#7.3 挑む風
文字数 3,529文字
テクテク・トコトコと歩き続けるケイコとマチコです。依然として前を歩くのはマチコ、そのすぐ後ろをケイコが歩いて行きます。それと、探検隊の前をゆらゆらと揺れる人魂のような灯りです。
「あぁぁぁ!」
マチコが突然、大きな声を上げました。そして指差すその先には! おお、ああ、やあ、とうとう、やっとついに宝箱を発見、したようです。それは木製の、抱えて持つには丁度良いくらいの四角い箱、いかにも! という箱です。先ほど宝箱と表現しましたが、それ以外ここに何があるというのですか? 絶対に宝箱です!
早速それに駆け寄ろうとしたマチコですが、背中からの殺気、いいえ、熱気を感じたのか、
「ほらぁ、行きなさいよぉ」とケイコに宝箱の権利を譲るマチコです。それに、
「本当?」と嬉しそうな声を張り上げるケイコ、ですが、何故か冷静になり、
「あれ、マチコが先に見つけたから、開けていいよ」と、目一杯お姉さんぶるケイコです。
「あっそぉ」
お言葉に甘えて宝箱に近寄るマチコ、それを先回りするかのように灯りもゆらゆらを止めて、スーッと宝箱の上まで移動しました。もちろん、それを操っているのはケイコです。
さあ、宝箱を開ける瞬間がやって参りました。地図ではまだまだ先を指していますが、それは何かの間違い、勘違いの類ではないでしょうか。何せ古臭い地図です、その間に地形が変わってしまったのかもしれません、きっとそうです。
マチコの口元がニヤリとしたような、そしてその後ろで、いいえ、脇でフンガーと食い入るように見つめるケイコです。
宝箱の両脇を持って、ゆっくりと開けました。しかし底が深いのか中がよく見えません。そこで身を乗り出して覗き込むマチコです、そこに有るものとは一体!
シュパッ・ピカピカ・ピューンピカ。
宝箱を覗き込んだマチコの頭を包むかのように、一瞬だけものすごい光が箱の底から溢れ出しました。それに目が眩んだマチコは、そのまま頭を箱の中に突っ込んでしまい、箱の底にゴッツンコです。でも大丈夫、すぐに頭を上げたマチコはその勢いで後ろに倒れたのです。
「マチコー、アホなのー」
そう言いながら宝箱を覗き込むケイコです。そこには……残念ながら空っぽのようです。やはりこれは宝箱などではなく、ただの箱だったようです。ええ、最初から知っていましたよね。こんなところに、それも簡単に宝箱が有るはずがないじゃありませんか?
「ぷはぁぁぁ、なんか見えたぁぁぁ」
起き上がったマチコの第一声に、「なに? なになになになにー」としつこく問い質すケイコです。お宝が無かったせいか余計に気になるようです。それに、
「あぁぁぁ、忘れたわ」と、遠くを見ながら答えたマチコです。
「な〜んだ、ケチ」
がっかりしたケイコはシュンとしたかと思うと、すぐに元気が出てきたようです。それは、本当の宝箱を見つけたいという気持ちがムクムクと湧き上がってきたからなのでしょう。狙った獲物はどこまでも諦めない、それがケイコです。
「行くよ! 置いていくよ」
ということで、出発の汽笛を鳴らして前を歩くケイコ、その後ろを歩くマチコです。『今度は私が』という意気込みを顔に表すケイコと、どこか浮かない顔のマチコ、「あれは、なんだったんだろう、ねぇ」と、こっそり呟くのでした。
◇◇
マチコが呟いた『あれ』とは、箱を覗き込んだ時に見た『あれ』のことです。一旦は忘れたと言いましたが、それは何だか後味の悪い光景だったので、そういうことにしておきたかったのでしょう。
ではそれは、どんな光景だったのか。時間的には一瞬の出来事でしたが記憶にはもっと、ずっと長い時間が残されています。それでは少し振り返って覗いてみましょう。
場所は住宅街にある公園、その砂場に女の子が二人います。一人は小学生低学年くらい、そしてもう一人は幼稚園児くらいでしょうか。時刻は夕陽が紅く染まる頃です。周囲にはその女の子たち以外、誰も居ないようで、既にそれぞれの家に帰ってしまったのでしょう。それでも時間を気にせず砂場で遊び続けています。
その様子を見ていると、おそらくこの二人は姉妹なのでしょう。大きい子が何かと小さい子を気遣いながら面倒を見ている、そんな風に見えてきます。
