6 真実
文字数 2,065文字
小さな街にしては大きく壮麗な様式の市庁舎。
税金のムダ遣いだと当時の市長はさんざん叩かれていたのを葵は思い出した。
最上階のテラスから姿を現すのはその市長ではない。
異世界からの突然の侵略者──魔族 。
葵 が過ごしていた、平凡だが平和でそれなりに楽しかった日常をあっという間に一変させた存在。
その元凶であり、助け出そうとしているシノにとっては家族や故郷の仇 。
その親玉がそこにいる。
込み上げる怒り。魔導書を握る手に力が入る。
怒りだけではない。当然ながら恐れもある。どんなに醜悪で恐ろしい姿をしているのか。
姿を現したのは──漆黒のローブをまとった人型の魔族。サイズ的には普通の人間と変わらない。
フードを目深にかぶり、その顔は見えない。
あまり強そうには見えないし、威圧感もない。いささか拍子抜けした葵。
ローブ姿の主 はふわっと浮いてテラスの欄干の上に。
即座にババッ、とS級魔族のフォゼラムとテネスリードが跪 いた。
さらに周りを囲んでいる魔族の群れも。
知能の低い低級の魔族までもが地べたに這いつくばっている。
魔族どもの様子からして本物の主だと葵は理解した。
葵はまばたきもせず、主をじっと見つめる。
魔族の主はゆっくりとフードを取る。
長い金髪が流れるように露になる。
青い瞳、美しい顔立ちもはっきりとわかる。
葵は絶句した。その姿はシノそのものだ。
シノの姿を真似ている魔族──。そう思い、葵はフォゼラムへ苛立ちながら問いをぶつける。
「なんの冗談だ、あれは。まさか魔族に化けさせてシノが無事だって言ってるつもりか」
フォゼラムは顔を伏せたまま答えた。
「いや……間違いなく我らの主。こちらの世界でシノ・メッシングと名乗っているあの方こそが我らの創造主 なのだ」
「ウソを……つくなっ! シノは故郷を滅ぼされてっ! 家族も殺されて……それでこっちの世界を救おうと今まで一緒に戦って……」
「ウソではありませンヨ。葵サン」
動揺する葵に優しく語りかけるのは主──シノだ。
「わたしが魔族の創造主 だとさっきフォゼラムが説明したでショウ。あ、わたし自身は魔族ではありませンヨ」
そう言ってローブの中から取り出したのは1冊の本。
葵には見覚えがある……どころではない。自分が今持っている魔導書アンカルネ・イストワールとまったく同じものだ。
「はじめから魔導書は2冊あったんでスヨ。この魔族たちはわたしの書いた物語から生まれた創造物。葵サン、あなたの戦神八姫 と同じ存在なのでスヨ」
魔族が魔導書から生み出された存在……。
何千、何万もの……。なんという創造力だと葵は身震いした。それと同時にいくつもの疑問がわいてくる。
「シノ、お前の元いた世界が滅びたってのはウソだったのか? お祖父さんが殺されたってのも……」
「いいえ、本当でスヨ。わたしの魔族がオーグルリオンを滅ぼしましたし、お祖父様を殺すよう命じたのもわたしデス」
「なんで……なんで、そんなこと」
「お祖父様は魔導の知識や力は平和な世には不要だとそれを封じようとしていまシタ。この魔導書もでスヨ。信じられないでしょう、こんな素晴らしいものヲ」
シノは魔導書をパラパラとめくり、そして頬に手を当てる。
「オーグルリオンでは創作が軽視されてるというのも事実でスヨ。わたしがいくら書いても考えても、わたしの小説は見向きもされなかッタ。そんな世界、滅びて当然でショウ」
「そんなことのために……故郷もお祖父さんも……信じられないよ、シノ。お前がそんなことするなんて」
「そうでスカ? 創作者とはそういうものでショウ。他人に見られたい、認められタイ……。思うような結果が出ないのは世界や人々のせい。だったら世界を変えるか滅ぼすしかないでショウ」
さらにシノは続ける。
「オーグルリオンを滅ぼして、創作がさかんなこの世界に来てみましタガ……。はっきり言って失望しまシタ。ネットのどのサイトの作品もランキングやポイントばかり重視されて、みんな上位者と似たようなモノばかりを書いて……人気が出なければすぐに次……そしてまた次。はたしてそれは創作といえるのでスカ?」
冷たく見下ろすシノの瞳。
突きつけられた真実と豹変したかのようなシノの言葉に衝撃を受けながらも、葵は声を張り上げる。
「だからこの世界も滅ぼそうっていうのか!」
「そうでスヨ。いけませンカ? でもこの世界にはチャンスを与えまシタ。ネットで偶然見つけたあなたの作品に出会えたからでスヨ」
チャンス……。この魔導書のことだろうか。だからシノは自分に魔導書を渡したのか。
「身勝手すぎる……。創作ってのは自由だし、選ぶのも読者の自由だろう。評価だってたしかに納得できないこともあるだろうけど、みんなの……ましてや世界のせいになんてしちゃいけない!」
葵の言葉にシノは眉ひとつ動かさない。
