8 雛形結VSフォゼラム
文字数 2,279文字
みさきとマルグリットの立て続けの秘奥義を喰らい、S級魔族 テネスリードは消滅。
まわりの低級魔族はその衝撃波であらかた消し飛んだ。
秘奥義を放ったあとのマルグリットは槍を握ったまま立ち尽くしていた。葵 と目が合い、聖王女は泣きそうな顔で詫びる。
「勇者様……我は……これまでの……ようです。神の元へ旅立つ前に残りの敵も倒したかった……お許しください」
「──マルグリット!」
葵は駆け寄ってその小さな身体を抱き締めようとした。
だが触れようとした瞬間、マルグリットの身体は金色の光に包まれる。
葵の手をすり抜けたマルグリットは宙に浮き──そして消えていった。
葵はその場にヒザをつく。
「マルグリット……そしてみさきまで……なんでこんなことに」
「葵様っ、しっかり! こうなってはもう逃げられません! ここで決着をつけなければ!」
雛形結 の叱咤する声に葵は我にかえる。
結はひとりでS級魔族フォゼラムに立ち向かっている。
白妙のような斬閃を描き、怒涛の攻撃。
フォゼラムの顔からは余裕の表情が消え、身体のあちこちに傷が入っている。
「その巫女の言う通りよ、ヌシ様。妾 たちの力を侮るでないぞ」
化け狐と化した玉響 も、召喚したがしゃどくろと共に巨大な竜 、アドラフレストを相手に奮闘している。
この戦姫 ふたりの能力を限界以上まで引き出しているのは退魔師、桐生 カエデの術によるものだった。
カエデは大粒の汗を流しながら真言を唱え続けている。
「小癪な。まずはあの術師を倒すべきだったか」
フォゼラムの標的がカエデに。
カッツバルケルの刺突で結を弾き飛ばし、カエデに向けて一直線に走る──。
「させないっ!」
弾き飛ばされた結はビルの壁から電柱へと飛び移り、三角飛びの要領でフォゼラムの背に迫る。
「ちいっ」
振り返りざま、フォゼラムの薙ぎ払い。
結の打ち下ろしとぶつかり、激しい衝撃音──。
「はあああぁぁっ!」
結の裂帛 の気合い。カエデの強化術と合わさり、爆発的な力を生み出す。
神刀──鬼屠破斬魔ノ華叉丸 がカッツバルケルを両断、さらに左側のヤギ角を斬り飛ばした。
「バカな──! このわたしがっ」
額を押さえながらフォゼラムがよろめく。
結の追撃をなんとかかわし、飛翔。
魔法の力で翔べるフォゼラムは結が跳躍しても届かない高さまで上昇。そこから魔法弾を連射。
「卑怯者っ! 降りてきなさい!」
カエデをかばい、結は魔法弾を太刀で弾き返す。だがそれもフォゼラムまでは届かない。
さらにフォゼラムの周囲に複数の魔法陣が展開。そこからC級魔族がボタボタと落下。葵までもが魔族に囲まれた。
カエデは強化術を中断するわけにはいかない。
玉響は鬼兵召喚が使えるとはいえ、単身であのSS級魔族アドラフレストを足止めしている。
がしゃどくろはすでに粉々に砕かれ、天狗や雪女郎、小鬼やぬりかべが次々と召喚。
化け狐姿の玉響はアドラフレストとの戦闘で負傷している。それでいてこの連続召喚──かなりの負担になっているはずだ。
「葵様も危ない……どうすれば」
葵は短剣エスパス・エトランジェでかろうじて身を守っている。だが低級とはいえ、囲んでいる魔族の数は少なくない。
結はすぐにでも葵のもとへ駆けつけたいが、それでは今度はカエデが格好の標的となる。
術に集中しているカエデはあまりにも無防備だ。
「ハハハ、そこまでか、佐賀野葵 と戦神八姫 。やはり我らの創造主 のほうが優れた創作者だと証明できたわけだ」
フォゼラムは高らかに笑い、両手にバチバチと光る雷槍を出現させる。
打つ手がない──。
葵も結もそう思ったときだった。
フォゼラムの頭上に突然バサアッと広がる黒い翼。
「ぬうっ!」
反射的にフォゼラムが雷槍を突き出す。
黒い翼はそれに貫かれたが、同時に右腕のチェーンソーがフォゼラムの左肩から胸までを斬り裂いた。
「──貴様はっ……テネスリードとともに消滅したはず」
黒い片翼の持ち主は鴫野 みさきだった。
テネスリードもろともマルグリットの秘奥義を受けて死んだはずの。
「言ったよね、ボクは不死身だって」
驚異的な再生力で甦ったのか。しかしその身体は上半身のみで左腕もない。左目からもおびただしい出血。
ギャアアアアンッ、と凶悪な音を響かせる回転刃。さらにフォゼラムの身体に食い込む。
「おのれ、死に損ないめ」
フォゼラムは黒い体液を吐きながら雷槍を一閃、みさきの首を斬り飛ばした。
落下していくみさきの首。チェーンソーの右腕と胴体も力なく動きを止めた。
フォゼラムは雷槍を消し、治癒魔法の集中に入る。だが、みさきの首なしの胴体が再び動き出した。
「な……にィッ!」
ズギャアァンッ、とフォゼラムの腰にまで達した回転刃。
たまらず火炎魔法でみさきの胴体を焼き払ったが、さすがに飛翔の力を保てずフォゼラムは落下。
下で待ち受けるのは──片ヒザをつき、太刀を構えた巫女姿の少女。
「負ける? このわたしがっ?創造主 によって創られた完全な存在のわたしが」
「禍津祓極神明流奥義 ──」
結の立ち上がりながらの斬り上げ。