そうして楽しそうに遊ぶ姉妹ですが、日が暮れ公園の灯りが点いても、まだ家に帰る様子がありません。これでは家の人が心配しているのではないか、と余計なことを考えてしまいそうになりますが、そこに誰か大人の人がやって来たようです。
その大人の人は姉妹を迎えに来たのでしょうか、姉の後ろで立ち止まりました。それを、遊びに夢中になっていた妹が手を止めて見上げると、サッと立ち上がり、そして逃げるように走って行ってしまいます。それを止める姉は何かを言っているようですが、ここで記憶は終わっています。
これではマチコが『後味の悪い』と思うのも無理はないでしょう。結局、何がどうなったのか分からないまま、気になる終わり方をしたせいで余計に記憶に残ったのでしょう。
◇◇
さて、るんるん気分のケイコを先頭に洞窟を突き進んで参ります。気のせいでしょうか、人魂風の灯りも小躍りするように弾んでいるようです。
快調に洞窟を進んでいると前方に大きな穴が見えてきました。これでは先に進めない、と思いきや一本のロープが掛かっています。もちろん、穴の底は暗くて見えません。とすると落ちたら大変なことになるかも、です。
その穴を、まるで穴など空いていないかのように突き進むケイコです。ちょっと待ってください。ちゃんと下を見て! そこは穴ですよ、底なしですよ。
でもご安心を。マチコはきちんとロープの上を歩いています。これで落ちる心配はありませんね。えっ? そこじゃないって?
「ちょっとぉ、あんたさぁ。ちゃんとロープの上をぉ、歩きなさいよねぇ、全くぅ」
ケイコの無作法にマチコが注意しました。これで安心ですね、えっ?
「おっとー」
やっとロープの上を歩き出したケイコです。そうです、障害物があっても難なく通り過ぎることが出来る探検隊は、大きな穴くらい『へっちゃら』なのです。でも、探検隊とは探検してこその探検隊です。その場の状況に応じて臨機応変に行動する必要があるでしょう。そのためマチコは探検道に厳しいのです、はい。
◇◇
暫く何事もなく洞窟を進んで行くと、そろそろ空気と言いましょうか、気配というものが変わってきた、ような感じです。なにせお宝が眠る洞窟です。それを守るというべきか阻害するトラップ・罠が仕掛けられていても不思議ではありません。
シューン、シューン、シューン。
ということで早速、前の方から槍のようなものが飛んで参りました。とうとう、この洞窟が本性を現した、または本気を出してきた、というべきでしょう。奪われてなるものか! の洞窟側からの攻撃です。命中すれば、いいえ、かすっただけでも大変です、気をつけてー。
「ちょっとぉ、あんたさぁ。ちゃんと飛んでくるやつぅ、避けなさいよねぇ、全くぅ」
ここでまた探検道に厳しいマチコからの注意がケイコに出されました。そろそろイエローカードでしょうか。物凄いスピードで飛んでくる槍を避けない、または避けられなケイコに対して、せめて避けるフリでもしなさい、ということでしょう。その槍はケイコを素通りしていくばかりですが、マチコはきちんと紙一重でかわしていきます。
「速くてー、わかんないよー、よー、よー」
ケイコの情けない声が洞窟の中で木霊していきます。そうしていつの間にか槍が飛んでこなくなると、マチコの後ろを歩いているケイコです。それと同時に灯りも消え、またマチコの雷雲が前の方を照らし始めるのでした、バチバチ。
更に洞窟側の攻撃が続きます。ドッドドドと何か重いものが転がるような音が聞こえて参りました。それは定番の大きな岩がゴロゴロとケイコとマチコを襲いにきたようです。
その岩は大きく、洞窟の大きさとぴったり。どこにも逃げ場がありません。さあ、この場合の正しい探検道とはなんでしょうか。きっとマチコがそのお手本を見せてくれることでしょう。
ゴロゴロ、ゴローン。
あれ? 大きな岩は探検隊を通り過ぎてしまいました。正確には探検隊が岩をすり抜けたようです。これはマチコに尋ねなくてはならないでしょう、どうして何もしなかったのですか? 探検道はどこにいってしまったのですか?
