映画:アルキメデスの大戦(ネタバレなし)

文字数 2,592文字

 2019年7月。映画「アルキメデスの大戦」を鑑賞させていただきました。

 原作は三田紀房(東大受験漫画「ドラゴン桜」でおなじみ、最近は漫画家の働き方改革でも話題になっている)の同名コミック。週刊ヤングマガジンで現在も連載中です。

 原作を知っているがゆえに、【そこは原作の設定を変えないで欲しかった】という箇所に対し、叫びたい衝動に何度かられたことか。
 とはいえ、原作を知らなければそんな部分はまったく気にならない。超エンターテイメント。菅田将暉ワールドを堪能できる良作です。

 長い原作をよくまとめていました。
 それどころか、さすがはVFXの申し子、山崎貴監督、そして白組。冒頭シーンをやりたくて本作を映画化したのではなかろうかと思えてしまうほど、真に迫る映像を見せてくれました。
 最初の10分ほどで、それは物凄い映像を叩きつけてきて、観客に【戦争反対】という気持ちを植えつけてくれるのです。
 この【最初に持ってくるラストシーン】を踏まえて本編が始まっていくあたり、歴史上の事実に涙も落ちるというものです。

 では、あらすじです。世界大戦がはじまってしまう直前の海軍。実在した歴史上有名な人物たちの意見は真っ二つに割れていた。
 新しい戦艦をつくるにあたって、戦闘機を搭載できる空母を押す山本五十六派。そして豪華絢爛巨大戦艦(のちに大和と命名される本作の鍵)を作って【どうだ、日本はすごいだろ】と日本人と世界に誇示したい平山忠道派。
 これからの戦争に【着飾ったドレスみたいな戦艦】など税金の無駄、外国に勝てるわけがない! しかも、なんだ、この低予算は? これっぽっちの金額できらびやかな戦艦が作れるわけないだろ。採用されるために嘘の申告しているのは明白だ。ただ、証明できない。さてどうしよう。
 そこに現れたのが数学の天才、櫂直。とある事情で目をかけられていた尾崎財閥を追い出されて帝大数学科も退学になっていた男だ。
 非巨大戦艦派は櫂をスカウトし、巨大戦艦の本当にかかる費用を割り出して、不正を暴き、プレゼンに勝利するのだ。ということになり、櫂は海軍少佐の地位を与えられ、お付きの田中少尉と共に巨大戦艦の不正を数字で暴くことになります。
 与えられた時間はわずか13日。大丈夫か櫂少佐! やれるのか櫂少佐! という運びである。

 さて、櫂直(菅田将暉)という男は数学の天才であり、数学オタクである。常にMy巻尺を持ち歩き、美しいフォルムの物体を見つけては寸法を測り計算せずにはいられない。元々軍人ではないということも手伝って軍隊の規律を乱す行動をし、お付きの田中少尉(柄本佑)の顔を青くさせるのですが、そんな田中少尉も櫂の驚異的な頭脳と変人ともいえる人柄に惹かれていき、いつしかいいコンビになっていきます。
 このふたりの掛け合いはテンポも良く、見ていて楽しいものがありました。

 この映画は昭和初期、戦争突入真っ只中というだけあって、登場人物も軍隊のお堅いご老人ばかり。
 そのお堅い軍人たちを山本五十六の舘ひろしをはじめ、國村隼、橋爪功、小日向文世、田中泯など。おじさま萌えする方にはもってこいの布陣。これらのガチな昭和の人間たちのなかに放り込まれた平成生まれの熱血漢。そんなイメージもわいてきました。

 櫂直も本来は昭和の人間なので、原作ではきっちりとした七三分けです。この髪型は連載始まってから乱れたことはないのではないか? というほど櫂直という男を表現していて、数学オタクの変人ではあるけれど、自分の信念は曲げないまっすぐな男であることを表してもいます。
 髪型の定まらない男として有名な菅田将暉の七三分けが見られると、期待にふくらんでいたのですが、残念なことに、徐々に中途半端な七三分けになっていきました。なんとしても平成男子を保ちたかったのでしょうか。最終的になんとなく前髪を垂らしてみておしゃれな七三分けになってしまいました。最後まで、ぴっちり七三分けでいて欲しかった。
 そこからして、昭和の戦争時代からコースアウトしてしまった感がある劇場版の櫂直。自分の信念には熱い男でしたが、テンションが平成すぎる。そこは昭和の戦時中の男を怪演して欲しかった。髪型から平成と昭和の狭間が漏れていた気配がありました。

 昭和のなかに放り込まれる。しかも柄本佑以外に主人公と同世代の男性が登場しないというアルキメデスの大戦。【イケメン揃えてみました作品】とは大違いで、イケメン枠を菅田将暉がたったひとりで請け負っているという、最近の映画としては珍しいパターンでかなり頑張ったと思います。
 それゆえ、ストーリーで勝負しよう。深く重いテーマで推していこうという、男臭い男の熱量が伝わります。つまり、本作は男臭いもののはずなのですが。

 鏡子お嬢様との関係を原作とはちがう設定で持って行ってしまったがゆえに男臭さが崩れてしまった感が否めませんでした。

 櫂が尾崎家を追われることになった原因を作った張本人である一人娘の鏡子お嬢様。
 このお嬢様と櫂の関係性ですが、あまりに原作とちがっていたのでモヤモヤが最後まで晴れませんでした。そこが声を大にして【そこは原作の設定を変えないで欲しかった】と叫びたい箇所です。
 まるっきり女っ気がないのもいかがなものか、ということであるなら、この劇場版オリジナルの設定は仕方がないとは思います。実際、ストーリーもスムーズに進行しました。
 しかし、この本来とはちがう設定で、櫂という男の人間性が軽くなってしまった。櫂直という男は、女に対する態度や考え方でもその個性を発揮しているので、今回劇場版の鏡子お嬢様との関係は、残念以外の何物でもなかった。

 とはいえ、原作を知らなければ、いい運びになったと思います。戦艦大和に対するテーマはゆらいでなかったので、エンターテイメントとして鑑賞できます。戦争とか戦艦大和というものを数学という変わった角度で見ることができる興味深いストーリーです。
 どのように転んでも、史実は変わらないので戦艦大和はあのような運命をたどり、人々の胸に【戦争はしてはいけない】と刻まれるのです。
 ぜひ、劇場で戦艦大和をめぐる頭脳戦をご確認ください。

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