#5.3 嘘吐く風
文字数 2,528文字
暫く突進した後、ピタリと止まった魔獣たちです。そして剣士マチコを乗せた魔獣が、
「姉さんたち。あっしらはここまでです、ご武運を」と言い残すと去って行くのでした。
「ちょっとぉ、なによぉ、面倒じゃないのよぉ、最後まで乗せて行きなさいよぉ」
と剣士マチコがボヤいていると、またヨシコから風の便りが参りました。
「そこは『記憶の間』だね。頑張ってね」
「ちょっとぉ、ヨシコ」
ヨシコからの便りに質問するマチコです。因みに風の便りは、お互いが風使いであれば双方向が可能です。おっと、ということはヨシコとは何者なのでしょうか。船で一番偉いオバさん? 曲者です。
「なんさね?」
「面倒だからぁ、一気に最後のところまで連れて行ってよぉ」
「だめさね。物事には順序ってもんがあんのよ。そうしないと先住民の信頼は得られないよー、じゃあねー」
「ちょっとぉぉぉ」
さあて、剣士マチコの愚痴は放っておいて、ヨシコの言う『記憶の間』とは何でしょうか。暗記勝負であれば、とても勝ち目のない勇者たちです、はい。
「おっちゃん!」
あれこれと考えているうちに魔導師ケイコが叫びました。人を指差してはいけないとは思いますが、前からノコノコとやって来たのは、例の船長ではありませんか。余りの懐かしさに駆け寄る魔導師ケイコです。
「よう、相棒。元気だったか」
陽気に声をかけてくる船長です。病気もどこかに吹き飛んで元気な姿を見せていますが、その手には何やら凶器、それも錨のようです。鎖の部分を持って、和かに振り回しながら近づいてきます。でもここは地球ではありません。遥か数千里の彼方、船長が居るはずがないのです。それでも、
「うん!」と笑顔で応える魔導師ケイコです。
その時です! 魔導師ケイコめがけて錨を振り下ろす船長! なんてことを! ですがご安心を。ケイコ・シールドにより、するりと錨が避けていきました。完璧な風による防御です、ふー。
「なにすんじゃぁぁぁ、おっちゃん!」
魔導師ケイコが怒るのも無理はありません。かつては『おっちゃん・相棒』で呼び合った仲です。ゴツーンと床に落ちた錨よりも、精神的ダメージの方が大きい魔導師ケイコです。因みに船長と勇者たちは巨人と小人ではなく人並みサイズです。大きくなった魔導師ケイコの姿が分からない、のかも。
「ほら、逃げたら当たらないじゃないか。そこで大人しくしてるんだ」
船長にそう言われて、いえ、誰に言われても大人しく出来る魔導師ケイコではありません。聞かん坊なのです、ええ。
更に続く船長の攻撃。シュルシュルと鎖を手繰り寄せ振り回し始めました。そして今度は横から魔導師ケイコに襲いかかる! 危ない魔導師ケイコ!
カキコケコキーン。
飛んでくる錨を剣で跳ね返す剣士マチコです。そして一歩踏み出すと、バシーンとおっちゃん、いえ、船長を真っ二つ。容赦ない剣士マチコです。
「おっちゃんー」
どんなことをされても人を疑う心を持たない魔導師ケイコです。その純真さ故に、敵も味方も区別がつかない程です。ほら、剣士マチコによって成敗された船長は黒い霧となって消滅。どうやら魔物だったようです。それでも、
「およよ」と目を丸くして驚く魔導師ケイコです。
「ちょっとぉ、あんたねぇ、もうちょっとぉ、しっかりしなさいよねぇ」
剣士マチコは手元でクルクルと剣を回して、回して落としてしまいました。それに「あらら」と言いながら拾おうとした時、その剣を拾ってくれる人が。なんと、いつか街で出会ったオバさんではありませんか。
一方、魔導師ケイコの前にも例のお婆さんが。これは一体何が起こっているのでしょうか。しかし、そんな複雑なことにはお構いなく、
「おばあちゃん!」と擦寄る魔導師ケイコ。それに、
「大丈夫かい?」と優しい言葉を掛けるお婆さん、序でにビーズ玉を投げてきました。
「なにするんじゃ、おばあちゃん!」
「見て分からぬか、ほれ、ほれ、ほれほれほれ」
お婆さんの連続ビーズ玉攻撃に反撃できない魔導師ケイコ。しかし、無抵抗の魔導師ケイコに手を緩めることはなく攻撃を続けます。それに耐えかねた魔導師ケイコ、もう限界とばかりに反撃を開始するようです。ほら、
「あらったまほんにゃらほんぷー」と呪文を唱え、そして魔法が発動。それに「あらあら」と狼狽えるお婆さんです。
