#7.1 漂流する風
文字数 2,729文字
遠い遠い昔、一隻の大きな船がありました。それはそれは大きな船だったので海には入らず、高い高い空の上、そのまた上の宇宙に置いてあったのです。そして多くの人を乗せて見知らぬ星を目指しました。
船の旅は長く、幾年も続くものとなりました。そのため船の中は地球と同じように、海や山、そして多くの街があったのです。それはもう地球に居るのと同じか、それ以上に快適な世界だったそうです。
そうして船は広大な宇宙をどんどんと進み、漸く希望に叶う星を見つけました。その船の役割は移民船。多くの人を乗せ、新天地を探しながら故郷となるような星を見つけることでした。
移民船に乗り込んだ人たちは決して地球が嫌いだった訳でも住めなくなったからでもありません。新しい場所、新しい星で次なる人生に賭けた人たちでした。その願いの通り、素晴らしい星を見つけたのです。
新しく、誰も居ない星に降り立った人たちは目を輝かせながら明日を、未来を夢見てその星を眺めたことでしょう。それでも約束された未来はありません。皆、それぞれの未来に向かって大地を、そして将来に託す夢のために人生を切り開いていったのです。
こうして役目を終えた移民船は、その大きさ故に星の側でプカプカと浮かんでいました。いつか使うかもしれないと人々は時々思い出しましたが、何時しか邪魔な存在へとなったようです。そうして長い年月が過ぎた頃、もう要らないとばかり宇宙に放り出されてしまったのです。
宇宙を漂うことになった大きな船は次第に壊れ、ボロボロとなていきます。そして遂に宇宙のどこかでその姿を消してしまったそうです。
◇
ザブーン、シュワ・シュワ・シュッシュー。
波打ち際に立つケイコです。何故か潤んだ瞳で打ち寄せる波を見つめています。寄せては引いて、引いては寄せてくる小さな波に思いを馳せ、遠くでもなく近くでもないところをボーと見ているのでした。それはきっと、何をして遊べば良いのかと一生懸命に考えていることでしょう。
でも、いくら考えても良い遊びが思い浮かびません。たまにはそんな時もあるでしょう。遊びに関しては天才的な閃きを発揮するケイコでもスランプに陥ることもあるのです。その内、その小さなお口から「はあ〜」とため息が出てくることでしょう。
「なんか来た! こらー」
「ちょっとぉ、なに怒ってんのよぉ」
ケイコの後方で砂浜に座っていたマチコです。急に怒り出したケイコに注意しました。なにも無い海に向かって指を指しているケイコの姿は、何かに取り憑かれてしまったのか、またはアホになってしまったように見えたからです。そして、とうとう壊れてしまったのね、というマチコの心の声が聞こえてきそうです、はい。
「来たー こらー」
またも叫ぶケイコです。一体なにが『来た』というのでしょうか。それに駆け寄るケイコは波を蹴散らしながら何かを拾い上げました。それは、それは、それは!
透明な瓶です! そして中には手紙が入っているような、です。これは、これは、これは! そう、ボトルメールではないでしょうか。
でもこの瓶、ケイコの腕の中に収まる程の大きさです。では一体どのような方が瓶にメッセージを込めたのでしょうか。まあ、それが分からなくてもケイコが驚いているので、目的の半分は達成されたことでしょう。
「うわ〜、なんじゃ、これ」
ケイコが拾い上げた瓶を不思議そうに眺めていると、それがキラッと光ったように見えたマチコです。当然、吸い寄せられるようにケイコの隣に立ちました。
「中にぃ何か入ってるじゃないのよぉ。早く開けなてみなさいよぉ」
そう言われて瓶の蓋を開けようとするケイコですが、残念ながらコルクの栓で封印されていました。それを一生懸命ブンブンと振り回していますが、それで中身がポロリと出てくるものではありません。
「ちょっとぉ、なにやってんのよぉ。貸してみなさいよ、ねぇ」
見かねたマチコがどうにかしてくるようです。一体どうするのかと興味津々でマチコを見つめるケイコ、それに鼻高々、お姉さん風全開のマチコです。
「えいっ!」
瓶の口に手を当てて振り上げると、あ〜ら不思議。マチコの手にコルクの栓と、それと一緒に中の手紙も出て参りました、エヘンのマチコです。
「うっひょー」
目を丸くして驚くケイコ、どうよぉぉぉのマチコです。ではどうやってマチコは栓を開けたのでしょうか。それは手のひらの空気を風で吹き飛ばし、真空になったところでコルクの栓を吸い付かせたのです。そして栓を抜いた勢いで中身も一緒に出てきた、という訳です。
「はい」
ということで、口を開けて驚いているケイコに中身の手紙を渡してあげるマチコですが、
「うん、ありがとう。マチコもたまには役に立つね」のケイコ、
「なっ!」と今度はマチコが口を開けて驚くのでした。
早速、その手紙をヨミヨミするケイコです。しかし、その顔がだんだんムムムっと険しくなってきたではありませんか。一体その手紙には何が書かれているのでしょうか、興味があります!
