#2.1 銀の風
文字数 3,897文字
ふわふわの雪が降る冬の季節。
高原に積もった雪めがけてケイコ・ミサイルが降り注ぎます。
「ウッヒョー」
上空で狙いを定めたケイコは勇ましい掛け声と共に、ビューンと降下、そのままズボっと雪に突っ込み穴を開けます。そして、「ダァー」と飛び出ると、それを繰り返して遊びます。
「ねえ、それって面白の? ねえぇ」
マチコは不思議そうにケイコの『ダァー』を眺めていますが、ケイコが楽しいのなら、それでいいかと、半分呆れた表情で雪の上に立っていました。
因みに彼女たちは、薄い風を纏っているので極寒の冬でも寒さを感じることはありません。また軽いため雪に埋もれたりもしないのです。
ズボズボと穴が増えるにつれ飽きてしまったマチコは、相変わらず熱心に遊びまくるケイコを見て、何か閃いたようです。早速、雪玉をコネコネ。それを持ってケイコが雪の穴から飛び出てくる瞬間に投げました、モグラ叩きの要領です。
「ムグッ」
頭に命中したケイコは辺りをキョロキョロ。そしてお腹を抱えて笑っているマチコを発見。それに、「ムムム」と笑顔から真剣な眼差しに変貌したケイコ。シュパッと飛び出し、今度は狙いを定めることなくズボっと。
そうして、穴から頭を覗かせることなくシュパッと飛び出しました。それに遅れて雪玉を投げたマチコです。
「愚か者め、どこを見ておる」
「お主、考えよったな」
このような会話の後、ケイコとマチコの真剣勝負が始まったのです。ケイコは空中をジグザグに飛び回り、その軌跡を予想不可能なのもにしようと企み、奇襲を狙います。相対するマチコはコネコネを大量生産、いえ、過剰生産している模様、両者一歩も引きません。さあ、勝負の行方はいかに。はっけよい、残った、残った。
ビューン、ビュビュビューン。
ケイコの素早い攻撃が始まったー。そしてズボボボボ、雪煙が立ち上るほどの勢いで雪に突っ込んだケイコ、まだ、出てきません!
そこに、過剰生産した雪玉をケイコが出現する前から穴に放り込んでいくマチコです。これは? これは! 出口を塞ぐ作戦のようです、ケイコ危し! です。
ズボーン、しゅわしゅわ。
出ました! 全身、雪だらけのケイコが雪玉を押しのけて穴から出てまいりました。しかし、過剰生産も計画の内、雪玉を投げまくるマチコ、その姿は鬼! そのもの、または雪玉投石器と化したマチコです、ふんぎゃー。
流石のケイコもマチコの総攻撃に立ってはいられず、その場でゴロンです。ですが、戦いはまだ終わってはいません。雪と同化したケイコをゴロゴロと転がし始めたマチコ、その顔は悪代官そのもの、悪巧みの権化です。
ケイコにとっては不運が続きます。その戦場は生憎の下り坂、転がるたび、文字通り雪だるま式に不運が大きくなっていくケイコです、万事休す!
ところがです。重みを増したケイコは一気に坂を下り始めたではないですか! これはマチコにとっても誤算、想定外の出来事です。
「待ってぇぇぇ、待ちなさいよぉぉぉ、どこに行くのよぉぉぉ」
マチコの制止も聞かず、転がり続けるケイコ、「ふんぎゃー」という悲鳴も掻き消されるほどの勢いは誰にも、そしてマチコにも止められません。暴走、または迷走するケイコです。
ケイコ玉は、どんどんと成長、巨大化し坂を疾走していきます。ゴロンコロンと見た目の丸さとは裏腹に、この世を支配しそうな凶悪な存在。その後ろをマチコが一生懸命に追いかけるのです、待ってー。
転がり落ちるケイコ玉の行き先は? さあて、坂に聞いてみましょう。え、ええ、そうですか、わかりました。ケイコ玉の行き先は、この先の湖です。そして、この寒さで凍っているそうです、ありがとうございました。
そのまま転がって凍った湖に到着、そこで、とはならないのがケイコ玉です。何かに躓いたのか、ピューンと跳ね上がり、ドスンと落ちてしまいました。そして! 割れました、ケイコ玉が真っ二つに! パコーンです。
そこから両手を広げ、勇ましい姿で登場のケイコです。その口は一文字に、表情はムムム、です、おりゃー。
途中で追いかけるのを止めたマチコは、ホッと一息。そこから風に乗り、一気にケイコの元に到着です。
「あんたぁ、バカなのぉ?」
「エヘン」
そのような会話の後、周囲を見渡すマチコ。そこには一面の銀世界、何かがマチコの心をくすぐりました。そして両手を後ろに組むと、ススーイと氷の上を滑り始めるマチコです、ふふーん。
「あっ!」と声を上げるケイコです。優雅に滑るマチコに見とれ、ヨダレが出てきそうなくらい羨ましいようです。そうなれば早速、やらないわけにはいけません。ケイコもススーイと滑って――転んで、ドヒャー、です。
