第12話 僕の日常
文字数 2,111文字
早いもので高校に入学してから十日がすぎた。
一日がやたらと長く感じる。矛盾してるけどね。
というのは、目の前のことが大変すぎて、気づいたら夜になっていることもしばしばで。かと思えば、小夜さんのトイレ待ちや入浴中は時間が止まったように思えて。
時間感覚が、脳と身体でずれているというか。
体重も一キロほど痩せている。
介護って体力的にしんどいからね。
たとえば、老人を車椅子に乗せるとする。若い時より痩せていても、数十キロはある。抱きかかえて車椅子に座らせるんだ。姿勢や持つ場所、力の入れ方を間違えるとツラいんだよね。
実際に、美紅ちゃんを実験台に介護実習をやってるんだけど、小柄な女子中学生が重いから。『重い』って口が滑って、怒られたこともある。
けれど、コツを覚えると、楽になるらしい。
ベッドから起き上がらせるのにテコの原理を使う方法を教わったことがある。重いはずの美紅ちゃんが軽く思えたんだ。
大変な作業を効率的に運用するための工夫には感心させられる。
古武術の動きを介護に応用している人もいるとか。日向先生が本を紹介していた。
おばあちゃんの介護で慣れていたはずなのに、まだまだ知らないことばかりである。
自分がいかに素人なのか、日々痛感していた。
なお、学校では一般教科がほとんどである。なぜか日向先生が全教科を担当していて、まるで小学校みたい。小夜さんたちの無秩序さや、教師がロリババアで雰囲気的に。
しかも、僕の担任。理系以外には興味がないらしい。なので、文系科目は適当な動画を流して終わりである。その間、先生はソシャゲをしたり、ようつべを見たり。クビにならないのかと思う。
おかしいといえば、普通の学校だったらありえないことが、もうひとつ。
代表的なのは、入浴介助とトイレ。
同世代の異性を相手に毎日やってるんだよね。当然、いろいろと見たり、触ったり。
小夜さんの黒髪はサラサラしてる。肉づきの良い胸はスポンジのよう。洗っていると、タオル越しに指を押し返してくるんだよね。気持ちよすぎて、いけない誘惑に駆られてくるし。痴漢、ダメ、絶対!
美紅ちゃんは美紅ちゃんで、煌めく金髪には何度も見とれた。胸は小ぶりだけど、腰は引き締まっている。健康的な太もももまぶしくて、スポーツ少女的な魅力も放っていた。
これまでの十五年の人生において、穂乃花とおばあちゃんを除き、異性との接触は滅多になかった。母親もいちおうはいるけど、海外に行っていて年に一度会うぐらいだし。
そんな僕がだよ。実習という名目で、あんなことを……。
仕事意識は日々強くなってきてはいるのが幸いというか。女子の裸や下着も見慣れてきて、多少は耐性がついてきたかな。
慣れたといえば、彼女たちへの手当ても。
僕だけが持つ異能の力。名づけて、ケアラー。
残念ながら、ロリババア病患者たちの発作は毎日続いている。美紅ちゃんは真祖になるし、小夜さんも別人格が現れる。正直、相手にするのは大変だ。
けれど、僕が手で触れると発作は収まっていく。
そして、少女たちは、三分間だけ自我を取り戻す。
三分。理由はわからない。日向先生が時間を計っているんだけど、一秒もずれることなく決まって三分らしい。まるで、昔の某特撮みたいだ。
それはさておき、本来の彼女たちと話していると、苦労が報われた気がするというか。
小夜さんは真面目で穏やかな微笑が似合う、正統派和風美少女。実家はお金持ちで、僕が推測したとおり自分で会社を経営していたとのこと。
少しずつだけど、小夜さんは自分のことを語るんだ。貴重な三分を無駄にしたくないと言って。
ある日、こんな会話をした。
『会社の経営を始めてから、子どもたちの援助をしていたんです』
『すごい』
『いえ、私がしたのはお金でできること。親を亡くした子や、病気の子にとっては、気休めかもしれません』
『ううん、そんなことないって』
『ありがとうございます。少しでも、事業を通して日本を支えられればいいのですが』
僕と同じ年なのに、立派すぎる。
そんな子が意味不明な病気になって、ボケてしまって……。
僕の方が悔しくて泣きそうになってしまったんだ。
すると。
『すいません、私のせいで』『ご、ごめん、僕』
同情が悪いことだと思っていても、気持ちが抑えられなかった。
『私、病気になって気づくこともありましたから』
小夜さんは優しく微笑んだ。
『……わかった。僕、頑張るよ』
『ありがとうございます。でも、お風呂の時、あまり身体を見ないでくださいますと』
釘を刺されて、バツが悪くなった。
もちろん、美紅ちゃんとの時間も同じぐらい楽しい。
本来の彼女は甘えん坊だった。活発で脳筋というか単純というか。話題も豊富で、特に地元の下町ネタが面白い。
いつも盛り上がっている途中に仰々しい口調に戻るから申し訳なくなる。笑いをこらえるのも大変だし。
