#8.5 燃える風
文字数 4,213文字
コンコンと静まり返る深夜。既にスヤスヤのマチコがふと、目を覚ましました。それは窓の外が明るかったせいかもしれません。そして何かが燃えるような匂いもしてきます。
そこで部屋の外に出たマチコは、遠くの空が赤くなっているのを見ました。それをよく見ようと片手を上げて上空に飛び立つと——。
「あれれ、燃えてるよ」
遠くの森が燃えているのが見えてきました、火事です。その匂いがするということは、もしかしたらここまで来るかもしれません。でもその影響がマチコたちに襲い掛かることはないのです。それは、この世界の『どこか』に居るマチコたちにとって、その『どこか』が曖昧だからでしょう。
遠くの火事を確認したマチコがスルスルと地上に戻ると、そこにケイコが立っていました。それも眠い目を擦りながらです。
「マチコー、夜遊び?」
そう言うケイコが不思議でならないマチコです。何故ならスヤスヤ中のケイコが途中で起きてくるなんて考えられなかったからです。これはもしかしたら『野生の勘』かも、と思うマチコです。
「ちょっとぉ、あっちで火事なんだけど、あれってぇあんたの火遊びが原因じゃないでしょうねぇ」と冗談で言うマチコですが、
「あっち?」と聞きながら「違うもん、絶対、違うもん!」と真剣なケイコ。それに、何をそんなに怒っているのだろうと思うマチコ。でも、ちょっと言い過ぎたかなと反省していると、「あっちってどっち?」とまた聞いてくるケイコです。
「あっちってぇ、見れば分かるわよ」とケイコの手を引いて空を駆け上るマチコです。
そうして上空から眺める遠くの森。そこを指差しながら「ほら」とマチコはケイコの視線を誘導していきます。
「ほう、あそこは」と意味深なケイコに、
「知ってるところ?」と尋ねるマチコ。それに、
「うんにゃ」と答えるケイコです。しかし続けて「行かねばなるまい、の私」と意味不明なケイコ。それに、
「本気?」と問うマチコ。その心は、
「いつか世話になった森、のような」のケイコ談です。
「じゃあぁ、行くよ」のマチコに、
「本気?」と尋ねるケイコ。その心は、
「真似、しないでよねぇ」のマチコ談です。
深夜に吹くという噂の大型風を捕まえたマチコはケイコと一緒に『あっちの森』を目指して、ビューンと一っ飛び。
「うおおおお」その余りにも速い風に唸るケイコです。
◇
バキバキ、ボウボウ、パチン・コチン、メラメラ。
火の勢いはそれほどではありませんが、あっちこっちでメラメラと燃えている森です。その入り口付近に到着したケイコとマチコ、その脇を森の動物たちが逃げまくっています。
「助けなくちゃ」と気合が入るケイコ。
「どうすんのよぉ。まさか、アレをするつもりぃ?」とアレが思い浮かぶマチコ。
「避難所開設、手伝って」
「また、アレをするのねぇ」
こうして避難所に動物たちを誘導するケイコとマチコです。その避難所とは例によってケイコの家となります。同じような森なので間違えると大変です。
避難所の受付をしているケイコの元に、地中から相談事が持ち込まれました。
「もぐもぐもーぐ、もぐっもぐ、もー」と慌てている様子の相談者です。
「熊さんが森の中で逃げ遅れて、火に囲まれてるって? モグ」とモグ語を翻訳しながら答えるケイコです。その相談者とは、そう、もぐらさんです。
「ちょっとぉ、あんたもぉ来るわけぇ。仕方ないわねぇ、早く行って」と鳥肌を立てるマチコ。その前を、
「お世話になります」と言ったような蛇がクネクネと通って行きました。
「マチコー、大変じゃあああ」と慌てながらマチコに駆け寄るケイコですが、素通りして「行ってくる! 熊さんがー」と燃えさかる森の中を飛んでいくケイコです。
「ちょっとぉぉぉ、ちょっとぉぉぉ」
マチコの制止も聞かず森の中に消えていくケイコ、相変わらず聞く耳を持っていないようです。しかし、そんなに心配していないマチコでもあります。それは、例えどんな異変が起きたとしても、気持ちさえ持ち続ければ私たちは大丈夫なんだと分かっているからなのかもしれません。
