#7.2 灯火の風
文字数 2,765文字
さて、ケイコたちが目を輝かせながらお宝のある場所まで移動してる間、昔の話をしましょう。そう、昔といえば例の船、移民船のことです。
人々から忘れ去られた船は『どんぶらこ』と宇宙を漂いながら次第にボロボロ、そして最後にはバラバラに壊れてしまいました。その破片は大きな塊から小さな箱くらいに、更に小さくなって見えなくらいになったそうです。
ではそれで船は影も形も無くなってしまったのでしょうか。それは『はい』とも『いいえ』とも言えます。『はい』については、もう目には見えないくらい小さな埃のようになってしまったこと。『いいえ』は、それはそれは大きな船あったことと、多くの人が乗っていたことによりその存在が大きかったこと、そして船が抱いた思いは永遠に続いたのです。
それは長い長い年月を船の中で過ごした人たちの思いが、あちこちに宿っていたからでしょう。大好きな場所、懐かしいところ、そこは毎日を暮らした故郷でもあるのです。
『船』という形は失われましたが、その思い・記憶は消えることはありません。それらは想い出と一緒に広大な宇宙を漂いました。そうして船は人の目には見えなくなっても宇宙のどこかで在り続けたのです。
そんな、よく分からない船に住んでいる留まる風 が居るそうです。彼女がどこから来て、どうしてそうなったかは誰にも、そして彼女自身にも分からないようです。それはもしかしたら最初からそこに居たのかもしれません。因みに彼女の名前はヨシコ。ええ、どこかで聞いたことが有るような無いような、です。
◇
さあ、ケイコとマチコが地図が指し示すお宝の場所へとやって来ました。そこは山脈が連なる奥の、そのまた奥にある山の中腹、そこにある洞窟の前に立つケイコとマチコです。
「どこどこどこ? どこにあるの?」
風から真っ先に降りたケイコが辺りを見渡しますが、それらしいキラキラがありません。それでもどこかを見落としているんだ、と隈無 く探しています。
「あんたねぇ、ちょっとは地図を見なさいよねぇ。お宝はこの先にあるのよぉ」
地図を片手に洞窟の入り口を指差すマチコです。その入り口の高さはちょうどマチコ3個分でしょうか、とても人が入れる大きさではありません。これではまるで彼女たち専用の洞窟のようにも思えます。
ということでこの先、人の基準で見た大きさではなく、ケイコやマチコのサイズにちょうど良い場合は、ケイコサイズまたはマチコサイズと呼ぶことにしましょう。
「中、真っ暗だよ」
「当たり前でしょう」
洞窟の入り口に駆け寄ったケイコは、そのまま中に入ろうとしましたが、入り口の先はお先真っ暗、下り坂になっているようです。そこで思わず足踏みしてしまうケイコに後ろから声を掛けるマチコです。
「さあぁ、そんなところに突っ立っていないで、先に行くわよぉ」
マチコに言われた途端、マチコの前に陣取るケイコです。そして「私、お姉さんだから」とマチコの前を歩こうとしますが、しますが、しますが、立ち止まったままプルプルのケイコ、です。
「ねえぇ、行かないのぉ?」
マチコの催促に「ムムム」と、何かと戦うケイコ。しかし、サッとマチコの後方に下がり、「先に行ってもいいよ。お姉さんだから、譲ってあげる」と、一生懸命、お姉さん風を吹かせますが、どこかに吹き飛んでしまう、そんなケイコ、です。
「あっそぉ、じゃぁ行くわよ」
こうしてマチコを先頭に、そのマチコの背中にくっついて歩くケイコは、お先真っ暗な洞窟を進んで参ります。
パチン。
マチコが右腕を伸ばして指パッチンをしました。すると腕の両脇から風が起こり、それが前方の高いところまで吹き上がります。そして左巻きの風と右巻きの風が喧嘩を始めました。その火花を飛ばし合うことで小さな雷が発生、バチバチです。それが灯りとなって洞窟を照らし始めるのです。
「うおー」
灯りに感心したケイコに、「あんたもぉ、これくらいは出来るでしょうぉ?」のマチコ、それに、「出来ないよ」と自慢気に答えるケイコです。
こうして明るくなった洞窟を暫く進んでいくと、天井が崩れているのでしょうか、行き止まりのように進路が塞がれているのでした。
ここで地図を確認すると、お宝の場所は更にその向こう。これ以上進むのは不可能、と思えますが、
