#4.5 お姉さん風
文字数 3,043文字
「私、お姉さんになるの」
「はあ?」
岬の先端に立つケイコとマチコです。台風の接近で、吹けよ風、呼べよ嵐の状態。そんな厳しい状況に、悠然と立ち向かうケイコと、暇なので……心配なので付いて来たマチコ。早速、ケイコの言っている意味が分かりません。
「戦っているの、負けられないの」
「はあ? なにと戦ってるってぇ?」
ケイコの見つめる先には真っ黒な雲が渦を巻き、辺りは夜のような暗さです。そんな恐ろしい光景に一歩も引かないケイコ、風で髪が乱れるのを嫌がるマチコです。
「私、逃げないよ」
「はあ? 私、帰るからね」
「逃げるの? マチコだから?」
「はあ? 私が逃げるですって!」
吹き上げる風、叩きつけるような雨、それでも台風と睨めっこ勝負。さあ、どちらに軍配があがるのか。因みにケイコはケイコ・シールドにより雨風から守られています。マチコも同様です。
「来たよ、私はここよ」
「だから、何が来たっていうのよぉぉぉ」
さあ、お出でになりました。ケイコが待ち受けていたのは、台風に巻き込まれた新米の風の子 たちです。その新米ゆえに台風から逃げ遅れ、台風と一緒になって移動してきた、または連れて来られた風の子 たちです。その数、数千から……えっと、どれくらい居るのか数え切れません! とにかく沢山、大勢です。その子たちを保護するためにケイコは……本当ですか?
「私、お姉さんになるの」
「あんたって、そんなに家族が居たんだぁ」
「バカなの?」
「なっ!」
台風と一緒になってクルクルと回っている風の子 たちを誘導すべく、避難所での受付が始まりました。もちろん、スタッフはケイコとマチコです。
「みんなぁぁぁ、こっちよぉぉぉ!」
「ねえ、あの台風も何かの神様なのぉ?」
「自然現象よ。バカなの?」
「なっ!」
続々と集まってくる風の子たちです。因みにケイコたちを女子高生に例えれば、風の子たちは小学生くらいでしょうか。みんな、まだまだ風の扱いには慣れていない子たちです。受付に来るなり「怖かったよぉ」とか「えーん」と大半が泣きながらの到着です。でもたまに、「へっちゃらだもん」と平気な子もいますが、それも涙を堪えているのが見え見えです。
「マチコ! この子たちを避難所まで案内して」
「なっ!」
マチコたちの居る岬は、既に風の子たちで満員状態です。そこで引率の先生のようになったマチコは、
「はぁぁぁい、みんなぁぁぁ、落ち着いてぇぇぇ。今から避難所に案内するからぁぁぁ」と声を掛けると、「「はーい」」と、元気一杯の声が返ってきました。
マチコを先頭にぞろぞろと歩き出すると、数歩で避難所に到着、そこはケイコの家、広い森の中でした。そこでマチコは、
「みんなぁぁぁ、ここが避難所よぉ。好きなところで寝ていいからねぇぇぇ」と言ったとたん、風の子たちが一斉にブンブンと飛び始め、それはそれは賑やかな事になったのでした。
数千、いえ、数え切れない程の子供たちが、それぞれ思い思いの場所を見つけると、葉っぱベットの上で寛ぎ始めました。これ程の数であっても、広い森はまだまだ余裕のようです。それに、普段は風のない森に珍しく風が吹いています。それも乾燥した風が雨に濡れた子供たちの体を素早く乾かしていきました。この子たちもいずれ、風の扱いに長けてくれば、マチコたちのようにシールドを展開できるようになることでしょう。
しかし、これだけの大勢が一堂に会した森です。葉っぱベットでスヤスヤどころかペチャクチャの大合唱。みんな、興奮のあまり寝付けないようです。
「あぁぁぁ、うるさいよぉぉぉ、みんなぁ、静かにぃぃぃ」とマチコが大声をあげてもかき消される程の大音量、これではまるでどこかの修学旅行のよう、です。
そこに、最後の集団を引き連れたケイコが帰って参りました。早速、思い思いにブンブン飛び回る風の子たちです。あれ? ケイコも一緒に居なくなってしまいましたよ、ブーン。
「なんなのよぉぉぉ、これはぁぁぁ」
森での一大イベントに頭を抱えるマチコです。これでも一応、都会の喧騒に慣れているマチコです。それでも圧倒される無秩序な光景に呆れるばかり。仕方なく自分の部屋に戻るマチコです。
◇◇
たぶん、翌日の朝。ケイコの家を訪ねたマチコです。そこは昨夜とは打って変わり、静寂そのものです。そしてどこを見渡しても風の子たちの姿はなく、ケイコは何時もの葉っぱベットでスヤスヤでした。その葉っぱの端を摘んで離すと、ビヨヨーンと上下に揺れ、ケイコが降ってきました。もちろん、着地は失敗です、どひゃ。
「う〜ん、なんだかな〜、う〜ん」
