3 秘奥義
文字数 2,955文字
「リッカ!」
矢を放ちながらツァイシーが走る。
リッカはグググ、と立ち上がろうとしているが、そこへ巨大な牛の魔族 が突っ込んでくる。
まとわりついた魔族とともに吹っ飛ばされるリッカ。地面に叩きつけられ、そこへさらに多数の魔族が襲いかかる。
「おのれっ」
ツァイシーは跳躍し、空中からの弓射。
だが空中には翼竜の魔族。跳び上がったところを巨大な爪に捕らえられ、そこへ大小の飛行型魔族が群がる。
「あちゃー、意外と早くやられちまったねぇ、お嬢ちゃんたち。どれどれ、トドメは俺っちが刺さないと功績にならんからねェ!」
S級魔族ウルルペクは喜悦の表情を浮かべながら、まずはリッカの倒れている地点へ近づく。
魔族が群がり、黒い山と化した塊に向けてウルルペクがギリギリと毒爪の狙いを定めたとき。
突然火山が噴火したかのように魔族の山が爆発。宙に舞いあげられた魔族の大半がバラバラに砕けていた。
中から現れたのはもちろんリッカ・ステアボルト。
ドカドカドカと魔族を投げつけながらウルルペクへ接近。そのどてっ腹に一撃を加えた。
「うごおぉっっ!」
身体をくの字に曲げ、吹っ飛ぶウルルペク。さらに双鉄拳飛環烈迅砲 が放たれ、顔面と胸にヒット。
空中でも飛行型魔族の群れが爆散していた。
青いオーラをまとったグォ・ツァイシー。
落下しながら連続弓射。神仙気をまとった矢はウルルペクの身体を数十本も貫く。
「ひえげぇっ! お前ら、死んだんじゃねーのかよっ!」
黒い体液をまき散らしながら地面を転がるウルルペク。
戻ってきた手甲 をガシャン、と装着したリッカ。
リッカもツァイシーも無傷ではない。負傷しながらも多数の魔族を撃破し、ウルルペクに一撃を加えたのだった。
「しんどかったけど、こーでもしねーとテメーに近づけねーからな。テメーをやればここらの魔族もちっとは怯むだろ」
倒れているウルルペクに向け至近距離で拳を向けるリッカ。
S級魔族はくやしそうに地面を叩く。
「くっそ、よくも純真な俺っちを騙しやがって! だがもうしょうがねえ。このダメージ、もう再起不能だよ。俺っち、降参するよ」
言いながら毒針のついた尾で不意討ち──。
リッカの肩あたりに刺さったかに見えたが、ギリギリでかわしていた。
「なにが純真だ。その面 でよく言うぜ」
そのまま長い尾を掴み、引き寄せる。そして渾身の拳打。グシャアッ、と顔面の砕ける感触。
周囲を取り囲んでいる魔族の群れはツァイシーが近づけさせない。
「!──コイツ!」
リッカは驚愕する。顔面を砕かれながらもウルルペクはリッカの腕を掴んでいた。今度は逆に引き寄せられる。
力まかせに投げられ、地面に叩きつけられる。
そして毒針つきの尾がドシュシュシュ、と上から刺してくる。
リッカは転がりながらかわしたが、ついに脇腹に毒針が突き刺さった。勝利を確信したウルルペクが叫んだ。
「やりいっ! ひとり殺したぜっ! あとはあの弓使いか」
背を向けてツァイシーのほうへ行こうとするウルルペク。先ほどリッカとツァイシーにやられた傷はもう癒えていた。
だがその背に鉄拳飛環烈迅砲 の一撃。
予想外の攻撃にウルルペクはまともに喰らい、前のめりに倒れる。
「おいおいっ、即死するはずだぜ、その毒はよ! テメーも不死身だってのか」
起き上がりながら振り向くウルルペク。
リッカは左腕を突き出し、脇腹を押さえながらグググ、と立ち上がる。
「……知ったことかよ。お前が完全にくたばるまでオレは死なねーってのは確かだけどな」
リッカは言いながら大量の血を吐いた。
ビビらせやがって、とウルルペクはもう相手にしない。
「あんま無理すんなよー。そのまま寝てりゃ、もちっと楽に死ねたかもしれねーのによ。まあ、それ以上動けねーだろうがな」
ウルルペクは再びツァイシーのほうへ視線を移す。
ツァイシーのほうはA級魔族を全て片付けていた。しかしこちらもおびただしい負傷。身体から放つ青いオーラも消えかけていた。
魔族の軍勢自体はまだまだ多い。じりじりとリッカとツァイシーに近づいてくる。
「ハハッ、これでもう終わりだねェ、お嬢ちゃんたち。俺っち楽しかったよォ!」
毒爪を伸ばし、ツァイシーへ飛びかかるウルルペク。
もう動けそうになかったツァイシーだったが、それに合わせてうしろへ跳んだ。
ちょうどリッカとツァイシーを結んだ対角線上にウルルペクがいる。
二戦姫同時攻撃 ──。
ふたりの残り少ない力を振り絞った攻撃。
矢と手甲 。前後に受けた衝撃でウルルペクの身体に大穴が空く。
