11 鴫野みさき
文字数 2,069文字
学校に戻り、数時間が過ぎた。
学校の周囲はいまだ大勢の魔族 に囲まれていて、時折結界にぶつかる音が聞こえてくる。
夜になってもそれは続き、怯える生存者……特に子供たちを瑞希 が落ち着かせに行っている。
葵とシノはこれからの魔族の対抗策を早急に考えなければいけなかった。
「このままじゃいつかこっちの結界が破られそうな勢いだな……その魔結界とかいうのをどうにかしないと」
「そうデス。アレを破らなければわたしたちの勝ち目はありまセン。あの魔結界は強力な闇属性の負荷を領域内全体にかけるモノ。聖属性や光の力を持つ戦姫では満足に動くことすらできないでショウ」
「だったら同じ闇属性の戦姫 を出せば……」
葵は戦姫八姫 の中でひとりの少女の名を口にする。
葵の小説を読んでいるシノももちろん知っている人物だが、どこか不安げな声を出した。
「たしかにその戦姫なら魔結界の影響を受けないかもしれまセン。でも、その人は……」
「……信じるしかない。いざというときは他の戦姫も出す。明日の朝、さっそくやってみよう」
✳ ✳ ✳
翌日の朝。
C級魔族に学校を包囲させ、自身は後方で休んでいたB級魔族は古木をねじ曲げたような杖を手に居丈高に号令を下す。
「おうおう、どんどん結界にぶち当たってプレッシャーかけていけよう! いひっひひ……。昨日のヤツらの逃げっぷり見たかよ。やっぱ人間てのは俺らに追われて惨めに死ぬのがお似合いさ。このS級サマから頂いた業魔 の杖さえありゃあ、コワイもんナシだぜ」
周囲のC級魔族は次々と学校の結界へ突っ込んでいく。
ゴウン、ゴオン、と鈍い衝突音から、わずかに甲高い音に変化しているのが分かる。
「こりゃあ人間の結界をぶち破るのも時間の問題だな。楽しみだぜェ、泣きわめく人間をいたぶり殺すのはよう。ああ、待ちきれねえ、俺もそろそろ動くか」
ところがピタリと衝突音が止んだ。
前に前にと突撃を繰り返していたC級魔族の動きも止まる。B級魔族はなんだァ~? と首をかしげ、それから怒鳴った。
「おいっっ! ナニやってんだ、テメーら! 俺はなあ、もう待ちきれねーんだよ! 人間どもを追い回してブチ殺してよう、創造力を食らいてーんだよッ!」
C級魔族の集団は再び動き出す。だが逆方向に。前のほうから後方へと雪崩をうって。まるでなにかから逃げるように。
「なんっ──逆だっ! オマエらっ、俺の言うことが聞けねーのかっ!」
C級魔族たちに押し流されながらB級魔族は見た。
前方からなにかが来る。C級魔族たちは切り刻まれ、引きちぎられ、絶叫しながら消滅している──ひとりの少女によって。
黒いセーラー服に黒髪おかっぱボブ。赤いカチューシャ、左目に眼帯。手足には包帯が巻きつけられている。
「敵かあっ!? なんでまともに動けてんだ! つーかオマエら、相手はひとりだ! さっさとブッ殺せよゥ!」
だが魔族の逃亡は収まらない。皆一様に顔をひきつらせ、悲鳴をあげている。これはまるで──。
「──恐怖しているだと? まさか魔族が、人間に? んなバカなことあるか、あるわけがねえ。オレらは恐怖を、絶望を与える存在だ。圧倒的な立場なんだ。しかも俺には魔結界を出せる杖がある」
セーラー服の少女。逃げまどう魔族たちに向け、容赦なく攻撃を加える。
その右腕がギュイイイインッ、と凶悪な回転音を発しながらチェーンソーへと変化。
触れるもの全てをズタズタに切り裂き、少女は全身に体液を浴びながら恍惚とした表情。
凶刃デッドエンドチェーンソー。
ドルドル、ドルンと腹に響くエンジン音がさらに恐怖を煽る。
今度は左腕が変化。その形状は白銀の体毛を持つ狼の頭部に。
魔狼マーナガルム。
その強靭で獰猛な顎は魔族たちを噛み砕き、食いちぎり、時に巨大化して丸飲みにする。
マーナガルムは大きく口を開けた。
ギュオオオ、と球体のエネルギーが収束されていく。
咆哮とともに吐き出された球体は数十体の魔族を一瞬のうちに粉微塵にしてしまう。
この【ハウリングキャノン】の威力の前に、B級魔族の周囲にいたC級はすべていなくなった。
「な、なんなんだ、お前っ! お前みたいな人間、見たことがねえっ!」
B級魔族は腰を抜かし、動けなくなった。
セーラー服の少女は目の前でクスクスと笑う。
「ボク? ボクは鴫野 みさき。いっぺんは呪殺された身だけどね。この通り、五体を悪魔に捧げたことによって復活したんだ。みんなはボクを不死人って呼ぶよ」
「不死だと……そんな人間いるわけがねえ! しかもこの強さにその姿……バケモンだっ、テメーはっ!」
杖を突き出しながらB級魔族は叫ぶ。鴫野みさきは首をかしげ、ニコッと笑った。
「あ、キミもそんなこと言うんだ」
ギギャアアアンッ、とチェーンソーの刃が杖を真っ二つにし、B級魔族の肩に食い込んだ。