間欠泉のように破邪の気が噴出され、落ちてきたフォゼラムの身体をとらえる。
ドンッ、と打ち上げられたフォゼラム。
結はそこから半月を描くように太刀を振りかぶる。
シャアンッ、と鈴の音が鳴り、柄から切っ先までが巨大な白い光に覆われた。
「帷神 の道──」
渾身の袈裟 斬り。白い光の衝撃はフォゼラムを地面に叩きつけ、さらに伸びる。
真っ白に伸びた破邪の気は葵を囲んでいたC級魔族までも巻き込み、浄化したのだった。
まわりの低級魔族はその衝撃波であらかた消し飛んだ。
秘奥義を放ったあとのマルグリットは槍を握ったまま立ち尽くしていた。
「勇者様……我は……これまでの……ようです。神の元へ旅立つ前に残りの敵も倒したかった……お許しください」
「──マルグリット!」
葵は駆け寄ってその小さな身体を抱き締めようとした。
だが触れようとした瞬間、マルグリットの身体は金色の光に包まれる。
葵の手をすり抜けたマルグリットは宙に浮き──そして消えていった。
葵はその場にヒザをつく。
「マルグリット……そしてみさきまで……なんでこんなことに」
「葵様っ、しっかり! こうなってはもう逃げられません! ここで決着をつけなければ!」
結はひとりでS級魔族フォゼラムに立ち向かっている。
白妙のような斬閃を描き、怒涛の攻撃。
フォゼラムの顔からは余裕の表情が消え、身体のあちこちに傷が入っている。
「その巫女の言う通りよ、ヌシ様。
化け狐と化した
この
カエデは大粒の汗を流しながら真言を唱え続けている。
「小癪な。まずはあの術師を倒すべきだったか」
フォゼラムの標的がカエデに。
カッツバルケルの刺突で結を弾き飛ばし、カエデに向けて一直線に走る──。
「させないっ!」
弾き飛ばされた結はビルの壁から電柱へと飛び移り、三角飛びの要領でフォゼラムの背に迫る。
「ちいっ」
振り返りざま、フォゼラムの薙ぎ払い。
結の打ち下ろしとぶつかり、激しい衝撃音──。
「はあああぁぁっ!」
結の
神刀──
「バカな──! このわたしがっ」
額を押さえながらフォゼラムがよろめく。
結の追撃をなんとかかわし、飛翔。
魔法の力で翔べるフォゼラムは結が跳躍しても届かない高さまで上昇。そこから魔法弾を連射。
「卑怯者っ! 降りてきなさい!」
カエデをかばい、結は魔法弾を太刀で弾き返す。だがそれもフォゼラムまでは届かない。
さらにフォゼラムの周囲に複数の魔法陣が展開。そこからC級魔族がボタボタと落下。葵までもが魔族に囲まれた。
カエデは強化術を中断するわけにはいかない。
玉響は鬼兵召喚が使えるとはいえ、単身であのSS級魔族アドラフレストを足止めしている。
がしゃどくろはすでに粉々に砕かれ、天狗や雪女郎、小鬼やぬりかべが次々と召喚。
化け狐姿の玉響はアドラフレストとの戦闘で負傷している。それでいてこの連続召喚──かなりの負担になっているはずだ。
「葵様も危ない……どうすれば」
葵は短剣エスパス・エトランジェでかろうじて身を守っている。だが低級とはいえ、囲んでいる魔族の数は少なくない。
結はすぐにでも葵のもとへ駆けつけたいが、それでは今度はカエデが格好の標的となる。
術に集中しているカエデはあまりにも無防備だ。
「ハハハ、そこまでか、
フォゼラムは高らかに笑い、両手にバチバチと光る雷槍を出現させる。
打つ手がない──。
葵も結もそう思ったときだった。
フォゼラムの頭上に突然バサアッと広がる黒い翼。
「ぬうっ!」
反射的にフォゼラムが雷槍を突き出す。
黒い翼はそれに貫かれたが、同時に右腕のチェーンソーがフォゼラムの左肩から胸までを斬り裂いた。
「──貴様はっ……テネスリードとともに消滅したはず」
黒い片翼の持ち主は
テネスリードもろともマルグリットの秘奥義を受けて死んだはずの。
「言ったよね、ボクは不死身だって」
驚異的な再生力で甦ったのか。しかしその身体は上半身のみで左腕もない。左目からもおびただしい出血。
ギャアアアアンッ、と凶悪な音を響かせる回転刃。さらにフォゼラムの身体に食い込む。
「おのれ、死に損ないめ」
フォゼラムは黒い体液を吐きながら雷槍を一閃、みさきの首を斬り飛ばした。
落下していくみさきの首。チェーンソーの右腕と胴体も力なく動きを止めた。
フォゼラムは雷槍を消し、治癒魔法の集中に入る。だが、みさきの首なしの胴体が再び動き出した。
「な……にィッ!」
ズギャアァンッ、とフォゼラムの腰にまで達した回転刃。
たまらず火炎魔法でみさきの胴体を焼き払ったが、さすがに飛翔の力を保てずフォゼラムは落下。
下で待ち受けるのは──片ヒザをつき、太刀を構えた巫女姿の少女。
「負ける? このわたしがっ?
「
結の立ち上がりながらの斬り上げ。
間欠泉のように破邪の気が噴出され、落ちてきたフォゼラムの身体をとらえる。
ドンッ、と打ち上げられたフォゼラム。
結はそこから半月を描くように太刀を振りかぶる。
シャアンッ、と鈴の音が鳴り、柄から切っ先までが巨大な白い光に覆われた。
「
渾身の
真っ白に伸びた破邪の気は葵を囲んでいたC級魔族までも巻き込み、浄化したのだった。