シノの持つ魔導書が光を放ち出した。
「だったら創作者同士、自分のキャラクターを戦わせて決着をつけまスカ。わたしの物語のほうが面白いし、わたしのキャラのほうが強イッ!」
税金のムダ遣いだと当時の市長はさんざん叩かれていたのを葵は思い出した。
最上階のテラスから姿を現すのはその市長ではない。
異世界からの突然の侵略者──
その元凶であり、助け出そうとしているシノにとっては家族や故郷の
その親玉がそこにいる。
込み上げる怒り。魔導書を握る手に力が入る。
怒りだけではない。当然ながら恐れもある。どんなに醜悪で恐ろしい姿をしているのか。
姿を現したのは──漆黒のローブをまとった人型の魔族。サイズ的には普通の人間と変わらない。
フードを目深にかぶり、その顔は見えない。
あまり強そうには見えないし、威圧感もない。いささか拍子抜けした葵。
ローブ姿の
即座にババッ、とS級魔族のフォゼラムとテネスリードが
さらに周りを囲んでいる魔族の群れも。
知能の低い低級の魔族までもが地べたに這いつくばっている。
魔族どもの様子からして本物の主だと葵は理解した。
葵はまばたきもせず、主をじっと見つめる。
魔族の主はゆっくりとフードを取る。
長い金髪が流れるように露になる。
青い瞳、美しい顔立ちもはっきりとわかる。
葵は絶句した。その姿はシノそのものだ。
シノの姿を真似ている魔族──。そう思い、葵はフォゼラムへ苛立ちながら問いをぶつける。
「なんの冗談だ、あれは。まさか魔族に化けさせてシノが無事だって言ってるつもりか」
フォゼラムは顔を伏せたまま答えた。
「いや……間違いなく我らの主。こちらの世界でシノ・メッシングと名乗っているあの方こそが我らの
「ウソを……つくなっ! シノは故郷を滅ぼされてっ! 家族も殺されて……それでこっちの世界を救おうと今まで一緒に戦って……」
「ウソではありませンヨ。葵サン」
動揺する葵に優しく語りかけるのは主──シノだ。
「わたしが魔族の
そう言ってローブの中から取り出したのは1冊の本。
葵には見覚えがある……どころではない。自分が今持っている魔導書アンカルネ・イストワールとまったく同じものだ。
「はじめから魔導書は2冊あったんでスヨ。この魔族たちはわたしの書いた物語から生まれた創造物。葵サン、あなたの
魔族が魔導書から生み出された存在……。
何千、何万もの……。なんという創造力だと葵は身震いした。それと同時にいくつもの疑問がわいてくる。
「シノ、お前の元いた世界が滅びたってのはウソだったのか? お祖父さんが殺されたってのも……」
「いいえ、本当でスヨ。わたしの魔族がオーグルリオンを滅ぼしましたし、お祖父様を殺すよう命じたのもわたしデス」
「なんで……なんで、そんなこと」
「お祖父様は魔導の知識や力は平和な世には不要だとそれを封じようとしていまシタ。この魔導書もでスヨ。信じられないでしょう、こんな素晴らしいものヲ」
シノは魔導書をパラパラとめくり、そして頬に手を当てる。
「オーグルリオンでは創作が軽視されてるというのも事実でスヨ。わたしがいくら書いても考えても、わたしの小説は見向きもされなかッタ。そんな世界、滅びて当然でショウ」
「そんなことのために……故郷もお祖父さんも……信じられないよ、シノ。お前がそんなことするなんて」
「そうでスカ? 創作者とはそういうものでショウ。他人に見られたい、認められタイ……。思うような結果が出ないのは世界や人々のせい。だったら世界を変えるか滅ぼすしかないでショウ」
さらにシノは続ける。
「オーグルリオンを滅ぼして、創作がさかんなこの世界に来てみましタガ……。はっきり言って失望しまシタ。ネットのどのサイトの作品もランキングやポイントばかり重視されて、みんな上位者と似たようなモノばかりを書いて……人気が出なければすぐに次……そしてまた次。はたしてそれは創作といえるのでスカ?」
冷たく見下ろすシノの瞳。
突きつけられた真実と豹変したかのようなシノの言葉に衝撃を受けながらも、葵は声を張り上げる。
「だからこの世界も滅ぼそうっていうのか!」
「そうでスヨ。いけませンカ? でもこの世界にはチャンスを与えまシタ。ネットで偶然見つけたあなたの作品に出会えたからでスヨ」
チャンス……。この魔導書のことだろうか。だからシノは自分に魔導書を渡したのか。
「身勝手すぎる……。創作ってのは自由だし、選ぶのも読者の自由だろう。評価だってたしかに納得できないこともあるだろうけど、みんなの……ましてや世界のせいになんてしちゃいけない!」
葵の言葉にシノは眉ひとつ動かさない。
シノの持つ魔導書が光を放ち出した。
「だったら創作者同士、自分のキャラクターを戦わせて決着をつけまスカ。わたしの物語のほうが面白いし、わたしのキャラのほうが強イッ!」