B級魔族がアガガガガガッ、と絶叫しながら身体を震わせる。
「簡単には殺さないよ。魔族ってどれだけやれば死ぬのか興味あるから。ね、付き合ってよ」
顔にビャアア、と体液を浴びながらみさきは微笑んだ。
学校の周囲はいまだ大勢の
夜になってもそれは続き、怯える生存者……特に子供たちを
葵とシノはこれからの魔族の対抗策を早急に考えなければいけなかった。
「このままじゃいつかこっちの結界が破られそうな勢いだな……その魔結界とかいうのをどうにかしないと」
「そうデス。アレを破らなければわたしたちの勝ち目はありまセン。あの魔結界は強力な闇属性の負荷を領域内全体にかけるモノ。聖属性や光の力を持つ戦姫では満足に動くことすらできないでショウ」
「だったら同じ闇属性の
葵は
葵の小説を読んでいるシノももちろん知っている人物だが、どこか不安げな声を出した。
「たしかにその戦姫なら魔結界の影響を受けないかもしれまセン。でも、その人は……」
「……信じるしかない。いざというときは他の戦姫も出す。明日の朝、さっそくやってみよう」
✳ ✳ ✳
翌日の朝。
C級魔族に学校を包囲させ、自身は後方で休んでいたB級魔族は古木をねじ曲げたような杖を手に居丈高に号令を下す。
「おうおう、どんどん結界にぶち当たってプレッシャーかけていけよう! いひっひひ……。昨日のヤツらの逃げっぷり見たかよ。やっぱ人間てのは俺らに追われて惨めに死ぬのがお似合いさ。このS級サマから頂いた
周囲のC級魔族は次々と学校の結界へ突っ込んでいく。
ゴウン、ゴオン、と鈍い衝突音から、わずかに甲高い音に変化しているのが分かる。
「こりゃあ人間の結界をぶち破るのも時間の問題だな。楽しみだぜェ、泣きわめく人間をいたぶり殺すのはよう。ああ、待ちきれねえ、俺もそろそろ動くか」
ところがピタリと衝突音が止んだ。
前に前にと突撃を繰り返していたC級魔族の動きも止まる。B級魔族はなんだァ~? と首をかしげ、それから怒鳴った。
「おいっっ! ナニやってんだ、テメーら! 俺はなあ、もう待ちきれねーんだよ! 人間どもを追い回してブチ殺してよう、創造力を食らいてーんだよッ!」
C級魔族の集団は再び動き出す。だが逆方向に。前のほうから後方へと雪崩をうって。まるでなにかから逃げるように。
「なんっ──逆だっ! オマエらっ、俺の言うことが聞けねーのかっ!」
C級魔族たちに押し流されながらB級魔族は見た。
前方からなにかが来る。C級魔族たちは切り刻まれ、引きちぎられ、絶叫しながら消滅している──ひとりの少女によって。
黒いセーラー服に黒髪おかっぱボブ。赤いカチューシャ、左目に眼帯。手足には包帯が巻きつけられている。
「敵かあっ!? なんでまともに動けてんだ! つーかオマエら、相手はひとりだ! さっさとブッ殺せよゥ!」
だが魔族の逃亡は収まらない。皆一様に顔をひきつらせ、悲鳴をあげている。これはまるで──。
「──恐怖しているだと? まさか魔族が、人間に? んなバカなことあるか、あるわけがねえ。オレらは恐怖を、絶望を与える存在だ。圧倒的な立場なんだ。しかも俺には魔結界を出せる杖がある」
セーラー服の少女。逃げまどう魔族たちに向け、容赦なく攻撃を加える。
その右腕がギュイイイインッ、と凶悪な回転音を発しながらチェーンソーへと変化。
触れるもの全てをズタズタに切り裂き、少女は全身に体液を浴びながら恍惚とした表情。
凶刃デッドエンドチェーンソー。
ドルドル、ドルンと腹に響くエンジン音がさらに恐怖を煽る。
今度は左腕が変化。その形状は白銀の体毛を持つ狼の頭部に。
魔狼マーナガルム。
その強靭で獰猛な顎は魔族たちを噛み砕き、食いちぎり、時に巨大化して丸飲みにする。
マーナガルムは大きく口を開けた。
ギュオオオ、と球体のエネルギーが収束されていく。
咆哮とともに吐き出された球体は数十体の魔族を一瞬のうちに粉微塵にしてしまう。
この【ハウリングキャノン】の威力の前に、B級魔族の周囲にいたC級はすべていなくなった。
「な、なんなんだ、お前っ! お前みたいな人間、見たことがねえっ!」
B級魔族は腰を抜かし、動けなくなった。
セーラー服の少女は目の前でクスクスと笑う。
「ボク? ボクは
「不死だと……そんな人間いるわけがねえ! しかもこの強さにその姿……バケモンだっ、テメーはっ!」
杖を突き出しながらB級魔族は叫ぶ。鴫野みさきは首をかしげ、ニコッと笑った。
「あ、キミもそんなこと言うんだ」
ギギャアアアンッ、とチェーンソーの刃が杖を真っ二つにし、B級魔族の肩に食い込んだ。
B級魔族がアガガガガガッ、と絶叫しながら身体を震わせる。
「簡単には殺さないよ。魔族ってどれだけやれば死ぬのか興味あるから。ね、付き合ってよ」
顔にビャアア、と体液を浴びながらみさきは微笑んだ。