一方、燃えさかる森を彷徨うケイコです。飛び出したまでは良かったのですが、肝心の、熊さんの所在が分かりません。
「熊さん〜、返事してー」
ケイコの小さな声では熊さんの耳に届くとは思えませんが、それでも叫び続けるケイコです。
「熊〜、返事してー」
パチパチ・メラメラと燃える木々の音、その燃えさかる炎による視界不良。こんな状況で、どこかで怯えている熊さんを見つけるのは容易ではありません。
「どこじゃあああ!、熊ー」
ケイコの叫び声に、「ここです、助けて」というような声が風に乗って聞こえたようなケイコです。直ぐにその方角を見極めると、ビューンと一直線、その声を追いかけました。そしてもぐらさんが言っていた通り、炎に囲まれて難儀している熊さんを発見です。
「姉さん! どうしてここに」と泣きながらケイコに言ったような。
「大丈夫じゃ、安心せい」と熊さんの背中に降り立つケイコです。
しかし、火の手に囲まれた状態でどうするのでしょうか。そこで熊さんの背中にしがみ付いたケイコは必死で羽をバタバタ、バタバタ、バタバタ、微塵も動きません。
(おいおい、どうすんのじゃ)とクルクル考えるケイコに、
「姉さん、おいらを置いて逃げてくだせえ」と熊さんが言ったような。それに、
「バッキャやろうー、諦めんなー」と叫ぶケイコです。
更に必死で羽をバタつかせるケイコです。しかし以下同様。こうなれば奥の手を使うしかない、と思ったかどうかは分かりませんが、例の呪文を唱え始めたケイコです。
「はっぷよよいのこんたらすいみどどんとほいほいにとろげっこんくしくしみんみんおばるふいあめかとんほんにゃらてかいほん……ぷんぷん!」
するとどうでしょう。僅かに熊さんが浮き上がって……ズドーンと飛び上がりました! 高い! 高いです。そして速い、物凄く速く飛んで行きます。
さて、どこに飛んで行くのでしょうか?
「あーああ〜」
夜空の、それも燃える森の上で絶叫するケイコです。その行き先は一体どこに。それは狙い定めたかのようにマチコのところでした。
「はあ? なに、アレぇ」
頭上から聞こえる叫び声と、黒く大きな物体を見つけたマチコです。そしてその黒くて大きなものの上にしがみ付くケイコも視認しました。但しケイコを見つけたのは偶然、たまたまです。
「このぉ、忙しい時にぃ、あの子はぁ、もうぉ」
そう言いながらも手の平を口に当て、「ふー」と一吹きするマチコです。それで黒くて大きな物体を受け止め、無事着地成功。そこで初めてそれが熊さんだと気付いたマチコです。
その熊さんの背中で立ち上がろうとしたケイコですが、足がガクガクしてしまい、熊さんから落ちてしまいます。そこにサッと手を出して受け止めた熊さんです。
「すまんの〜、熊さんや」と熊さんの手の中で礼を言うケイコに、
「とんでもありませんぜ、姉さん」と言ったような熊さんです。
そしてマチコに目を向けた熊さんは「そちらの姉さんも、ありがとうございました」と頭を下げたような、です。
こうして森の動物たちの避難が無事に終わると、今度はケイコの家が賑やかになりました。木によじ登ったり枝で休んだりと、それぞれが居場所を確保しながら、静かな森を満喫しています。でも、もうだいぶ夜が深まっています。朝の方が近いかもしれません。
「ふあ〜、おやすみ〜」と言いながら葉っぱベットに倒れるようにして横になるケイコです。そして、「マチコも寝れば〜、隣のベット、空いているよ」とマチコを誘いますが、
「冗談でしょう」と断るマチコです。そう、マチコは大きな動物はともかく、昆虫が大の苦手なのです。それらが一斉にケイコの家に引っ越して来ているので、おちおち寝てはいられない、と思うマチコです。
そうしてケイコは葉っぱベットで、マチコは自分の部屋でスヤスヤとお休みです。
