#5.6 今日の風
文字数 2,227文字
カラーン。
おや? どうしたことでしょう。魔導師ケイコが魔法の杖を放り投げてしまいました。戦意喪失でしょうか。それに合わせて剣士マチコも剣を振るのを止めたようです。
「オーホホホ」
魔王ヨシコの高笑いだけが場内に響き渡り、これで戦闘は終結したのでしょうか。しかし、その声に続く沈黙に、そうじゃない感が漂います。
「もう飽きた。お家、帰る」
戦意どころか、やる気も失った魔導師ケイコ、いえ、ケイコです。それを聞いた剣士マチコも、
「そうねぇ、私も飽きたわぁ、帰りましょうかねぇ」と、剣士を辞めてしまいます。
これで戦う相手が居なくなった魔王ヨシコ、「ええー、もう終わりー。まあ、仕方ないか」と魔王を卒業することになったようです。
「ヨシコぉ、私たち帰るから連れてってよぉ」と言うマチコに、
「そうさね。ここに居てもしょうがないしね」と半分だけになったヨシコです。
「さっ、行こっ、ケイコ」とマチコがケイコを誘うと、
「違うもん、帰るんだもん」と、訳のわからぬことを言い出すケイコです。
「はあ? 家に帰るんでしょう」
「違うもん、帰るんだもん」
同じことを繰り返すケイコに、ピンときたマチコです。
「あんたぁ、まさかアレの事を言ってるの? タンポポとか波乗りなんかで遊びたいって言いたいの? それはさぁ、無理なのよぉ。あれはさぁ、もうねぇ、無くなったんだからさぁ、諦めなさいよぉ」
マチコの説得に、「嫌だー、帰るもん!」と言い張るケイコ、聞き分けのないのはお馴染みです。そこでマチコは、
「ねえ、ヨシコぉ。地球とさぁ、同じような星って、有る?」という問いに、
「同じ星? まあ、探せばね、有るかもだけど探すのに時間掛かるよ〜、多分」
「それは困ったわねぇ」
「帰るの! 帰るんだもん!」と、飽くまで自分の意地を通すケイコです。
「もうぉ、困った子ねぇ、あんたってさぁ。ねえ、ヨシコぉ。なんとかなんない?」と無茶振りするマチコです。それに、
「しょうがないわね。それじゃあ、地球に戻りますか〜」と気軽に答えるヨシコ、
「はあ? それって無理でしょう?」と疑問に思うマチコに、
「出来るよ。時間を遡ればいいんだよ」
「はあ? それってさぁ、最初に言ってくれない? アホなの?」
「ああ? だったら最初に聞きなさいよね」
「まあ、いいわ。でもそれってさぁ、また隕石が衝突しての繰り返しじゃないの?」
「それ? それはさ、上手くやっておくよ。任せなさいって」
マチコは意固地になってプルプルと震えているケイコに笑顔を向けると、
「ねえ、聞いた? 戻れるんだって、地球に」と教えてあげますが、
「帰るんだもん」と固い表情で言い続けるケイコです。
◇◇
体半分のヨシコがフワッと消えると、部屋の中心部に黒い円が浮かび上がって参りました。そしてヨシコから風の便りが。
「さあ、その穴に飛び込んじゃって。それで戻れるわよ」
「本当? マジでぇ?」と疑うマチコに、
「なに言ってんのよ。私たちは『嘘』はつかないでしょう?」
私たち? は置いといて、シルフィードは絶対に嘘をつきません。これは習性と言うより本能に近い性格のようなもののようです。
さて、そのヨシコの言う『穴』を覗き込むマチコです。もちろん底は見えません。そこに飛び込むには勇気が必要なようです。
「ねえヨシコぉ、本当に大丈夫なんでしょうね」
疑っているというより、怖くて気持ちが引っ込んでいるマチコです。そこにケイコが「帰るもん」と言いながら穴に落ちていきます。これでもう躊躇している場合ではなくなりました。しかし、「うおおおおおおお」というケイコの楽しそうな声を聞いてしまうと、余計に足が竦 んできます。
