#4.3 大漁の風
文字数 2,549文字
「私、大漁の女なの」
翌日の明け方、港を出る船。その船首には大漁旗を振るケイコの姿が。
「今日も頼むぜ、相棒!」
「任せてー」
気勢を上げる船長と、それに応えるケイコです。一体、何がどうしてこうなったのでしょうか。早速、昨日の出来事を振り返ってみましょう。
昨日、ケイコに導かれた船長は気乗りしないまま漁を始めました。それは最初、悪魔の言いなりとなり、従うだけの自分を呪った船長です。ところがです、笑が止まらないほど、いえいえ、船がその重みで沈んでしまうのではないか、というくらいの大漁。今まで疑っていた自分を大いに恥じた船長です。
そうして心を入れ替えた船長はケイコを、海の神、漁の神と崇め奉り、絶大なる信頼を寄せるようになったのです。それまでの不漁が嘘のように消え去り、順風満帆な船出となりました。
「ちょっとぉ、ここ、どこよぉ」
そう言っているのはマチコです。おや、何故マチコがここに居るのでしょうか。それはケイコの家の隣に住んでいるからです。えっ? それだけでは分からない? それでは説明致しましょう。
重要な点は明け方にケイコが船に乗っている、といことです。では、どうやって早起き出来たのでしょうか。それは船の上に家を持ってきたからなのです。そうすることで船が動き出すと、その揺れで葉っぱベットで寝ているケイコが転落します。これで目覚めはバッチリでしょう。
そしてマチコですが、マチコの部屋がケイコの家の隣だということ。ケイコが自宅を船の上に持ってきた時、マチコの部屋も一緒にくっ付いて来た、という仲良しな『お隣さん』です。
「ちょっとぉ、なんで海の上なのよぉ」
「私、大漁の女なの」
「頼りにしているぜ、相棒!」
◇◇
ジャブンザザザ。荒海を物ともせず快進撃する船、その先頭に立って旗を持つケイコ、その旗が勇ましく風を切って参ります。その後ろでは足を組んで座りながら海上を見つめるマチコ、更にその後方では、まだかまだかとケイコの合図を待ち受ける船長、それら海の武士 たちです。
「ちょっとぉ、あんたぁ、ここで何してんのよぉ」
船旅に飽きてしまったマチコがケイコに抗議しますが、相変わらず聞き耳持たずのケイコは、「静かに! バカなの? マチコは」と振り向くことなく海を注視していました。
ジャブンジャブン。上下に激しく揺れる船首に旗を持ちながら悠然と立っているケイコです、その姿は微動だにしません。しかし、普段のケイコを知っていれば、本来は船にしがみ付きながら、泣き言を言っているはず。それがどうして?
答えは簡単です。実は船首に立っているのではなく、僅かに浮いているのです。そう、波乗りの要領と同じ原理で、船の動きに干渉されることなく立っていられるのです、見た目上は。
「そろそろじゃないのか? 相棒!」
港を出てから、随分と時間が経ちました。空も十分に明るくなり、波もいい感じ。見えるのは水平線だけです。そこで痺れを切らした船長がケイコにお伺いを立てたところです。それに、「慌てないでー、もうすぐだからー」と、また振り向かずに応えるケイコです。
「ねえ、あんた、誰? ケイコだよね、本物?」とは、働き者のケイコを不思議そうに見つめるマチコ、そう言いながら欠伸が出て参りました。ついでに、
「つまんないわね。私、帰るから、二度寝してくるわ」と、自分の部屋に戻るマチコでした。
部屋に戻ったマチコは、早速ベットに飛び込みましたが、ドッシャン・ガッシャンと、とても寝られたものではありませんでした。それもそのはず、マチコの部屋は船の上にあるため、その激しい揺れはそのまま部屋全体を揺るがしたのです。これでは到底、二度寝することは叶わないでしょう。さっさと諦めて部屋を出るマチコです。
「この辺で、いいんじゃないのかぁぁぁ? 相棒!」
ケイコの合図を待ちきれなくなった船長が進言すると、鋭い眼光で振り返るケイコ、その迫力に押され、シュンとなる船長です、おー怖。
◇◇
「来たああああああ」
ケイコが、その小さな体に不釣り合いな大声をあげました。ところで、何が『来た』のでしょうか。それは、いつの間にか船を取り囲んでいた、ケイコの仲良しイルカたちです。
