映画:天気の子(ネタバレなし)

文字数 2,425文字

 2019年7月、長編アニメーション映画「天気の子」を鑑賞させていただきました。

 鑑賞後、ゾッとしました。

 まずはあらすじから。
 高校1年生の帆高はまったく理由がわからないのだけれど家出して東京にやってきた。
 のどかであろう離島とはちがってせわしない東京はおっかないところだと肌で知ります。
 にしても東京はえんえん雨続き。いつまで長雨は続くのか。
 帆高は運良くオカルトライターの会社に住み込みで転がり込むことになります。
 そこでなんちゃらかんちゃらありまして、帆高は100パーセントの晴れ女、陽菜と出会います。
 うんざりするほど毎日雨という東京の街で、晴れを欲しがっている人たちのために晴れ屋さんをはじめ、帆高と陽菜は順風満帆。
 ……にいくわけがなく。
 陽菜にのしかかる晴れ女の定めにあらがおうと走る帆高。お前の罪を数えてみなさい、というくらいの犯罪行為をしれっと重ねつつ、愛する陽菜のために突き進む。警察も追いかけてくるぞ! 逃げ切れるのか? 帆高は陽菜とふたたび巡り会えるのかっ。
 といったところです。

 話はたいへん単純でわかりやすかったです。「え、どういうこと?」と思うことはなかったので、まったく腰を折られることなく一気に最後まで鑑賞できました。
 ゲストに前作のキャラクターも登場したりして、ファンサービスも抜かりなかったです。

 抜かりないといえば、今回の新海誠監督作品「天気の子」ですが、前作の「君の名は」が大ヒットしすぎてスポンサーがとんでもない数になってしまっています。
 公開前から、テレビでコラボCMを何社見たことでしょう。なんてしつこいのだろう。というくらい帆高と陽菜がテレビで様々な商品を紹介してくれました。
 あぁ、やっとそれらを忘れて本編が見られるよ……。

 ……がしかし。まさかの新海監督の新たな才能を確認させていただきました。

 新海監督はきっとゴジラのファンだ。
 ただ違うのは。ゴジラは容赦なくスポンサーを破壊するけれど。新海監督は人の子であるということです。
 よくぞ2時間の物語のなかに忖度詰め込んだ。これは誉めるべきだと思います。うんざりなどと感じてしまうのはいけません。
 社会人として(社会人になったとき)、お世話になる方にはどのように接すればいいのかの勉強になります。
 それどころか見所にすらなっている。これが新海マジックなのか。

 新海マジックといえば、今年の長梅雨は天気の子にリアルな異常気象を提供してはいないだろうか。
 2019年7月。もう何日太陽を見ていないだろう。どれだけ雨が続いているのだろう。ところによっては激しく降り続いて、道路がところどころで冠水している。
 なんだろう、まるで映画の話が平行線ではないか。
 いくら雨と都心の表現に定評がある新海監督とはいえ、このような偶然があるものなのだろうか。
 こうなると、梅雨明けの発表は新海誠にやってほしいとまで思えてしまう。
 それもこの映画の怖さを覚えた要因なのかもしれない。

 さて、この話は単純だ。
「愛にできることはまだあるかい?」「あるよ~」
「僕にできることはまだあるかい?」「あるよ~」
 歌も前作より曲数増えてノリノリのようだ。
 確実に売れる楽曲にのせて、帆高は純粋な気持ちで陽菜への気持ちを貫きます。
 だけどこの素直で、自分を貫く、正しいとさえ思えるハッピーエンドを100パーセントのハッピーエンドと呼んでいいのか。そこになんとも言えないもどかしさは存在しないのか。
 一向に止まない雨のせいでコインランドリーの盗難事件は減らない。何日連続で部屋干ししているのか。雨晴兼用という名の傘は滅亡するのか。低気圧のせいで頭痛が治らない。
 そこで物語のキャッチコピーを持ち出してみよう。

「これは、僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語」

 その秘密は墓場まで持って行け。そういう怖さがこの話には存在するのだ。
 そしてそれがこの話がただの大衆向け恋愛アニメーションではないことを物語っている。
 新海誠という監督は、ただブームに乗っかって大衆にいい話(ええ話)を届けるだけの監督ではなかったと受け止めた。
 考えさせられる要素が実は深く、素直に「よかった」と言いづらい物語。

 たとえ世界を敵に回しても、僕は君を愛している。

 そんなセリフがマッチする映画があったとは。
 約2時間見終わって、ゾッとしたのは、してやったりという顔をしている新海誠監督が浮かんだからに他ならない。監督の顔わからないけど。

 この映画を人に勧めるのかと言われると。これだけ判断が難しい映画もなかなかない。
 ツッコミどころもあるし、絵はむちゃくちゃ綺麗で雨の新宿を中心とした都心はそれだけで芸術的で充分見る価値があある。
 君の名はでも取り上げられていたが、鳥居とか儀式とか、空からなにかが落ちてくるとか降ってくるとか、少年少女がなんとかして世界を変えようと奔走する。そういう世界観は新海監督の大好物なのだろう。とても神秘的に描かれている。
 鑑賞して損はないとは言える。
 ただ、好きか嫌いかは、個々がどう感じるかによるから、考える力をもって帆高と陽菜の選んだ道を確認してほしい。としか言えない。

 最後に言いたいことがある。劇中ソフトバンクのお父さん(白犬)がでてくるシーンが2箇所あるそうなのですが、テレビCMで放映されている1箇所はわかったのですが、もう1箇所を見つけることができませんでした。たいへん心残りです。
 ソフトバンクのお父さんを見つけたい。それだけのためにもう1回見に行ってもいいんじゃないかと思わせるのも新海マジックではないだろうか。

 新海誠が押し寄せるスポンサーを手玉にとりながら、流行に流されない監督でいてくれることを切に願うものである。
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