十六 第一発見者
文字数 1,435文字
厚木署、第一取調室で田上刑事は取調室の電話を切った。
「あなたの言うことにまちがいなさそうですね。
溝端さんの意識がもどったら、誰に襲われたかはっきりします。一応、捜査手順を踏んでいるだけですから、そのつもりでいてください」
田上刑事は取調室の椅子に腰かけている荻原にそう説明した。
「わかりました」
「あなたが話した不正の件、堀田さん、森田さんも同じことを話してました。堀田は旧姓とのことでした。
あなたの話が事実としても、不良品が実在したかしないか、おそらく物証は見つからないでしょう。
社内の監視カメラに記録が無いなら、データーを改ざんした証拠があるとは思えません。
残っているデータと帳簿の辻褄が合っていれば、不正にはならないでしょう。
なぜ、監査役員は、あなたを不正の首謀者にしたいんでしょうね・・・」
田上刑事は荻原が話す不正を実証できないと思った。
「先ほど話したように、監査役員は地元代議士、山岸宗典の政治資金の監査もしています。
溝端バッテリーの溝端浩造社長は、社長本人が山岸宗典代議士の有力な後援会員だ、と言ってました。最近、後援会からの要請に無理が多いと嘆いてました。おそらく政治資金だと思います。
企業の帳簿に載らない金が政治資金に流れた場合、どうなるんですか?」
荻原は田上刑事にそう質問した。
「私、その方面に疎いんですよ。
まあ、推測ですが、政治資金として正式に記載されれば、監査する側は金の出所を追及するでしょうね。額が多ければ、それなりに追求は激しいと思います」
田上刑事は荻原を見つめた。
「不正による金が政治資金へ流れた場合、代議士はどうすると思います?」
「良心的な代議士ならおおっぴらにして不正を暴く。
そうでなければ監査対象から外して、裏で使うでしょうね・・・。
荻原さんはいつ頃から不正に気づいたんですか?」
「俺は最近です。妻が気づいたのは二年前からのようです」
「金額はどれくらいですか?」と田上刑事。
「仮に、年間生産量の〇.二パーセントが不良品になって、その生産費の半分が補填されるとすれば、年間で一千万以上ですね」
「生産量が多いんですね」
「溝端バッテリーの厚木本社は創業当時のままですが、各地に工場があり、大きな企業なんです」
「毎年、それだけの資金が政治資金へ流れていれば、監査役員が目をつけるわけか・・・。
監査役員はずっと同じ人ですか?」
「監査役員のことは、溝端バッテリーの厚木工場の工場長として生産経費を算出するようになってから、初めて知りました。
厚木電装では生産管理だけでしたから、以前のことはわかりません」と荻原。
「監査役員が代り、政治資金の流れを追ったら、帳簿に載っていない金だった、と言うことですか・・・」
田上刑事はしばらく考えてからふたたび言った。
「企業に不正の物証はない。データも帳簿も数字は合っている。補填された金は再生産に使われたことになっている。机上データによれば、不正は存在しなかった・・・。
今のところ、存在しているのは不正があったと証言できる証人だけです・・・」
「えっ・・・」
荻原は盲点を突かれた気がした。
「やはり、森田さんが話したように、荻原さんたちの保護が必要ですね。
明日からいつもどおり出社してください。警護に私服を付けましょう。くれぐれも、単独で行動しないようにしてください」
そう言うと、田上刑事は取り調べを記録している担当官に、
「私服刑事に、荻原さんたちを警護させろ」
と指示した。
「あなたの言うことにまちがいなさそうですね。
溝端さんの意識がもどったら、誰に襲われたかはっきりします。一応、捜査手順を踏んでいるだけですから、そのつもりでいてください」
田上刑事は取調室の椅子に腰かけている荻原にそう説明した。
「わかりました」
「あなたが話した不正の件、堀田さん、森田さんも同じことを話してました。堀田は旧姓とのことでした。
あなたの話が事実としても、不良品が実在したかしないか、おそらく物証は見つからないでしょう。
社内の監視カメラに記録が無いなら、データーを改ざんした証拠があるとは思えません。
残っているデータと帳簿の辻褄が合っていれば、不正にはならないでしょう。
なぜ、監査役員は、あなたを不正の首謀者にしたいんでしょうね・・・」
田上刑事は荻原が話す不正を実証できないと思った。
「先ほど話したように、監査役員は地元代議士、山岸宗典の政治資金の監査もしています。
溝端バッテリーの溝端浩造社長は、社長本人が山岸宗典代議士の有力な後援会員だ、と言ってました。最近、後援会からの要請に無理が多いと嘆いてました。おそらく政治資金だと思います。
企業の帳簿に載らない金が政治資金に流れた場合、どうなるんですか?」
荻原は田上刑事にそう質問した。
「私、その方面に疎いんですよ。
まあ、推測ですが、政治資金として正式に記載されれば、監査する側は金の出所を追及するでしょうね。額が多ければ、それなりに追求は激しいと思います」
田上刑事は荻原を見つめた。
「不正による金が政治資金へ流れた場合、代議士はどうすると思います?」
「良心的な代議士ならおおっぴらにして不正を暴く。
そうでなければ監査対象から外して、裏で使うでしょうね・・・。
荻原さんはいつ頃から不正に気づいたんですか?」
「俺は最近です。妻が気づいたのは二年前からのようです」
「金額はどれくらいですか?」と田上刑事。
「仮に、年間生産量の〇.二パーセントが不良品になって、その生産費の半分が補填されるとすれば、年間で一千万以上ですね」
「生産量が多いんですね」
「溝端バッテリーの厚木本社は創業当時のままですが、各地に工場があり、大きな企業なんです」
「毎年、それだけの資金が政治資金へ流れていれば、監査役員が目をつけるわけか・・・。
監査役員はずっと同じ人ですか?」
「監査役員のことは、溝端バッテリーの厚木工場の工場長として生産経費を算出するようになってから、初めて知りました。
厚木電装では生産管理だけでしたから、以前のことはわかりません」と荻原。
「監査役員が代り、政治資金の流れを追ったら、帳簿に載っていない金だった、と言うことですか・・・」
田上刑事はしばらく考えてからふたたび言った。
「企業に不正の物証はない。データも帳簿も数字は合っている。補填された金は再生産に使われたことになっている。机上データによれば、不正は存在しなかった・・・。
今のところ、存在しているのは不正があったと証言できる証人だけです・・・」
「えっ・・・」
荻原は盲点を突かれた気がした。
「やはり、森田さんが話したように、荻原さんたちの保護が必要ですね。
明日からいつもどおり出社してください。警護に私服を付けましょう。くれぐれも、単独で行動しないようにしてください」
そう言うと、田上刑事は取り調べを記録している担当官に、
「私服刑事に、荻原さんたちを警護させろ」
と指示した。