「なんなのぉ? それぇぇぇ」
鼻で笑うマチコは、どんどん湖の中心に向かってスイースイー。転んで寝転んでいるケイコは、また闘志を燃やします。そうして、ムムムの表情をした後、なんと飛行機が胴体着陸しているような格好で、両手を広げお腹なで滑っているではありませんか。それもビューンと、これは速い。優雅に滑るマチコを追い抜きそうな勢いです。
「ちょっとぉ、あんたぁ、何してんのよぉ」
呑気に構えるマチコですが、内心はハラハラ・ドキドキのようです。それは、もう少しでケイコに抜かれそうだからなのですが、あっ! とうとうケイコに抜かれてしまいました。すかさず前傾姿勢で抜き返しを図るマチコ、です。
マチコの前に躍り出たケイコは、一瞬振り向きニヤリと笑顔を向けると、風を操りジグザク走行、マチコの行く手を阻む進路妨害のケイコです。
「かぁぁぁぁぁ、ケイコのくせに。こうなったら本気で行くしかないわね。本気よ本気、本気出す!」
本気のマチコは、ぐんぐんとケイコに近づき、更に速度をマシマシ、そしてとうとう、すごい速さでケイコを飛び越し、そのまま空中に飛び立っていくのでした。これはもう、氷の上を滑っているのではなく、ただの競争になってしまったようです、はい。
「オーホホホのホ。私に勝とうなんて100万年早いわよ」と、上空からケイコを見下ろしているマチコです。それを見上げるケイコは、「ずるい!」と抗議の拳を上げるのでした。
そうしてお互いがよそ見をしていると――氷の湖はそこまで。その先は水の澄んだ湖になっていました。しかし、急に止まれるような、そんな勢いではありません。そのまま水面を滑空するケイコです。
ですが、ところどころに小さな波があるのでしょう。それに出会うたび、ピョンピョンと跳ねていきます。そうしていると、前から何かが近づいて参りました、要急ブレーキです。
遊びの達人ケイコは、この状況に臆することなく、体を小さく丸めると、「トウォッ」と水面を蹴って飛び上がり、クルクルと回転。これで位置エネルギーを分散させることに成功。次に「ハアァっ」と体を展開、そのままストーンと前から流れてきた小さな船に乗船したのでした、お見事です。
その様子を見物していたマチコは、ケイコが船に乗ったことに「ずるい」と言いながらも、急いで自分も船に乗り込みます。すると、船は向きを変え、今来た水路を戻り始めました。それはまるで、ケイコたちを乗せるために来たような感じです。
小ぶりの船は中央に一本のマストを備え、帆が張られています。そして船全体が銀色に光って見えました。マストの後方には、ちょうどケイコとマチコが座れるような板があり、早速そこに座ります。そうすると、前方が川になっているのが見えてきました。ということは、今まで湖だと思っていた場所は、どうやら大きな川だったようです。
どんぶらこ。川の流れに沿って進み銀色の船。一応、マストがあるので帆船、もしくはヨットとでも呼んだ方が相応しいかもしれませんが、そう呼ぶには小さすぎるでしょう。
どんぶらこ。遊び疲れたケイコとマチコは座ったまま、特に会話することなく、あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロです。この船が何処から来て何処に向かうのか、それは大して興味のあることではないようです。ただ、流れに沿ってゆらゆら、どんぶらこ、と進むだけです。
ふと、空を見上げたマチコは「エェェェェェ、うっそぉぉぉぉぉ」と叫ぶのでした。その声は妙に響き渡り、隣に座るケイコをびびらすには充分だったようです。もちろん、マチコに釣られてケイコも「ウェェェェェ、うおぉぉぉぉぉ」です。
マチコが見上げた空には天井がありました。それも、どんより雲に覆われた空のように、遥か上空を、あたかも蓋をしているような天井です。そして注意深く辺りを見渡せば、川の両岸には、たかーい壁が。そう、これは、規模こそ桁違いですが、大きな洞窟、そこを流れる川だったのです、ホエェ。
「マチコ〜、ここ、どこ〜?」
怯えきったケイコがマチコに尋ねますが、それを知る由も無いマチコです。それでも、平然を装いたいマチコ。でも言葉が出てきません。それをゴマかすように、シワシワの帆に、目一杯の風を送り始めます。その強風で、まるでモーターボートのように疾走する船です、ブオーン。
バッシンバッシンと波しぶきを上げる銀色の船、その縁 にしがみ付くケイコ、ひたすら風を送ることだけを考えるマチコ、それぞれです。
◇
