映画:駅までの道をおしえて(ネタバレなし)

文字数 2,622文字

 2019年10月、映画「駅までの道をおしえて」を鑑賞させていただきました。

 原作は直木賞作家、伊集院静。監督は2005年、市川準監督の「トニー滝谷」の制作に携わっていた橋本直樹。映画・TV番組などの企画制作会社(株式会社ウィルコ)の代表取締役で、本作は長編映画の2作目のようです。

 あらすじに入る前に語りたいのですが、市川準監督作品にハマっていた時期があったので「トニー滝谷」も鑑賞していました。残念なことに話を失念しているのですが、市川準監督の独特な、淡々とした、なにも起こらないように見えて奥深い見せ方が、本作にも息づいているように思えました。
 市川準監督の作品が懐かしく、また見たくなった。亡くなるには早かったな。と故市川準監督に想いを馳せたりしました。(余談)

 ではあらすじです。
 小学校低学年のサヤカ(新津ちせ)は学校でみんなから無視されるいじめを受けている孤独な少女。ある日、ペットショップで、引き取り手がいなかったら処分するという白い犬ルーと出会います。サヤカは必然的にルーに惹かれ、両親に飼いたいとせがみます。サヤカが住むマンションはペット禁止なので、近所に住むおじさんの家の庭に小屋を置かせてもらい、サヤカは通いで世話をすることになります。
 ルーとの毎日はサヤカに新しい世界を教えてくれます。ルーとサヤカは双子のように仲良しで、ふたりだけの秘密の場所で毎日を前向きに過ごしていました。
 しかしルーは亡くなってしまう。年齢的な寿命ではなく、突然死というかたちで。
 ルーが亡くなってからもルーの姿を求めて一緒に歩いた道や秘密の場所に行ってしまうサヤカ。そんなサヤカはルーとはまったく似てはいませんが、1匹の犬に出会います。その犬ルースに導かれ、サヤカはジャズ喫茶を営む老人フセさん(笈田ヨシ)と知り合うことになります。
 フセさんもまた昔、当時小学生だった一人息子を亡くしており、いまだに傷が癒えていないのです。
 小学生と老人の間に友情が生まれ、大切な人の死を受け入れるとはどういうことなのかを、ファンタジー要素を織り交ぜながら、悲しさや辛さを表現し、死を受け入れるというか納得することを教えてくれるという心があたたまる内容です。

 SNSの宣伝で、犬が撫でくりまわしたいほどに可愛いという印象を受けたので観に行くことにした本作。ストーリーとか作りとかは子供向けでも仕方ない、犬がみれて萌えっとできればいいやと、癒しを求めて劇場に向かったのですが、鑑賞してみたらとんでもない勘違いでした。

【子供と動物さえ出せば集客は見込めるだろうという小狡さはまったく感じませんでした。】

 主演の新津ちせですが、大人気アニメ監督と女優さんの間に生まれた娘さんで、Foorinという子供ユニットの楽曲が大ヒット。話題先行のサラブレッド? 姫川亜弓?(ガラスの仮面@スポ根女優漫画)という先入観しかありませんでしたが、この映画において彼女の好感とすごさを感じることができたのは【泣きの演技がなかったこと】に尽きました。
 これは監督の演出というか演技指導か、【子役だから泣かせればいい】という考えがなかったことが大きいと思えます。
 大切な人が亡くなった。消失と再生の物語といえば、大人だって涙が頬を伝わるのが当たり前なのに。映画やドラマにおいて、涙を見せずに消失感や悲しみを表現することのなんと難しいことか。
 泣けばいいってものではない。涙という小道具を使って泣きじゃくれば「ああ、悲しいんだな」という脚本は読める。しかし、本作において涙をボロボロこぼすキャストはいなかった。
 よりリアルな消失感が感じられ、わんわん泣かずに悲しみを表現する演技を求められて演じきった子役はすごいんじゃなかろうかと思えるのです。
 新津ちせ、目力で語る。
 大人もいい役者さんが揃っているのに(滝藤賢一が普通のお父さん役とかレアで見どころの一つ)120分ほぼ画面に映っているサヤカ。難しいセリフ、役どころをしっかり演じていました。
 いちばん目を見張ったのは、もういないルーと散歩しているかのように歩くシーン。見えないリードといるはずのないルーが見えるんですよ。どこの北島マヤ(ガラスの仮面@スポ根女優漫画)ですか? 恐ろしい子です。

 犬たち。ルーとルースも期待を裏切らない大女優でした。
 2匹とも保護犬ということで、現在は2匹一緒に漫画家さん(BOYS BEの玉越博幸先生。ツイッターで現在の可愛い2匹の姿をみることができます)のお宅に引き取られて幸せに暮らしています。お犬版シンデレラストーリーです。
 ルーとルースの悶絶級のかわいさは天井突き抜けてお星様の世界に誘われますので、映画館の中でニヤニヤが止まりません。
 ルーとルースだけでフッカフカのパンケーキにメイプルシロップかけて10枚はいける。それくらいのかわいさと名演技でした。撫で回せるものなら撫で回して、いい大人もサヤカのようにじゃれられたい。ペロペロされたい。なつかれたい。

 差し込まれるファンタジー要素も宮澤賢治の世界のようで、深層心理を表しているようで、違和感なく吸収できます。駅までの道とはなんなのかを考えさせられます。
 大切な人の死とは。受け入れること、納得すること、残された者が地に足を踏みつけながら止まることのない時間を歩んでいくこと。
 そんなことを教えてくれます。伊集院静の原作も読みたくなりました。

 本作は子供だけに向けられた映画ではありません。上映館が少ないし、あまり長い期間上映されないかもしれませんので、鑑賞お勧めしたいから早く劇場へ足を運んでいただきたいです。

 ストーリーとは別に、建築や家具、リフォーム関係に興味がある方にも本作は勧めたいです。
 映画を見ていてあまり感じたことがなかったのですが、サヤカの住むマンション(居間、サヤカの部屋)、おじさん夫婦の住む家(居間、庭)、フセさんのジャズ喫茶(外観、内装)作りや家具、インテリアなどがいい。個人の感想かもしれませんが、なんかいい。
 フセさんのお店などはルースに合わせてテーブルやら椅子やら置いていないか? とも思え、ルースが寝そべるにマッチしすぎでした。

 いろいろな話題作に包囲されて見えにくい映画です。是非ともかきわけて見つけてあげてください。
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