#5.2 勇者の風
文字数 2,730文字
宇宙を旅して数千里、地球に似た惑星を探し当てたヨシコです。その時間は僅か数分。早速、その星に着陸かと思いきやケイコとマチコを呼び出して説教、ではなく説明を始めました。もちろん、姿を現さないままです。
「いいかい〜」
話は長いので纏めておきましょう。なんでも、見つけた星には既に先住民が居るということ。そこにのこのこ行っては反感を買ってしまうので、何か先住民の助けになるような事をして仲間にしてもらいましょう、ということです。
それでちょうど都合の良いこことに、先住民を苦しめる魔王がのさばっているという情報が。こいつをやっつけて先住民の仲間にしてもらおう、ということになりました。
「いいかい〜」とヨシコの説明が続きます。「魔王は魔王城にいるさね。そこに乗り込んで、ちゃっちゃっと片付けてしまうのよ。——そこで〜、まずは〜、ケイコ」
「ほい」
「ケイコは魔導師さね」
「ほお」
魔導師に喜んだケイコはなにがしらの姿勢をとりましたが、はて、なんの姿勢でしょうか。序でにローブを纏 い大きな三角帽子を被ったそれらしい格好に変身です。
「次に〜、マチコ」
「あん?」
「マチコは剣士だね」
「ちょっとぉ、なんで私が剣士なのよぉ」
剣士を拒み不満一杯、魔法使いになりたかったマチコです。ケイコの姿を見ては、あっちの方が自分らしく可愛いと思いましたが、既に身動きがし易い軽装の防具に、英雄が持つと言われる普通の剣をその手に、ブンブンと振り回し始めました。満更 気に入ったのかもしれません。そんなケイコとマチコに見送りの手を振るヨシコです。
「では、行ってらっしゃーい」
「ちょっとぉ、だからなんで私がぁぁぁ」
◇
マチコの苦情もなんのその、あっという間に船から転送され、魔王城、そのどこかに到着です。そこは長く狭く暗い廊下のような場所。そんなところに立つ、魔導師ケイコと剣士マチコの勇者たち、です。
その呼び名に相応しく、まずケイコは大きめの帽子に黒いマントを羽織り、魔導師御用達の『魔法の杖』を持っています。と言っても限りなく箒 に近い杖のようなものを振り回しながら、「私、強いよ」と一言。
そしてマチコは、軽装備ながら最低限、身を守れるであろう防具に普通サイズの剣を振り回しながら、「私が魔導師でしょうにぃ」と一言。
そこにヨシコからの伝言が風の便りでやって参りました。
「ここは剣と魔法が支配する世界。あなたたちの居る場所は『魔獣の間』だね。そのうち、わんさかと魔獣がやってくるかも。そうしたらそいつらを全部蹴散らして、最上階の魔王をブッ倒すさね。因みに、あんたたちの姿は世間を欺く仮の姿。くれぐれも調子に乗らないように。では、頑張ってね」
「はあ?」
マチコが呆れていると、前の方から何やらドカドカと。それがだんだん近づいてくると、黒い塊のようなものが迫ってきました。さあ、いよいよ戦いのゴングが鳴るようです。対する魔導師ケイコはノホホンと構え、剣士マチコは全くやる気の無い素振りです、大丈夫でしょうか。
ああ、見えて来ました。その黒い塊が解れ、それはそれは大きな狼のような、犬のような、ライオンのような。どれもこれも凶悪な面構えで、まさしく魔獣と呼ぶに相応しい獣たちです、はい。
「私が、魔法で吹き飛ばしてあげる」
おっと、ここで魔導師ケイコの心強い言葉が。それに対して剣士マチコは「じゃあ、任せるわね」と余裕の勇者たちです。
「あらったまほんにゃらほんぷー」
魔導師ケイコ、早速、魔法の詠唱を始めました。それはどんな魔法なのでしょうか。期待しても良いものかどうか甚だ疑問であります、ぷー。
「あっちに、飛んでけー」
出ましたぁぁぁ! 魔導師ケイコの究極魔法、なんでもかんでも吹き飛ばすと言われる風の魔法。ありったけの風を攻撃対象にブチ当てる無慈悲な攻撃。その威力は台風以上、ハリケーン未満と定評が有るような無いような、とにかくブっ放した〜。
その威力の程は——そよ風さんだぁぁぁ! 余りにもショボい風が魔獣軍団を押し止めた……わけはなく、魔獣たちをその心地の良い風で癒しただけです。これで魔獣たちも元気百倍、猛突進してきましたぁぁぁ。
「私、やったよ」
自分の役目を果たし終え、満足そうな笑みを浮かべるたケイコ。あとの事は剣士マチコに託してお休みモードにチェンジです。託された剣士マチコは不満一杯、突進してくる魔獣の前に立ちはだかりました。
おお! そんなマチコに向かって、先頭を走る魔獣が口をあんぐりと開け、炎のようなものを吐きかけてきましたぁぁぁ! 流石は魔獣、普通の獣には出来ない所業での攻撃。その炎に包まれた剣士マチコ、これで『こんがりマチコ』になってしまったのかぁぁぁ!