寝ぼけたケイコが寝言のように何かを言っているようです。そんなケイコの前に立ち、「あの子たちはどこに行ったのよぉ」とマチコが尋ねると、「う〜ん、もう、帰ったよ」とのことでした。
それはそれは静かな森が帰ってきました。耳を澄ますまでもなく、昨夜の騒ぎを知っているマチコからすれば、その静けさは凄く不気味にも思えたのでした。それでもあの喧騒をどこか懐かしく思うのです。そうして、もし同じようなことが起こったら……やっぱり馴染めそうにはないと思うマチコです。
「あああああああ!」
しみじみと感慨に浸っていたマチコの心を引き裂くように、ケイコが目を丸くして叫びました。それをとっちめるマチコです。
「ちょっとぉ、なんなのよぉ、全くぅぅぅ」
「いっぱい居たから、運動会できたのにー」
「なんですってぇ? 運動会?」
「もう〜、みんな、帰っちゃったよ〜」
「そうね」
「運動会やりたい!」
「あっそ」
「運動会、やりたいの!」
◇
ケイコのワガママで高原にやって来たケイコとマチコです。どうやらここで運動会が開催される模様でーす。なんだかんだと付き合いの良いマチコでーす。
「いっくよ〜」
「本当にやるのぉぉぉ?」
ケイコとマチコによる綱引きの始まりです。しかし、これだけでは余りにも寂しすぎではありませんか? そう思うマチコも気が乗らないようです。
「せーの、ドン」
ケイコの合図で綱引きが始まりました。やる気満々のケイコに圧倒されるマチコ、一歩的に引きずられていきます。ですが、このまま負けるのもシャクなマチコです。そこで奥の手、向かい風の術でケイコを翻弄するマチコ、どこかズルイです。
「うんにゃぁぁぁ」
劣勢となったケイコは唸り声をあげます。そして気合と根性で挽回を図りますが、いかんせん、マチコの向かい風はケイコにとっては追い風、その背中をグイグイと押していきます。
これではいけない、そう思ったケイコも奥の手を繰り出します。その名も『秘技、ケイコの根性と友情の証』。「こんにゃろうぉぉぉ」の呪文でなんと、ケイコの複製が出現、その数は10、一気に巻き返しました。
「ちょっとぉぉぉ、なんなのよぉぉぉ、それぇぇぇ」
ケイコの術で劣勢となったマチコです。口だけは達者ですが、それでも余裕の笑みを浮かべるマチコ、次の手を……が無いので、迎え風の強化版、マチコ・トルネードを発動、グルグル・ドバーン、です。
これで、幾つかの複製ケイコが吹き飛び、勝負は互角となったような。
「エイヤー」
「ソイヤー」
ケイコとマチコの真剣な掛け声が、いつまでも高原に響いたそうです。
「はあ?」
岬の先端に立つケイコとマチコです。台風の接近で、吹けよ風、呼べよ嵐の状態。そんな厳しい状況に、悠然と立ち向かうケイコと、暇なので……心配なので付いて来たマチコ。早速、ケイコの言っている意味が分かりません。
「戦っているの、負けられないの」
「はあ? なにと戦ってるってぇ?」
ケイコの見つめる先には真っ黒な雲が渦を巻き、辺りは夜のような暗さです。そんな恐ろしい光景に一歩も引かないケイコ、風で髪が乱れるのを嫌がるマチコです。
「私、逃げないよ」
「はあ? 私、帰るからね」
「逃げるの? マチコだから?」
「はあ? 私が逃げるですって!」
吹き上げる風、叩きつけるような雨、それでも台風と睨めっこ勝負。さあ、どちらに軍配があがるのか。因みにケイコはケイコ・シールドにより雨風から守られています。マチコも同様です。
「来たよ、私はここよ」
「だから、何が来たっていうのよぉぉぉ」
さあ、お出でになりました。ケイコが待ち受けていたのは、台風に巻き込まれた新米の
「私、お姉さんになるの」
「あんたって、そんなに家族が居たんだぁ」
「バカなの?」
「なっ!」
台風と一緒になってクルクルと回っている
「みんなぁぁぁ、こっちよぉぉぉ!」
「ねえ、あの台風も何かの神様なのぉ?」
「自然現象よ。バカなの?」
「なっ!」
続々と集まってくる風の子たちです。因みにケイコたちを女子高生に例えれば、風の子たちは小学生くらいでしょうか。みんな、まだまだ風の扱いには慣れていない子たちです。受付に来るなり「怖かったよぉ」とか「えーん」と大半が泣きながらの到着です。でもたまに、「へっちゃらだもん」と平気な子もいますが、それも涙を堪えているのが見え見えです。
「マチコ! この子たちを避難所まで案内して」
「なっ!」
マチコたちの居る岬は、既に風の子たちで満員状態です。そこで引率の先生のようになったマチコは、
「はぁぁぁい、みんなぁぁぁ、落ち着いてぇぇぇ。今から避難所に案内するからぁぁぁ」と声を掛けると、「「はーい」」と、元気一杯の声が返ってきました。