高原に積もった雪めがけてケイコ・ミサイルが降り注ぎます。
「ウッヒョー」
上空で狙いを定めたケイコは勇ましい掛け声と共に、ビューンと降下、そのままズボっと雪に突っ込み穴を開けます。そして、「ダァー」と飛び出ると、それを繰り返して遊びます。
「ねえ、それって面白の? ねえぇ」
マチコは不思議そうにケイコの『ダァー』を眺めていますが、ケイコが楽しいのなら、それでいいかと、半分呆れた表情で雪の上に立っていました。
因みに彼女たちは、薄い風を纏っているので極寒の冬でも寒さを感じることはありません。また軽いため雪に埋もれたりもしないのです。
ズボズボと穴が増えるにつれ飽きてしまったマチコは、相変わらず熱心に遊びまくるケイコを見て、何か閃いたようです。早速、雪玉をコネコネ。それを持ってケイコが雪の穴から飛び出てくる瞬間に投げました、モグラ叩きの要領です。
「ムグッ」
頭に命中したケイコは辺りをキョロキョロ。そしてお腹を抱えて笑っているマチコを発見。それに、「ムムム」と笑顔から真剣な眼差しに変貌したケイコ。シュパッと飛び出し、今度は狙いを定めることなくズボっと。
そうして、穴から頭を覗かせることなくシュパッと飛び出しました。それに遅れて雪玉を投げたマチコです。
「愚か者め、どこを見ておる」
「お主、考えよったな」
このような会話の後、ケイコとマチコの真剣勝負が始まったのです。ケイコは空中をジグザグに飛び回り、その軌跡を予想不可能なのもにしようと企み、奇襲を狙います。相対するマチコはコネコネを大量生産、いえ、過剰生産している模様、両者一歩も引きません。さあ、勝負の行方はいかに。はっけよい、残った、残った。
ビューン、ビュビュビューン。
ケイコの素早い攻撃が始まったー。そしてズボボボボ、雪煙が立ち上るほどの勢いで雪に突っ込んだケイコ、まだ、出てきません!
そこに、過剰生産した雪玉をケイコが出現する前から穴に放り込んでいくマチコです。これは? これは! 出口を塞ぐ作戦のようです、ケイコ危し! です。
ズボーン、しゅわしゅわ。
出ました! 全身、雪だらけのケイコが雪玉を押しのけて穴から出てまいりました。しかし、過剰生産も計画の内、雪玉を投げまくるマチコ、その姿は鬼! そのもの、または雪玉投石器と化したマチコです、ふんぎゃー。
流石のケイコもマチコの総攻撃に立ってはいられず、その場でゴロンです。ですが、戦いはまだ終わってはいません。雪と同化したケイコをゴロゴロと転がし始めたマチコ、その顔は悪代官そのもの、悪巧みの権化です。
ケイコにとっては不運が続きます。その戦場は生憎の下り坂、転がるたび、文字通り雪だるま式に不運が大きくなっていくケイコです、万事休す!
ところがです。重みを増したケイコは一気に坂を下り始めたではないですか! これはマチコにとっても誤算、想定外の出来事です。
「待ってぇぇぇ、待ちなさいよぉぉぉ、どこに行くのよぉぉぉ」
マチコの制止も聞かず、転がり続けるケイコ、「ふんぎゃー」という悲鳴も掻き消されるほどの勢いは誰にも、そしてマチコにも止められません。暴走、または迷走するケイコです。
ケイコ玉は、どんどんと成長、巨大化し坂を疾走していきます。ゴロンコロンと見た目の丸さとは裏腹に、この世を支配しそうな凶悪な存在。その後ろをマチコが一生懸命に追いかけるのです、待ってー。
転がり落ちるケイコ玉の行き先は? さあて、坂に聞いてみましょう。え、ええ、そうですか、わかりました。ケイコ玉の行き先は、この先の湖です。そして、この寒さで凍っているそうです、ありがとうございました。
そのまま転がって凍った湖に到着、そこで、とはならないのがケイコ玉です。何かに躓いたのか、ピューンと跳ね上がり、ドスンと落ちてしまいました。そして! 割れました、ケイコ玉が真っ二つに! パコーンです。
そこから両手を広げ、勇ましい姿で登場のケイコです。その口は一文字に、表情はムムム、です、おりゃー。
途中で追いかけるのを止めたマチコは、ホッと一息。そこから風に乗り、一気にケイコの元に到着です。
「あんたぁ、バカなのぉ?」
「エヘン」
そのような会話の後、周囲を見渡すマチコ。そこには一面の銀世界、何かがマチコの心をくすぐりました。そして両手を後ろに組むと、ススーイと氷の上を滑り始めるマチコです、ふふーん。
「あっ!」と声を上げるケイコです。優雅に滑るマチコに見とれ、ヨダレが出てきそうなくらい羨ましいようです。そうなれば早速、やらないわけにはいけません。ケイコもススーイと滑って――転んで、ドヒャー、です。
