#3.1 風の戯
文字数 1,791文字
麗らかな陽気が満ち足りた春の風が吹く頃。
風で飛ばされるタンポポの綿毛と一緒になって舞い上がるケイコです。その空の上では、まるでソファーに腰掛けているようなマチコが、ケイコの「キャハハハ」と遊んでいる様子を見ていました。
そうして、沢山の綿毛と一緒に舞っているケイコに、
「ねえ、楽しい? それ」と冷めた口調で尋ねると、
「キャハハハ」と沸騰しそうな声が返ってきました。それに、
「あっそ。楽しいんなら、いいか」と冷ますように呟くマチコです。
タンポポの茎を持って、風に吹かれる綿毛と一緒に舞い上がっては、適当なところで舞い降りる。そしてまたタンポポの茎を持って、の繰り返し、ただそれだけです。風で舞いがるのが楽しいのか、それとも綿毛に囲まれて、ふんわりするのが好きなのか。それはケイコ自身にも分からないかもしれません、キャハ。
そんな行ったり来たりのケイコを余所に、春風に乗ってのんびりとしているマチコです。楽しみはそれぞれ、何に興味を持って、何を楽しいと感じるかもそれぞれ。それでも春の風は等しく吹いて参ります。
マチコは、ふと考えてしまいました。それは、今まで一度もケイコから遊びに誘われたことが無かったということです。おそらく、それが有ったとしても断ったことでしょう。自分が楽しいと思えないことは『しない』マチコです。
しかし、遊ぶに誘うかどうかは別問題。これまでケイコが自分で考え、自分だけで遊ぶということしかしてこなかったはず。だからこの先もそれでいいと思っていられては困る、と退屈になってきたマチコは考えました。
そこでこういう時、マチコが取るべき行動はそのものズバリ、『邪魔』をすることでした。
ケイコがタンポポの綿毛と一緒になって舞い上がってくるところは、いつもマチコの近くです。それがワザとなのか、それとも偶然なのかは分かりませんが、その時、ケイコに抱きついてみようと考えたマチコです。
早速、何も知らないケイコがふんわりと漂ってきました。その笑顔がビックリポンするのを思い浮かべながら、舞い散る綿毛に身を隠すマチコ。小さく小さくな〜れ、と呪文を唱えながら、今だ! と飛びかかります。
「ふんぎょー」
ケイコの驚いた声が響きます。ケイコに抱きついた、というより、しがみ付いたマチコは、驚き序でに暴れるケイコからズルズルと落ちていきます。そしてケイコのショルダーバッグに手が引っかかり、バッグの口が『あーん』、中身のビーズ玉が雨のように落ちてしまいました。
「ほんぎゃー」
ケイコの叫び声が響きます。そして纏わり付くマチコを蹴飛ばし、落ちていくビーズ玉を追いかけるケイコです。
「待ってー、イヤー」
◇◇
沢山のタンポポの中を必死で落ちたビーズ玉を探すケイコです。しかし、風に吹かれて散らばってしまい、見つけることが出来ません。マチコも一緒になって探しますが、どんなに探しても一つもありませんでした。
「ないよ〜、どうしよう〜、えーん」
涙をぽろぽろ零しながら、それでも探し続けるケイコです。それに困ったままマチコは自分のバッグからビーズ玉を取り出すと、
「ケイコ、これあげるから、これでいいでしょう」とケイコに差し出しましたが、
「いらないよ! そんなもん!」とマチコの手を払ってしまいます。
「なにすんのよ! 同じもんでしょう!」
「違うもん、同じじゃないもん」
ケイコは泣きながら、その涙を手で拭うと飛び去ってしまいました。マチコにとってケイコの怒った顔を見たのは、これが初めてです。何故そこまで怒ったのか、マチコには理解できないことでした。
「どこ行くのよぉぉぉ、ケイコぉぉぉ」
「お婆ちゃんに、貰いに行くのー」
「ちょっとぉ、待ちなさいよぉぉぉ」
「お婆ちゃんとこ、貰いに行くー、マチコの、バッカアアア」
こうしてケイコはどこかに飛んで行ってしまうのでした。その場に残されたマチコは、ケイコに払われたビーズ玉を拾いながら、自分でも気がつかないうちに涙をポロポロと流していることに驚くのでした、そして、ケイコの居なくなったこの場所に吹く春の風を鬱陶しく思うのです。
「なんで、なんでそんなに怒るのよ。私、そんな酷いことした? してないでしょう」と独り言を呟くと、マチコもどこかに飛び去っていくのでした。