「ムムム」
とうとう声にまで出して悩むケイコです。その手紙を横にしたり縦にしたり、挙げ句の果てに裏返してもみました。ですが、ムムムが止まりません。
「ちょっとぉ、貸してみなさいよぉ。あんたさぁ、本当に読めるのぉ? 読める振りなんじゃないのぉ?」
「読めるもん!」
「はいはい」
またまた見かねたマチコが手紙を受け取り、それを読もうとしましたが、おお! マチコでも読むことが出来ないようです、ムムムが止まりません。
「これさぁ、あれよねぇ、あれ。手紙じゃなくてぇ、地図じゃないのぉ? ほら、こうしてこっちを上にすると、ほら、ここがあそこで、あそこがここでしょうよぉ」
「本当だー」
どうりで読めないはずです。それは手紙ではなく地図、それもこの辺りの地図のようです。それを覗き込んだケイコは、分からないなりに分かったようで、その勢いで、
「これ、お宝の地図だよ」と適当なことを言うと、それを真に受けたマチコは地図を丹念に精査、そして考えを巡らし、ある結論に達したのです。
「うぎゃぁぁぁ、本当だよぉぉぉ。お宝の隠し場所を描いた地図だよぉ、これぇぇぇ」
「うひょー」
こうして、ケイトとマチコは万歳をした後、お宝のある場所へと大急ぎ、でもこっそりと向かったのでした。それは貴重な情報なので、誰が狙っているかも分かりません。それを悟られないようにと身を屈めながら風に乗り込み、ビューンとひとっ飛び。しかし彼女たちの嬉しそうな声は、どうにも隠せなかったようです。
◇
船の旅は長く、幾年も続くものとなりました。そのため船の中は地球と同じように、海や山、そして多くの街があったのです。それはもう地球に居るのと同じか、それ以上に快適な世界だったそうです。
そうして船は広大な宇宙をどんどんと進み、漸く希望に叶う星を見つけました。その船の役割は移民船。多くの人を乗せ、新天地を探しながら故郷となるような星を見つけることでした。
移民船に乗り込んだ人たちは決して地球が嫌いだった訳でも住めなくなったからでもありません。新しい場所、新しい星で次なる人生に賭けた人たちでした。その願いの通り、素晴らしい星を見つけたのです。
新しく、誰も居ない星に降り立った人たちは目を輝かせながら明日を、未来を夢見てその星を眺めたことでしょう。それでも約束された未来はありません。皆、それぞれの未来に向かって大地を、そして将来に託す夢のために人生を切り開いていったのです。
こうして役目を終えた移民船は、その大きさ故に星の側でプカプカと浮かんでいました。いつか使うかもしれないと人々は時々思い出しましたが、何時しか邪魔な存在へとなったようです。そうして長い年月が過ぎた頃、もう要らないとばかり宇宙に放り出されてしまったのです。
宇宙を漂うことになった大きな船は次第に壊れ、ボロボロとなていきます。そして遂に宇宙のどこかでその姿を消してしまったそうです。
◇
ザブーン、シュワ・シュワ・シュッシュー。
波打ち際に立つケイコです。何故か潤んだ瞳で打ち寄せる波を見つめています。寄せては引いて、引いては寄せてくる小さな波に思いを馳せ、遠くでもなく近くでもないところをボーと見ているのでした。それはきっと、何をして遊べば良いのかと一生懸命に考えていることでしょう。
でも、いくら考えても良い遊びが思い浮かびません。たまにはそんな時もあるでしょう。遊びに関しては天才的な閃きを発揮するケイコでもスランプに陥ることもあるのです。その内、その小さなお口から「はあ〜」とため息が出てくることでしょう。
「なんか来た! こらー」
「ちょっとぉ、なに怒ってんのよぉ」
ケイコの後方で砂浜に座っていたマチコです。急に怒り出したケイコに注意しました。なにも無い海に向かって指を指しているケイコの姿は、何かに取り憑かれてしまったのか、またはアホになってしまったように見えたからです。そして、とうとう壊れてしまったのね、というマチコの心の声が聞こえてきそうです、はい。
「来たー こらー」
またも叫ぶケイコです。一体なにが『来た』というのでしょうか。それに駆け寄るケイコは波を蹴散らしながら何かを拾い上げました。それは、それは、それは!