「さあぁ、行くわよ」
「うん」
と平気なマチコとケイコです。ということは障害物を吹き飛ばしてしまうつもりなのでしょうか。ですがそのまま歩み続け、続け、おおっとぉぉぉ! 道が塞がれているというのに、そこを素通りする彼女たちです。それはまるで何も無いかのよう。
そうです、彼女たちの行く手を阻むものなど、この世界には存在しないのです。そもそも彼女たちの存在そのものが曖昧だからでしょうか、しっかりと見ていきましょう。
ということで、そこを通り過ぎた後、周囲が暗くなってしまいました。どうやらマチコの灯りは付いてこれなかった様子。その代りのものをケイコに催促するマチコです。
「今度はぁ、ほら、あんたがやってみなさいよ」
「任せて」
ケイコは箒のような魔法の杖を振り回しながら、「あらったまほんにゃらほんぷー」と魔法の呪文を叫びました。えっと、その魔法の杖はどこから出てきたのでしょうか。まあ、そこは深く考えないようにしておきましょう。ケイコの魔法により人魂のような灯りが出現、ゆらゆらと漂い今にも消えそうです。
その灯りを伴って歩き進めるケイコとマチコです。
それではそろそろ、もしかしたら疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんので説明しておきましょう。何故、彼女たちは風に乗らずに歩いているのか、ということで御座います。風に乗れば『あっ』という間にどこかにたどり着くのではないか、そんな疑問が沸騰している頃でしょう、それは、ですね。
探検! このことに尽きるでしょう。彼女たちはお宝を目指して行動をしているのです。それこそ探検隊の成すべきことではないでしょうか。そして探検隊とくれば、地道に歩いて行くものと彼女たちの中では定義づけられているのです。
よって歩いてこそ探検隊、探検隊は歩くもの、ということで御座います、はい。ところで探検隊となれば、どちらかが隊長であり、残った方が副隊長もしくは隊員ということになります。ではそれを直接、訪ねてみましょう。まずはケイコからです。
「私? 私、お姉さんだよ」
わかりました、ありがとうございます。では次にマチコに訪ねます。
「私? マチコだよぉ」
わかりました、ありがとうございます。結局、どちらも、どちらでもないということが分かりました、です。
◇◇
人々から忘れ去られた船は『どんぶらこ』と宇宙を漂いながら次第にボロボロ、そして最後にはバラバラに壊れてしまいました。その破片は大きな塊から小さな箱くらいに、更に小さくなって見えなくらいになったそうです。
ではそれで船は影も形も無くなってしまったのでしょうか。それは『はい』とも『いいえ』とも言えます。『はい』については、もう目には見えないくらい小さな埃のようになってしまったこと。『いいえ』は、それはそれは大きな船あったことと、多くの人が乗っていたことによりその存在が大きかったこと、そして船が抱いた思いは永遠に続いたのです。
それは長い長い年月を船の中で過ごした人たちの思いが、あちこちに宿っていたからでしょう。大好きな場所、懐かしいところ、そこは毎日を暮らした故郷でもあるのです。
『船』という形は失われましたが、その思い・記憶は消えることはありません。それらは想い出と一緒に広大な宇宙を漂いました。そうして船は人の目には見えなくなっても宇宙のどこかで在り続けたのです。
そんな、よく分からない船に住んでいる
◇
さあ、ケイコとマチコが地図が指し示すお宝の場所へとやって来ました。そこは山脈が連なる奥の、そのまた奥にある山の中腹、そこにある洞窟の前に立つケイコとマチコです。
「どこどこどこ? どこにあるの?」
風から真っ先に降りたケイコが辺りを見渡しますが、それらしいキラキラがありません。それでもどこかを見落としているんだ、と
「あんたねぇ、ちょっとは地図を見なさいよねぇ。お宝はこの先にあるのよぉ」
地図を片手に洞窟の入り口を指差すマチコです。その入り口の高さはちょうどマチコ3個分でしょうか、とても人が入れる大きさではありません。これではまるで彼女たち専用の洞窟のようにも思えます。
ということでこの先、人の基準で見た大きさではなく、ケイコやマチコのサイズにちょうど良い場合は、ケイコサイズまたはマチコサイズと呼ぶことにしましょう。