「もうぉ、知らないんだからねぇ」
目を閉じて穴に飛び込んだマチコです。それに、「いってらっしゃーい」とヨシコの声が。「言わないでよぉぉぉぉぉぉ」とマチコの声だけを残して、直ぐに見えなくなりました、とさ。
◇
空には輝く星が。それはまるで、手を伸ばせば届きそうなくらい近くに見えるのでした。葉っぱベットに寝ていたマチコが目を覚ました時、最初にしたことは手を伸ばすことでした。そうして掴めた耀く星。隣の葉っぱベットにはスヤスヤ中のケイコの姿が。
「なんだ、戻って来たのねぇ」
そこは、よく知っているケイコの家。見上げれば星が耀く夜空、周りは森の中。そして、隣には何事もなかったかのように眠るケイコ。全ては元のままのようです。それで安心したのでしょうか、また夢の世界へと旅立つマチコです。
その頃、遠い遠い、もっと遠い宇宙のどこかでクルクルと回っている小惑星が地球に向かって突進していました。このまま行けば、いずれ地球とガッチンコ。でもご安心を。その小惑星に照準を合わせる者がいました。その名はヨシコ。これから地球の救世主になる、かもしれない名前です。
計算され尽くした軌道に乗って、何かが小惑星に衝突。正確に命中した結果、ドカーンと小惑星は粉々になったようです。これでめでたく、地球に今日が巡ってくることでしょう。
さて、そんなことは露知らず、目覚めたケイコとマチコです。そうして一歩を踏み出せば、そこは眩いばかりの光と、秋の風が吹いています。
「遊び、行こっ」
どこまで覚えているのか分かりませんが、相変わらず笑顔で、遊ぶことに一生懸命なケイコです。それに、
「行きますかぁ」と応えるマチコです。
ケイコとマチコは秋の風に乗り、ヒューンと、どこかに飛んで行くのでした。
おや? どうしたことでしょう。魔導師ケイコが魔法の杖を放り投げてしまいました。戦意喪失でしょうか。それに合わせて剣士マチコも剣を振るのを止めたようです。
「オーホホホ」
魔王ヨシコの高笑いだけが場内に響き渡り、これで戦闘は終結したのでしょうか。しかし、その声に続く沈黙に、そうじゃない感が漂います。
「もう飽きた。お家、帰る」
戦意どころか、やる気も失った魔導師ケイコ、いえ、ケイコです。それを聞いた剣士マチコも、
「そうねぇ、私も飽きたわぁ、帰りましょうかねぇ」と、剣士を辞めてしまいます。
これで戦う相手が居なくなった魔王ヨシコ、「ええー、もう終わりー。まあ、仕方ないか」と魔王を卒業することになったようです。
「ヨシコぉ、私たち帰るから連れてってよぉ」と言うマチコに、
「そうさね。ここに居てもしょうがないしね」と半分だけになったヨシコです。
「さっ、行こっ、ケイコ」とマチコがケイコを誘うと、
「違うもん、帰るんだもん」と、訳のわからぬことを言い出すケイコです。
「はあ? 家に帰るんでしょう」
「違うもん、帰るんだもん」
同じことを繰り返すケイコに、ピンときたマチコです。
「あんたぁ、まさかアレの事を言ってるの? タンポポとか波乗りなんかで遊びたいって言いたいの? それはさぁ、無理なのよぉ。あれはさぁ、もうねぇ、無くなったんだからさぁ、諦めなさいよぉ」
マチコの説得に、「嫌だー、帰るもん!」と言い張るケイコ、聞き分けのないのはお馴染みです。そこでマチコは、
「ねえ、ヨシコぉ。地球とさぁ、同じような星って、有る?」という問いに、
「同じ星? まあ、探せばね、有るかもだけど探すのに時間掛かるよ〜、多分」
「それは困ったわねぇ」
