#5.1 遠くの風

文字数 3,851文字

 遠い遠い、凄く遠い宇宙のどこかで、人知れず、こっそりとクルクルと回っている小惑星が地球に向かって進んでいました。そんな小惑星に、そこで何をしているのかを尋ねてみました。

 ◇◇◇

 いえ、地球に向かうつもりなんてなかったんです。それが、どういう訳かですね、結果的にそうなった、というだけなのです。

 それには様々な理由や原因があったはずです。それらが、ちょっとだけ絡み合っただけで地球に向かうことになっただけなのです、はい。でも、近くまで行ったら挨拶くらいはしようかと、そう考えています。

 ああ、もう地球が見えてきましたよ。お隣には月もありますね。では、その間を失礼させて頂きましょうか。ええ、大丈夫です、ただ通り過ぎるだけですから何も心配はありません。

 まあ、綺麗ですね。見事な青い海と白い雲、ですかね。それとあれが大地ですか、雄大? 壮観? なんとも言葉には出来ない素晴らしい光景です。

 ほら、こんなに近づいたのに大丈夫じゃないですか。こんな星、余所では滅多に見られるものではありませんよ。そう思うと遠くから来た甲斐があったというものです。ああ、なんて素晴らしいのでしょうか。やはり僕は、これを見るために生まれてきた、そう思えてならないのです。

 では、そろそろ行きますね。もっと見ていたいのですが、そうもいきません。全ては運命、この宇宙が決めたことなのです。だから僕だけの力だけでは、どうにもならないのです。さようなら、美しい惑星よ。

 えっ? どうして? 僕も別けれは辛いんだ、だけど——

 ◇◇◇

 地球をかすめて通り過ぎるはずだった小惑星君です。ところが、どうしたことでしょう、だんだんと地球に近づき、これ以上はちょっと、というところまで来てしまいました。ですがですが、アレアレ、どうして、ああああ、だめですよー。

 ドカーン・ドカドカ・ドカーン、カンカン、ズドーン・ズンドコ・ズドーン。

 ああ、とうとう、やってしまいましたね、小惑星君。どうして見ているだけで我慢出来なかったのでしょうか。おかげで地球がめちゃくちゃになってしまったじゃないですか! これではもう、丸い形を保っていられないじゃないですか、地球が可哀想です。

 ああ、とうとう、大爆発で地球が吹き飛んでしまったじゃないですか! 隣の月もどうして良いやらと困惑していますよ、全く、どうしましょう。

 ◇

 ケイコの家でスヤスヤのケイコとマチコです。珍しくお泊りに来ているマチコ、なんだかんだと言って寂しくなったのでしょう。そのマチコが目を覚ましたようです。そう、朝の陽気に誘われ、眩しいくらいの日差しを浴びて、「う〜ん」と背筋を伸ばしたところです。

 ん? おかしいですね。時刻に関係なく何時も夜空に星が輝くケイコの家です。それが今日に限ってでしょうか、朝がやって参りました。

「おはよ〜」

 続いてケイコも起きてきましたが、まだまだ寝惚け(まなこ)です。ケイコもマチコも普通に朝の挨拶を交わしただけで、いつもと違う朝に異変を感じていない様子です。まあ、マチコにとって朝はこんな感じなので気が付かないのでしょう。ケイコの方は……言うまでもありません。

「ちょっとぉ、外に出てくるね」

 ケイコの家は常に夜の状態なので、外の様子を伺おうと思ったマチコです。そうして数歩進んだところで「ん?」と思ったようですが、そのまま外へ。するとそこは真っ暗だったので、まだ夜なんだと思い、引き返すマチコです。ですが、家の中に入ると眩しいくらいの日差しです。そして暫く考えた結果、昼夜が逆転していることに驚くマチコでした。

「ちょっとぉ、あんたの家、おかしくないぃ?」

「ほお」

 ケイコに聞いた自分がバカだったと後悔するマチコです。そこで気になったのが明るい空です。手を伸ばせば届いた星がどうなったのか、いつも夜だった空はどこに行ってしまったの? ということで空を調べてみようと思ったマチコです。

「ちょっとぉ、空の様子を見に行くわよ」

「遊びに行きたい」

「あんたねぇ、バカなの? その遊びに行く場所が無いのよ」

「ほお」

 こうしてケイコとマチコはブーンと飛び上がり、森の高いところへ。そこから見える光景はどこまでも広がる森でした。そんな森を見たのは多分、ケイコにとっても初めてのことでしょう。

「「うわぁぁぁ」」とケイコとマチコは一緒に驚き、そして感激したのでした。

 しかし肝心の、空の様子はというと昼間の外の世界と変わることはありません。それならと、もっと高いところへと飛んでいきますが、いくら上がっても何も変わりませんでした。ということは、もっと上を目指さないといけないと考えたマチコです。