◇◇
明け方近く、ケイコの家、すなわち動物たちが避難した森に霧が立ち込めて参りました。その霧は穏やかに立ち込め、森の生き物すべてを優しく包み込んで行きます。そして夜が開けると——。
遅い朝を迎えたマチコがケイコの家を訪ねると、まだ葉っぱベットでグースカと寝ているケイコです。その葉っぱベットを揺らしながら、
「ちょっとぉ、いつまで寝てんのよぉ」とケイコを起こすマチコに、
「ほあ〜」と欠伸をしながら眠い目を擦って起きるケイコです。
そんなケイコの様子を見ていたマチコが、ある異変に気が付いたようです。それは森が静かなこと、あれだけ動物たちで賑わっていた森が嘘のように静かなのです。
「変ねぇ、あれかしら」と言い終わるとその場から飛び上がり、周囲をクルクルと見て回ります。そして誰も居ないと感じたようです。
「ねえ、なんかあったの?」とケイコが見上げながらマチコに尋ねますが、それには答えず、舞い降りるマチコです。
「はあ? あんたさぁ、分かんないのぉ? やだよぉ、この子はぁ」と呆れているマチコです。それに、
「なんなのー、何時もと同じじゃん」のケイコに、
「だからぁ、それがおかしいってことよぉ」のマチコです。
クイズのようなマチコに、あれこれと考えるケイコですが、途中で何を考えていたのか分からなくなったケイコです。それで、「いいや。遊ぶに行く」と決めたようです。
「ちょっとぉ、あんただけで行くつもりぃ?」とそれを止めるマチコです。
「そうだよ」
「あんたさぁ、午前中は運が悪いんだから、私が付いって行ってあげるわよ」
「じゃあ、それが過ぎるまで大人しくしてる」
「バッカねぇ、午後はもっと悪くなるの!」
「それは、困ったの〜」
「だからよ」
こうして家を出たケイコとマチコです。そこは昨夜、避難所を開設した森ではなく、全然違うところでした。でも、そんなことを気にする彼女たちではありません。『そんなこと』は彼女たちにとっては日常的に起きることだからでしょう。
「ういやー、行くぞー」と駆け出すケイコ、その後ろを風に乗って進むマチコ、そうして遊びに行く彼女たちです。
そこで部屋の外に出たマチコは、遠くの空が赤くなっているのを見ました。それをよく見ようと片手を上げて上空に飛び立つと——。
「あれれ、燃えてるよ」
遠くの森が燃えているのが見えてきました、火事です。その匂いがするということは、もしかしたらここまで来るかもしれません。でもその影響がマチコたちに襲い掛かることはないのです。それは、この世界の『どこか』に居るマチコたちにとって、その『どこか』が曖昧だからでしょう。
遠くの火事を確認したマチコがスルスルと地上に戻ると、そこにケイコが立っていました。それも眠い目を擦りながらです。
「マチコー、夜遊び?」
そう言うケイコが不思議でならないマチコです。何故ならスヤスヤ中のケイコが途中で起きてくるなんて考えられなかったからです。これはもしかしたら『野生の勘』かも、と思うマチコです。
「ちょっとぉ、あっちで火事なんだけど、あれってぇあんたの火遊びが原因じゃないでしょうねぇ」と冗談で言うマチコですが、
「あっち?」と聞きながら「違うもん、絶対、違うもん!」と真剣なケイコ。それに、何をそんなに怒っているのだろうと思うマチコ。でも、ちょっと言い過ぎたかなと反省していると、「あっちってどっち?」とまた聞いてくるケイコです。
「あっちってぇ、見れば分かるわよ」とケイコの手を引いて空を駆け上るマチコです。
そうして上空から眺める遠くの森。そこを指差しながら「ほら」とマチコはケイコの視線を誘導していきます。
「ほう、あそこは」と意味深なケイコに、
「知ってるところ?」と尋ねるマチコ。それに、
「うんにゃ」と答えるケイコです。しかし続けて「行かねばなるまい、の私」と意味不明なケイコ。それに、
「本気?」と問うマチコ。その心は、
「いつか世話になった森、のような」のケイコ談です。
