プロローグ

文字数 677文字

 魔族(グリデモウス)の大軍。
 異形の軍団が雪崩のように押し寄せてくる。
 
 黒いゴムのような身体に赤い目玉、大きく裂けた口。そこからのぞく鋭いキバ。

 翼を持つ魔族も何百と飛来。街の空をそのまま覆いつくしそうだ。

 少年──佐賀野葵(さがのあおい)は魔族の軍勢の前にひとり立ちはだかる。
 戦えるのは自分しかいない。この魔族どもを倒せるのは自分しかいないのだ。

 ひとりの少女の言葉を思い出す。

『人間の創作はすべての、みんなの希望にナル。あなたの想像の──創造の力を見セテ』

 一冊の本を取り出し、表紙へ手をかざす。
 表紙の魔法陣の模様がボウッと光を放つ。

「アンカルネ・イストワール、発動──」

 本から飛び出してきたのは8人の少女。
 葵の書いた小説【葵の戦神八姫】のキャラクターたちだ。

「ああ、見せてやるよ。これが俺の創造の力だ」

 少女たちは包囲する魔族に向かって突進。
 太刀で斬り裂き、拳で打ち砕き、槍で貫き、矢で射落とす。
 たちまち魔族どもの死骸の山を築く。

 なおも怯まず迫ってくる魔族の軍勢。
 戦姫(せんき)たちが炎で焼き払い、鬼兵を召喚してぶつける。衝撃波で蹴散らし、大剣で叩き潰した。

 魔族の軍勢が真っ二つに割れた。この先にいる。ヤツらの王。(マスター)と呼ばれる存在が。
 そいつを倒し、日常を、平和な日々を取り戻す。俺が──この戦姫たちと一緒に。

 いや、大勢の人間が死んだ。魔族の王を倒しても死んだ者は帰ってこない。平和な日常など戻ってこないかもしれない。この世界に残された人類はもうわずかなのかもしれない。それでも──。

「俺しかいないんだ。俺がやらなきゃ……」

 葵は戦姫たちが切り開いた道を歩き出した。
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