「いっっっでえっ! やると思ったぜぇ、お嬢ちゃんたち! だがこの程度じゃなあ、俺っちの回復力を上回ることはできねーぜっ」
そんなことはふたりともわかっていた。
欲しいのは時間だった。
敵が回復し、動けるまでのわずかな時間。
S級魔族1体を倒すには少なくても戦姫 3人は必要。ふたりしかここに残らなかったのは、時間がないのとまだこの先で強敵が待ち受けているだろうから。
だが、戦姫単体で三戦姫同時攻撃 に匹敵する技を出す方法はある。
条件は残り少ない体力の時。そして己の命を燃やす決意。
──外すわけにはいかない。
秘奥義、神仙流星雨。
まず使ったのはツァイシー。
神仙気を最大限にまで高め、それを一矢に込めて上空へ放つ。
上空で矢は無数に分裂。数千、数万の青い軌跡となって地上に降り注いだ。
「あがあぁっ! あがががががっ!」
まだ動けないウルルペク、そして魔族の軍勢は凄まじい矢の雨にさらされて五体がバラバラに。
「まだだ、まだ終わらねーぞっ」
リッカのいる地点だけは矢の雨は降っていない。
リッカのボディースーツが紫色の光を放ち、手足の装甲がギュイイイイイ、と駆動音を響かせる。
リッカはウルルペクのほうへ背を向けた。そして前方へ双鉄拳飛環烈迅砲 。
その反動でゴッ、と接近。幻鋼駆動装甲 最高出力のダッシュも加わった体当たり。秘奥義、反動飛翔烈破靠 。
ウルルペクへ衝突──瞬時に大爆発が起こる。
S級魔族ウルルペクは再生もままならず消滅。あたりにいた魔族の軍勢も残らず蒸発した。
ふたりの秘奥義が発動したことによる相乗効果。
だがふたりは──。
ツァイシーは意外にも大地の上に立っていた。秘奥義の破壊力自体は戦姫に影響を及ばさないものだ。しかし。
ツァイシーの神弓【天穹】と矢筒【宝擶管】がボロボロと砕け落ちた。
ツァイシーのポニーテール。束ねた青い髪がバラッとほどけて顔にかかる。
ツァイシーはドシャッ、とヒザをつき、葵たちが向かった方向の空を見て一筋の涙を流した。
「葵 ちゃん……もう一度だけ会いたかった。一度だけでいいから、抱きしめてほしかった……」
ゆっくりと倒れ、静かに目を閉じる。その身体は青い光に包まれ、宙に浮き……やがて消えた。
リッカは……地面に大の字に寝そべり、空を見上げていた。
手足の装甲は完全に砕け散っている。毒の影響もまだ身体を冒し続けていたが、リッカはニッカリ笑って拳を突き出す。
「葵……絶対に負けんなよ。絶対にだ。結 ……葵の事を頼んだ……ぜ」
突き出した拳が力なく地面につくと、リッカの身体は紫の光に包まれ宙に浮いた。
そしてツァイシーのときと同じように儚く消えていった。
矢を放ちながらツァイシーが走る。
リッカはグググ、と立ち上がろうとしているが、そこへ巨大な牛の
まとわりついた魔族とともに吹っ飛ばされるリッカ。地面に叩きつけられ、そこへさらに多数の魔族が襲いかかる。
「おのれっ」
ツァイシーは跳躍し、空中からの弓射。
だが空中には翼竜の魔族。跳び上がったところを巨大な爪に捕らえられ、そこへ大小の飛行型魔族が群がる。
「あちゃー、意外と早くやられちまったねぇ、お嬢ちゃんたち。どれどれ、トドメは俺っちが刺さないと功績にならんからねェ!」
S級魔族ウルルペクは喜悦の表情を浮かべながら、まずはリッカの倒れている地点へ近づく。
魔族が群がり、黒い山と化した塊に向けてウルルペクがギリギリと毒爪の狙いを定めたとき。
突然火山が噴火したかのように魔族の山が爆発。宙に舞いあげられた魔族の大半がバラバラに砕けていた。
中から現れたのはもちろんリッカ・ステアボルト。
ドカドカドカと魔族を投げつけながらウルルペクへ接近。そのどてっ腹に一撃を加えた。
「うごおぉっっ!」
身体をくの字に曲げ、吹っ飛ぶウルルペク。さらに
空中でも飛行型魔族の群れが爆散していた。
青いオーラをまとったグォ・ツァイシー。
落下しながら連続弓射。神仙気をまとった矢はウルルペクの身体を数十本も貫く。
「ひえげぇっ! お前ら、死んだんじゃねーのかよっ!」
黒い体液をまき散らしながら地面を転がるウルルペク。
戻ってきた
リッカもツァイシーも無傷ではない。負傷しながらも多数の魔族を撃破し、ウルルペクに一撃を加えたのだった。
「しんどかったけど、こーでもしねーとテメーに近づけねーからな。テメーをやればここらの魔族もちっとは怯むだろ」
倒れているウルルペクに向け至近距離で拳を向けるリッカ。
S級魔族はくやしそうに地面を叩く。