魔導師ケイコの魔法によりお婆さんの手にあったビーズ玉が、あちこちに吹き飛んでいきました。これに抗議するお婆さんです。
「なんてことするんだね、この子は」
その一言でシュンとしてしまう魔導師ケイコ、戦意を失い、目には涙をためその場で膝をついてしまいました、お手上げの魔導師ケイコです。
では、剣士マチコの方はどうでしょうか。こちらもピンチのようです。片手にハサミを持ちチョッキン、もう片方からは塩を蒔くように『おはじき』を投げつけてきます。それに、
「ちょっとぉ、なにすんのよぉ、おばさん!」と抗議しますが、
「見て分からないの? おバカさんね」と余裕の構えです。
見た目と、今までの行いと違い、意外と人情に厚い剣士マチコ、攻撃に迷いが生じているようです。あの船長を一刀両断した勢いは微塵も感じられません。笑顔のままで迫るオバさんに手も足も出ない剣士マチコです。それでも、オバさんから離れながら剣を振り回しています。そして、
「こっちぃ、来ないでよぉ。当たったら痛んだかねぇ」と後退していきます。
魔導師ケイコはともかく、剣士マチコも相手が本物だと感違いしているようです。先程、黒い煙となって消えた船長を思えば、それは分かるはずです。ですがですが、曇った眼と心に真実は届きません。逃げる勇者、追う魔物です。
「やめてケロ、おばあちゃん」
「来ないでよぉ、あっちぃいってよぉ」
こうして追い詰めらる勇者たち。どうしたものかとクルクルと考えが空回りする剣士マチコです。更にチラッと魔導師ケイコの様子を伺うと、既に半べそ状態。これはもうダメ、と魔導師ケイコの手を引き、一目散に駆け抜ける勇者たちです。その後をビーズ玉とおはじきが飛んで参ります、イテッ。
「しっかりぃ、走んのよぉ」剣士マチコの檄に、
「およおよ」と半泣きの魔導師ケイコ、すたこらさっさ、です。
◇
「姉さんたち。あっしらはここまでです、ご武運を」と言い残すと去って行くのでした。
「ちょっとぉ、なによぉ、面倒じゃないのよぉ、最後まで乗せて行きなさいよぉ」
と剣士マチコがボヤいていると、またヨシコから風の便りが参りました。
「そこは『記憶の間』だね。頑張ってね」
「ちょっとぉ、ヨシコ」
ヨシコからの便りに質問するマチコです。因みに風の便りは、お互いが風使いであれば双方向が可能です。おっと、ということはヨシコとは何者なのでしょうか。船で一番偉いオバさん? 曲者です。
「なんさね?」
「面倒だからぁ、一気に最後のところまで連れて行ってよぉ」
「だめさね。物事には順序ってもんがあんのよ。そうしないと先住民の信頼は得られないよー、じゃあねー」
「ちょっとぉぉぉ」
さあて、剣士マチコの愚痴は放っておいて、ヨシコの言う『記憶の間』とは何でしょうか。暗記勝負であれば、とても勝ち目のない勇者たちです、はい。
「おっちゃん!」
あれこれと考えているうちに魔導師ケイコが叫びました。人を指差してはいけないとは思いますが、前からノコノコとやって来たのは、例の船長ではありませんか。余りの懐かしさに駆け寄る魔導師ケイコです。
「よう、相棒。元気だったか」
陽気に声をかけてくる船長です。病気もどこかに吹き飛んで元気な姿を見せていますが、その手には何やら凶器、それも錨のようです。鎖の部分を持って、和かに振り回しながら近づいてきます。でもここは地球ではありません。遥か数千里の彼方、船長が居るはずがないのです。それでも、
「うん!」と笑顔で応える魔導師ケイコです。
その時です! 魔導師ケイコめがけて錨を振り下ろす船長! なんてことを! ですがご安心を。ケイコ・シールドにより、するりと錨が避けていきました。完璧な風による防御です、ふー。
「なにすんじゃぁぁぁ、おっちゃん!」
魔導師ケイコが怒るのも無理はありません。かつては『おっちゃん・相棒』で呼び合った仲です。ゴツーンと床に落ちた錨よりも、精神的ダメージの方が大きい魔導師ケイコです。因みに船長と勇者たちは巨人と小人ではなく人並みサイズです。大きくなった魔導師ケイコの姿が分からない、のかも。
「ほら、逃げたら当たらないじゃないか。そこで大人しくしてるんだ」
船長にそう言われて、いえ、誰に言われても大人しく出来る魔導師ケイコではありません。聞かん坊なのです、ええ。
更に続く船長の攻撃。シュルシュルと鎖を手繰り寄せ振り回し始めました。そして今度は横から魔導師ケイコに襲いかかる! 危ない魔導師ケイコ!