いいえ! マチコ・シールドによって無傷の剣士マチコです! その直後、「あっちょー」という、残りの炎が飛び散り、その被害にあったケイコの悲鳴が。
目前に迫った魔獣に、鞘に入ったままの剣を魔獣に突きつける剣士マチコ。その顔は怒りに満ちています。そこから「なにしてくれんのよぉぉぉ」という心の叫びが聞こえてきそうです。
そして、剣士マチコの目がキラッ と光ったような。それにたじろく魔獣たち、猛突進に急ブレーキが掛かりました。そうしてなにやら魔獣たちに因縁をつけている剣士マチコ、のようです。
「ちょっとぉ、あんたたちぃ、私に刃向かうつもり? じゃないでしょうね、どうなのよぉ」と魔獣に言ったような。それに、
「あっ、いや、その、そんなつもりはありあせんぜ、姉さん」と答えたような。
動物に対しては常に『上位』である、正確には、ちやほやされて当然と思う剣士マチコです。それは遠い星の魔獣にも当てはまるのでしょうか。どうやらこれは全宇宙における真理のようです、はい。
「じゃあ、どうするつもりなのよぉ」と魔獣に追及するマチコ。それに、
「へい、どうぞ、お通りなってくだせい」と魔獣が答えたような。
「はあ? 私に歩けって言うつもり? 嫌なんだけどぉ」と駄々を捏ねるマチコに、
「では、どうすれば宜しいのでしょうか?」と困惑する魔獣のような。
「ちょっとぉ、それくらい自分で考えなさいよねぇ」とゴネるマチコに、困り果てる魔獣です。そこで、「仕方ないわねぇ、じゃあ、乗せて行きなさいよ。それで勘弁してあげるわよ、全く」と譲歩するマチコに、
「そのように、させて頂きます」と魔獣が言ったような。
こうして、『魔獣の間』を制覇した魔導師ケイコと剣士マチコです。勇者たちは、それぞれ好きな魔獣の背中に乗るとそれを合図にドバァァァと一斉に駆け出す魔獣たちです。
「エイヤー」
「ソイヤー」
城内を駆け抜ける勇者たちの雄叫びが響きわたる、今日この頃です。
◇
「いいかい〜」
話は長いので纏めておきましょう。なんでも、見つけた星には既に先住民が居るということ。そこにのこのこ行っては反感を買ってしまうので、何か先住民の助けになるような事をして仲間にしてもらいましょう、ということです。
それでちょうど都合の良いこことに、先住民を苦しめる魔王がのさばっているという情報が。こいつをやっつけて先住民の仲間にしてもらおう、ということになりました。
「いいかい〜」とヨシコの説明が続きます。「魔王は魔王城にいるさね。そこに乗り込んで、ちゃっちゃっと片付けてしまうのよ。——そこで〜、まずは〜、ケイコ」
「ほい」
「ケイコは魔導師さね」
「ほお」
魔導師に喜んだケイコはなにがしらの姿勢をとりましたが、はて、なんの姿勢でしょうか。序でにローブを
「次に〜、マチコ」
「あん?」
「マチコは剣士だね」
「ちょっとぉ、なんで私が剣士なのよぉ」
剣士を拒み不満一杯、魔法使いになりたかったマチコです。ケイコの姿を見ては、あっちの方が自分らしく可愛いと思いましたが、既に身動きがし易い軽装の防具に、英雄が持つと言われる普通の剣をその手に、ブンブンと振り回し始めました。
「では、行ってらっしゃーい」
「ちょっとぉ、だからなんで私がぁぁぁ」
◇
マチコの苦情もなんのその、あっという間に船から転送され、魔王城、そのどこかに到着です。そこは長く狭く暗い廊下のような場所。そんなところに立つ、魔導師ケイコと剣士マチコの勇者たち、です。
その呼び名に相応しく、まずケイコは大きめの帽子に黒いマントを羽織り、魔導師御用達の『魔法の杖』を持っています。と言っても限りなく
そしてマチコは、軽装備ながら最低限、身を守れるであろう防具に普通サイズの剣を振り回しながら、「私が魔導師でしょうにぃ」と一言。
そこにヨシコからの伝言が風の便りでやって参りました。
