6 さらなる探索

文字数 2,890文字

 葵たちのいる学校を見下ろせるビルの屋上。
 そこには以前のようにヤギ角の青年、フォゼラムと学者ふうのネコ少年、テネスリードが先ほどのツァイシーと魔族の戦闘を観察していた。

「へえ……なかなかやるね、あの人間。ん? 人間なのかな。この世界の人間って、僕らにダメージを与える方法がないはずだよね」

 金網の上で足をプラつかせながらテネスリードが聞く。フォゼラムはフム、と考える仕草を見せてから口を開いた。

「人であって人にあらず……微量の魔力を感じるが、魔導生物や兵器というわけでもない。可能性としては魔導具によって具現化された想像上の人物……か」

「え、それって──」

(マスター)に確認する必要があるな。それよりテネスリード。また持ち場を離れて問題はないのか」

「それなら大丈夫だよ。抵抗する人間どもの軍隊はほぼ壊滅したからね。あとは部下たちにテキトーにやらせとくさ。こっちのほうが断然おもしろい」

「……まだあそこの人間には手を出すな。その代わりA級魔族の使用許可が出た。明日にでもこの街に投入する」

「ん~、やっぱり(マスター)としても看過できないってことなのかな? わけわかんないけど、それならここのヤツらも終わりかもね。だったらつまんなくなるな~」

 むくれるテネスリードに、フォゼラムは苦笑する。

「どうかな……。どちらしろ、我々のうち誰かひとりでも出れば一瞬で終わることだがな」


 ✳ ✳ ✳


 翌日。葵とシノは昼すぎに学校を出る。
 目的は昨日よりも遠い距離を探索することだ。

 学校を出てすぐには魔族(グリデモウス)は出現しなかった。
 昨日、一昨日の戦闘の影響なのだろうか。

 戦姫(せんき)雛形結(ひながたゆい)を召喚している。
 戦神八姫(せんじんはっき)の中でもバランスタイプで不測の事態にも対応しやすい。
 
「葵様、絶対にわたくしより離れませぬように。敵がどこぞに潜んでいるかわかりませぬから」

 雛形結が葵の横にぴったりくっつきながら歩く。
 葵はまず瑞希の家へ向かった。瑞希に頼まれていたし、自分の家のことも気になっていた。

 道中ではやはり人は見当たらない。呼びかけてもみるが、返事はなかった。
 
「魔族が出てこないのは助かるけど……くそっ、無事な人はもういないのか」

 瑞希の家に到着。外観は特に変化は見られない。無駄とはわかっていたが、一応インターホンを押す。
 応答はない。ドアの取っ手を引くと、簡単に開いた。そのまま中へ。

 瑞希の両親とも葵は親しい。おじさん、おばさん、と呼びかけるが……やはり反応はない。

 すべての部屋を見て回り、最後に瑞希の部屋へ。
 瑞希の部屋に入るのは中学の時以来。
 葵はなんだかドキドキしながら部屋の中へ入る。
 シノの部屋のようにかわいいインテリア等はなかったが、よく片付けられている。本棚にはずらっとたくさんの本が並べられていた。

 この部屋にも特になにもない。葵が背を向けて部屋を出ようとしたとき──。
 ガバアッ、とクローゼットから黒い塊が飛び出してきた。
 小型の魔族。葵を押し倒し、ガアッと涎をまき散らしながら牙をむく。葵が叫ぼうとしたその瞬間。
 ドッ、と結が太刀の鞘尻で打ちつけ、魔族は壁に叩きつけられる。
 ズリリ、と床に落ちる前に結が踏み込む。
 鞘から半分抜いた刃を押し当てられ、魔族はブジイッと潰れるように消滅した。

「お怪我はありませんか、葵様! ああ、申し訳ありません。反応が小さいので気配を見逃していました!」

 おろおろとうろたえながら結は葵を抱えあげ、瑞希のベッドの上へ。
 葵を横に寝かせ、自身はその上に覆い被さろうとする。

「ちょ、ケガはしてないし! なにしようとしてんの!?
 
「もちろん添い寝です。わたくしの身体に触れていると癒しの効果があるのですよ。あ、お召し物を脱いだほうが効果が倍増します」

 結に服を引っ張られ、葵は結局叫び声をあげるはめになる。幼なじみのベッドの上で裸にされるってどんなプレイだ、と。
 

 ✳ ✳ ✳


 シノから拳骨をもらった結は仏頂面であとから付いてくる。
 葵は自分の家にも寄ってみたが、中はやはり荒らされているとかの異常はなかった。
 両親はまだ海外にいるはずだが……この魔族出現が世界中で起きている現象なら無事な可能性は低い。
 ともかく確認のしようがないことがもどかしかった。

「葵サン、これからどうしマス? いったん学校へ戻りまスカ?」

 シノが聞いてきた。結を召喚してまだそれほど時間は経ってないし、まだまだ余裕がある感じだったので葵はいや、と答える。

「近くのショッピングモールへ行ってみよう。あそこは大勢の人がいたはずだ。もしかしたら隠れている人がいるかも」

 葵はシノと結とともにショッピングモールへ移動。
 広い駐車場には多くの車が停まったままだ。
だが人の気配はない。
 ここで結がずい、と前に出てくる。

「お気をつけ下さい。ここから先は敵がいます。建物内にはさらに多くの気配が。殲滅するにはわたくしひとりいれば十分ですが」

「……うん、戦うのは任せるよ、結。だけどもしものことがあればすぐに別の戦姫を喚び出すから」

 複数の戦姫を喚び出せばそれだけ召喚時間が短くなる。この前の感覚からすると、時間差で喚び出した戦姫でも関係なく一斉に戻ってしまうようだった。
 あと気を付けなければいけないのは戦姫の相性。
 それぞれのキャラクターの性格は把握しているつもりだったが、この前の結とリッカは最悪だった。
 もしもうひとり喚ぶような事態になっても、慎重に選ばないといけない。

 結が一歩、駐車場へ足を踏み入れる。
 ゾアアア、と車の陰から魔族の群れが這い出てきた。
 結は太刀をズラア、と抜いて鞘をこちらに投げてよこした。

「そこでお待ちください。すぐに片付けますゆえ」
  

 
 
 学校を見下ろせるビルの屋上。
 そこには以前のようにヤギ角の青年、フォゼラムと学者ふうのネコ少年、テネスリードが先ほどのツァイシーと魔族の戦闘を観察していた。

「へえ……なかなかやるね、あの人間。ん? 人間なのかな。この世界の人間って、僕らにダメージを与える方法がないはずだよね」

 金網の上で足をプラつかせながらテネスリードが聞く。フォゼラムはフム、と考える仕草を見せてから口を開いた。

「人であって人にあらず……微量の魔力を感じるが、魔導生物や兵器というわけでもない。可能性としては魔導具によって具現化された想像上の人物……か」

「え、それって──」

(マスター)に確認する必要があるな。それよりテネスリード。また持ち場を離れて問題はないのか」

「それなら大丈夫だよ。抵抗する人間どもの軍隊はほぼ壊滅したからね。あとは部下たちにテキトーにやらせとくさ。こっちのほうが断然おもしろい」

「……まだあそこの人間には手を出すな。その代わりA級魔族の使用許可が出た。明日にでもこの街に投入する」

「ん~、やっぱり(マスター)としても看過できないってことなのかな? わけわかんないけど、それならここのヤツらも終わりかもね。だったらつまんなくなるな~」

 むくれるテネスリードに、フォゼラムは苦笑する。

「どうかな……。どちらしろ、我々のうち誰かひとりでも出れば一瞬で終わることだがな」


 
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