「くっそ、よくも純真な俺っちを騙しやがって! だがもうしょうがねえ。このダメージ、もう再起不能だよ。俺っち、降参するよ」
言いながら毒針のついた尾で不意討ち──。
リッカの肩あたりに刺さったかに見えたが、ギリギリでかわしていた。
「なにが純真だ。その
そのまま長い尾を掴み、引き寄せる。そして渾身の拳打。グシャアッ、と顔面の砕ける感触。
周囲を取り囲んでいる魔族の群れはツァイシーが近づけさせない。
「!──コイツ!」
リッカは驚愕する。顔面を砕かれながらもウルルペクはリッカの腕を掴んでいた。今度は逆に引き寄せられる。
力まかせに投げられ、地面に叩きつけられる。
そして毒針つきの尾がドシュシュシュ、と上から刺してくる。
リッカは転がりながらかわしたが、ついに脇腹に毒針が突き刺さった。勝利を確信したウルルペクが叫んだ。
「やりいっ! ひとり殺したぜっ! あとはあの弓使いか」
背を向けてツァイシーのほうへ行こうとするウルルペク。先ほどリッカとツァイシーにやられた傷はもう癒えていた。
だがその背に
予想外の攻撃にウルルペクはまともに喰らい、前のめりに倒れる。
「おいおいっ、即死するはずだぜ、その毒はよ! テメーも不死身だってのか」
起き上がりながら振り向くウルルペク。
リッカは左腕を突き出し、脇腹を押さえながらグググ、と立ち上がる。
「……知ったことかよ。お前が完全にくたばるまでオレは死なねーってのは確かだけどな」
リッカは言いながら大量の血を吐いた。
ビビらせやがって、とウルルペクはもう相手にしない。
「あんま無理すんなよー。そのまま寝てりゃ、もちっと楽に死ねたかもしれねーのによ。まあ、それ以上動けねーだろうがな」
ウルルペクは再びツァイシーのほうへ視線を移す。
ツァイシーのほうはA級魔族を全て片付けていた。しかしこちらもおびただしい負傷。身体から放つ青いオーラも消えかけていた。
魔族の軍勢自体はまだまだ多い。じりじりとリッカとツァイシーに近づいてくる。
「ハハッ、これでもう終わりだねェ、お嬢ちゃんたち。俺っち楽しかったよォ!」
毒爪を伸ばし、ツァイシーへ飛びかかるウルルペク。
もう動けそうになかったツァイシーだったが、それに合わせてうしろへ跳んだ。
ちょうどリッカとツァイシーを結んだ対角線上にウルルペクがいる。
ふたりの残り少ない力を振り絞った攻撃。
矢と
「いっっっでえっ! やると思ったぜぇ、お嬢ちゃんたち! だがこの程度じゃなあ、俺っちの回復力を上回ることはできねーぜっ」
そんなことはふたりともわかっていた。
欲しいのは時間だった。
敵が回復し、動けるまでのわずかな時間。
S級魔族1体を倒すには少なくても
だが、戦姫単体で
条件は残り少ない体力の時。そして己の命を燃やす決意。
──外すわけにはいかない。
秘奥義、神仙流星雨。
まず使ったのはツァイシー。
神仙気を最大限にまで高め、それを一矢に込めて上空へ放つ。
上空で矢は無数に分裂。数千、数万の青い軌跡となって地上に降り注いだ。
「あがあぁっ! あがががががっ!」
まだ動けないウルルペク、そして魔族の軍勢は凄まじい矢の雨にさらされて五体がバラバラに。
「まだだ、まだ終わらねーぞっ」
リッカのいる地点だけは矢の雨は降っていない。
リッカのボディースーツが紫色の光を放ち、手足の装甲がギュイイイイイ、と駆動音を響かせる。
リッカはウルルペクのほうへ背を向けた。そして前方へ
その反動でゴッ、と接近。
ウルルペクへ衝突──瞬時に大爆発が起こる。
S級魔族ウルルペクは再生もままならず消滅。あたりにいた魔族の軍勢も残らず蒸発した。
ふたりの秘奥義が発動したことによる相乗効果。
だがふたりは──。
ツァイシーは意外にも大地の上に立っていた。秘奥義の破壊力自体は戦姫に影響を及ばさないものだ。しかし。
ツァイシーの神弓【天穹】と矢筒【宝擶管】がボロボロと砕け落ちた。
ツァイシーのポニーテール。束ねた青い髪がバラッとほどけて顔にかかる。
ツァイシーはドシャッ、とヒザをつき、葵たちが向かった方向の空を見て一筋の涙を流した。
「
ゆっくりと倒れ、静かに目を閉じる。その身体は青い光に包まれ、宙に浮き……やがて消えた。
リッカは……地面に大の字に寝そべり、空を見上げていた。
手足の装甲は完全に砕け散っている。毒の影響もまだ身体を冒し続けていたが、リッカはニッカリ笑って拳を突き出す。
「葵……絶対に負けんなよ。絶対にだ。
突き出した拳が力なく地面につくと、リッカの身体は紫の光に包まれ宙に浮いた。
そしてツァイシーのときと同じように儚く消えていった。