8 エスパス・エトランジェ
文字数 2,106文字
アラームの電子音。
うっすらと目を開けた葵 はわっと声をあげて飛び起きた。
目の前にはシノ。隣の部屋にいたはずなのだが、なぜか同じベッドの上に。
シノの姿はホテルのバスローブ姿。美しい金髪はしっとりと水気を帯びていた。
「な、なんでここにいるんだよ。それにその格好……」
「久しぶりのシャワーはいいものでスネ。魔族 が出てからは濡れタオルで身体を拭くぐらいしかできなかったノデ」
「し、質問の答えになってないぞ……。まてまて、前にもこんなことあったな」
「葵サン……あなたは本当にスゴイ。魔法も使えないのに短期間で魔導書アンカルネ・イストワールを使いこなせていマス。しかもS級魔族さえ退けるその力……。あなたの精神力と創造力は本物デス。わたし、感動しまシタ」
「い、いや、あんまり実感はないな。実際に戦っているのは戦姫 たちだし。俺がスゴいっていうより、彼女たちが俺の想像を超えて強いっていうか」
「そんな葵サンにわたしからぜひお礼がしたいのデス。受け取ってほしい……わたしの大切な……」
シノがそう言いながらバスローブから見える豊満な胸元に手を突っ込む。
「うわっ、なにやってんだ! み、見える……!」
両手で顔を覆いながらも葵は指の隙間から覗き見してみると──シノの手に握られているのは短剣だった。
柄にはあの魔導書アンカルネ・イストワールの表紙に似たような模様の装飾。中心には青い宝石が埋め込まれている。
「この短剣はエスパス・エトランジェという魔導具デス。わたしがお祖父様の形見として持ってたモノですが、これはアンカルネ・イストワールと同じく創造力で効果を発揮するのデス。今のあなたなら十分に使いこなすことができるでショウ」
短剣を渡され、葵はおそるおそる柄や刃の部分を触ってみる。
ヴン、と青い宝石がわずかに光ったように見えた。
「でも、お祖父さんの形見なんだろ? そんな大事なモノなのを俺に?」
「葵サンだから渡すのデス。S級魔族を退けた今、これからの戦いはもっと激化するでショウ。葵サン自身に危害が及ぶことだって考えられマス。だからこれを護身用に持っていてくだサイ」
そう言ってシノは抱きついてきた。
驚きで口も利けない葵の耳元で囁く。
「絶対に死んではいけませンヨ。あなたはこの世界に残された最後の希望。魔族に侵食された世界を……いえ、まずはこの街を奪還するのですカラ」
葵から離れ、ニコリと笑うシノ。
ぽかんと口を開けたまま短剣を握りしめた葵を部屋に残し、そのまま部屋を出ていった。
✳ ✳ ✳
学校までの帰路では伝説の傭兵、グォ・ツァイシーを護衛として召喚。
召喚早々、葵ちゃんっ、と飛びついてきたのだがシノが近くにいるとわかると途端に突き飛ばされた。
「な、なれなれしく触るな、射殺 すぞ」
「いてて、俺が何したっていうんだ……」
「ふたりとも、遊んでる場合ではありませンヨ。さっそく魔族のおでましデス」
ズオオオ、と放置された車の下や建物の陰から黒い塊が這い出てくる。このグニグニして形が定まっていないのはC級魔族。
たいした相手ではないが数が多い。たちまち30ほどの個体に囲まれた。
「わたしに任せておけ──」
ゴウッ、と押し寄せてくる赤い目玉のバケモノたち。だが近づく前にツァイシーの矢に次々射ぬかれてバタバタと倒れる。
後続の魔族が仲間の死骸を盾に突っ込んできた。だがこれもツァイシーの神仙気による矢で盾ごと貫通。新たな死骸を重ねるだけだった。
そういった攻防を繰り返しながら学校に到着。
今度はここから瑞希や生存者たちをビジネスホテルまで移送しなければならない。
一度に全員では目立つし危険だ。半数ずつ10名ほど2隊に分け移動。それも別ルートから。これが安全に思えた。
ツァイシーに加え、喚び出すのは先ほど召喚したばかりの鬼斬りの巫女、雛形結 。これを第1隊の護衛とする。
第2隊には鉄拳豪腕娘、リッカ・ステアボルトと聖王女マルグリット・ベルリオーズ。
護衛という形だから鴫野 みさきと玉響 には向いていない。この4人がベストだろう。
第1隊を率いるのは葵自身。そして瑞希と9人の生存者がメンバーだ。
第2隊を率いるのはシノ。そこには立山と残りの8人の生存者のメンバーとなる。
少し気になるのは文芸部部長の立山。
霊体のS級魔族襲撃のあとから様子がおかしい。
ぼうっとしていることが多く、なにかブツブツと呟いている。他の生存者たちは不気味がって近寄ろうとしない。
葵や瑞希が話しかけてもうわの空か、過剰に反応して怯えるだけだった。
シノにも大丈夫なのかと確認したが、問題ないデス、と自信ありげに答えたので任せることにした。
この移送作戦……葵自身が見えない、離れた場所で戦姫が戦うことになるのだが、これには自信があった。
最近気付いたことだが、戦姫を召喚している最中に本を開くとマップのような画面が広がり、戦姫の位置を確認できる。