「じゃあぁ、行くよ」のマチコに、
「本気?」と尋ねるケイコ。その心は、
「真似、しないでよねぇ」のマチコ談です。
深夜に吹くという噂の大型風を捕まえたマチコはケイコと一緒に『あっちの森』を目指して、ビューンと一っ飛び。
「うおおおお」その余りにも速い風に唸るケイコです。
◇
バキバキ、ボウボウ、パチン・コチン、メラメラ。
火の勢いはそれほどではありませんが、あっちこっちでメラメラと燃えている森です。その入り口付近に到着したケイコとマチコ、その脇を森の動物たちが逃げまくっています。
「助けなくちゃ」と気合が入るケイコ。
「どうすんのよぉ。まさか、アレをするつもりぃ?」とアレが思い浮かぶマチコ。
「避難所開設、手伝って」
「また、アレをするのねぇ」
こうして避難所に動物たちを誘導するケイコとマチコです。その避難所とは例によってケイコの家となります。同じような森なので間違えると大変です。
避難所の受付をしているケイコの元に、地中から相談事が持ち込まれました。
「もぐもぐもーぐ、もぐっもぐ、もー」と慌てている様子の相談者です。
「熊さんが森の中で逃げ遅れて、火に囲まれてるって? モグ」とモグ語を翻訳しながら答えるケイコです。その相談者とは、そう、もぐらさんです。
「ちょっとぉ、あんたもぉ来るわけぇ。仕方ないわねぇ、早く行って」と鳥肌を立てるマチコ。その前を、
「お世話になります」と言ったような蛇がクネクネと通って行きました。
「マチコー、大変じゃあああ」と慌てながらマチコに駆け寄るケイコですが、素通りして「行ってくる! 熊さんがー」と燃えさかる森の中を飛んでいくケイコです。
「ちょっとぉぉぉ、ちょっとぉぉぉ」
マチコの制止も聞かず森の中に消えていくケイコ、相変わらず聞く耳を持っていないようです。しかし、そんなに心配していないマチコでもあります。それは、例えどんな異変が起きたとしても、気持ちさえ持ち続ければ私たちは大丈夫なんだと分かっているからなのかもしれません。
一方、燃えさかる森を彷徨うケイコです。飛び出したまでは良かったのですが、肝心の、熊さんの所在が分かりません。
「熊さん〜、返事してー」
ケイコの小さな声では熊さんの耳に届くとは思えませんが、それでも叫び続けるケイコです。
「熊〜、返事してー」
パチパチ・メラメラと燃える木々の音、その燃えさかる炎による視界不良。こんな状況で、どこかで怯えている熊さんを見つけるのは容易ではありません。
「どこじゃあああ!、熊ー」
ケイコの叫び声に、「ここです、助けて」というような声が風に乗って聞こえたようなケイコです。直ぐにその方角を見極めると、ビューンと一直線、その声を追いかけました。そしてもぐらさんが言っていた通り、炎に囲まれて難儀している熊さんを発見です。
「姉さん! どうしてここに」と泣きながらケイコに言ったような。
「大丈夫じゃ、安心せい」と熊さんの背中に降り立つケイコです。
しかし、火の手に囲まれた状態でどうするのでしょうか。そこで熊さんの背中にしがみ付いたケイコは必死で羽をバタバタ、バタバタ、バタバタ、微塵も動きません。
(おいおい、どうすんのじゃ)とクルクル考えるケイコに、
「姉さん、おいらを置いて逃げてくだせえ」と熊さんが言ったような。それに、
「バッキャやろうー、諦めんなー」と叫ぶケイコです。
更に必死で羽をバタつかせるケイコです。しかし以下同様。こうなれば奥の手を使うしかない、と思ったかどうかは分かりませんが、例の呪文を唱え始めたケイコです。
「はっぷよよいのこんたらすいみどどんとほいほいにとろげっこんくしくしみんみんおばるふいあめかとんほんにゃらてかいほん……ぷんぷん!」
するとどうでしょう。僅かに熊さんが浮き上がって……ズドーンと飛び上がりました! 高い! 高いです。そして速い、物凄く速く飛んで行きます。
さて、どこに飛んで行くのでしょうか?