「中、真っ暗だよ」
「当たり前でしょう」
洞窟の入り口に駆け寄ったケイコは、そのまま中に入ろうとしましたが、入り口の先はお先真っ暗、下り坂になっているようです。そこで思わず足踏みしてしまうケイコに後ろから声を掛けるマチコです。
「さあぁ、そんなところに突っ立っていないで、先に行くわよぉ」
マチコに言われた途端、マチコの前に陣取るケイコです。そして「私、お姉さんだから」とマチコの前を歩こうとしますが、しますが、しますが、立ち止まったままプルプルのケイコ、です。
「ねえぇ、行かないのぉ?」
マチコの催促に「ムムム」と、何かと戦うケイコ。しかし、サッとマチコの後方に下がり、「先に行ってもいいよ。お姉さんだから、譲ってあげる」と、一生懸命、お姉さん風を吹かせますが、どこかに吹き飛んでしまう、そんなケイコ、です。
「あっそぉ、じゃぁ行くわよ」
こうしてマチコを先頭に、そのマチコの背中にくっついて歩くケイコは、お先真っ暗な洞窟を進んで参ります。
パチン。
マチコが右腕を伸ばして指パッチンをしました。すると腕の両脇から風が起こり、それが前方の高いところまで吹き上がります。そして左巻きの風と右巻きの風が喧嘩を始めました。その火花を飛ばし合うことで小さな雷が発生、バチバチです。それが灯りとなって洞窟を照らし始めるのです。
「うおー」
灯りに感心したケイコに、「あんたもぉ、これくらいは出来るでしょうぉ?」のマチコ、それに、「出来ないよ」と自慢気に答えるケイコです。
こうして明るくなった洞窟を暫く進んでいくと、天井が崩れているのでしょうか、行き止まりのように進路が塞がれているのでした。
ここで地図を確認すると、お宝の場所は更にその向こう。これ以上進むのは不可能、と思えますが、
「さあぁ、行くわよ」
「うん」
と平気なマチコとケイコです。ということは障害物を吹き飛ばしてしまうつもりなのでしょうか。ですがそのまま歩み続け、続け、おおっとぉぉぉ! 道が塞がれているというのに、そこを素通りする彼女たちです。それはまるで何も無いかのよう。
そうです、彼女たちの行く手を阻むものなど、この世界には存在しないのです。そもそも彼女たちの存在そのものが曖昧だからでしょうか、しっかりと見ていきましょう。
ということで、そこを通り過ぎた後、周囲が暗くなってしまいました。どうやらマチコの灯りは付いてこれなかった様子。その代りのものをケイコに催促するマチコです。
「今度はぁ、ほら、あんたがやってみなさいよ」
「任せて」
ケイコは箒のような魔法の杖を振り回しながら、「あらったまほんにゃらほんぷー」と魔法の呪文を叫びました。えっと、その魔法の杖はどこから出てきたのでしょうか。まあ、そこは深く考えないようにしておきましょう。ケイコの魔法により人魂のような灯りが出現、ゆらゆらと漂い今にも消えそうです。
その灯りを伴って歩き進めるケイコとマチコです。
それではそろそろ、もしかしたら疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんので説明しておきましょう。何故、彼女たちは風に乗らずに歩いているのか、ということで御座います。風に乗れば『あっ』という間にどこかにたどり着くのではないか、そんな疑問が沸騰している頃でしょう、それは、ですね。
探検! このことに尽きるでしょう。彼女たちはお宝を目指して行動をしているのです。それこそ探検隊の成すべきことではないでしょうか。そして探検隊とくれば、地道に歩いて行くものと彼女たちの中では定義づけられているのです。
よって歩いてこそ探検隊、探検隊は歩くもの、ということで御座います、はい。ところで探検隊となれば、どちらかが隊長であり、残った方が副隊長もしくは隊員ということになります。ではそれを直接、訪ねてみましょう。まずはケイコからです。
「私? 私、お姉さんだよ」
わかりました、ありがとうございます。では次にマチコに訪ねます。
「私? マチコだよぉ」
わかりました、ありがとうございます。結局、どちらも、どちらでもないということが分かりました、です。
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