さらにそこに触れると直接会話して指示を送ることもできた。
「気をつけてくれ、シノ。戦姫たちがいるから安全だとは思うけど」
「はい。大丈夫……あなたの創造力と戦神八姫 の力を信じていますカラ」
うっすらと目を開けた
目の前にはシノ。隣の部屋にいたはずなのだが、なぜか同じベッドの上に。
シノの姿はホテルのバスローブ姿。美しい金髪はしっとりと水気を帯びていた。
「な、なんでここにいるんだよ。それにその格好……」
「久しぶりのシャワーはいいものでスネ。
「し、質問の答えになってないぞ……。まてまて、前にもこんなことあったな」
「葵サン……あなたは本当にスゴイ。魔法も使えないのに短期間で魔導書アンカルネ・イストワールを使いこなせていマス。しかもS級魔族さえ退けるその力……。あなたの精神力と創造力は本物デス。わたし、感動しまシタ」
「い、いや、あんまり実感はないな。実際に戦っているのは
「そんな葵サンにわたしからぜひお礼がしたいのデス。受け取ってほしい……わたしの大切な……」
シノがそう言いながらバスローブから見える豊満な胸元に手を突っ込む。
「うわっ、なにやってんだ! み、見える……!」
両手で顔を覆いながらも葵は指の隙間から覗き見してみると──シノの手に握られているのは短剣だった。
柄にはあの魔導書アンカルネ・イストワールの表紙に似たような模様の装飾。中心には青い宝石が埋め込まれている。
「この短剣はエスパス・エトランジェという魔導具デス。わたしがお祖父様の形見として持ってたモノですが、これはアンカルネ・イストワールと同じく創造力で効果を発揮するのデス。今のあなたなら十分に使いこなすことができるでショウ」
短剣を渡され、葵はおそるおそる柄や刃の部分を触ってみる。
ヴン、と青い宝石がわずかに光ったように見えた。
「でも、お祖父さんの形見なんだろ? そんな大事なモノなのを俺に?」
「葵サンだから渡すのデス。S級魔族を退けた今、これからの戦いはもっと激化するでショウ。葵サン自身に危害が及ぶことだって考えられマス。だからこれを護身用に持っていてくだサイ」
そう言ってシノは抱きついてきた。
驚きで口も利けない葵の耳元で囁く。
「絶対に死んではいけませンヨ。あなたはこの世界に残された最後の希望。魔族に侵食された世界を……いえ、まずはこの街を奪還するのですカラ」
葵から離れ、ニコリと笑うシノ。
ぽかんと口を開けたまま短剣を握りしめた葵を部屋に残し、そのまま部屋を出ていった。
✳ ✳ ✳
学校までの帰路では伝説の傭兵、グォ・ツァイシーを護衛として召喚。
召喚早々、葵ちゃんっ、と飛びついてきたのだがシノが近くにいるとわかると途端に突き飛ばされた。
「な、なれなれしく触るな、
「いてて、俺が何したっていうんだ……」
「ふたりとも、遊んでる場合ではありませンヨ。さっそく魔族のおでましデス」
ズオオオ、と放置された車の下や建物の陰から黒い塊が這い出てくる。このグニグニして形が定まっていないのはC級魔族。
たいした相手ではないが数が多い。たちまち30ほどの個体に囲まれた。
「わたしに任せておけ──」
ゴウッ、と押し寄せてくる赤い目玉のバケモノたち。だが近づく前にツァイシーの矢に次々射ぬかれてバタバタと倒れる。
後続の魔族が仲間の死骸を盾に突っ込んできた。だがこれもツァイシーの神仙気による矢で盾ごと貫通。新たな死骸を重ねるだけだった。
そういった攻防を繰り返しながら学校に到着。
今度はここから瑞希や生存者たちをビジネスホテルまで移送しなければならない。
一度に全員では目立つし危険だ。半数ずつ10名ほど2隊に分け移動。それも別ルートから。これが安全に思えた。
ツァイシーに加え、喚び出すのは先ほど召喚したばかりの鬼斬りの巫女、
第2隊には鉄拳豪腕娘、リッカ・ステアボルトと聖王女マルグリット・ベルリオーズ。
護衛という形だから
第1隊を率いるのは葵自身。そして瑞希と9人の生存者がメンバーだ。
第2隊を率いるのはシノ。そこには立山と残りの8人の生存者のメンバーとなる。
少し気になるのは文芸部部長の立山。
霊体のS級魔族襲撃のあとから様子がおかしい。
ぼうっとしていることが多く、なにかブツブツと呟いている。他の生存者たちは不気味がって近寄ろうとしない。
葵や瑞希が話しかけてもうわの空か、過剰に反応して怯えるだけだった。
シノにも大丈夫なのかと確認したが、問題ないデス、と自信ありげに答えたので任せることにした。
この移送作戦……葵自身が見えない、離れた場所で戦姫が戦うことになるのだが、これには自信があった。
最近気付いたことだが、戦姫を召喚している最中に本を開くとマップのような画面が広がり、戦姫の位置を確認できる。
さらにそこに触れると直接会話して指示を送ることもできた。
「気をつけてくれ、シノ。戦姫たちがいるから安全だとは思うけど」
「はい。大丈夫……あなたの創造力と