あたしが先。じゃないと、その子を殺して、あたしは次の身体に転生するから」
幼なじみが不穏な言葉を発していた。
「なっ、貴様。泥棒猫じゃぞ」
「泥棒はそっちでしょ。あたしは千年も幼なじみを続けてる。幼なじみが報われてもいいんじゃないの」
「ふたりとも待ってよ」
昨日は美紅ちゃんを優先したんだった。
だから、今回は穂乃花の番で。
「美紅ちゃん。血を吸わせてあげるから、今日は我慢して」
「うむ。約束じゃぞ」
身を引いてくれたので、僕は幼なじみの前に屈み込む。
ヤバい。絶景が。
まず、目の前にある太もも。白い肌は夕日を浴びて、健康そうに染まっている。
視線を上げる。
腕を胸の下で組んでいるものだから、腕からお肉がはみ出そう。実にけしからんことになっている。
白銀の髪も幻想的だった。
「ユウ、早くしてよね」
「ああ。ごめん」
僕は太ももに顔を近づける。風が吹く。ミニスカートがなびいた。
白いアンスコが見えて、ドキリとする。下着じゃないのに。
僕は幼なじみに口づける。
「んぅ、はぅぅんんっ❤︎」
穂乃花が身をよじらせ、内ももに力を入れる。僕の頬が挟まれてしまい、えもいわれぬ多幸感が襲ってきた。
幼なじみの感触を堪能しながら、僕は思った。
こんなのが毎日続くのか。
あくまでも、僕がしていることは暫定対応だし。
効果が切れたら、同じことをして時間を稼ぐだけ。
いつになったら、みんなの病気が治るのか不明である。
何年かすれば、日向先生がナノマシンを撃退するナノマシンを作っているかもしれない。
でも、未来のことは未知数で……。
おばあちゃんを介護していた頃みたいに、先は見えない。
それが、介護だから。
いや、人生もだから。
だけど、ううん、だからこそ、僕は大好きな子たちと一緒にいたいんだ。
ただ、そばにいて、微力でも彼女たちを支えられればいい。
ささやかに願いながら、穂乃花の太ももにキスをする。
王子様でないことを謝りつつ。
せめて誠意だけでも示さそうと、真面目に。
そしたら。
「眷属よ。いつまで爆乳ちゃんの太ももを楽しんでおる」
美紅ちゃんに邪魔された。真祖化した彼女が僕の首を狙っている。
「ごめん、今度は美紅ちゃんね」
とろけそうな顔の美紅ちゃん。僕はツインテールの髪をどけ、耳たぶに口づける。触れた瞬間に乙女は、ふにゅんと脱力する。
三人の治療を終えたのはいいけど、テニスを続ける雰囲気ではない。
着替えを済ませた僕たちは、笑いながら寮に帰る。
執事さん特製のカレーにみんなで舌鼓を打った。
「ちょっ、パイオツちゃん⁉」
明るい元気なかけ声と、困惑した悲鳴がテニス場に響き渡る。
隣接した公園の滝に赤みを帯びた日光が注がれていた。
あれから一週間後の月曜日。僕たちは放課後になると、学校近くのテニス場に来ていた。
美紅ちゃんが鋭いサーブを放つ。一般人である穂乃花は、さっきから十回連続で空振りである。
「ちょっと、美紅ちゃん。手加減してよー。遊びなんだし」
「ごめん、ごめん。お姉ちゃん。おっぱい揉ませてくれたらね」
美紅ちゃんの口調は仰々しいものではない。ここ何日か、妹系スポーツ少女が彼女のキャラである。
というか、本来がこっちなんだけど、のじゃロリが印象ありすぎて、いまだに違和感があるんだよね。
美紅ちゃん。アマチュア向けに加減したのはいいんだけど……。
ラリーはとんでもないことになっていた。
美紅ちゃんが穂乃花の近くを狙って、普通の速度で打つ。
穂乃花は軽くステップを踏み、ラケットを振る。一拍遅れて、たゆんたゆん。半袖Tシャツを持ち上げる膨らみがダイナミックに動くというわけ。
などと思っていたら、また揺れた。
上下左右に動く。テニスボールよりも大きいボールもラリーしてるんだね。
つい、僕の視線がつられていたら。
「ふふ、みなさん楽しそうですね」
僕の隣で本を読んでいた小夜さんが、クスリと微笑む。
「さっきから結人さんもボールに釘付けですし。首を振って、夢中なんですね」
「あっ」
言えない。別の球を見てましただなんて。難しい詩集を読んでいる美少女に言えない。
「最近、よく本を読んでいるよね?」
「ええ、せっかく病気から解放されたのです。「小夜さん……」
「今までは経営の役に立つ本ばかりでしたが、大人になっても読めます。今の私には心を動かすような作品が必要ですので」
胸がじわりと熱くなる。
と同時に、奇跡を起こした虹にあらためて感謝する。
一週間前の夕方。僕たちを包み込んだ虹が消えた後。
女の子たちは発作が収まっただけでなく、ナノマシン自体が活動を停止していた。
ということは、ロリババア病の症状もなくなっていて……。
今こうして、小夜さんは会話したり、本を読んだり、日常生活を送っている。
美紅ちゃんや穂乃花も同様で、テニスに興じているのだった。
もちろん、麗華さんたちによる政府の監視もない。ナノマシンが停止している以上は、束縛まではできないという判断だ。
万事解決と思いきや、全然そんなことはなく……。
と思っていたら、さっそく発生した。
