7 ショッピングモール内の戦闘

文字数 1,948文字

 魔族(グリデモウス)の集団。20体ほどが結に殺到。
 ガアアッ、と獣のような咆哮に混じってコロス、クワセロ、といったザラついた人語が聞こえた。

 結が踏み込み、袈裟懸(けさが)けに斬りつける。
 白妙のような美しい斬閃。瞬時に8体が切り裂かれて地面に転がる。
 
 神刀──鬼屠破斬魔ノ華叉丸(おにほふりはざまのかしゃまる)
 普通の太刀の間合いならばせいぜい一度に1、2体を斬るのが普通だが、この太刀は違う。
 太刀を振ることによって結の破邪の気を増幅させて刀身より発し、実際の間合いより伸びて相手を斬ることができる。

 怯んだ魔族めがけて刺突。ここでも間合いが伸び、3体貫いた。
 そこから回転し、背後に回った魔族相手に横薙(よこな)ぎの一閃。残りの魔族を両断した。

「外の魔族は片付けました。残るはあの建物の中です」

 あいかわらずの圧倒的な強さに、葵は息をのんだ。
 もしいつか自分が8人同時に戦姫を喚び出すことができるようになれば、もっと多くの魔族を──大軍ですら倒すことができる。
 シノが言ったように、本当にこの世界を救うことができるかもしれない。

「本当にスゴいな、この本は。あんな力を持つ人物を具現化できるんだから」
 
 葵が魔導書【アンカルネ・イストワール】をパラパラめくりながらシノに言うと、シノはいいえ、とそれを否定した。

「スゴいのはあなたの創造力なのデス。他の人間ではあれほどの力を持つ人物……いえ、具現化することさえ難しいでショウ。わたしが魔族の侵攻より早くあなたに会うことができて幸運でシタ」

 シュウシュウと消滅していく魔族の残骸を指さしながらシノは続ける。

「魔族は人間を食らっているように見えますが、実際はその創造力を糧としているのデス。低級の魔族ほどその方法が雑で、補食という形で創造力を得ているのでスガ。あなたのような創作者は魔族に狙われやスイ。普通の人間より豊富で純度の高い創造力を持っているカラ」

 それを聞いて葵はぞっとする。
 戦姫から守られているとはいえ、あの恐ろしい魔族に狙われやすい特性を持っていたとは。そういうことはもっと早く教えてほしい。

「葵様、あの建物内にはさらに多くの敵が潜んでおります。しかもより強く、大きな反応が感じられます。中へ入るのならばそれなりのお覚悟を」

 結が太刀をブンと振り、刀身に付いた魔族の体液を払い落としながら言った。
 ここまで来てあとには引けないと、葵は歩きだす。

 ショッピングモールの中。やはり人の姿はない。
 1階手前にはハンバーガーショップやレストラン、カフェ。奥にはアパレルショップが並んでいる。

 葵たちが中に入ると同時にカウンターやテーブルの下からグモモモ、と黒い塊が現れ、ギロギロと赤い目を光らせる。

 魔族──数が多い。しかも屋内で囲まれやすい。結には不利な状況だと判断した葵はアンカルネ・イストワールを発動させようとする。

「葵様、お待ちください。この状況はわたくしに有利です」

 結がそれを止めた。そして魔族の集団の中に飛び込む。

 ガアッ、と四方から迫る爪や牙を回転しながら叩き落とし、斬り飛ばす。
 それから床に太刀を突き立て、破邪の陣を発生──パパパパッ、と周りの魔族を消滅させた。

 結の破邪の力はさらに壁、柱にも伝導。そこに触れていた魔族の身体も崩壊させる。
 
「これが結の言っていた有利な状況か。たしかにこれなら──」

 だがズズン、ゴッ、と2階の通路からも魔族の群れが飛び降りてきた。フロアにひしめくような数。
 葵のほうにも複数の魔族が押し寄せてきた。
 シノが火球を飛ばして前進を止めた。その隙に結が斬り進みながら戻ってくる。
 
「はあっっ!」

 太刀を突き出して踏み込み、そこから一気に斬り上げた。
 ズバンッッ、と葵の目の前で魔族の集団が打ち上げられながら消滅。
 
 だが敵にうしろを見せた状態。ついに結の頭や肩に魔族の爪が届いた。
 あっという間に複数の魔族にのしかかれ、倒れる結。魔族どもは狂喜の声をあげながら爪を振るい、牙を突き立てる。
 
「ゆっ、結っ! まずいっ! ぐえっ」

 アンカルネ・イストワールを発動させるのも忘れて葵は駆け寄ろうとし、襟首をシノに思い切り引っ張られる。

「落ち着イテ。死ぬ気ですか、葵サン」

「でもっ、結が!」

「よく見てくだサイ。無事なようデス」

 山のように重なりあった魔族の群れ。中央から火山が噴火したように白い光が飛び出す。
 太刀を振りかざした結だ。宙に舞った魔族たちをメッタ斬りにしながら落下。

 着地点で待ち構えている魔族を両断。その破邪の力は床一面に広がり、残りの魔族を一掃した。

「この階にいる敵はこれで終いのようです。あとは2階……強い反応はそこからです」

 しゃらん、と柄に付いた鈴を鳴らしながら結は太刀の先を2階のほうへ向けた。その身体はキズひとつ付いていなかった。
 
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