「はあ? だってぇ、逃げようがないじゃないのよぉ。どうすんのよぉ」
だそうです。
◇◇
「あぁぁぁ!」
マチコが突然、大きな声を上げました。そして指差すその先には! おお、ああ、やあ、とうとう、やっとついに宝箱を発見、したようです。それは木製の、抱えて持つには丁度良いくらいの四角い箱、いかにも! という箱です。先ほど宝箱と表現しましたが、それ以外ここに何があるというのですか? 絶対に宝箱です!
早速それに駆け寄ろうとしたマチコですが、背中からの殺気、いいえ、熱気を感じたのか、
「ほらぁ、行きなさいよぉ」とケイコに宝箱の権利を譲るマチコです。それに、
「本当?」と嬉しそうな声を張り上げるケイコ、ですが、何故か冷静になり、
「あれ、マチコが先に見つけたから、開けていいよ」と、目一杯お姉さんぶるケイコです。
「あっそぉ」
お言葉に甘えて宝箱に近寄るマチコ、それを先回りするかのように灯りもゆらゆらを止めて、スーッと宝箱の上まで移動しました。もちろん、それを操っているのはケイコです。
さあ、宝箱を開ける瞬間がやって参りました。地図ではまだまだ先を指していますが、それは何かの間違い、勘違いの類ではないでしょうか。何せ古臭い地図です、その間に地形が変わってしまったのかもしれません、きっとそうです。
マチコの口元がニヤリとしたような、そしてその後ろで、いいえ、脇でフンガーと食い入るように見つめるケイコです。
宝箱の両脇を持って、ゆっくりと開けました。しかし底が深いのか中がよく見えません。そこで身を乗り出して覗き込むマチコです、そこに有るものとは一体!
シュパッ・ピカピカ・ピューンピカ。
宝箱を覗き込んだマチコの頭を包むかのように、一瞬だけものすごい光が箱の底から溢れ出しました。それに目が眩んだマチコは、そのまま頭を箱の中に突っ込んでしまい、箱の底にゴッツンコです。でも大丈夫、すぐに頭を上げたマチコはその勢いで後ろに倒れたのです。
「マチコー、アホなのー」
そう言いながら宝箱を覗き込むケイコです。そこには……残念ながら空っぽのようです。やはりこれは宝箱などではなく、ただの箱だったようです。ええ、最初から知っていましたよね。こんなところに、それも簡単に宝箱が有るはずがないじゃありませんか?
「ぷはぁぁぁ、なんか見えたぁぁぁ」
起き上がったマチコの第一声に、「なに? なになになになにー」としつこく問い質すケイコです。お宝が無かったせいか余計に気になるようです。それに、
「あぁぁぁ、忘れたわ」と、遠くを見ながら答えたマチコです。
「な〜んだ、ケチ」
がっかりしたケイコはシュンとしたかと思うと、すぐに元気が出てきたようです。それは、本当の宝箱を見つけたいという気持ちがムクムクと湧き上がってきたからなのでしょう。狙った獲物はどこまでも諦めない、それがケイコです。
「行くよ! 置いていくよ」
ということで、出発の汽笛を鳴らして前を歩くケイコ、その後ろを歩くマチコです。『今度は私が』という意気込みを顔に表すケイコと、どこか浮かない顔のマチコ、「あれは、なんだったんだろう、ねぇ」と、こっそり呟くのでした。
◇◇
マチコが呟いた『あれ』とは、箱を覗き込んだ時に見た『あれ』のことです。一旦は忘れたと言いましたが、それは何だか後味の悪い光景だったので、そういうことにしておきたかったのでしょう。
ではそれは、どんな光景だったのか。時間的には一瞬の出来事でしたが記憶にはもっと、ずっと長い時間が残されています。それでは少し振り返って覗いてみましょう。
場所は住宅街にある公園、その砂場に女の子が二人います。一人は小学生低学年くらい、そしてもう一人は幼稚園児くらいでしょうか。時刻は夕陽が紅く染まる頃です。周囲にはその女の子たち以外、誰も居ないようで、既にそれぞれの家に帰ってしまったのでしょう。それでも時間を気にせず砂場で遊び続けています。
その様子を見ていると、おそらくこの二人は姉妹なのでしょう。大きい子が何かと小さい子を気遣いながら面倒を見ている、そんな風に見えてきます。
