3 リッカ・ステアボルト
文字数 2,326文字
翌朝──。
疲労感はまったく残っていない。
葵 は購買部にあったパンを皆に配りながらこれからのことを話した。
「危険かもしれないけど、俺は学校の外へ出て生き残っている人を探そうと思う。食料や水も確保しないといけないし。俺のこの本……【アンカルネ・イストワール】があれば大丈夫だと思うんだ」
この提案に、立山 が怯えた声を出す。
「キ、キミが出かけている間、僕らはここで待ってろってのか? あのバケモノが襲ってくるかもしれないのに!?」
「いや、結 の張った結界があるうちはここが一番安全だと思いますよ。現にあれ以来、学校内には入ってきてないし」
「で、でもキミが外でやられてしまったらどうするんだ!? その結界もなくなってしまうんじゃないのか!?」
立山の指摘どおりかもしれなかった。
結界を張ったのはアンカルネ・イストワールで喚び出した雛形結 だ。
本の持ち主であり作者である葵が死んでしまったら、その存在や能力も消えてしまうのではないか。
この疑問にはシノが答えた。
「そうでスネ。葵サンにもしものことがあれば、その本も結界も消滅してしまうでショウ。でも、街を探索するのには賛成デス。それだけ多くの魔族 に狙われることになるでしょうが、逆にチャンスなのデス」
「……チャンスってどういう意味? なんか葵が囮 になるって言ってるみたい」
瑞希 がシノを責めるように聞く。シノはたじろぐ様子もなく、そのとおりデスと微笑んだ。
「ヤツらは普通の人間の武器では絶対倒せない。だから葵サンがヤツらを倒せば倒すほど、注目を集めることになりマス。そうすれば上位の魔族 を誘き寄せることができるでショウ」
「それでいつかは魔族の王を──ってわけか。そこまで考えてたわけじゃないけど、それに賭けるしかなさそうだな」
葵は自分自身に言い聞かせるようにして体育館の出口へ向かって歩き出す。
「葵! ほんとうに行くつもり!? ムチャよ、いくら不思議な力を使えたって、あんなのがウジャウジャいたら──」
瑞希は泣き出しそうな顔をしている。
そんな表情を見せるのは初めてだった。
「大丈夫……絶対にムリはしないから。ヤバくなったらすぐに結界内に戻る。まずは学校周辺しか回らないから」
瑞希はまだなにか言おうと口を開きかけたが、葵はそれを見ないように背を向けて走り出した。
これ以上話していると決心が鈍りそうだったからだ。
校門前。昨日ここから出た生徒たちは一瞬のうちに切り刻まれてしまった。
結界内からは見えないが、複数の魔物が待ち受けているのだろう。
「アンカルネ・イストワール、発動」
魔導書の力を開放。表紙の魔法陣から光が回転しながら上昇。その中にはひとりの少女。
多対一の戦闘に優れた戦姫 。思いついたのはコイツだ──。
褐色の肌にコバルトバイオレットのベリーショート髪。
全身黒のボディースーツ。前腕部とヒザから下にゴツい装甲。
リッカ・ステアボルト。
荒廃した近未来で人々を襲う吸血機械生物 に対し、幻鋼強化駆動装甲 と滅却轟拳格闘術 で戦う少女。
年齢は16。雛形結 と同じ歳だが、小柄なので少し幼い印象だ。
ゴズン、と地面にめり込むほどの勢いで着地したリッカはギラギラした瞳で不敵な笑みを浮かべる。
「やーっとオレの出番かよ。んで、敵はこの先だよな、葵」
ろくに確認もせずリッカは葵の手を引き、校門の外へ。
「ちょ、ちょっと待て。いきなり無防備すぎる。心の準備が……」
葵が動揺している間に、電柱の陰や側溝からズオオオ、と黒い塊が這い出してくる。
ぐにぐにと形状が変化して赤い目玉と大きく開いた口が現れた。
間違いなく魔物 。しかも4体。
ガアアッ、と葵に牙をむき出して飛びかかってきた。
「ウラアッッ!」
リッカがその場で回転しながら右腕を振り回す。
1体目をラリアットで巻き込みながら2体目にぶつけ、そのまま地面に叩きつける。
2体の魔物は水風船が破裂するように弾け飛んだ。
残る2体。1体はリッカの足に組み付き、1体はその首筋に牙を突き立てる。
「リッカ!」
葵が叫ぶ。魔物に噛まれたリッカはヒザをついたかに見えたが──。
足にしがみついていた魔族に拳を振り下ろし粉砕。首に噛みついている魔族の頭部をわしづかみにし、握り潰した。
「葵、オレから離れんなよ。守ってやるからよ」
リッカはパンパンと手を払いながらニカッと笑った。
つられて笑う葵の背後からシノが感嘆の声をあげた。
「スゴいですね、今回の戦姫モ。最下級とはいえ、複数の魔族 をあっという間に倒すなンテ」
葵はおいおいと慌てて振り向く。
「シノ、なんで結界の外に出てきてるんだ。危ないだろ。早く学校に戻らないと」
「わたしとあなたは運命で結ばれた仲。あなたの戦いをわたしは近くで見届けねばなりまセン。ご心配ナク。初歩的な魔法しか使えませんがサポートは出来ますし、自分の身は自分で守れマス」
「う~ん、でもなあ……」
考える葵。家屋の屋根から1体の魔族が飛びかかってくるのにも気付かなかったが──。
「ハッ!」
シノが手の平から火球を放ち、魔族を撃墜。
地面に落ちた魔族はすぐに起き上がるが、胴体をリッカの拳に貫かれ崩壊する。
「やるじゃん、そこのデカチチ金髪。連れていこーぜ、葵。なんかの役には立ちそーだ。おっと、デカチチ。あんま葵にくっつくなよ。そいつはオレのモノなんだからな」
