10 創作者の想い
文字数 2,193文字
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そのうち結は負傷。カエデは力を使いすぎて動けない。
頼みの綱はフレイア。あの滅界竜アドラフレスト相手に互角以上に渡り合っている。しかし、いつ幼女化するかわからない。
アドラフレストの右拳の打ち下ろし。
これも空中で真っ向から素手で打ち返したフレイア。
よろめくアドラフレストを前に、手を上にかざす。
ギュボォッ、と飛来した竜殺剣バルムンクをキャッチ。
その勢いのまま、大剣を突き出す。
アドラフレストは翼を羽ばたかせ素早く後退。距離が空いたところで強烈な
真っ赤な光の帯がフレイアを飲み込み、グアッ、と地面を大きく抉った。
叩きつけるような熱風に葵たちは伏せてなんとかこらえる。
だが直撃を受けたフレイアは──あの熱線で蒸発してしまったのではないか。
だが燃え上がる炎の中、ゆらりと立ち上がったのはまぎれもないフレイア・グラムロック。
手にした大剣を横に振ると、旋風で周りの炎がかき消えた。
「あー、危なかった。油断してたよ。この剣を盾代わりにしてなきゃヤバかったね」
のんびりした口調でシュウウウ、と熱を帯びた大剣を肩に担ぐフレイア。
「この姿もいつまでもつか分かんないからさ。早めにケリをつけさせてもらうよ」
フレイアは左手で自分の胸の辺りをドンッ、と叩いた。
ドン、ドン、ドンッ、と大気が震えるほどの大太鼓のような重低音が周りに響き出す。
「アタシの心臓の音さ。
フレイアの身体が紅く発光した、かと思ったときにはアドラフレストの眼前に。
ゴッ、と素手で殴りつけ、アドラフレストの顔が下に下がる。
瞬時に移動したフレイア。下から大剣の斬り上げ。
ガアッ、と噛みつこうとしたアドラフレストの牙を何本も斬り、砕いた。
上から叩きつけるようなアドラフレストの爪。大剣を盾にガードしたフレイア。
吹っ飛んで地面に衝突──したかに見えたが、その姿は滅界竜の頭上に。
「その女ごと叩き斬る」
アドラフレストの肩にはシノが乗っている。
そこへめがけ、大剣の一撃。
シノが作った魔法障壁がそれを阻む。障壁はすぐに砕けたが、斬撃の軌道は逸れた。
アドラフレストの右翼がちぎれ落ち、苦痛の叫びをあげながら横倒しになる。
「首を狙ったのに。まあ、今からトドメ刺すけど──っとぉ?」
着地し、大剣を構え直すフレイア。動きが早送りのように不自然な速度。
「アタシの活性化の効果じゃない。これは……」
困惑するフレイアに向けて、宙に浮いているシノがクスクスと笑った。
「普通の攻撃魔法はあなたには通じないでショウ。しかし、わたしが使ったのは速度強化魔法。あなたのスピードをアップさせる魔法デス。これはあなたの周りの空間ではなく直接肉体に干渉するモノ。つまりハ」
シノが説明している途中でもうシノの身体は縮んでいた。
やびゃい、と言いながらトテテテ、と逃げ出す幼女フレイア。
その背に向けてシノが人差し指を向ける。
幼女フレイアは胸を貫かれて転倒。葵は必死にそこへたどり着こうと走る。
痛いよう、痛いよう、と幼女フレイアの泣く声。
「待ってろ、フレイア! 俺が行くからっ! フレイアッ!」
きっと傷は浅い。致命傷は免れているはず。こんな小さな子に向けて本気で魔法を撃つはずがない。
葵はそう思っていた。そう信じたかった。
しかし、葵の手が触れる、という寸前で幼女フレイアの小さな身体は紅い光に包まれ──消えていった。
「そんな……フレイアまで……シノ、ウソだろ。あんな小さな子に……」
「何をそんなに悲しむのデス。この者たちは魔導書で具現化したといえど、想像上の人物なのでスヨ。実際には存在しないんデス」
「ちがう! 具現化してなくたって、彼女たちは……
涙を流しながら睨みつける葵に対し、シノは無表情で答える。
「分かりまスヨ。でもそれは自身の欲を満たすための道具、という意味でショウ? こういうキャラなら読まれるかもしれない、人気が出るかもしれない、面白いかもしれナイ──。わたしは自分の力を知らしめる為。創作と魔導の力を軽んじた世界に復讐する為の武器なんデス」
倒れていたアドラフレストが巨大な身体を持ち上げ、残った左翼をバサアッと広げた。
再びその肩に乗るシノ。唸りながら足音を響かせ、滅界竜は葵の横を通り過ぎていく。
「まずは葵サン。あなたの創作物よりわたしのほうが優れていると証明しなければいけまセン。そこでおとなしく残りの戦姫が消えるのを見てなサイ」
アドラフレストが歩いていく先にはに桐生カエデ。
カエデは連続の術による負荷でまだ本調子ではない。葵が逃げろと叫ぶが彼女は青い顔をしながら立ち、印を結ぶ。
「オン キリ キリ バザラ ウン ハッタ」
真言を唱えて金属バットを手に走る。
アドラフレストが爪先で蹴り上げようとしたところを正面から迎え撃ち──なんと足の爪を砕き、フレイアばりに押し返した。
「パイセンからまだ報酬もらってないのに死ねないっての。ここが踏ん張りどころだよねー」