1 制御不可能
文字数 2,212文字
ツァイシーと玉響 の戦い。これを止めるには……。
葵 は本に集中。もうひとり戦姫 を喚ぶ。3人同時召喚ははじめてだ。相当な精神力の消耗になるはず。
「アンカルネ・イストワール、発動」
「葵サン、無茶はいけませンヨ! 連続で戦姫を喚 んだりしたら、かなりの負担に──」
「それが狙いさ。そうすれば召喚時間切れが早まるはず」
本から飛び出したのは剛腕鉄拳娘リッカ・ステアボルト。
ゴズンッ、と着地したリッカは腕をブンブン振り回しながら不敵に笑う。
「おーおー、やってるねぇ。おもしろそーじゃん。オレも混ぜてくんねーかな」
「リッカ、ふたりを止めるんだ。学校のほうに被害が出ないように。これ以上建物が壊れるのはまずい」
「ようするにふたりまとめてブチのめせってことだろ。楽勝、楽勝」
脚部装甲の足裏から車輪をガシャッと出し、リッカはふたりに向かって突進。その発進の衝撃波で葵とシノは転倒した。
「いっっくぜええぇ!」
ローラーダッシュの途中で跳躍。ツァイシーと玉響のいる地点へ脚部装甲による踏みつけ 。
ボゴオッッ、と地面が陥没。石片や土砂を巻き上げる。
「猪女 か、面倒な」
「うるさいのが出てきたものよ。優雅さのかけらも無いわ」
ツァイシーと玉響は飛び退いてかわしていた。そしてふたり同時にげんなりした顔。
その二方向へリッカはガシャッ、と両拳を向ける。
「つべこべうるせーよ。ふたりまとめてくたばっちまえ!」
鉄拳飛環烈迅砲 をブッ放つ。
ツァイシーは柔軟な身体でのけぞってかわしたが、玉響は鬼兵召喚で壁のような妖 、ぬりかべを喚び出す。
鉄拳飛環烈迅砲 の一撃でぬりかべは粉々になったが、手甲 ははね返って校舎のほうへ。
葵とシノがあっと叫んだときには半壊の校舎を手甲が貫通。しばらくしてガラガラと崩れ落ちだした。
「ああっ、中にはまだ瑞希 や生存者たちが」
「こうしてはいられまセン。急ぎまショウ」
葵とシノが校舎に戻ったときにはすでに完全に崩れ、瓦礫の山と化していた。
瑞希たちが生き埋めになったと葵は青ざめたが、その瓦礫の向こう側から声。
瑞希と生存者たちだ。
無事だったのかと胸をなでおろす葵に向けて瑞希が駆け寄ってくる。
手を広げて迎えようとする葵に対し、気の強い幼なじみは強烈なローキックで応えた。
玉響とフォゼラムの戦いのときにはすでに瑞希の先導で中庭に避難していたらしい。
さすがは瑞希、とヒザをつきながら葵は嬉しそうに笑う。
だが瑞希は険しい表情のままで葵の胸ぐらをつかむ。
「さすがは、じゃないわよ。下手したらみんな死んでたかもしれないんだから。あんた考えなしにポンポン喚び出してるけど、全然制御できてないじゃない」
葵は何ひとつ言い返せなかった。
魔族 を撃退するまではいいが、そのあとは仲間割れ……葵の言うこともまともに聞きはしない。
「あの子たちも怯えてるわ。あんなんじゃ魔族たちと変わらないじゃない……」
瑞希が振り返る先──生存者たちが不安げな顔でこちらを見ている。中央には最初に助け出した幼い姉妹。
互いに寄り添って震えている……。
「しっかりしてよ……あの子たちもわたしたちもあんたに……あの戦姫に頼るしかないんだから」
その通りだ──。
葵は立ち上がる。そしてそのまま3人の戦姫が戦っている方へ向かっていく。シノがその腕をつかんだ。
「葵サン、どうするんでスカ」