そうして楽しそうに遊ぶ姉妹ですが、日が暮れ公園の灯りが点いても、まだ家に帰る様子がありません。これでは家の人が心配しているのではないか、と余計なことを考えてしまいそうになりますが、そこに誰か大人の人がやって来たようです。
その大人の人は姉妹を迎えに来たのでしょうか、姉の後ろで立ち止まりました。それを、遊びに夢中になっていた妹が手を止めて見上げると、サッと立ち上がり、そして逃げるように走って行ってしまいます。それを止める姉は何かを言っているようですが、ここで記憶は終わっています。
これではマチコが『後味の悪い』と思うのも無理はないでしょう。結局、何がどうなったのか分からないまま、気になる終わり方をしたせいで余計に記憶に残ったのでしょう。
◇◇
さて、るんるん気分のケイコを先頭に洞窟を突き進んで参ります。気のせいでしょうか、人魂風の灯りも小躍りするように弾んでいるようです。
快調に洞窟を進んでいると前方に大きな穴が見えてきました。これでは先に進めない、と思いきや一本のロープが掛かっています。もちろん、穴の底は暗くて見えません。とすると落ちたら大変なことになるかも、です。
その穴を、まるで穴など空いていないかのように突き進むケイコです。ちょっと待ってください。ちゃんと下を見て! そこは穴ですよ、底なしですよ。
でもご安心を。マチコはきちんとロープの上を歩いています。これで落ちる心配はありませんね。えっ? そこじゃないって?
「ちょっとぉ、あんたさぁ。ちゃんとロープの上をぉ、歩きなさいよねぇ、全くぅ」
ケイコの無作法にマチコが注意しました。これで安心ですね、えっ?
「おっとー」
やっとロープの上を歩き出したケイコです。そうです、障害物があっても難なく通り過ぎることが出来る探検隊は、大きな穴くらい『へっちゃら』なのです。でも、探検隊とは探検してこその探検隊です。その場の状況に応じて臨機応変に行動する必要があるでしょう。そのためマチコは探検道に厳しいのです、はい。
◇◇
暫く何事もなく洞窟を進んで行くと、そろそろ空気と言いましょうか、気配というものが変わってきた、ような感じです。なにせお宝が眠る洞窟です。それを守るというべきか阻害するトラップ・罠が仕掛けられていても不思議ではありません。
シューン、シューン、シューン。
ということで早速、前の方から槍のようなものが飛んで参りました。とうとう、この洞窟が本性を現した、または本気を出してきた、というべきでしょう。奪われてなるものか! の洞窟側からの攻撃です。命中すれば、いいえ、かすっただけでも大変です、気をつけてー。
「ちょっとぉ、あんたさぁ。ちゃんと飛んでくるやつぅ、避けなさいよねぇ、全くぅ」
ここでまた探検道に厳しいマチコからの注意がケイコに出されました。そろそろイエローカードでしょうか。物凄いスピードで飛んでくる槍を避けない、または避けられなケイコに対して、せめて避けるフリでもしなさい、ということでしょう。その槍はケイコを素通りしていくばかりですが、マチコはきちんと紙一重でかわしていきます。
「速くてー、わかんないよー、よー、よー」
ケイコの情けない声が洞窟の中で木霊していきます。そうしていつの間にか槍が飛んでこなくなると、マチコの後ろを歩いているケイコです。それと同時に灯りも消え、またマチコの雷雲が前の方を照らし始めるのでした、バチバチ。
更に洞窟側の攻撃が続きます。ドッドドドと何か重いものが転がるような音が聞こえて参りました。それは定番の大きな岩がゴロゴロとケイコとマチコを襲いにきたようです。
その岩は大きく、洞窟の大きさとぴったり。どこにも逃げ場がありません。さあ、この場合の正しい探検道とはなんでしょうか。きっとマチコがそのお手本を見せてくれることでしょう。
ゴロゴロ、ゴローン。
あれ? 大きな岩は探検隊を通り過ぎてしまいました。正確には探検隊が岩をすり抜けたようです。これはマチコに尋ねなくてはならないでしょう、どうして何もしなかったのですか? 探検道はどこにいってしまったのですか?
「はあ? だってぇ、逃げようがないじゃないのよぉ。どうすんのよぉ」
だそうです。
◇◇