マチコを先頭にぞろぞろと歩き出すると、数歩で避難所に到着、そこはケイコの家、広い森の中でした。そこでマチコは、
「みんなぁぁぁ、ここが避難所よぉ。好きなところで寝ていいからねぇぇぇ」と言ったとたん、風の子たちが一斉にブンブンと飛び始め、それはそれは賑やかな事になったのでした。
数千、いえ、数え切れない程の子供たちが、それぞれ思い思いの場所を見つけると、葉っぱベットの上で寛ぎ始めました。これ程の数であっても、広い森はまだまだ余裕のようです。それに、普段は風のない森に珍しく風が吹いています。それも乾燥した風が雨に濡れた子供たちの体を素早く乾かしていきました。この子たちもいずれ、風の扱いに長けてくれば、マチコたちのようにシールドを展開できるようになることでしょう。
しかし、これだけの大勢が一堂に会した森です。葉っぱベットでスヤスヤどころかペチャクチャの大合唱。みんな、興奮のあまり寝付けないようです。
「あぁぁぁ、うるさいよぉぉぉ、みんなぁ、静かにぃぃぃ」とマチコが大声をあげてもかき消される程の大音量、これではまるでどこかの修学旅行のよう、です。
そこに、最後の集団を引き連れたケイコが帰って参りました。早速、思い思いにブンブン飛び回る風の子たちです。あれ? ケイコも一緒に居なくなってしまいましたよ、ブーン。
「なんなのよぉぉぉ、これはぁぁぁ」
森での一大イベントに頭を抱えるマチコです。これでも一応、都会の喧騒に慣れているマチコです。それでも圧倒される無秩序な光景に呆れるばかり。仕方なく自分の部屋に戻るマチコです。
◇◇
たぶん、翌日の朝。ケイコの家を訪ねたマチコです。そこは昨夜とは打って変わり、静寂そのものです。そしてどこを見渡しても風の子たちの姿はなく、ケイコは何時もの葉っぱベットでスヤスヤでした。その葉っぱの端を摘んで離すと、ビヨヨーンと上下に揺れ、ケイコが降ってきました。もちろん、着地は失敗です、どひゃ。
「う〜ん、なんだかな〜、う〜ん」
寝ぼけたケイコが寝言のように何かを言っているようです。そんなケイコの前に立ち、「あの子たちはどこに行ったのよぉ」とマチコが尋ねると、「う〜ん、もう、帰ったよ」とのことでした。
それはそれは静かな森が帰ってきました。耳を澄ますまでもなく、昨夜の騒ぎを知っているマチコからすれば、その静けさは凄く不気味にも思えたのでした。それでもあの喧騒をどこか懐かしく思うのです。そうして、もし同じようなことが起こったら……やっぱり馴染めそうにはないと思うマチコです。
「あああああああ!」
しみじみと感慨に浸っていたマチコの心を引き裂くように、ケイコが目を丸くして叫びました。それをとっちめるマチコです。
「ちょっとぉ、なんなのよぉ、全くぅぅぅ」
「いっぱい居たから、運動会できたのにー」
「なんですってぇ? 運動会?」
「もう〜、みんな、帰っちゃったよ〜」
「そうね」
「運動会やりたい!」
「あっそ」
「運動会、やりたいの!」
◇
ケイコのワガママで高原にやって来たケイコとマチコです。どうやらここで運動会が開催される模様でーす。なんだかんだと付き合いの良いマチコでーす。
「いっくよ〜」
「本当にやるのぉぉぉ?」
ケイコとマチコによる綱引きの始まりです。しかし、これだけでは余りにも寂しすぎではありませんか? そう思うマチコも気が乗らないようです。
「せーの、ドン」
ケイコの合図で綱引きが始まりました。やる気満々のケイコに圧倒されるマチコ、一歩的に引きずられていきます。ですが、このまま負けるのもシャクなマチコです。そこで奥の手、向かい風の術でケイコを翻弄するマチコ、どこかズルイです。
「うんにゃぁぁぁ」
劣勢となったケイコは唸り声をあげます。そして気合と根性で挽回を図りますが、いかんせん、マチコの向かい風はケイコにとっては追い風、その背中をグイグイと押していきます。
これではいけない、そう思ったケイコも奥の手を繰り出します。その名も『秘技、ケイコの根性と友情の証』。「こんにゃろうぉぉぉ」の呪文でなんと、ケイコの複製が出現、その数は10、一気に巻き返しました。
「ちょっとぉぉぉ、なんなのよぉぉぉ、それぇぇぇ」
ケイコの術で劣勢となったマチコです。口だけは達者ですが、それでも余裕の笑みを浮かべるマチコ、次の手を……が無いので、迎え風の強化版、マチコ・トルネードを発動、グルグル・ドバーン、です。
これで、幾つかの複製ケイコが吹き飛び、勝負は互角となったような。
「エイヤー」
「ソイヤー」
ケイコとマチコの真剣な掛け声が、いつまでも高原に響いたそうです。