その姿に何時もは「ウッヒョー」とはしゃぐケイコ。しかし今はお仕事中、ビジネスに徹するケイコです。そのイルカたちと何らかの方法で意思疎通を図ると、もっていた大漁旗を振り始めるのでした、フルフリ。
それを目撃した船長、(これはきっと、このイルカたちに付いて行けということだな。わかったぜ、相棒! )と船をイルカの動きに合わせました。そうして暫くすると、イルカたちは船の周りをグルグル、ここがポイントだぁ、と網を降ろし漁を始めるのでした。
「ふぅ、私の役目は、終わったの」
「はあ?」
自らの使命を果たし、安堵の表情を浮かべるケイコ、それが何なのかサッパリのマチコです。その間、船長は大漁で大忙し、フル回転で働きます。ここまで神経を張り詰めていたケイコがフラッとよろめくと、そのまま海へ。
「ああぁぁぁぁぁ」とマチコが叫びながら駆け寄ると、ポチャンと海に落ちたはずのケイコがどこにも見当たりません。一方、船長は忙しく、チラッとこちらを見ただけで手を休めようとはしなかったのです、なんということでしょう。
「ケイコォォォ」
「ウッヒョー」
マチコの呼びかけに、イルカに乗ったケイコが楽しそうに叫んでいました、なんということでしょうか。心配した自分がアホらしく思えたマチコ、その憂さを晴らすべく、一頭のイルカに目をつけました。そうして近づいてきたイルカは、
「姉さん、なんかご用ですか」と言ったような。それに、
「ちょっとぉ、私も乗せなさいよぉ」とマチコが言ったような。
「お安い御用ですぜ。さあ、お乗りなせえ」
初めての珍客とあって張り切るイルカのゴンベイ(マチコが一時的に名前を付与)、その名に恥じぬ素早い泳ぎでマチコを楽しませ……翻弄していきます。背びれに掴まったマチコは、
「速いよぉ、もっとゆっくりぃ、落ちるぅぅぅ」と海のレジャーを満喫するのでした。
◇
翌日の明け方、港を出る船。その船首には大漁旗を振るケイコの姿が。
「今日も頼むぜ、相棒!」
「任せてー」
気勢を上げる船長と、それに応えるケイコです。一体、何がどうしてこうなったのでしょうか。早速、昨日の出来事を振り返ってみましょう。
昨日、ケイコに導かれた船長は気乗りしないまま漁を始めました。それは最初、悪魔の言いなりとなり、従うだけの自分を呪った船長です。ところがです、笑が止まらないほど、いえいえ、船がその重みで沈んでしまうのではないか、というくらいの大漁。今まで疑っていた自分を大いに恥じた船長です。
そうして心を入れ替えた船長はケイコを、海の神、漁の神と崇め奉り、絶大なる信頼を寄せるようになったのです。それまでの不漁が嘘のように消え去り、順風満帆な船出となりました。
「ちょっとぉ、ここ、どこよぉ」
そう言っているのはマチコです。おや、何故マチコがここに居るのでしょうか。それはケイコの家の隣に住んでいるからです。えっ? それだけでは分からない? それでは説明致しましょう。
重要な点は明け方にケイコが船に乗っている、といことです。では、どうやって早起き出来たのでしょうか。それは船の上に家を持ってきたからなのです。そうすることで船が動き出すと、その揺れで葉っぱベットで寝ているケイコが転落します。これで目覚めはバッチリでしょう。
そしてマチコですが、マチコの部屋がケイコの家の隣だということ。ケイコが自宅を船の上に持ってきた時、マチコの部屋も一緒にくっ付いて来た、という仲良しな『お隣さん』です。
「ちょっとぉ、なんで海の上なのよぉ」
「私、大漁の女なの」
「頼りにしているぜ、相棒!」
◇◇
ジャブンザザザ。荒海を物ともせず快進撃する船、その先頭に立って旗を持つケイコ、その旗が勇ましく風を切って参ります。その後ろでは足を組んで座りながら海上を見つめるマチコ、更にその後方では、まだかまだかとケイコの合図を待ち受ける船長、それら海の
「ちょっとぉ、あんたぁ、ここで何してんのよぉ」
船旅に飽きてしまったマチコがケイコに抗議しますが、相変わらず聞き耳持たずのケイコは、「静かに! バカなの? マチコは」と振り向くことなく海を注視していました。
ジャブンジャブン。上下に激しく揺れる船首に旗を持ちながら悠然と立っているケイコです、その姿は微動だにしません。しかし、普段のケイコを知っていれば、本来は船にしがみ付きながら、泣き言を言っているはず。それがどうして?