「おにいちゃん、お外ですると気持ちいいね」
「小夜さん。な、なにをするのかな?」
おそるおそる僕は訊ねる。
「ん。お背中を洗って」
小夜さんの頭の中では入浴中らしい。
実は、彼女たちの病気は治ったわけではないんだよね。
「そ、そう。ちょっと待ってて」
僕は立ち上がり、小夜さんの背後に回り込む。背もたれのないベンチで良かった。
左手で彼女の背中を撫でた。洗ってるように見せるために。
「うふふ」
くすぐったそうに甘い声を出す。
僕は空いた方の手を前に回し、彼女の制服の裾から中へ突入する。
運良くテニス場には僕たちしかいない。数十メートルも離れていればバレないはず。
お臍の窪みを探り当てると、手が光る。
よし、第一段階終了。
「すいません。私、また発作を起こしてしまって」
「ううん、三分しかない。続けて行くからね」
僕は小夜さんの前でひざまずく。
「はい、お願いします」
彼女は頬を朱に染めながら、制服の裾を持ち上げる。白い肌が露わになる。
僕はゆっくりと顔を近づけた。鼻がくっつきそうな距離になると。
「はぁぁんんっ」
小夜さんは悶える。間近に見える、ほどよく膨らんだ双丘が弾んだ。
体内の血流が激しくなる。
耐えろ、これは仕事なんだ。
僕は自分に言い聞かせて、お臍にキスをした。すると、彼女の全身が虹色の光に包まれる。
「ふう、終わったよ」
「はい、ありがとうございます」
乱れた制服を整える少女はすっきりした顔をしていた。
一回目の手を当てる行為は、文字通り《手当て《ケアラー》》の力。
発作を鎮めることができるが、三分間しか効果が持続しない。これは今まで通り。
次にしたのは、お臍へのキスである。一週間前と同じ虹色の光が出てくるんだ。口づけによって。
手を当てるよりも強力で、効果は約二十四時間持続する。
先週も夕方だったので、今ぐらいの時間に異能が力が消えてしまい。
ロリババア病の症状が出てしまうのだ。
なので、僕はキスという名の治療を毎夕しているのだった。なお、謎の力は重ねがけができないらしい。
そんな事情もあり、学校が終わるとまっすぐ寮に帰っていた。
とはいえ、したいことを我慢するのはクオリティ・オブ・ライフ《QOL》に関わる。
美紅ちゃんの要望をきいて出かけたら、こうなったし。
小夜さんの治療は終わったので、そろそろ……。
「我が眷属よ。契約の接吻を所望するのじゃ」
案の定、美紅ちゃんがロリババアになって、目の前に立っていた。
その横では、
「ユウ、あたしが先。じゃないと、その子を殺して、あたしは次の身体に転生するから」
幼なじみが不穏な言葉を発していた。
「なっ、貴様。泥棒猫じゃぞ」
「泥棒はそっちでしょ。あたしは千年も幼なじみを続けてる。幼なじみが報われてもいいんじゃないの」
「ふたりとも待ってよ」
昨日は美紅ちゃんを優先したんだった。
だから、今回は穂乃花の番で。
「美紅ちゃん。血を吸わせてあげるから、今日は我慢して」
「うむ。約束じゃぞ」
身を引いてくれたので、僕は幼なじみの前に屈み込む。
ヤバい。絶景が。
まず、目の前にある太もも。白い肌は夕日を浴びて、健康そうに染まっている。
視線を上げる。
腕を胸の下で組んでいるものだから、腕からお肉がはみ出そう。実にけしからんことになっている。
白銀の髪も幻想的だった。
「ユウ、早くしてよね」
「ああ。ごめん」
僕は太ももに顔を近づける。風が吹く。ミニスカートがなびいた。
白いアンスコが見えて、ドキリとする。下着じゃないのに。
僕は幼なじみに口づける。
「んぅ、はぅぅんんっ❤︎」
穂乃花が身をよじらせ、内ももに力を入れる。僕の頬が挟まれてしまい、えもいわれぬ多幸感が襲ってきた。
幼なじみの感触を堪能しながら、僕は思った。
こんなのが毎日続くのか。
あくまでも、僕がしていることは暫定対応だし。
効果が切れたら、同じことをして時間を稼ぐだけ。
いつになったら、みんなの病気が治るのか不明である。
何年かすれば、日向先生がナノマシンを撃退するナノマシンを作っているかもしれない。
でも、未来のことは未知数で……。
おばあちゃんを介護していた頃みたいに、先は見えない。
それが、介護だから。
いや、人生もだから。
だけど、ううん、だからこそ、僕は大好きな子たちと一緒にいたいんだ。
ただ、そばにいて、微力でも彼女たちを支えられればいい。
ささやかに願いながら、穂乃花の太ももにキスをする。
王子様でないことを謝りつつ。
せめて誠意だけでも示さそうと、真面目に。
そしたら。
「眷属よ。いつまで爆乳ちゃんの太ももを楽しんでおる」
美紅ちゃんに邪魔された。真祖化した彼女が僕の首を狙っている。
「ごめん、今度は美紅ちゃんね」
とろけそうな顔の美紅ちゃん。僕はツインテールの髪をどけ、耳たぶに口づける。触れた瞬間に乙女は、ふにゅんと脱力する。
三人の治療を終えたのはいいけど、テニスを続ける雰囲気ではない。
着替えを済ませた僕たちは、笑いながら寮に帰る。
執事さん特製のカレーにみんなで舌鼓を打った。