 しかし、これ以上、上に行くにはもっと時間が掛かりそうです。もし風でも吹いていれば、それに乗っていくことも出来ますが、生憎、殆ど無風状態の空、ケイコの家です。

「困ったわねぇ、面倒だし」

「ほお」

 のらりくらりと飛ぶケイコと一緒では面倒だと感じたマチコです。でも、置いていこうとは思はないマチコです。それで他に方法はないかと考えていると、そう遠くないところに、天まで届きそうな高い木があることに気がつきました。

「ケイコ、あの木のところまで競争よ」

「私、速いよ」

「それは勝ってから言いなさいよね」

「ほお」

 ズビューンと飛び出したケイコとマチコです。出だしこそケイコの方が速かったのですが、途中であっさりと抜いてしまうマチコです。そうして到着した木の枝に立つケイコとマチコです。

「ほお」

 下を覗き込んで驚くケイコです、もう勝負に負けたことは忘れています。マチコも一緒になって下を覗きましたが、期待した上昇気流は無く、どうしたものかと思案中です。

「困ったわねぇ、面倒だし」

「あうっ!」

 突然、ケイコとマチコが乗っている枝がガクッと動き、幹に沿って上昇を始めました。それはまるでエレベーターのように、です。

「あら、ちょうどいいかも」

「およよ」

 枝エレベーターはグングンと上昇、霞んで見えなかった雲のようなところも通り過ぎて行きます。そして、下を見ても何だか分からない、上を見ても何だか分からない、とにかく、そんな調子で上がり続ける枝エレベーターです。

 その枝エレベーターが、ギギギっと止まりました。一体ここはどこなのでしょうか、周囲は暗くて、まるでお化け屋敷のよう、です。

「ここってぇ」

「お空だよ」

 ケイコたちが興味深そうに周囲を探っていると、部屋の明かりが灯るようにパチパチと明るくなり、そこがどこかの、大きな部屋であることが分かりました。そして周囲を囲む壁は透明で、大きな窓ガラスのようです。そして所々に机のようなものが置いてありました。

「これってぇ、誰の部屋かしら」

「ほお」

 早速、部屋の中を探検するケイコです。勿論、そこらじゅうを触りまくってはパンパンと叩いていきます。そんなケイコに、

「ちょっとぉ、勝手に触ったら住んでる人に怒られるわよ。ん? ここって、あんたの家だよね。そうすると別の部屋ってこと?」と尋ねましたが相変わらず聞き分けのないケイコは探検に夢中のようです。その時です。

「いらっしゃいまっせー、ようこそー、お元気ですかー」と、ケイコに代わって答えてくれる声が聞こえて参りました。しかし声だけで、その姿はいくら探しても見当たりません。

「ねえあなた、誰なの?」

「ケイコ!」

 探検に夢中のケイコが、こういう時だけは聞き耳を立てていたようです。それを無視して待っていると、

「わたーしは、ヨシコ。この船で一番偉いのさ」と、どこからともなく聞こえてきました。

「船? ちょっとぉ、ここ、ケイコの家でしょう」

「ケイコ? とにかく船でーす」

「船ってねー。とにかく姿を見せなさいよ、隠れてないでぇ」

「おうっ! わたーしは、ヨシコ。この船で一番偉いのさ」

 どこからともなく聞こえてくる声は相変わらず姿を見せません。きっと恥ずかしがり屋さんなのでしょう、それも特売日のように、です。でも、その声、その声質からして「おばさん?」、いいえ、大きいお姉さんのようです。

「はあ? まあいいわ。ところでさ、ここはどこなの?」

「船の中さね」

「それは分かったわよ。で、その船はどこにあるの?」

「宇宙さね」

「はあ? なんで?」

「はっはっはー、それはだねー」

 ヨシコの説明では地球に隕石が衝突、そして大爆発して粉々になった。それで地球が無くなったので宇宙を漂っている最中、だそうです。

「うっそぉぉぉぉぉぉ」

 マチコが驚いた序でに、更に説明が加わりました。それは、ケイコの家自体がこの船の中にあること、地球と一緒に粉々にならなかったのは、船が存在している次元が違うからだと。そしてマチコたちは『人』ではないよね? に、そうだけど、で、だからよ、で、そんなもんかぁぁぁと理解したマチコです。

 そんなマチコの隣に、いつの間にか立っていたケイコです。早速、混ぜてもらおうとムムムの顔をして、ヨシコに「勝手に住んでたの?」と尋ねました。それに、「そーさね」と答えるヨシコ、「なら、いいや」と満足な回答を得たケイコです。

「ところでさ、この船って、これからどうするのよぉ」とマチコが質問すると、「第二の地球を探しに行こうかね、ぼちぼち、とね」と答えました。

「第二の地球? 探してどうすんのよぉ」と、マチコ。それに、

「ここにいても、しょうがないでさね。もう、な〜んにも無いんだから」とヨシコ、

「それもそうね」とマチコ、

「行こ行こ」のケイコです。

 ◇
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登場人物紹介

ケイコ

田舎育ちのケイコ。一人遊びが大好きで年中遊びに夢中な天然系。

マチコ

都会育ちのマチコは都会の喧騒に嫌気が指し旅に出ることに。
いつも、お姉さん風を吹かせています。

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