「帰るの! 帰るんだもん!」と、飽くまで自分の意地を通すケイコです。
「もうぉ、困った子ねぇ、あんたってさぁ。ねえ、ヨシコぉ。なんとかなんない?」と無茶振りするマチコです。それに、
「しょうがないわね。それじゃあ、地球に戻りますか〜」と気軽に答えるヨシコ、
「はあ? それって無理でしょう?」と疑問に思うマチコに、
「出来るよ。時間を遡ればいいんだよ」
「はあ? それってさぁ、最初に言ってくれない? アホなの?」
「ああ? だったら最初に聞きなさいよね」
「まあ、いいわ。でもそれってさぁ、また隕石が衝突しての繰り返しじゃないの?」
「それ? それはさ、上手くやっておくよ。任せなさいって」
マチコは意固地になってプルプルと震えているケイコに笑顔を向けると、
「ねえ、聞いた? 戻れるんだって、地球に」と教えてあげますが、
「帰るんだもん」と固い表情で言い続けるケイコです。
◇◇
体半分のヨシコがフワッと消えると、部屋の中心部に黒い円が浮かび上がって参りました。そしてヨシコから風の便りが。
「さあ、その穴に飛び込んじゃって。それで戻れるわよ」
「本当? マジでぇ?」と疑うマチコに、
「なに言ってんのよ。私たちは『嘘』はつかないでしょう?」
私たち? は置いといて、シルフィードは絶対に嘘をつきません。これは習性と言うより本能に近い性格のようなもののようです。
さて、そのヨシコの言う『穴』を覗き込むマチコです。もちろん底は見えません。そこに飛び込むには勇気が必要なようです。
「ねえヨシコぉ、本当に大丈夫なんでしょうね」
疑っているというより、怖くて気持ちが引っ込んでいるマチコです。そこにケイコが「帰るもん」と言いながら穴に落ちていきます。これでもう躊躇している場合ではなくなりました。しかし、「うおおおおおおお」というケイコの楽しそうな声を聞いてしまうと、余計に足が
「もうぉ、知らないんだからねぇ」
目を閉じて穴に飛び込んだマチコです。それに、「いってらっしゃーい」とヨシコの声が。「言わないでよぉぉぉぉぉぉ」とマチコの声だけを残して、直ぐに見えなくなりました、とさ。
◇
空には輝く星が。それはまるで、手を伸ばせば届きそうなくらい近くに見えるのでした。葉っぱベットに寝ていたマチコが目を覚ました時、最初にしたことは手を伸ばすことでした。そうして掴めた耀く星。隣の葉っぱベットにはスヤスヤ中のケイコの姿が。
「なんだ、戻って来たのねぇ」
そこは、よく知っているケイコの家。見上げれば星が耀く夜空、周りは森の中。そして、隣には何事もなかったかのように眠るケイコ。全ては元のままのようです。それで安心したのでしょうか、また夢の世界へと旅立つマチコです。
その頃、遠い遠い、もっと遠い宇宙のどこかでクルクルと回っている小惑星が地球に向かって突進していました。このまま行けば、いずれ地球とガッチンコ。でもご安心を。その小惑星に照準を合わせる者がいました。その名はヨシコ。これから地球の救世主になる、かもしれない名前です。
計算され尽くした軌道に乗って、何かが小惑星に衝突。正確に命中した結果、ドカーンと小惑星は粉々になったようです。これでめでたく、地球に今日が巡ってくることでしょう。
さて、そんなことは露知らず、目覚めたケイコとマチコです。そうして一歩を踏み出せば、そこは眩いばかりの光と、秋の風が吹いています。
「遊び、行こっ」
どこまで覚えているのか分かりませんが、相変わらず笑顔で、遊ぶことに一生懸命なケイコです。それに、
「行きますかぁ」と応えるマチコです。
ケイコとマチコは秋の風に乗り、ヒューンと、どこかに飛んで行くのでした。