透明な瓶です! そして中には手紙が入っているような、です。これは、これは、これは! そう、ボトルメールではないでしょうか。
でもこの瓶、ケイコの腕の中に収まる程の大きさです。では一体どのような方が瓶にメッセージを込めたのでしょうか。まあ、それが分からなくてもケイコが驚いているので、目的の半分は達成されたことでしょう。
「うわ〜、なんじゃ、これ」
ケイコが拾い上げた瓶を不思議そうに眺めていると、それがキラッと光ったように見えたマチコです。当然、吸い寄せられるようにケイコの隣に立ちました。
「中にぃ何か入ってるじゃないのよぉ。早く開けなてみなさいよぉ」
そう言われて瓶の蓋を開けようとするケイコですが、残念ながらコルクの栓で封印されていました。それを一生懸命ブンブンと振り回していますが、それで中身がポロリと出てくるものではありません。
「ちょっとぉ、なにやってんのよぉ。貸してみなさいよ、ねぇ」
見かねたマチコがどうにかしてくるようです。一体どうするのかと興味津々でマチコを見つめるケイコ、それに鼻高々、お姉さん風全開のマチコです。
「えいっ!」
瓶の口に手を当てて振り上げると、あ〜ら不思議。マチコの手にコルクの栓と、それと一緒に中の手紙も出て参りました、エヘンのマチコです。
「うっひょー」
目を丸くして驚くケイコ、どうよぉぉぉのマチコです。ではどうやってマチコは栓を開けたのでしょうか。それは手のひらの空気を風で吹き飛ばし、真空になったところでコルクの栓を吸い付かせたのです。そして栓を抜いた勢いで中身も一緒に出てきた、という訳です。
「はい」
ということで、口を開けて驚いているケイコに中身の手紙を渡してあげるマチコですが、
「うん、ありがとう。マチコもたまには役に立つね」のケイコ、
「なっ!」と今度はマチコが口を開けて驚くのでした。
早速、その手紙をヨミヨミするケイコです。しかし、その顔がだんだんムムムっと険しくなってきたではありませんか。一体その手紙には何が書かれているのでしょうか、興味があります!
「ムムム」
とうとう声にまで出して悩むケイコです。その手紙を横にしたり縦にしたり、挙げ句の果てに裏返してもみました。ですが、ムムムが止まりません。
「ちょっとぉ、貸してみなさいよぉ。あんたさぁ、本当に読めるのぉ? 読める振りなんじゃないのぉ?」
「読めるもん!」
「はいはい」
またまた見かねたマチコが手紙を受け取り、それを読もうとしましたが、おお! マチコでも読むことが出来ないようです、ムムムが止まりません。
「これさぁ、あれよねぇ、あれ。手紙じゃなくてぇ、地図じゃないのぉ? ほら、こうしてこっちを上にすると、ほら、ここがあそこで、あそこがここでしょうよぉ」
「本当だー」
どうりで読めないはずです。それは手紙ではなく地図、それもこの辺りの地図のようです。それを覗き込んだケイコは、分からないなりに分かったようで、その勢いで、
「これ、お宝の地図だよ」と適当なことを言うと、それを真に受けたマチコは地図を丹念に精査、そして考えを巡らし、ある結論に達したのです。
「うぎゃぁぁぁ、本当だよぉぉぉ。お宝の隠し場所を描いた地図だよぉ、これぇぇぇ」
「うひょー」
こうして、ケイトとマチコは万歳をした後、お宝のある場所へと大急ぎ、でもこっそりと向かったのでした。それは貴重な情報なので、誰が狙っているかも分かりません。それを悟られないようにと身を屈めながら風に乗り込み、ビューンとひとっ飛び。しかし彼女たちの嬉しそうな声は、どうにも隠せなかったようです。
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