二十 沢井峯春課長
文字数 1,605文字
十二月初旬、月曜日、午前。
「人数が多いですから、会議室へ移動しましょう」
厚木電装本社工場生産部生産管理課で、生産管理課長の沢井峯春は、課長専用応接室に通された二班と三班の六人の刑事を見て、案内してきた社員に会議室を準備するよう指示した。
会議室へ案内されると、高倉刑事は、沢井峯春課長の注意が窓の外へ向わぬように、沢井課長を会議室の窓を背にした席に着かせ、高倉刑事は会議室の壁を背にして会議テーブルに着いた。左に二人、右に三人、計五人の刑事が高倉刑事に同席している。
ここは、厚木電装本社工場生産部の二階だ。高倉刑事の席から、厚木電装本社工場生産部に出入りする、納入部品や製品の運搬車両が見える。移動する車両を目で追うだけで、車両の大きさに注意を削がれてしまいそうだ。
「昨日の午後、溝端バッテリーの社長、溝端浩造さんが襲われたのはご存じですね?」
高倉刑事は世間話をするように話している。
「はい・・・」
沢井課長が緊張したように見える。
「溝端さんは、昨夜、亡くなりました。我々は殺人事件として捜査しています」
高倉刑事は沢井課長の様子をうかがった。
「・・・」
心なしか沢井課長が震えているように見える。
「これは任意の事情聴取です。質問に答えなくても、我々を追い返しても、弁護士を同席しても、何をしてもかまいません。
事情聴取に応じますか?」
高倉刑事はていねいに話した。
「事情聴取に応じます・・・。弁護士を立ち会わせる必要はありません」
沢井課長がはっきり言った。
高倉刑事は、沢井課長のメガネの奥で、目つきが挑戦的に鋭くなったような気がした。
「なぜですか?」
高倉刑事は驚いたふりをした。
「何もやましいことをしていないからです」
一見、沢井課長はおちついて見えたが、どことなく不安を抱えている様子だ。
「それでは事情聴取します。会話内容は録音します」
高倉刑事はテーブルにボイスレコーダーを置いた。
「昨日の午後二時頃、沢井さんはどこで何をしていましたか?」
「昼食後、自宅で昼寝していました。証人は妻と家族たちです」
「家族の証言は採用されません。そのことはご存じですか?」
「いえ、知りません」
「他に、あなたが午後二時前後に自宅にいたと証明できる人はいませんか?」
「いません・・・」
「ところで、溝端バッテリーの納入部品に関して不正な金の流れがあったと溝端浩造社長が漏らしていたのをご存じですか?」
高倉刑事は沢井課長の目を見つめた。
「いえ、知りません・・・・」
沢井課長の顔色が変った。視線が泳いで、かすかに震えている。
「あなたもその不正に関係していたとのことですが、そのことについて話してください」
高倉刑事の会話は穏やかだ。
「・・・」
沢井課長が沈黙した。
「では、こちらの会社と下請けをオンラインで結んでいるコンピューター納入品管理システムを作った企業を教えてください」
高倉刑事は田上刑事から得た情報を話した。
「・・・」
沢井課長は答えない。
「永田生産部長に訊けばわかることですね」
高倉刑事は工場長を務める永田生産部長の名をあげた。
「物流システム(株)だ・・・・」
沢井課長はしぶしぶ答えた。
「厚木電装本社工場のコンピューター納入品管理システム担当は誰ですか?」
「物流システム(株)の社長の野口啓輔だ・・・」
沢井課長は憮然としている。
「なぜ、社長が直々に担当してるんですか?」
「それは・・・・」
沢井課長は沈黙した。
「それでは、こちらの会社の監査役員について質問に答えてください。
現在の監査役員と、その前の役員を教えてください」
「現在は沢口公認会計士、前任は夏川公認会計士だ・・・」
高倉刑事は右隣りに座っている三班の刑事にうなずいた。三人の刑事が会議室を出て行った。
「さて、コンピューター納入品管理システムの使い方を教えてください・・・」
