エピローグ
文字数 1,433文字
あれから1ヶ月が過ぎていた。
あの戦いのあと、シノの正体も勝敗の行方も知らない
1週間後にようやく現れたのは葵でも魔族でもない。国連軍だった。
瑞希は幼い姉妹、菜穂と美穂とともに国連軍に保護され、ほぼ強制的に入院。
その後、生存者が集められた施設で過ごし、今日ようやく外出の許可がおりたのだった。
軍が機能しているということは、ある程度の人間は生き残っているのだろうか。
施設では個室に閉じ込められていたため、確認ができない。姉妹とも離ればなれになってしまった。
世話をしてくれる兵士や病院の医師に聞いたが何ひとつ教えてくれなかった。
会話といえば一方的な質問のみ。
まず魔族のこと。その姿、特徴、出現時期。なぜ突然消えたのか。
瑞希にしては思い出したくもないことだったが、こちらの要求を通すためには協力せざるを得なかった。
そしてどうやって生き残ったのか。
この質問には瑞希は嘘をついた。
葵と戦神八姫のことは話していない。
これはあの姉妹とも約束していたことだ。
もし無事に生き残ったとしても、あの魔導書のことは誰にも話さないと。
瑞希自身、どうしてそう思ったのかわからなかったが、軍の態度や自身の状況からその判断は間違ってなかったと思っている。
様々な質問に答える見返りに、瑞希はまずふたりの姉妹に会うことを要求。
だがふたりはすでに遠方の施設に送られたとのことで日数がかかるという返答だった。
瑞希はその間にある場所へ行くことをさらに要求した。
これはあっさりと承諾され、ヘリに乗せられ現地に到着したのだった。
ヘリ内ではアイマスクを付けられ、外の様子を見ることができなかった。
ヘリから降りてアイマスクは外せたが、左右はブルーシートで覆われて進路方向しか見えない。
シートの向こうでは武装した兵士の影がいくつも動いているのが見えた。
瑞希が進む先──倒壊した建物の瓦礫の山。
そう、ここは葵が最後に行くと言っていた場所。市庁舎跡だ。
凄まじい戦いだったのがこの様子でわかる。
そして気になるのは葵の行方だ。
魔族が消滅したのなら葵は勝ったということ。シノも救い出されたはず。だがふたりは戻ってこない。軍にも保護されていない。
ここに来ればなにか手がかりでもあるかもしれないと思っていたが、瑞希は不安で押し潰されそうになる。
もしかしたら葵は……もう戻ってこないかもしれない。
瓦礫の上をヨロヨロと歩き、瑞希はへたり込んだ。
同行した若い医師が慌てて駆けつける。
「大丈夫かい。気分が悪いのでは?」
「いえ……なんでもないです。ただ……わたしの友人が最後にここへ来てたはずなんです」
「そうか……この辺りは特に破壊の状況がひどい。キミの友人がここへ何しに来たかは知らないが……これではもう……」
気遣うように手を差しのべてきた医師を無視し、瑞希は自力で立とうと手に力を入れた。
その時、ふと指に触れる革の感触──。
「あ、これ……」
瓦礫の隙間に埋まっている。
急いで瓦礫をどけ、埃を払ってみる。
表紙に魔法陣のような模様が型押しされているアンティークブック。
間違いなく、葵の持っていた魔導書、アンカルネ・イストワールだった。
ポタ、ポタッと表紙に水滴が落ちる。
瑞希の涙。瑞希は震えながら、でも声を出すのは堪えながら魔導書を抱き締めた。