カキコケコキーン。
飛んでくる錨を剣で跳ね返す剣士マチコです。そして一歩踏み出すと、バシーンとおっちゃん、いえ、船長を真っ二つ。容赦ない剣士マチコです。
「おっちゃんー」
どんなことをされても人を疑う心を持たない魔導師ケイコです。その純真さ故に、敵も味方も区別がつかない程です。ほら、剣士マチコによって成敗された船長は黒い霧となって消滅。どうやら魔物だったようです。それでも、
「およよ」と目を丸くして驚く魔導師ケイコです。
「ちょっとぉ、あんたねぇ、もうちょっとぉ、しっかりしなさいよねぇ」
剣士マチコは手元でクルクルと剣を回して、回して落としてしまいました。それに「あらら」と言いながら拾おうとした時、その剣を拾ってくれる人が。なんと、いつか街で出会ったオバさんではありませんか。
一方、魔導師ケイコの前にも例のお婆さんが。これは一体何が起こっているのでしょうか。しかし、そんな複雑なことにはお構いなく、
「おばあちゃん!」と擦寄る魔導師ケイコ。それに、
「大丈夫かい?」と優しい言葉を掛けるお婆さん、序でにビーズ玉を投げてきました。
「なにするんじゃ、おばあちゃん!」
「見て分からぬか、ほれ、ほれ、ほれほれほれ」
お婆さんの連続ビーズ玉攻撃に反撃できない魔導師ケイコ。しかし、無抵抗の魔導師ケイコに手を緩めることはなく攻撃を続けます。それに耐えかねた魔導師ケイコ、もう限界とばかりに反撃を開始するようです。ほら、
「あらったまほんにゃらほんぷー」と呪文を唱え、そして魔法が発動。それに「あらあら」と狼狽えるお婆さんです。
魔導師ケイコの魔法によりお婆さんの手にあったビーズ玉が、あちこちに吹き飛んでいきました。これに抗議するお婆さんです。
「なんてことするんだね、この子は」
その一言でシュンとしてしまう魔導師ケイコ、戦意を失い、目には涙をためその場で膝をついてしまいました、お手上げの魔導師ケイコです。
では、剣士マチコの方はどうでしょうか。こちらもピンチのようです。片手にハサミを持ちチョッキン、もう片方からは塩を蒔くように『おはじき』を投げつけてきます。それに、
「ちょっとぉ、なにすんのよぉ、おばさん!」と抗議しますが、
「見て分からないの? おバカさんね」と余裕の構えです。
見た目と、今までの行いと違い、意外と人情に厚い剣士マチコ、攻撃に迷いが生じているようです。あの船長を一刀両断した勢いは微塵も感じられません。笑顔のままで迫るオバさんに手も足も出ない剣士マチコです。それでも、オバさんから離れながら剣を振り回しています。そして、
「こっちぃ、来ないでよぉ。当たったら痛んだかねぇ」と後退していきます。
魔導師ケイコはともかく、剣士マチコも相手が本物だと感違いしているようです。先程、黒い煙となって消えた船長を思えば、それは分かるはずです。ですがですが、曇った眼と心に真実は届きません。逃げる勇者、追う魔物です。
「やめてケロ、おばあちゃん」
「来ないでよぉ、あっちぃいってよぉ」
こうして追い詰めらる勇者たち。どうしたものかとクルクルと考えが空回りする剣士マチコです。更にチラッと魔導師ケイコの様子を伺うと、既に半べそ状態。これはもうダメ、と魔導師ケイコの手を引き、一目散に駆け抜ける勇者たちです。その後をビーズ玉とおはじきが飛んで参ります、イテッ。
「しっかりぃ、走んのよぉ」剣士マチコの檄に、
「およおよ」と半泣きの魔導師ケイコ、すたこらさっさ、です。
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