「俺が……俺がやらなきゃダメだ。俺自身が彼女たちを止めなきゃ。じゃないとこれからも同じことの繰り返しだ」
シノの手を振り払い、走り出す。
3人の戦姫が戦いを繰り広げている場では矢が縦横無尽に飛び、大地は割れ、百鬼夜行のように妖たちが暴れている。
「お前たち、ヤメろっ! こんなことしてる場合じゃ──」
目の前を小鬼の集団が横切る。
それを追いかけるようにリッカがローラーダッシュから殴りつけ、蹴散らす。その衝撃波で葵はまたも転倒。うしろからシノが助け起こす。
「無理です、葵サン。戦いに夢中であの3人に葵サンの声は届いていまセン。こんなところにいたら巻き添えになってしまいマス」
「いや、あきらめない! 俺の創作物なんだ。俺の力で止めてみせる」
葵は再び立ち上がり、歩きだす。
「ちょこまか逃げ回りやがって! テメーなんか距離を詰めればよっ」
ツァイシーの矢を叩き落としながらリッカが肉薄。
ボッ、と剛拳を繰り出し、ツァイシーはかわしたものの弓を取り落とす。
「もらったあっ!」
リッカのさらに追撃の拳。ここでゴッ、とツァイシーの神仙気が発動。リッカの拳をかわしつつ、襟をつかみ、股下に手を入れ──投げ。
手足に装甲を着けた重量級のリッカがいとも簡単に宙に舞い、地面に叩きつけられる。
またも衝撃波。葵は地に伏せてなんとか耐えた。
「このっ……クソがっ」
リッカはすぐに立ち上がり、ツァイシーも身体から湯気を出しながら身構える。
ふたりがまた接近するところに葵も飛び込む。
「うおっ、葵! 危ねえぞっ」
「葵ちゃ──葵殿、下がれ!」
リッカとツァイシーの動きが止まる。よかった、止められた、と葵が喜んだのもつかの間。
月明かりに照らされていたその場所がフッ、と暗くなった。
葵たちが見上げると頭上には巨大な足裏が迫っていた。
「ダイダラボッチ──!」
玉響の召喚した妖。湖沼や山を作ったという伝承を持つ巨人。
その足裏が目の前まで。そして真っ暗闇と衝撃と轟音。葵の意識はそこで途絶えた。
「アンカルネ・イストワール、発動」
「葵サン、無茶はいけませンヨ! 連続で戦姫を
「それが狙いさ。そうすれば召喚時間切れが早まるはず」
本から飛び出したのは剛腕鉄拳娘リッカ・ステアボルト。
ゴズンッ、と着地したリッカは腕をブンブン振り回しながら不敵に笑う。
「おーおー、やってるねぇ。おもしろそーじゃん。オレも混ぜてくんねーかな」
「リッカ、ふたりを止めるんだ。学校のほうに被害が出ないように。これ以上建物が壊れるのはまずい」
「ようするにふたりまとめてブチのめせってことだろ。楽勝、楽勝」
脚部装甲の足裏から車輪をガシャッと出し、リッカはふたりに向かって突進。その発進の衝撃波で葵とシノは転倒した。
「いっっくぜええぇ!」
ローラーダッシュの途中で跳躍。ツァイシーと玉響のいる地点へ脚部装甲による
ボゴオッッ、と地面が陥没。石片や土砂を巻き上げる。
「
「うるさいのが出てきたものよ。優雅さのかけらも無いわ」
ツァイシーと玉響は飛び退いてかわしていた。そしてふたり同時にげんなりした顔。
その二方向へリッカはガシャッ、と両拳を向ける。
「つべこべうるせーよ。ふたりまとめてくたばっちまえ!」
ツァイシーは柔軟な身体でのけぞってかわしたが、玉響は鬼兵召喚で壁のような
葵とシノがあっと叫んだときには半壊の校舎を手甲が貫通。しばらくしてガラガラと崩れ落ちだした。