「わたしはデカチチではなくシノデス。それと葵サンはモノではなく、あなたの所有物でもありまセン」
「んだとぉ……生意気なクチ効くじゃねーか、コイツ」
両拳をゴン、と打ちつけてにらむリッカ。平然とにらみ返すシノ。
ま、まてまて、とふたりの間に入りながら葵は大きなため息をついた。
疲労感はまったく残っていない。
「危険かもしれないけど、俺は学校の外へ出て生き残っている人を探そうと思う。食料や水も確保しないといけないし。俺のこの本……【アンカルネ・イストワール】があれば大丈夫だと思うんだ」
この提案に、
「キ、キミが出かけている間、僕らはここで待ってろってのか? あのバケモノが襲ってくるかもしれないのに!?」
「いや、
「で、でもキミが外でやられてしまったらどうするんだ!? その結界もなくなってしまうんじゃないのか!?」
立山の指摘どおりかもしれなかった。
結界を張ったのはアンカルネ・イストワールで喚び出した
本の持ち主であり作者である葵が死んでしまったら、その存在や能力も消えてしまうのではないか。
この疑問にはシノが答えた。
「そうでスネ。葵サンにもしものことがあれば、その本も結界も消滅してしまうでショウ。でも、街を探索するのには賛成デス。それだけ多くの
「……チャンスってどういう意味? なんか葵が
「ヤツらは普通の人間の武器では絶対倒せない。だから葵サンがヤツらを倒せば倒すほど、注目を集めることになりマス。そうすれば上位の
「それでいつかは魔族の王を──ってわけか。そこまで考えてたわけじゃないけど、それに賭けるしかなさそうだな」
葵は自分自身に言い聞かせるようにして体育館の出口へ向かって歩き出す。
「葵! ほんとうに行くつもり!? ムチャよ、いくら不思議な力を使えたって、あんなのがウジャウジャいたら──」
瑞希は泣き出しそうな顔をしている。
そんな表情を見せるのは初めてだった。
「大丈夫……絶対にムリはしないから。ヤバくなったらすぐに結界内に戻る。まずは学校周辺しか回らないから」
瑞希はまだなにか言おうと口を開きかけたが、葵はそれを見ないように背を向けて走り出した。
これ以上話していると決心が鈍りそうだったからだ。
校門前。昨日ここから出た生徒たちは一瞬のうちに切り刻まれてしまった。
結界内からは見えないが、複数の魔物が待ち受けているのだろう。
「アンカルネ・イストワール、発動」
魔導書の力を開放。表紙の魔法陣から光が回転しながら上昇。その中にはひとりの少女。
多対一の戦闘に優れた
褐色の肌にコバルトバイオレットのベリーショート髪。
全身黒のボディースーツ。前腕部とヒザから下にゴツい装甲。
リッカ・ステアボルト。
荒廃した近未来で人々を襲う
年齢は16。
ゴズン、と地面にめり込むほどの勢いで着地したリッカはギラギラした瞳で不敵な笑みを浮かべる。
「やーっとオレの出番かよ。んで、敵はこの先だよな、葵」
ろくに確認もせずリッカは葵の手を引き、校門の外へ。
「ちょ、ちょっと待て。いきなり無防備すぎる。心の準備が……」
葵が動揺している間に、電柱の陰や側溝からズオオオ、と黒い塊が這い出してくる。
ぐにぐにと形状が変化して赤い目玉と大きく開いた口が現れた。
間違いなく
ガアアッ、と葵に牙をむき出して飛びかかってきた。
「ウラアッッ!」
リッカがその場で回転しながら右腕を振り回す。
1体目をラリアットで巻き込みながら2体目にぶつけ、そのまま地面に叩きつける。
2体の魔物は水風船が破裂するように弾け飛んだ。
残る2体。1体はリッカの足に組み付き、1体はその首筋に牙を突き立てる。
「リッカ!」
葵が叫ぶ。魔物に噛まれたリッカはヒザをついたかに見えたが──。
足にしがみついていた魔族に拳を振り下ろし粉砕。首に噛みついている魔族の頭部をわしづかみにし、握り潰した。
「葵、オレから離れんなよ。守ってやるからよ」
リッカはパンパンと手を払いながらニカッと笑った。
つられて笑う葵の背後からシノが感嘆の声をあげた。
「スゴいですね、今回の戦姫モ。最下級とはいえ、複数の
葵はおいおいと慌てて振り向く。
「シノ、なんで結界の外に出てきてるんだ。危ないだろ。早く学校に戻らないと」
「わたしとあなたは運命で結ばれた仲。あなたの戦いをわたしは近くで見届けねばなりまセン。ご心配ナク。初歩的な魔法しか使えませんがサポートは出来ますし、自分の身は自分で守れマス」
「う~ん、でもなあ……」
考える葵。家屋の屋根から1体の魔族が飛びかかってくるのにも気付かなかったが──。
「ハッ!」
シノが手の平から火球を放ち、魔族を撃墜。
地面に落ちた魔族はすぐに起き上がるが、胴体をリッカの拳に貫かれ崩壊する。
「やるじゃん、そこのデカチチ金髪。連れていこーぜ、葵。なんかの役には立ちそーだ。おっと、デカチチ。あんま葵にくっつくなよ。そいつはオレのモノなんだからな」
「わたしはデカチチではなくシノデス。それと葵サンはモノではなく、あなたの所有物でもありまセン」
「んだとぉ……生意気なクチ効くじゃねーか、コイツ」
両拳をゴン、と打ちつけてにらむリッカ。平然とにらみ返すシノ。
ま、まてまて、とふたりの間に入りながら葵は大きなため息をついた。