「なんなのぉ? それぇぇぇ」
鼻で笑うマチコは、どんどん湖の中心に向かってスイースイー。転んで寝転んでいるケイコは、また闘志を燃やします。そうして、ムムムの表情をした後、なんと飛行機が胴体着陸しているような格好で、両手を広げお腹なで滑っているではありませんか。それもビューンと、これは速い。優雅に滑るマチコを追い抜きそうな勢いです。
「ちょっとぉ、あんたぁ、何してんのよぉ」
呑気に構えるマチコですが、内心はハラハラ・ドキドキのようです。それは、もう少しでケイコに抜かれそうだからなのですが、あっ! とうとうケイコに抜かれてしまいました。すかさず前傾姿勢で抜き返しを図るマチコ、です。
マチコの前に躍り出たケイコは、一瞬振り向きニヤリと笑顔を向けると、風を操りジグザク走行、マチコの行く手を阻む進路妨害のケイコです。
「かぁぁぁぁぁ、ケイコのくせに。こうなったら本気で行くしかないわね。本気よ本気、本気出す!」
本気のマチコは、ぐんぐんとケイコに近づき、更に速度をマシマシ、そしてとうとう、すごい速さでケイコを飛び越し、そのまま空中に飛び立っていくのでした。これはもう、氷の上を滑っているのではなく、ただの競争になってしまったようです、はい。
「オーホホホのホ。私に勝とうなんて100万年早いわよ」と、上空からケイコを見下ろしているマチコです。それを見上げるケイコは、「ずるい!」と抗議の拳を上げるのでした。
そうしてお互いがよそ見をしていると――氷の湖はそこまで。その先は水の澄んだ湖になっていました。しかし、急に止まれるような、そんな勢いではありません。そのまま水面を滑空するケイコです。
ですが、ところどころに小さな波があるのでしょう。それに出会うたび、ピョンピョンと跳ねていきます。そうしていると、前から何かが近づいて参りました、要急ブレーキです。
遊びの達人ケイコは、この状況に臆することなく、体を小さく丸めると、「トウォッ」と水面を蹴って飛び上がり、クルクルと回転。これで位置エネルギーを分散させることに成功。次に「ハアァっ」と体を展開、そのままストーンと前から流れてきた小さな船に乗船したのでした、お見事です。
その様子を見物していたマチコは、ケイコが船に乗ったことに「ずるい」と言いながらも、急いで自分も船に乗り込みます。すると、船は向きを変え、今来た水路を戻り始めました。それはまるで、ケイコたちを乗せるために来たような感じです。
小ぶりの船は中央に一本のマストを備え、帆が張られています。そして船全体が銀色に光って見えました。マストの後方には、ちょうどケイコとマチコが座れるような板があり、早速そこに座ります。そうすると、前方が川になっているのが見えてきました。ということは、今まで湖だと思っていた場所は、どうやら大きな川だったようです。
どんぶらこ。川の流れに沿って進み銀色の船。一応、マストがあるので帆船、もしくはヨットとでも呼んだ方が相応しいかもしれませんが、そう呼ぶには小さすぎるでしょう。
どんぶらこ。遊び疲れたケイコとマチコは座ったまま、特に会話することなく、あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロです。この船が何処から来て何処に向かうのか、それは大して興味のあることではないようです。ただ、流れに沿ってゆらゆら、どんぶらこ、と進むだけです。
ふと、空を見上げたマチコは「エェェェェェ、うっそぉぉぉぉぉ」と叫ぶのでした。その声は妙に響き渡り、隣に座るケイコをびびらすには充分だったようです。もちろん、マチコに釣られてケイコも「ウェェェェェ、うおぉぉぉぉぉ」です。
マチコが見上げた空には天井がありました。それも、どんより雲に覆われた空のように、遥か上空を、あたかも蓋をしているような天井です。そして注意深く辺りを見渡せば、川の両岸には、たかーい壁が。そう、これは、規模こそ桁違いですが、大きな洞窟、そこを流れる川だったのです、ホエェ。
「マチコ〜、ここ、どこ〜?」
怯えきったケイコがマチコに尋ねますが、それを知る由も無いマチコです。それでも、平然を装いたいマチコ。でも言葉が出てきません。それをゴマかすように、シワシワの帆に、目一杯の風を送り始めます。その強風で、まるでモーターボートのように疾走する船です、ブオーン。
バッシンバッシンと波しぶきを上げる銀色の船、その
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Stefan_KellerによるPixabayからの画像