「ああっ、中にはまだ
「こうしてはいられまセン。急ぎまショウ」
葵とシノが校舎に戻ったときにはすでに完全に崩れ、瓦礫の山と化していた。
瑞希たちが生き埋めになったと葵は青ざめたが、その瓦礫の向こう側から声。
瑞希と生存者たちだ。
無事だったのかと胸をなでおろす葵に向けて瑞希が駆け寄ってくる。
手を広げて迎えようとする葵に対し、気の強い幼なじみは強烈なローキックで応えた。
玉響とフォゼラムの戦いのときにはすでに瑞希の先導で中庭に避難していたらしい。
さすがは瑞希、とヒザをつきながら葵は嬉しそうに笑う。
だが瑞希は険しい表情のままで葵の胸ぐらをつかむ。
「さすがは、じゃないわよ。下手したらみんな死んでたかもしれないんだから。あんた考えなしにポンポン喚び出してるけど、全然制御できてないじゃない」
葵は何ひとつ言い返せなかった。
「あの子たちも怯えてるわ。あんなんじゃ魔族たちと変わらないじゃない……」
瑞希が振り返る先──生存者たちが不安げな顔でこちらを見ている。中央には最初に助け出した幼い姉妹。
互いに寄り添って震えている……。
「しっかりしてよ……あの子たちもわたしたちもあんたに……あの戦姫に頼るしかないんだから」
その通りだ──。
葵は立ち上がる。そしてそのまま3人の戦姫が戦っている方へ向かっていく。シノがその腕をつかんだ。
「葵サン、どうするんでスカ」
「俺が……俺がやらなきゃダメだ。俺自身が彼女たちを止めなきゃ。じゃないとこれからも同じことの繰り返しだ」
シノの手を振り払い、走り出す。
3人の戦姫が戦いを繰り広げている場では矢が縦横無尽に飛び、大地は割れ、百鬼夜行のように妖たちが暴れている。
「お前たち、ヤメろっ! こんなことしてる場合じゃ──」
目の前を小鬼の集団が横切る。
それを追いかけるようにリッカがローラーダッシュから殴りつけ、蹴散らす。その衝撃波で葵はまたも転倒。うしろからシノが助け起こす。
「無理です、葵サン。戦いに夢中であの3人に葵サンの声は届いていまセン。こんなところにいたら巻き添えになってしまいマス」
「いや、あきらめない! 俺の創作物なんだ。俺の力で止めてみせる」
葵は再び立ち上がり、歩きだす。
「ちょこまか逃げ回りやがって! テメーなんか距離を詰めればよっ」
ツァイシーの矢を叩き落としながらリッカが肉薄。
ボッ、と剛拳を繰り出し、ツァイシーはかわしたものの弓を取り落とす。
「もらったあっ!」
リッカのさらに追撃の拳。ここでゴッ、とツァイシーの神仙気が発動。リッカの拳をかわしつつ、襟をつかみ、股下に手を入れ──投げ。
手足に装甲を着けた重量級のリッカがいとも簡単に宙に舞い、地面に叩きつけられる。
またも衝撃波。葵は地に伏せてなんとか耐えた。
「このっ……クソがっ」
リッカはすぐに立ち上がり、ツァイシーも身体から湯気を出しながら身構える。
ふたりがまた接近するところに葵も飛び込む。
「うおっ、葵! 危ねえぞっ」
「葵ちゃ──葵殿、下がれ!」
リッカとツァイシーの動きが止まる。よかった、止められた、と葵が喜んだのもつかの間。
月明かりに照らされていたその場所がフッ、と暗くなった。
葵たちが見上げると頭上には巨大な足裏が迫っていた。
「ダイダラボッチ──!」
玉響の召喚した妖。湖沼や山を作ったという伝承を持つ巨人。
その足裏が目の前まで。そして真っ暗闇と衝撃と轟音。葵の意識はそこで途絶えた。