答えは簡単です。実は船首に立っているのではなく、僅かに浮いているのです。そう、波乗りの要領と同じ原理で、船の動きに干渉されることなく立っていられるのです、見た目上は。
「そろそろじゃないのか? 相棒!」
港を出てから、随分と時間が経ちました。空も十分に明るくなり、波もいい感じ。見えるのは水平線だけです。そこで痺れを切らした船長がケイコにお伺いを立てたところです。それに、「慌てないでー、もうすぐだからー」と、また振り向かずに応えるケイコです。
「ねえ、あんた、誰? ケイコだよね、本物?」とは、働き者のケイコを不思議そうに見つめるマチコ、そう言いながら欠伸が出て参りました。ついでに、
「つまんないわね。私、帰るから、二度寝してくるわ」と、自分の部屋に戻るマチコでした。
部屋に戻ったマチコは、早速ベットに飛び込みましたが、ドッシャン・ガッシャンと、とても寝られたものではありませんでした。それもそのはず、マチコの部屋は船の上にあるため、その激しい揺れはそのまま部屋全体を揺るがしたのです。これでは到底、二度寝することは叶わないでしょう。さっさと諦めて部屋を出るマチコです。
「この辺で、いいんじゃないのかぁぁぁ? 相棒!」
ケイコの合図を待ちきれなくなった船長が進言すると、鋭い眼光で振り返るケイコ、その迫力に押され、シュンとなる船長です、おー怖。
◇◇
「来たああああああ」
ケイコが、その小さな体に不釣り合いな大声をあげました。ところで、何が『来た』のでしょうか。それは、いつの間にか船を取り囲んでいた、ケイコの仲良しイルカたちです。
その姿に何時もは「ウッヒョー」とはしゃぐケイコ。しかし今はお仕事中、ビジネスに徹するケイコです。そのイルカたちと何らかの方法で意思疎通を図ると、もっていた大漁旗を振り始めるのでした、フルフリ。
それを目撃した船長、(これはきっと、このイルカたちに付いて行けということだな。わかったぜ、相棒! )と船をイルカの動きに合わせました。そうして暫くすると、イルカたちは船の周りをグルグル、ここがポイントだぁ、と網を降ろし漁を始めるのでした。
「ふぅ、私の役目は、終わったの」
「はあ?」
自らの使命を果たし、安堵の表情を浮かべるケイコ、それが何なのかサッパリのマチコです。その間、船長は大漁で大忙し、フル回転で働きます。ここまで神経を張り詰めていたケイコがフラッとよろめくと、そのまま海へ。
「ああぁぁぁぁぁ」とマチコが叫びながら駆け寄ると、ポチャンと海に落ちたはずのケイコがどこにも見当たりません。一方、船長は忙しく、チラッとこちらを見ただけで手を休めようとはしなかったのです、なんということでしょう。
「ケイコォォォ」
「ウッヒョー」
マチコの呼びかけに、イルカに乗ったケイコが楽しそうに叫んでいました、なんということでしょうか。心配した自分がアホらしく思えたマチコ、その憂さを晴らすべく、一頭のイルカに目をつけました。そうして近づいてきたイルカは、
「姉さん、なんかご用ですか」と言ったような。それに、
「ちょっとぉ、私も乗せなさいよぉ」とマチコが言ったような。
「お安い御用ですぜ。さあ、お乗りなせえ」
初めての珍客とあって張り切るイルカのゴンベイ(マチコが一時的に名前を付与)、その名に恥じぬ素早い泳ぎでマチコを楽しませ……翻弄していきます。背びれに掴まったマチコは、
「速いよぉ、もっとゆっくりぃ、落ちるぅぅぅ」と海のレジャーを満喫するのでした。
◇