「あーああ〜」
夜空の、それも燃える森の上で絶叫するケイコです。その行き先は一体どこに。それは狙い定めたかのようにマチコのところでした。
「はあ? なに、アレぇ」
頭上から聞こえる叫び声と、黒く大きな物体を見つけたマチコです。そしてその黒くて大きなものの上にしがみ付くケイコも視認しました。但しケイコを見つけたのは偶然、たまたまです。
「このぉ、忙しい時にぃ、あの子はぁ、もうぉ」
そう言いながらも手の平を口に当て、「ふー」と一吹きするマチコです。それで黒くて大きな物体を受け止め、無事着地成功。そこで初めてそれが熊さんだと気付いたマチコです。
その熊さんの背中で立ち上がろうとしたケイコですが、足がガクガクしてしまい、熊さんから落ちてしまいます。そこにサッと手を出して受け止めた熊さんです。
「すまんの〜、熊さんや」と熊さんの手の中で礼を言うケイコに、
「とんでもありませんぜ、姉さん」と言ったような熊さんです。
そしてマチコに目を向けた熊さんは「そちらの姉さんも、ありがとうございました」と頭を下げたような、です。
こうして森の動物たちの避難が無事に終わると、今度はケイコの家が賑やかになりました。木によじ登ったり枝で休んだりと、それぞれが居場所を確保しながら、静かな森を満喫しています。でも、もうだいぶ夜が深まっています。朝の方が近いかもしれません。
「ふあ〜、おやすみ〜」と言いながら葉っぱベットに倒れるようにして横になるケイコです。そして、「マチコも寝れば〜、隣のベット、空いているよ」とマチコを誘いますが、
「冗談でしょう」と断るマチコです。そう、マチコは大きな動物はともかく、昆虫が大の苦手なのです。それらが一斉にケイコの家に引っ越して来ているので、おちおち寝てはいられない、と思うマチコです。
そうしてケイコは葉っぱベットで、マチコは自分の部屋でスヤスヤとお休みです。
◇◇
明け方近く、ケイコの家、すなわち動物たちが避難した森に霧が立ち込めて参りました。その霧は穏やかに立ち込め、森の生き物すべてを優しく包み込んで行きます。そして夜が開けると——。
遅い朝を迎えたマチコがケイコの家を訪ねると、まだ葉っぱベットでグースカと寝ているケイコです。その葉っぱベットを揺らしながら、
「ちょっとぉ、いつまで寝てんのよぉ」とケイコを起こすマチコに、
「ほあ〜」と欠伸をしながら眠い目を擦って起きるケイコです。
そんなケイコの様子を見ていたマチコが、ある異変に気が付いたようです。それは森が静かなこと、あれだけ動物たちで賑わっていた森が嘘のように静かなのです。
「変ねぇ、あれかしら」と言い終わるとその場から飛び上がり、周囲をクルクルと見て回ります。そして誰も居ないと感じたようです。
「ねえ、なんかあったの?」とケイコが見上げながらマチコに尋ねますが、それには答えず、舞い降りるマチコです。
「はあ? あんたさぁ、分かんないのぉ? やだよぉ、この子はぁ」と呆れているマチコです。それに、
「なんなのー、何時もと同じじゃん」のケイコに、
「だからぁ、それがおかしいってことよぉ」のマチコです。
クイズのようなマチコに、あれこれと考えるケイコですが、途中で何を考えていたのか分からなくなったケイコです。それで、「いいや。遊ぶに行く」と決めたようです。
「ちょっとぉ、あんただけで行くつもりぃ?」とそれを止めるマチコです。
「そうだよ」
「あんたさぁ、午前中は運が悪いんだから、私が付いって行ってあげるわよ」
「じゃあ、それが過ぎるまで大人しくしてる」
「バッカねぇ、午後はもっと悪くなるの!」
「それは、困ったの〜」
「だからよ」
こうして家を出たケイコとマチコです。そこは昨夜、避難所を開設した森ではなく、全然違うところでした。でも、そんなことを気にする彼女たちではありません。『そんなこと』は彼女たちにとっては日常的に起きることだからでしょう。
「ういやー、行くぞー」と駆け出すケイコ、その後ろを風に乗って進むマチコ、そうして遊びに行く彼女たちです。