高倉刑事は沢井課長を見つめた。まなざしが鋭くなっている。
「人数が多いですから、会議室へ移動しましょう」
厚木電装本社工場生産部生産管理課で、生産管理課長の沢井峯春は、課長専用応接室に通された二班と三班の六人の刑事を見て、案内してきた社員に会議室を準備するよう指示した。
会議室へ案内されると、高倉刑事は、沢井峯春課長の注意が窓の外へ向わぬように、沢井課長を会議室の窓を背にした席に着かせ、高倉刑事は会議室の壁を背にして会議テーブルに着いた。左に二人、右に三人、計五人の刑事が高倉刑事に同席している。
ここは、厚木電装本社工場生産部の二階だ。高倉刑事の席から、厚木電装本社工場生産部に出入りする、納入部品や製品の運搬車両が見える。移動する車両を目で追うだけで、車両の大きさに注意を削がれてしまいそうだ。
「昨日の午後、溝端バッテリーの社長、溝端浩造さんが襲われたのはご存じですね?」
高倉刑事は世間話をするように話している。
「はい・・・」
沢井課長が緊張したように見える。
「溝端さんは、昨夜、亡くなりました。我々は殺人事件として捜査しています」
高倉刑事は沢井課長の様子をうかがった。
「・・・」
心なしか沢井課長が震えているように見える。
「これは任意の事情聴取です。質問に答えなくても、我々を追い返しても、弁護士を同席しても、何をしてもかまいません。
事情聴取に応じますか?」
高倉刑事はていねいに話した。
「事情聴取に応じます・・・。弁護士を立ち会わせる必要はありません」
沢井課長がはっきり言った。
高倉刑事は、沢井課長のメガネの奥で、目つきが挑戦的に鋭くなったような気がした。
「なぜですか?」
高倉刑事は驚いたふりをした。
「何もやましいことをしていないからです」
一見、沢井課長はおちついて見えたが、どことなく不安を抱えている様子だ。
「それでは事情聴取します。会話内容は録音します」
高倉刑事はテーブルにボイスレコーダーを置いた。
「昨日の午後二時頃、沢井さんはどこで何をしていましたか?」
「昼食後、自宅で昼寝していました。証人は妻と家族たちです」
「家族の証言は採用されません。そのことはご存じですか?」
「いえ、知りません」
「他に、あなたが午後二時前後に自宅にいたと証明できる人はいませんか?」
「いません・・・」
「ところで、溝端バッテリーの納入部品に関して不正な金の流れがあったと溝端浩造社長が漏らしていたのをご存じですか?」
高倉刑事は沢井課長の目を見つめた。
「いえ、知りません・・・・」
沢井課長の顔色が変った。視線が泳いで、かすかに震えている。
「あなたもその不正に関係していたとのことですが、そのことについて話してください」
高倉刑事の会話は穏やかだ。
「・・・」
沢井課長が沈黙した。
「では、こちらの会社と下請けをオンラインで結んでいるコンピューター納入品管理システムを作った企業を教えてください」
高倉刑事は田上刑事から得た情報を話した。
「・・・」
沢井課長は答えない。
「永田生産部長に訊けばわかることですね」
高倉刑事は工場長を務める永田生産部長の名をあげた。
「物流システム(株)だ・・・・」
沢井課長はしぶしぶ答えた。
「厚木電装本社工場のコンピューター納入品管理システム担当は誰ですか?」
「物流システム(株)の社長の野口啓輔だ・・・」
沢井課長は憮然としている。
「なぜ、社長が直々に担当してるんですか?」
「それは・・・・」
沢井課長は沈黙した。
「それでは、こちらの会社の監査役員について質問に答えてください。
現在の監査役員と、その前の役員を教えてください」
「現在は沢口公認会計士、前任は夏川公認会計士だ・・・」
高倉刑事は右隣りに座っている三班の刑事にうなずいた。三人の刑事が会議室を出て行った。
「さて、コンピューター納入品管理システムの使い方を教えてください・・・」
高倉刑事は沢井課長を見つめた。まなざしが鋭くなっている。