とまあ、そんな日常を送っていたんだ。
一日がやたらと長く感じる。矛盾してるけどね。
というのは、目の前のことが大変すぎて、気づいたら夜になっていることもしばしばで。かと思えば、小夜さんのトイレ待ちや入浴中は時間が止まったように思えて。
時間感覚が、脳と身体でずれているというか。
体重も一キロほど痩せている。
介護って体力的にしんどいからね。
たとえば、老人を車椅子に乗せるとする。若い時より痩せていても、数十キロはある。抱きかかえて車椅子に座らせるんだ。姿勢や持つ場所、力の入れ方を間違えるとツラいんだよね。
実際に、美紅ちゃんを実験台に介護実習をやってるんだけど、小柄な女子中学生が重いから。『重い』って口が滑って、怒られたこともある。
けれど、コツを覚えると、楽になるらしい。
ベッドから起き上がらせるのにテコの原理を使う方法を教わったことがある。重いはずの美紅ちゃんが軽く思えたんだ。
大変な作業を効率的に運用するための工夫には感心させられる。
古武術の動きを介護に応用している人もいるとか。日向先生が本を紹介していた。
おばあちゃんの介護で慣れていたはずなのに、まだまだ知らないことばかりである。
自分がいかに素人なのか、日々痛感していた。
なお、学校では一般教科がほとんどである。なぜか日向先生が全教科を担当していて、まるで小学校みたい。小夜さんたちの無秩序さや、教師がロリババアで雰囲気的に。
しかも、僕の担任。理系以外には興味がないらしい。なので、文系科目は適当な動画を流して終わりである。その間、先生はソシャゲをしたり、ようつべを見たり。クビにならないのかと思う。
おかしいといえば、普通の学校だったらありえないことが、もうひとつ。
代表的なのは、入浴介助とトイレ。
同世代の異性を相手に毎日やってるんだよね。当然、いろいろと見たり、触ったり。
小夜さんの黒髪はサラサラしてる。肉づきの良い胸はスポンジのよう。洗っていると、タオル越しに指を押し返してくるんだよね。気持ちよすぎて、いけない誘惑に駆られてくるし。痴漢、ダメ、絶対!
美紅ちゃんは美紅ちゃんで、煌めく金髪には何度も見とれた。胸は小ぶりだけど、腰は引き締まっている。健康的な太もももまぶしくて、スポーツ少女的な魅力も放っていた。
これまでの十五年の人生において、穂乃花とおばあちゃんを除き、異性との接触は滅多になかった。母親もいちおうはいるけど、海外に行っていて年に一度会うぐらいだし。
そんな僕がだよ。実習という名目で、あんなことを……。
仕事意識は日々強くなってきてはいるのが幸いというか。女子の裸や下着も見慣れてきて、多少は耐性がついてきたかな。
慣れたといえば、彼女たちへの手当ても。
僕だけが持つ異能の力。名づけて、ケアラー。
残念ながら、ロリババア病患者たちの発作は毎日続いている。美紅ちゃんは真祖になるし、小夜さんも別人格が現れる。正直、相手にするのは大変だ。
けれど、僕が手で触れると発作は収まっていく。
そして、少女たちは、三分間だけ自我を取り戻す。
三分。理由はわからない。日向先生が時間を計っているんだけど、一秒もずれることなく決まって三分らしい。まるで、昔の某特撮みたいだ。
それはさておき、本来の彼女たちと話していると、苦労が報われた気がするというか。
小夜さんは真面目で穏やかな微笑が似合う、正統派和風美少女。実家はお金持ちで、僕が推測したとおり自分で会社を経営していたとのこと。
少しずつだけど、小夜さんは自分のことを語るんだ。貴重な三分を無駄にしたくないと言って。
ある日、こんな会話をした。
『会社の経営を始めてから、子どもたちの援助をしていたんです』
『すごい』
『いえ、私がしたのはお金でできること。親を亡くした子や、病気の子にとっては、気休めかもしれません』
『ううん、そんなことないって』
『ありがとうございます。少しでも、事業を通して日本を支えられればいいのですが』
僕と同じ年なのに、立派すぎる。
そんな子が意味不明な病気になって、ボケてしまって……。
僕の方が悔しくて泣きそうになってしまったんだ。
すると。
『すいません、私のせいで』『ご、ごめん、僕』
同情が悪いことだと思っていても、気持ちが抑えられなかった。
『私、病気になって気づくこともありましたから』
小夜さんは優しく微笑んだ。
『……わかった。僕、頑張るよ』
『ありがとうございます。でも、お風呂の時、あまり身体を見ないでくださいますと』
釘を刺されて、バツが悪くなった。
もちろん、美紅ちゃんとの時間も同じぐらい楽しい。
本来の彼女は甘えん坊だった。活発で脳筋というか単純というか。話題も豊富で、特に地元の下町ネタが面白い。
いつも盛り上がっている途中に仰々しい口調に戻るから申し訳なくなる。笑いをこらえるのも大変だし。
とまあ、そんな日常を送っていたんだ。