「ここは剣と魔法が支配する世界。あなたたちの居る場所は『魔獣の間』だね。そのうち、わんさかと魔獣がやってくるかも。そうしたらそいつらを全部蹴散らして、最上階の魔王をブッ倒すさね。因みに、あんたたちの姿は世間を欺く仮の姿。くれぐれも調子に乗らないように。では、頑張ってね」
「はあ?」
マチコが呆れていると、前の方から何やらドカドカと。それがだんだん近づいてくると、黒い塊のようなものが迫ってきました。さあ、いよいよ戦いのゴングが鳴るようです。対する魔導師ケイコはノホホンと構え、剣士マチコは全くやる気の無い素振りです、大丈夫でしょうか。
ああ、見えて来ました。その黒い塊が解れ、それはそれは大きな狼のような、犬のような、ライオンのような。どれもこれも凶悪な面構えで、まさしく魔獣と呼ぶに相応しい獣たちです、はい。
「私が、魔法で吹き飛ばしてあげる」
おっと、ここで魔導師ケイコの心強い言葉が。それに対して剣士マチコは「じゃあ、任せるわね」と余裕の勇者たちです。
「あらったまほんにゃらほんぷー」
魔導師ケイコ、早速、魔法の詠唱を始めました。それはどんな魔法なのでしょうか。期待しても良いものかどうか甚だ疑問であります、ぷー。
「あっちに、飛んでけー」
出ましたぁぁぁ! 魔導師ケイコの究極魔法、なんでもかんでも吹き飛ばすと言われる風の魔法。ありったけの風を攻撃対象にブチ当てる無慈悲な攻撃。その威力は台風以上、ハリケーン未満と定評が有るような無いような、とにかくブっ放した〜。
その威力の程は——そよ風さんだぁぁぁ! 余りにもショボい風が魔獣軍団を押し止めた……わけはなく、魔獣たちをその心地の良い風で癒しただけです。これで魔獣たちも元気百倍、猛突進してきましたぁぁぁ。
「私、やったよ」
自分の役目を果たし終え、満足そうな笑みを浮かべるたケイコ。あとの事は剣士マチコに託してお休みモードにチェンジです。託された剣士マチコは不満一杯、突進してくる魔獣の前に立ちはだかりました。
おお! そんなマチコに向かって、先頭を走る魔獣が口をあんぐりと開け、炎のようなものを吐きかけてきましたぁぁぁ! 流石は魔獣、普通の獣には出来ない所業での攻撃。その炎に包まれた剣士マチコ、これで『こんがりマチコ』になってしまったのかぁぁぁ!
いいえ! マチコ・シールドによって無傷の剣士マチコです! その直後、「あっちょー」という、残りの炎が飛び散り、その被害にあったケイコの悲鳴が。
目前に迫った魔獣に、鞘に入ったままの剣を魔獣に突きつける剣士マチコ。その顔は怒りに満ちています。そこから「なにしてくれんのよぉぉぉ」という心の叫びが聞こえてきそうです。
そして、剣士マチコの目が
「ちょっとぉ、あんたたちぃ、私に刃向かうつもり? じゃないでしょうね、どうなのよぉ」と魔獣に言ったような。それに、
「あっ、いや、その、そんなつもりはありあせんぜ、姉さん」と答えたような。
動物に対しては常に『上位』である、正確には、ちやほやされて当然と思う剣士マチコです。それは遠い星の魔獣にも当てはまるのでしょうか。どうやらこれは全宇宙における真理のようです、はい。
「じゃあ、どうするつもりなのよぉ」と魔獣に追及するマチコ。それに、
「へい、どうぞ、お通りなってくだせい」と魔獣が答えたような。
「はあ? 私に歩けって言うつもり? 嫌なんだけどぉ」と駄々を捏ねるマチコに、
「では、どうすれば宜しいのでしょうか?」と困惑する魔獣のような。
「ちょっとぉ、それくらい自分で考えなさいよねぇ」とゴネるマチコに、困り果てる魔獣です。そこで、「仕方ないわねぇ、じゃあ、乗せて行きなさいよ。それで勘弁してあげるわよ、全く」と譲歩するマチコに、
「そのように、させて頂きます」と魔獣が言ったような。
こうして、『魔獣の間』を制覇した魔導師ケイコと剣士マチコです。勇者たちは、それぞれ好きな魔獣の背中に乗るとそれを合図にドバァァァと一斉に駆け出す魔獣たちです。
「エイヤー」
「ソイヤー」
城内を駆け抜ける勇者たちの雄叫びが響きわたる、今日この頃です。
◇