2 桐生カエデ
文字数 1,964文字
陽の光に目を細めつつ、辺りを見回す。
外にいたはずだが、体育館に運ばれていた。
天井は穴だらけで半ば崩落しているが。
敷かれたマットから身を起こすと、すぐにシノと
昨夜、
葵が気を失ったところ、召喚されていた3人は強制的に本に戻ったということだ。偶然とはいえ、
「まったく、無理しすぎですよ葵サン。戦姫が戦っている場に乱入なンテ」
「弱っちいクセに考えなしに突っ込んでいくところあるのよね……まあ、そういうところキライじゃないけど」
ふたりともあきれた顔。葵は頭をかきつつ、周りを見渡す。
生存者たち……無事なようだ。立山もなぜかジャージ姿だがケガはないようだ。
「でも……本来の力を発揮できないとはいえ、幽体のS級魔族を退けたのはスゴいことデス。葵サン、あなたは着実に力をつけていマス。ここで一気に攻勢に出るべきデス」
シノが葵の手を握りながらそう言った。
葵はまだクラクラする頭に顔をしかめつつ、攻勢? と聞き返す。
「そうデス。この街から完全に
「相手をかなり刺激することになるけど大丈夫なの? あのS級魔族ってのもひとりじゃないんでしょ。葵も完全に戦姫を制御できているわけじゃないし」
瑞希はあまり乗り気ではないようだ。
だが生存者を含めた話し合いの末、大勢の人間が滞在するのにここはもう無理だという結果になった。
校舎は崩壊し、体育館の屋根も穴だらけで雨風を防ぐこともできない。誰しもがそう思うのも無理はない。
「魔族を撃退しつつ、ここ以外の拠点を見つけて増やしていきまショウ。結界を張って中継地点とすれば戦姫の召喚時間を気にせずに済みまスシ」
「……複数の地点に結界を張る……。
「ええ。あの戦姫の出番でスネ。あの退魔師の──」
✳ ✳ ✳
学校からやや離れたスーパーマーケット。はじめの拠点はここに決めた。
前回の探索で生存者はいなかったが、まだ食べられる食糧はたくさんある。ここに結界を張れば、食糧の確保のための戦闘は当分避けられる。
「アンカルネ・イストワール、発動」
魔導書から戦姫を喚び出す。前回の探索でスーパーマーケット内の魔族はあらかた片付けたのだが、今日見てみると店内はまた黒いバケモノだらけだった。
「あの数……キリがないな。でもまずアイツらを倒さないと、結界を張るどころじゃない」
本から光とともに飛び出してきたのは──カーキ色のミリタリーシャツに黒のミニスカート、ブーツ。
ド派手なピンクのツインテールに長いネクタイをはためかせ、ギターケースを背負っている。
「イエーイ! やっっとカエデの出番! 葵パイセン、見ててよ~。ちゃちゃっと片付けるから!」
ギチィ、とレザーグローブを装着し、地面に放り投げたギターケースをバカッと開けて取り出したのは──金属バット。表面にはびっしりと
グオオオ、とC級魔族の群れが襲いかかる。
「臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前」
右手で九字切りを行いながら左手のバットで魔族たちを打ちのめしていく。
打たれた魔族たちはドロオ、と溶けるように液状化し、すぐに消えた。
さらに後続の魔族が押し寄せる。
カエデはバットを放り投げ、飛び退いて次にギターケースから取り出したのは複数の霊符。
ばっ、と前方にばらまいて印を結び、真言を唱える。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン!」
霊符の1枚がボッ、と燃え、それを皮切りに近くの霊符が次々と燃え上がる。
それは突っ込んできた魔族が触れると爆発を起こし、ドドドドンッ、と店全体を揺るがすほどの規模となった。
爆発の衝撃はカエデや葵たちにも被害を及ぼしそうなものだったが、印を結んだカエデの前から見えない壁のようなものに爆風や煙が止められている。
煙が収まった先……魔族は1体も残っていなかった。今の攻撃で全滅したようだった。
現役高校生にして退魔師。見た目は完全なアレだが、幼い頃から数々な怪異、霊障を解決してきた退魔のプロフェッショナルである。
カエデはドヤ顔で振り返り、レザーグローブを外しながら言った。
「パイセン~、こんな弱い相手ならカエデ喚ぶ必要なかったんじゃないの~? まあビビりのパイセンなら仕方ないか! あ、今回の報酬はツケておくから。ちゃんと記録するから絶対払ってよ!」