7 決意
文字数 1,741文字
葵の周辺も昇ってくる煙に囲まれつつある。
その黒煙の中からボッ、とネコヒゲの少年が突っ込んできた。
S級
葵を抱えているマルグリットは両手はふさがり、槍は背にくくりつけてある。
応戦できないと思われたが、マルグリットは躊躇せずに葵を下へ放り投げる。
魔法で作り出した
一方、葵は絶叫しながら落下。このままでは地面に叩きつけられる。
が、ボンッ、と青いオーラが立ち昇り、落下地点あたりの黒煙を吹き飛ばす。
神仙気を放ったツァイシーだ。
落ちてきた葵をガシィ、と両手で受け止める。
相当な衝撃だったはずだが葵自身に負担はなく、ツァイシーも平然としたまま横へ優しく降ろす。
マルグリットが葵を下へ投げたのはツァイシーが受け止めると分かっていたからか。
「葵ちゃん、気を付けて。わたしの側から離れないで」
すぐにツァイシーは3本の矢をつがえる。
前方からC級魔族の群れ。S級魔族が召喚したものか。
ツァイシーの立て続けの弓射で問題なく殲滅。
だがまだ黒煙の晴れていないところから剣戟の音が聞こえてくる。おそらく
少し離れたところからズゥンッ、と何かが落ちた音。
マルグリットの着地した音か。そこからも金属の激しい衝突音が続く。
「シノはどうなったんだ。無事なのかっ?」
視界が限られている中、葵は辺りに呼びかける。
だが葵の声は剣戟の音にかき消されてしまう。
「ツァイシー! 頼む!」
まずはこの黒煙を晴らさないとうかつに動けない。葵の呼びかけにツァイシーは無言で矢をつがえ、上へ放った。
青い神仙気をまとった一矢。上空でパアッと分裂して落ちると、そこから黒煙が巻き上げられる。
周りの様子が見えるようになった。
葵のいる地点はガソリンスタンドからやや離れた道路。
そこから20メートルほど先ではマルグリットとテネスリードが戦っている。
ガソリンスタンドは炎に包まれている。
その近くにシノは──いた。S級魔族フォゼラムに腕を掴まれている。
フォゼラムの前には雛形結。捕らえられたシノをどうにか助けようとしているが、なかなか手が出せないでいる。
フォゼラムはシノの手を強引に引きながらカッツバルケルの刺突。
太刀で受け止めた結は大きく後退。そのスキにフォゼラムが剣先で魔法陣を展開。
ゾワゾワと召喚されたC級魔族に囲まれる結。
フォゼラムが魔法の力で飛翔。C級魔族をまとめて斬り払った結が追いすがるが、間に合わない。
ツァイシーが矢を放とうと構える──が、シノが盾代わりにされている。これでは射てない。
マルグリットと交戦しているテネスリードも跳んだ。
2体のS級魔族は空中で静止。空中に縦の亀裂が入る。
「創作者よ、この女は我らが預かる。助けたくば明日の朝8時に市庁舎まで来い。そこで貴様との雌雄を決しようではないか」
フォゼラムが裂けた空間を広げながら葵に話しかける。葵はふざけるな、と怒りを露にした。
「お前らの狙いは俺だろう! 人質なんか取らなくてもいつでも──今すぐにでも決着をつけてやるっ! シノを解放しろっ」
葵の怒りをあざ笑うかのようにテネスリードは頭のうしろに手を組みながら言った。
「あのホテルに立て籠られるのも厄介なんだけどさー、それ以上につまんないってさ、うちの
テネスリードはそのまま先に裂けた空間に飛び込み、姿を消した。
そしてフォゼラムも。最後にシノが引きずられるように空間の中へ。
「葵サンッ、わたしの事は気にしないでくだサイ! ただ魔族を倒すことだけに集中してくだサイ!」
悲痛なシノの声に、葵はただその名を繰り返し呼ぶことしかできなかった。
「シノッ……シノ! 待っててくれ、必ず助けに行くから──シノッ!」
「葵サン! あなたなら魔族に打ち勝てることができマス! 人間の創作はすべての、みんなの希望にナル。あなたの想像の──創造の力を見セテ」
裂けた空間に完全に飲み込まれ、シノは姿を消した。