◇
風で飛ばされるタンポポの綿毛と一緒になって舞い上がるケイコです。その空の上では、まるでソファーに腰掛けているようなマチコが、ケイコの「キャハハハ」と遊んでいる様子を見ていました。
そうして、沢山の綿毛と一緒に舞っているケイコに、
「ねえ、楽しい? それ」と冷めた口調で尋ねると、
「キャハハハ」と沸騰しそうな声が返ってきました。それに、
「あっそ。楽しいんなら、いいか」と冷ますように呟くマチコです。
タンポポの茎を持って、風に吹かれる綿毛と一緒に舞い上がっては、適当なところで舞い降りる。そしてまたタンポポの茎を持って、の繰り返し、ただそれだけです。風で舞いがるのが楽しいのか、それとも綿毛に囲まれて、ふんわりするのが好きなのか。それはケイコ自身にも分からないかもしれません、キャハ。
そんな行ったり来たりのケイコを余所に、春風に乗ってのんびりとしているマチコです。楽しみはそれぞれ、何に興味を持って、何を楽しいと感じるかもそれぞれ。それでも春の風は等しく吹いて参ります。
マチコは、ふと考えてしまいました。それは、今まで一度もケイコから遊びに誘われたことが無かったということです。おそらく、それが有ったとしても断ったことでしょう。自分が楽しいと思えないことは『しない』マチコです。
しかし、遊ぶに誘うかどうかは別問題。これまでケイコが自分で考え、自分だけで遊ぶということしかしてこなかったはず。だからこの先もそれでいいと思っていられては困る、と退屈になってきたマチコは考えました。
そこでこういう時、マチコが取るべき行動はそのものズバリ、『邪魔』をすることでした。
ケイコがタンポポの綿毛と一緒になって舞い上がってくるところは、いつもマチコの近くです。それがワザとなのか、それとも偶然なのかは分かりませんが、その時、ケイコに抱きついてみようと考えたマチコです。
早速、何も知らないケイコがふんわりと漂ってきました。その笑顔がビックリポンするのを思い浮かべながら、舞い散る綿毛に身を隠すマチコ。小さく小さくな〜れ、と呪文を唱えながら、今だ! と飛びかかります。
「ふんぎょー」
ケイコの驚いた声が響きます。ケイコに抱きついた、というより、しがみ付いたマチコは、驚き序でに暴れるケイコからズルズルと落ちていきます。そしてケイコのショルダーバッグに手が引っかかり、バッグの口が『あーん』、中身のビーズ玉が雨のように落ちてしまいました。
「ほんぎゃー」
ケイコの叫び声が響きます。そして纏わり付くマチコを蹴飛ばし、落ちていくビーズ玉を追いかけるケイコです。
「待ってー、イヤー」
◇◇
沢山のタンポポの中を必死で落ちたビーズ玉を探すケイコです。しかし、風に吹かれて散らばってしまい、見つけることが出来ません。マチコも一緒になって探しますが、どんなに探しても一つもありませんでした。
「ないよ〜、どうしよう〜、えーん」
涙をぽろぽろ零しながら、それでも探し続けるケイコです。それに困ったままマチコは自分のバッグからビーズ玉を取り出すと、
「ケイコ、これあげるから、これでいいでしょう」とケイコに差し出しましたが、
「いらないよ! そんなもん!」とマチコの手を払ってしまいます。
「なにすんのよ! 同じもんでしょう!」
「違うもん、同じじゃないもん」
ケイコは泣きながら、その涙を手で拭うと飛び去ってしまいました。マチコにとってケイコの怒った顔を見たのは、これが初めてです。何故そこまで怒ったのか、マチコには理解できないことでした。
「どこ行くのよぉぉぉ、ケイコぉぉぉ」
「お婆ちゃんに、貰いに行くのー」
「ちょっとぉ、待ちなさいよぉぉぉ」
「お婆ちゃんとこ、貰いに行くー、マチコの、バッカアアア」
こうしてケイコはどこかに飛んで行ってしまうのでした。その場に残されたマチコは、ケイコに払われたビーズ玉を拾いながら、自分でも気がつかないうちに涙をポロポロと流していることに驚くのでした、そして、ケイコの居なくなったこの場所に吹く春の風を鬱陶しく思うのです。
「なんで、なんでそんなに怒るのよ。私、そんな酷いことした? してないでしょう」と独り言を呟くと、マチコもどこかに飛び去っていくのでした。
◇